中澤 直人
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

経済社会のグローバル化が言われて久しいが、これに加えて、情報化・デジタル化の著しい進展によって、国境を越えた人・財の移動が活発化し、日本人が海外に財産を保有するケースも増加している。
 海外で財産を保有する場合、保有制度そのものがわが国には馴染みのない制度であることが多いが、わが国の相続税法が、「贈与」又は「相続」という民法上の概念を基に課税要件を構築し、「贈与」や「相続」によって財産を取得した場合に贈与税又は相続税を課す旨規定していることとの関係上、例えば、夫婦の一方が資金を拠出して、わが国には存しない海外の制度の下で共同で財産を保有する場合や、かかる制度下で財産を保有する夫婦の一方に相続が開始して財産の承継が行われる場合に、これがわが国の相続税法に定める「贈与」又は「相続」による財産の取得に該当するとして、贈与税又は相続税を課税することができるか否かといったことなどが問題として生じる。
 今後、国境を越えた人・財の移動がより一層活発化し、わが国には存しない海外の制度下で、夫婦間で財産の保有・移転が行われた場合に、わが国の相続税法をどのように適用させるか、また、課税関係がどのようなものになるかということが問題になることが増えてくるものと見込まれることから、本稿においては、その課税関係を整理することを目的とした上で、わが国にはない海外の夫婦間の財産保有形態として、カリフォルニア州の夫婦共有財産制、ハワイ州の夫婦全部保有及びジョイント・アカウントを取り上げ、かかる財産保有形態の下で、夫婦(夫婦の双方が日本人である場合と、夫婦の一方がアメリカ人の場合を想定)間で財産の保有・移転が行われた場合に、わが国の相続税法がどのように解釈・適用されるかについて考察を行った。

2 研究の概要

(1)アメリカにおける夫婦間の財産保有形態

イ カリフォルニア州における夫婦共有財産制

カリフォルニア州の家族法典は、法で別段の定めがある場合を除き、婚姻中の夫婦がカリフォルニア州にドミサイルを有している間に取得した全ての財産(動産であるか不動産であるかを問わず、その所在も問わない。)を夫婦共有財産とし、配偶者が婚姻前から有する財産、配偶者が婚姻後に贈与又は相続によって得た財産、特有財産から得られる収益を特有財産としている。
 夫婦は、夫婦共有財産とされた財産について、婚姻期間中、平等の持分を有し、夫婦の一方が死亡した場合、夫婦間で別途書面による合意をしていなければ、夫婦共有財産は、亡くなった配偶者と生存配偶者とに2分の1ずつ帰属する。
 夫婦は、婚姻期間中、夫婦共有財産を等しく管理・支配する。また、夫婦共有財産は、法で明確に別段の定めがある場合を除いて、夫婦のいずれが夫婦共有財産の管理・支配を行っているかにかかわらず、婚姻前又は婚姻中に夫婦の一方が負った債務の引き当てとされる。

ロ ハワイ州における夫婦全部保有

(イ) 夫婦全部保有の概要

夫婦全部保有は、夫婦のみに認められた不動産の共同所有形態であるが、不動産以外の財産についても、その成立が認められている。
 各配偶者は、夫婦全部保有により、夫婦の生存中、夫婦全部保有の対象財産に対して、均等で不可分の持分を有する。夫婦全部保有は、生存者財産権を有する点に特徴がある。生存者財産権とは、共同所有関係にある権利者の死亡により、その者の権利が共同所有財産に吸収され、他の共同所有者に帰属すること、またはその権利であるとされている。夫婦の一方が亡くなった場合、亡くなった配偶者の権利は、遺言や無遺言相続によって移転せず、死亡時に消滅し、生存配偶者は、生存者財産権により単独で夫婦全部保有の対象となった財産を所有することとなる。

(ロ) ハワイ州における夫婦全部保有

ハワイ州では、証書上、夫婦全部保有を創設することを明確に示している場合に、その創設が認められている。明確に示されていない場合には、共有財産権が創設されたものと解釈される。
 ハワイ州においては、一方の配偶者が、一方的に夫婦全部保有の対象財産を譲渡することはできず、また、一方の配偶者の債権者は、当該財産をその引き当てにすることはできないとされている。

ハ ハワイ州におけるジョイント・アカウント

一般に、ジョイント・アカウントとは、2人以上の者によって開設された銀行口座又は証券口座であり、当事者それぞれが、口座内の資金を引き出す権限を有するものとされている。
 ハワイ州法上、ジョイント・アカウントは、生存者財産権に言及しているか否かを問わず、現在又は将来において、1人以上の請求によって支払いが行われるものとされる。口座名義人の生存中、ジョイント・アカウントの権利は、預金の合計額に対する各人の拠出額の割合に応じて、口座名義人に帰属する。また、一方の口座名義人が死亡した場合、口座が開設された当時に、それとは異なる意思があったことについて明確で説得的な証拠がない限り、死亡した名義人の遺産にはならず、生存する当事者に帰属し、この生存者財産権については、遺言によって変更することはできないとされている。

(2)相続税法を適用する前提となる私法上の法律関係の整理(準拠法の決定)

租税法が課税の対象とする種々の経済活動ないし経済現象は、第一次的には私法によって規律されている。租税法律主義の目的である法的安定性を確保するために、課税は、原則として私法上の法律関係に即して行われるべきであるとされているから、租税法の適用を考えるに当たっては、その前提となる私法上の法律関係を整理する必要がある。その際、私法上の法律関係が渉外的法律関係である場合には、国際私法(法の適用に関する通則法)を通じて、どの法域の法を適用するかを決定する必要がある。

イ 夫婦財産制に係る準拠法の決定

法の適用に関する通則法は、夫婦財産制の準拠法について、同法26条1項で同法25条(婚姻の効力)を準用する旨規定していることから、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは、夫婦に最も密接な関係がある地の法によることとなる。なお、準拠法の決定基準である夫婦の同一本国や同一常居所地、最も密接な関係地が変更されると、それに伴い準拠法も変更されることとなる。
 この規定によれば、夫婦の双方が日本人である場合は、夫婦の本国法が共通であるため、共通本国法である日本法(民法)が準拠法となり、夫婦が夫婦財産契約を締結していない場合には、法定財産制である別産制に基づいて夫婦の財産関係が規律されることとなる。他方、夫婦の一方がアメリカ人である場合は、夫婦にとって共通本国法がなく、常居所地法によって決せられることになるから、例えば、夫婦の常居所地がカリフォルニア州にあるとされる間はカリフォルニア州法(夫婦共有財産制)により、常居所地がハワイ州にあるとされる間はハワイ州法(別産制)により、夫婦の財産関係が規律されることになる。

ロ 相続に係る準拠法の決定

法の適用に関する通則法は、相続について、36条において「被相続人の本国法による」と定めている。この規定によれば、被相続人が日本人の場合、本国法である日本法(民法)が相続に係る準拠法となる。被相続人がアメリカ人の場合、アメリカは地域的不統一法国であるから、同法38条3項により、最も密接な関係がある地域の法(ただし、同法41条の反致が適用になる場合もある。)が相続に係る準拠法となる。

ハ 相続財産の構成の問題

上記ロのとおり、相続の問題については、基本的に、法の適用に関する通則法36条の規定により「被相続人の本国法」により準拠法が決定されるが、相続に関する問題のうち、被相続人が遺した財産の中に外国法を準拠法とする財産がある場合に、遺された財産が相続財産であるか否かという問題(相続財産の構成の問題)については、その判断に当たって何を準拠法とするか、つまり、個々の財産についての財産権の準拠法(個別財産準拠法)と財産全体を規律する相続準拠法とをどのように適用するかということに関して議論があり、現状、裁判例でも学説上でも定まった見解はないとされる。これにより、被相続人が外国に遺した何らかの財産が相続財産に当たるか否かの判断ができないとなると、被相続人が遺した外国法を準拠法とする財産を承継した者に対して、「相続」による財産の取得があったとして相続税を課すことができるか否かについて、難しい判断が求められることとなる。このような場合に、被相続人が遺した外国法を準拠法とする財産を承継した者に対してどのように相続税法を適用させるかについては、(4)で検討する。

(3)各財産保有形態の下での財産保有時における課税

一方の配偶者(A)が収入を稼いでいる夫婦が、(1)で取り上げた財産保有形態の下で財産を保有した場合の、収入を稼いでいない配偶者(B)に対する保有時点での課税関係は、次のイからハのとおり整理されよう。なお、イからハの内容は、いずれも、夫婦が、日本を離れて10年以内、かつ、カリフォルニア州又はハワイ州に常居所地を有する間にした財産保有を対象とし、また、夫婦は夫婦財産契約を締結していないものとする。

イ カリフォルニア州の夫婦共有財産制の下での財産保有時の課税

(イ) 夫婦の双方が日本人である場合

法の適用に関する通則法の適用を前提とすると、夫婦の双方が日本人の場合、夫婦財産制に関しては、夫婦の共通本国法である民法が準拠法となるから、夫婦が、夫婦共有財産制を採るカリフォルニア州において一定の財産を保有したとしても、当該財産については、同州法ではなく、民法によって財産関係が整理されることになろう。法定の夫婦財産制として別産制を採用する民法の下では、カリフォルニア州で取得した財産であっても、収入を稼いでいるAの財産となるから、収入を稼いでいないBは、当該財産に対して権利を有さず、ゆえに、当該財産の保有に関してBに対する贈与税課税の問題は生じないであろう。

(ロ) 夫婦の一方がアメリカ人である場合

法の適用に関する通則法の適用を前提とすると、夫婦の一方がアメリカ人である場合、夫婦の常居所地がカリフォルニア州である間は、同州の夫婦共有財産制によって夫婦間の財産関係は規律されることになろう。夫婦共有財産制の下では、収入を稼いでいないBも夫婦共有財産に対して平等の持分を有することになるが、この場合に、何ら収入を稼いでいないBに対する贈与税課税の要否が問題となる。
 相続税法1条の4は、「贈与により財産を取得した」者のうち一定の者に対して贈与税を課す旨を規定しており、ここでいう「贈与」は、民法からの借用概念であるとされているところ、借用概念については、法的安定性の見地から他の法分野におけると同じ意義に解釈するのが相当であるから、相続税法上の「贈与」についても、基本的には、私法上におけるのと同義に解するのが相当である。この点、民法は、「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」(549条)と規定しているところ、収入のないBが夫婦共有財産に対して平等の持分を有するのは、カリフォルニア州法の定めによるものであり、収入を稼ぐAが収入のないBに対して、夫婦共有財産に対する平等の持分を無償で与える意思を表示し、Bがこれを受諾したことによるものではないから、基本的には、BがAから「贈与により財産を取得した」として、Bに贈与税が課されることはないであろう。
 また、相続税法9条は、「対価を支払わないで・・・利益を受けた場合」には、利益の価額に相当する金額を贈与により取得したものとみなす旨規定しており、これに該当すれば、みなし贈与課税が行われることになるところ、@夫婦共有財産は、夫婦の一方が死亡した場合等を除き清算が行われず、かかる事由が生じるまでその権利の範囲が具体化しないため、どれだけ「利益を受けた」かが確定できないこと、A夫婦共有財産は、婚姻中のもののみならず婚姻前のものまで含めて夫婦のいずれかが負った債務の引き当てとされており、それぞれの夫婦が夫婦共有財産に対して有する平等の持分の評価がマイナスになるということもあり得ることなどからすると、Aの収入によって形成された夫婦共有財産に対して、収入のないBが平等の持分を有することになったとしても、「利益を受けた」とまではいえないと考えられ、そうであれば、同条によってBに対して贈与税が課されることはないであろう。

ロ ハワイ州で夫婦全部保有により財産を保有した場合の保有時の課税

(イ) 夫婦の双方が日本人である場合

前述のとおり、法の適用に関する通則法の適用を前提とすると、夫婦の双方が日本人である場合、夫婦財産制に関しては、別産制が適用される。別産制の下では、一方の配偶者が稼いだものやそれで購入した財産については、その配偶者に帰属することになるから、夫婦がハワイ州で保有することになった財産についても、これを前提に保有時の課税関係を考える必要がある。
 夫婦全部保有によって財産を保有する場合、夫婦は対象となった財産に対して、それぞれが均等の持分を有することになるが、収入のないBが何らの資金負担もせずに当該財産に対して均等の持分を有することになった場合、「対価を支払わないで・・・利益を受けた場合」に当たるといえるから、夫婦全部保有の設定があった時点で、Bに対して贈与税を課税すべきであろう。

(ロ) 夫婦の一方がアメリカ人である場合

法の適用に関する通則法の適用を前提とすると、夫婦の一方がアメリカ人である場合、夫婦の常居所地がハワイ州である間は、同州法が夫婦財産制の準拠法となろう。ハワイ州は、夫婦財産制について別産制を採用しており、わが国の民法と同様であるから、夫婦全部保有により財産を保有した場合の、収入のないBに対する保有時点における課税は、上記(イ)と同様となろう。

ハ ハワイ州でジョイント・アカウントを保有した場合の保有時の課税

(イ) 夫婦の双方が日本人である場合

前述のとおり、法の適用に関する通則法によれば、夫婦の双方が日本人の場合、夫婦の財産関係は、民法(別産制)によって規律される。
 ジョイント・アカウントでは、口座名義人各々が口座内の資金を引き出す権限を有しており、収入を稼いでいるAが資金を拠出して開設した口座から、収入のないBが資金を引き出すことも可能であるが、この場合に、資金拠出のないBに対する贈与税課税の要否が問題となる。
 この点については、口座名義人であれば誰でも口座内の資金を引き出すことができるということは、資金を拠出したAがこれを引き出すことも可能ということであり、口座開設時点ではBがいくら引き出すことができるかが未確定であるから、単に、Aの資金拠出により口座が開設されたというだけで、Bに贈与税が課されることはないであろう。

(ロ) 夫婦の一方がアメリカ人である場合

上記ロ(ロ)で述べたとおり、夫婦間の財産関係は別産制によって規律されるから、ジョイント・アカウントを保有した時点における、収入のないBに対する課税は、上記(イ)と同様となろう。

(4)各財産保有形態の下で財産を保有する夫婦の一方に相続が開始した場合の相続時における課税

(4)では、(3)でした整理の下で、A(収入を稼いでいた配偶者)が死亡して相続が開始した場合のB(無収入の配偶者)に対する相続時の課税関係を整理することとする(A及びBは相続開始時に日本に住所を有し、Aの相続に係る相続人はBのみであるとする。)が、前述のとおり、わが国の国際私法上、相続財産の構成の問題については定まった見解がなく、残された生存者が「相続」によって財産を取得したとして相続税法を適用することの当否についての判断に困難を来たすという問題があることから、まず、イにおいて、被相続人からの財産承継が、相続税法上の「相続」によるものであるといえるか否か、いえない場合には、相続税法を適用する上でかかる承継をどのように性質決定するかについて検討をした上で、ロ及びハで課税関係を整理する。
 なお、本稿で取り上げる財産保有形態のうち夫婦共有財産については、一般的に、夫婦共有財産のうちの被相続人の持分は、死亡時にその2分の1が被相続人に帰属し、被相続人が遺言で処分をすることができるものとされており、これを前提とした場合、生存する者が被相続人から当該持分を「相続」によって取得するものとして取り扱うことに問題はないものと思われることから、イでは、夫婦全部保有及びジョイント・アカウントによる財産保有の下での生存者財産権に基づく財産承継について、これが相続税法の適用上どのように性格付けられるかについて検討する。

イ 相続税法を適用する上での生存者財産権による財産承継の性質

前述のとおり、相続財産の構成については、裁判例でも学説上でも定まった見解がないことから、相続税法を当てはめる前提となる私法上の法律関係の整理が困難になるという問題が生じる。
 この点については、現実に、個別財産準拠法の下で、被相続人が遺した財産を生存する者が承継しているという実態があるのであるから、相続税法を適用する上では、かかる実態を踏まえ、個別財産準拠法の下での承継が相続税法上の「相続」であると評価できるか否かによって、「相続」による財産の取得があったか否かを判断すべきであると考える。そして、個別財産準拠法の下での財産の承継が相続税法上の「相続」と評価できるか否かについては、相続税法上の「相続」が私法からの借用概念であることからすると、生存者財産権に基づく財産承継が私法上の相続の意義と同様のものといえるか否かで判断すべきであろう。
 民法上の相続の意義については、「自然人の法律上の地位を、その者の死後に、相続人と称する特定の者に包括的に承継させること」と解されているところ、前述のとおり、生存者財産権に基づく財産の承継は、共同所有関係にある権利者の死亡により、その者の権利が共同所有財産に吸収され、他の共同所有者に帰属することとされているものであり、@相続人への承継を前提とするものではないこと、A死亡した者の権利が「相続人と称する特定の者に承継」されるのではなく、「共同財産に吸収」されることにより他者に帰属することになるものであることからすると、生存者財産権に基づく財産の承継は、私法上の「相続」と同様のものであるとはいえず、ゆえに、かかる承継を相続税法上の「相続」とみることは相当とはいえないであろう。
 相続税法上の「相続」とみることができないとすれば、生存者財産権に基づく承継は、相続税法の適用上どのように性格付けられるであろうか。この点については、夫婦全部保有やジョイント・アカウントの形態で財産を保有している夫婦の一方が死亡した場合、死亡した配偶者の権利は、生存者財産権に基づき対象となる財産に吸収され、生存する配偶者は何ら対価を負担することなく、単独で当該財産に対する権利を有することになるが、これは、死亡した配偶者の有する権利が死亡によって失われることに伴い、生存配偶者が何らの対価を支払わないで利益を享受するものであるといえるから、生存者財産権に基づく財産承継は、相続税法9条の「対価を支払わないで・・・利益を受けた場合」に当たるものと性格付けることが相当であろう。

ロ カリフォルニア州の夫婦共有財産制の下で財産を保有する夫婦に対する相続開始時点での課税

(イ) 夫婦の双方が日本人である場合

夫婦双方が日本人である場合、夫婦の財産関係を規律するのは民法であり、夫婦の財産関係には別産制が適用されることになるから、Aの稼ぎによって形成された財産は、Aの財産となろう。これを前提とすると、カリフォルニア州に存する財産についても、その全体が死亡したAに帰属する財産として、Aの遺産を構成することとなろう。
 Aの相続に関しては、民法が準拠法とされるところ、BはAの相続に係る相続人であるから、カリフォルニア州所在の財産は、Bが相続によって取得したものとして相続税の課税対象となろう。

(ロ) 夫婦の一方(被相続人であるA)がアメリカ人である場合

夫婦の常居所地がカリフォルニア州である間に形成された財産については、夫婦共有財産制を採る同州法によって規律されることとなる。当該制度の下では、一方配偶者の稼ぎだけでなく、当該稼ぎによって購入した財産についても夫婦共有財産となるから、Aの稼ぎで購入した同州所在の財産についても夫婦共有財産となろう。
 そして、Aの相続に関しては、カリフォルニア州法が準拠法となるところ、当該州法は、夫婦の一方が死亡した場合、夫婦間で別途書面による合意をしていなければ、夫婦共有財産は、亡くなった配偶者と生存配偶者とに2分の1ずつ帰属すると規定しているから、これを前提とすると、Aに帰属する2分の1の持分はAの遺産を構成することとなろう。同州法は、無遺言相続の場合における夫婦共有財産(被相続人の持分)について、特段の合意がない場合には、生存配偶者が取得する旨規定しており、Aに帰属する当該2分の1の持分については、Bが相続によって取得することとなるから、Aの当該2分の1の持分は、Bが相続により取得したものとして相続税の課税対象となろう。
 なお、Aの死亡によって夫婦共有財産が清算されることで、Bには、Aの2分の1の持分だけでなく、自身が夫婦共有財産に対して有していた2分の1の持分も帰属することになる。夫婦共有財産に対してBが平等の持分を有する場合に、その保有時に、Bに対して贈与税課税をすることは困難であると考えられることは前述したとおりであるが、保有時に贈与税課税を行わないとした理由からすると、Aの稼ぎによって形成された夫婦共有財産について、Aの死亡により最終的に清算が行われ、その半分の持分がBに帰属することとなった段階で、Bに対して相続税法9条を適用すべきであろう。

ハ ハワイ州の夫婦全部保有及びジョイント・アカウントにより財産を保有する夫婦に対する相続開始時点での課税

Aの死亡により相続が開始した場合、Aに帰属する、夫婦全部保有により保有する不動産に対する2分1の権利及びジョイント・アカウント内に存する預金債権は、生存者財産権に基づき、共同所有財産に吸収され、他の共同所有者であるBに帰属することになるが、この帰属に対しては、イで見たとおり、相続税法9条を適用することが相当と考えられるから、Bに対しては、同条によって贈与税を課すことが相当であろう(BがAの相続に関して、他に相続又は遺贈により財産を取得していた場合は、相続税法19条の規定により相続税が課されることになろう。)。

3 結論

相続税法を適用する前提となる私法上の法律関係が渉外的法律関係である場合には、国際私法(法の適用に関する通則法)を通じて当該法律関係を規律する準拠法を決定するとともに、準拠法として決定された実質法の内容の検討を通じて私法上の法律関係を確定させた上で、相続税法への当てはめを行うことが基本となるが、渉外的法律関係であるが故の問題、例えば、相続財産の構成の問題のように、国際私法上の議論の状況から、私法上の法律関係を一義的に確定させることができないような状況が生じたり、わが国の私法とは異質な外国法の下で整理された私法上の法律関係を相続税法にいかに取り込むべきであるかといった問題が生じたりするような場合には、本文で述べたとおり、個別財産に係る準拠法の下で、ある者が何らかの財産(利益)を得ているという実態を踏まえ、かかる実態が相続税法上どのような性格を有するものであるか、すなわち、かかる実態が、相続税法が借用する「相続」等の私法上の概念と同等のものといえるか否かという観点からの検討を通じて、相続税法への取り込みを行うべきであろう。
 本稿では、種々の前提を置いた上で考察を行ったが、現実には本稿の前提とは異なる状況が存することも多々あろう。その意味で、本稿は、国外における夫婦間の多様な財産保有形態に対する相続税法の適用において生じる問題の一端を考察したに過ぎない。今後、この問題に関して様々な観点から多くの研究がなされることを期待するとともに、自らも更に研究を深めたい。


目次

項目 ページ
はじめに 269
第1章 考察の前提となる想定事案 272
第2章 アメリカにおける夫婦間の財産保有形態 274
第1節 夫婦共有財産制 274
1 夫婦財産制 274
2 アメリカにおける夫婦共有財産制の概要 275
3 カリフォルニア州における夫婦共有財産制 277
第2節 夫婦全部保有 279
1 夫婦全部保有の概要 279
2 ハワイ州における夫婦全部保有 280
第3節 ジョイント・アカウント 281
1 ジョイント・アカウントの概要 281
2 ハワイ州におけるジョイント・アカウント 282
第3章 各財産保有形態の下での財産保有時及び相続開始時のアメリカ連邦税の課税関係 283
第1節 連邦贈与税及び連邦遺産税の概要 283
1 連邦贈与税の概要 284
2 連邦遺産税の概要 285
第2節 各財産保有形態の下での連邦贈与税及び連邦遺産税の課税 287
1 夫婦の一方が収入を稼いでいる夫婦が、カリフォルニア州において夫婦共有財産として不動産を保有する場合の連邦贈与税・連邦遺産税の課税 287
2 夫婦の一方が収入を稼いでいる夫婦が、収入を稼いでいる配偶者の出捐によりハワイ州に夫婦全部保有の形態で財産を保有する場合の連邦贈与税・連邦遺産税の課税 288
3 夫婦の一方が収入を稼いでいる夫婦が、収入を稼いでいる配偶者の出捐によりハワイ州にジョイント・アカウントを開設した場合の連邦贈与税及び連邦遺産税の課税 291
第4章 相続税法適用の前提となる私法上の法律関係の整理(準拠法の決定) 293
第1節 夫婦財産制の準拠法 294
1 夫婦財産制に係る準拠法の決定とその適用範囲 294
2 想定事案の各ケースにおける夫婦財産制の準拠法 296
第2節 相続の準拠法 297
1 準拠法の決定とその適用範囲 298
2 想定事案の各ケースにおける相続の準拠法 299
3 相続財産の構成 301
第5章 各財産保有形態の下での財産保有時における相続税法の適用 307
第1節 カリフォルニア州の夫婦共有財産制の下での財産保有に対する相続税法の適用 307
1 ケース1(夫婦双方が日本人)の場合 307
2 ケース2(夫婦の一方がアメリカ人)の場合 308
第2節 ハワイ州の夫婦全部保有による財産の保有及びジョイント・アカウントの開設(保有)に対する相続税法の適用 315
1 ケース3(夫婦双方が日本人)の場合 315
2 ケース4(夫婦の一方がアメリカ人)の場合 318
第6章 各財産保有形態の下で財産を保有する夫婦に対する相続開始時における相続税法の適用 320
第1節 生存者財産権に基づく財産承継の性質 321
1 生存者財産権に基づく財産承継の相続税法上の「相続」該当性 321
2 生存者財産権に基づく財産承継の性質 323
3 小括 335
第2節 各財産保有形態の下で財産を保有する夫婦に対する相続開始時における相続税法の適用 336
1 カリフォルニア州の夫婦共有財産制の下で財産を保有する夫婦に対する相続開始時における相続税法の適用 336
2 ハワイ州の夫婦全部保有及びジョイント・アカウントにより財産を保有する夫婦に対する相続開始時における相続税法の適用 338
おわりに 340

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