酒井 秀行
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

相続税及び贈与税における財産の価額は、相続税法22条《評価の原則》の規定により「財産の取得の時における時価」によることとされている。これを踏まえ、課税の公平の確保や納税者の便宜、課税庁における徴税費用の節減等の観点から、相続財産等の評価の一般的な基準として財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)を定め、地目の別等による評価単位を判定した上で画一的な評価方法によって評価することとされており、評価単位の判定が土地評価の根幹を成すものとなっている。
 評価通達においては、一画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地)を評価単位とするなど、一体的な利用の状況に着目して評価単位を判定することとしているが、裁判においては、異なる所有者の土地を同一の評価単位とすることは例外的なものであるとして、取得者又は所有者ごとに評価すべきであるとした事例もあり、その判断に苦慮する場合がある。
 また、大規模な商業施設等の敷地の用に供することを前提とした短冊状の換地等について、所有者単位で評価することが妥当か否かといった点も明確になっているとは言い難い。
 そこで、本研究では、土地の評価単位に係る論点を抽出し、現行の取扱いを整理した上で、その根拠及び整合性について検証を行うとともに、固定資産評価基準(総務省)や不動産鑑定評価基準(国土交通省)など、他の評価基準における評価単位の取扱い等との比較・検討を行い、より合理的な評価手法等の在り方について考察する。

2 研究の概要

(1)相続税法における「時価」と評価通達の関係

相続税法22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価について、原則として財産の取得の時における時価によるものと定めているところ、ここにいう「時価」については、客観的な交換価値をいうものと解されている。また、評価通達1《評価の原則》においては、「時価の意義」について「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」と定義するとともに、「評価単位」についても原則的事項として定めている。

(2)評価通達の定める評価単位

イ 地目の別

評価通達7《土地の評価上の区分》は、土地の価額について、原則として、宅地、田、畑、山林、原野、牧場、池沼、鉱泉地、雑種地という地目の別に評価する旨定めるとともに、課税時期の現況によって地目を判定することとしている。
 ただし、一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合には、その一団の土地について、そのうちの主たる地目からなるものとして評価することとしている。

ロ 地目に応じた評価単位

評価通達7−2《評価単位》においては、地目ごとの評価単位の考え方を定めており、山林、原野、牧場、池沼、鉱泉地については、原則として一筆の土地ごとに評価するとともに、@宅地については「一画地の宅地」、A田及び畑については「一枚の農地」、B雑種地は、利用の単位となっている「一団の雑種地」を評価単位とする旨を定めており、「一画地の宅地」とは、利用の単位となっている1区画の宅地をいうものとしている。

ハ 著しく不合理な分割が行われた場合

相続税及び贈与税における宅地の評価単位は、原則として「分割後」の画地を一画地の宅地とすることが相当であるとされている。ただし、評価通達7−2(1)注書により、贈与や遺産分割等によって宅地の分割が親族間で行われた場合において、分割後の画地が宅地として通常の用途に供することができないなど、その分割が著しく不合理であると認められる場合には、その分割前の画地を「一画地の宅地」とすることとされている(宅地以外の地目(鉱泉地を除く。)についてもこの注書を準用している。)。

(3)複数筆の土地と一体利用

複数の筆に分かれた土地の評価単位について争われた事例において、千葉地裁は、「土地の取引は、通常利用単位ごとに行われ、その取引価格は利用単位を基に形成されていることは公知の事実であ」るとして、課税庁の主張を支持し、課税時期現在の土地の利用状況に応じて1区画の宅地又は一団の雑種地ごとに評価単位を判定すべきと判断している。

イ 一団の土地

一団の土地については、建築基準法施行令1条1項による敷地の定義において、「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう」ものとしており、「一団の土地」が一体的な利用状況にある、ひとまとまりの土地であることを示している。国土利用計画法(23条)の規定においては、一定以上の面積の土地取引について届出義務が生じることとされており、国土交通省は、その単位を「一団の土地」ごとに判断することとするとともに、「一団の土地」に関しては、土地利用上、現に一体の土地を構成しており、又は一体としての利用に供することが可能なひとまとまりの土地で、土地取引の契約の当事者の一方又は双方が、一連の計画の下に、土地売買等の契約によって取得する法定面積以上の土地をいうこととしている。

ロ 一画地の宅地

評価通達における宅地の評価に関しては「一画地の宅地」を評価単位としており、一画地の意義について「利用の単位となっている1区画の宅地をいう」こととしている。
 一画地の宅地として評価すべきかが争われた事例において、神戸地裁は、「例えば数筆の土地全体が一体として利用されているような場合に、それぞれ1筆の土地ごとに評価するよりも利用単位としての土地全体を一体のものとして評価する方が、当該土地の利用状況等の実態に即したものであり、それぞれの財産の現況に応じた客観的交換価値を算出するのに適当である」と判示している。

(4)評価単位と権利関係

国税庁が公表する質疑応答事例(以下、「庁質疑応答事例」という。)においては、宅地の評価単位である一画地の判定について、@宅地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利(原則として使用貸借を除く)の存在の有無により区分し、A他者の権利が存在する場合には、その権利の種類及び権利者の異なるごとに区分することとしているが、どのような権利が存在する場合に評価単位を分けるべきかについては、明確になっていない。

イ 土地の上に存する権利

評価通達9《土地の上に存する権利の評価上の区分》においては、土地の上に存する権利の評価に関して、地上権、永小作権、借地権等の十種類に区分した上で権利の別に評価することとしている。また、これらの権利の目的となる土地の評価方法は、評価通達の各項の定めによって、いずれもその土地の自用地としての価額から、各権利に相当する価額や割合を控除することとされている。

ロ 土地の共有

課税実務においては、単独所有の土地と共有の土地とが一体的に利用されているケースにおいて、共有地に係る共有者の持分を「自由な使用収益の制約」と捉えて、他の土地と評価単位を区分する場合があり、裁決事例においても「単独所有地は、所有者が何ら制約なく利用できる土地であるのに対し、共有地は、その処分等に共有者の同意が必要であるなど、単独所有の場合と比較して使用、収益及び処分等について制約があるから、評価対象地が共有か否か及び共有の場合の持分割合は、評価単位の判定に当たって考慮すべき事情である」と判断している。
 他方、単独所有地と共有地が混在する場合の評価単位の判定に関して争われた事例において、遺産分割後も同一の用途に供される蓋然性が高いと認められる状況にあるため、一部が共有地であることによる使用等の制約が実質的にないものと認め、全体を一つの評価単位とすべきと判断した裁決事例もある。

(5)所有者の異なる土地が一体利用されている場合

静岡地裁平成5年5月14日判決(税資195号298頁)においては、土地区画整理事業により仮換地指定を受けている複数の地権者からなる土地について、その全体を一画地の宅地として評価すべきであると判断しているほか、庁質疑応答事例では、所有者が異なる複数の土地上に共同ビルが建っている場合の敷地の評価に関して、それらの土地全体を一画地の宅地として評価することとしている。
 一方、静岡地裁平成23年1月28日判決(税資261順号11605)においては、評価通達における評価単位の定めの前提として、所有者ごとに対象土地が区分されているものと解するのが相当であり、異なる所有者の土地であるにもかかわらず、地目や評価単位を同一と認定することは、例外的であるとするとともに、遺産取得税方式に触れつつ、「相続税法の趣旨からは、所有者の異なる土地についてはそもそも別個のものとして評価をするのが原則であ」るとして、同一の目的での利用のみを理由に一団の土地とすることはできないと判断している。

(6)使用収益の制約と評価単位

使用収益における制約がある土地の評価については、私道の用に供されている宅地の評価における減額の要否等に関して争われた最高裁判決において、「所有者が自己の意思によって自由に使用、収益又は処分をすることに制約が存在することにより、その客観的交換価値が低下する場合に、そのような制約のない宅地と比較して、相続税に係る財産の評価において減額されるべき」とされており、その評釈においても「私道の用に供されている宅地の財産評価において一定の減額が認められるのは、当該使用、収益又は処分に一定の制約が存在することによって宅地としての最有効使用を実現することができないことにあると解される」と述べられている。

(7)取得者及び所有者と評価単位の関係

イ 所有単位と利用単位の相違

評価通達における評価単位の定めは、客観的な交換価値を算定するためのものであるから、交換価値を「処分価値」と捉えるのであれば、所有者が自由に使用、収益、処分することができるひとまとまりの財産を評価対象とすべきと考えられ、所有権が及ばない他者の所有物まで含めて一体的に評価することは、例外的に取り扱うべきであるとする見解に立つものと考えられる。
 しかしながら、現実的に評価対象となる土地は、必ずしも単独で所有及び利用しているとは限らず、他者の所有する土地と隣接し、それらを一体的に利用している場合が多く存在する。また、それらのケースにおいて土地を実際に取引(売買等)することを想定すれば、現実の利用状況を無視して(所有者単位で)売買等を行うことは考えにくい。

ロ 所有権の構成要素と評価単位

上記イを踏まえると、土地の評価単位を判定する上では、所有権を構成する要素である「使用、収益、処分」の可否が重要であり、これらの可能な範囲を特定する必要があると考えられる。このうち、「使用・収益」は、評価対象となる土地の利用単位を判定する要素であるが、その判定は実際の利用状況(現況)のみならず、所有者及び使用者の持つ権利が及ぶ範囲(利用できる範囲)を特定して、それを評価単位とすることであると考えることができる。また、所有権のもう一つの要素である「処分」については、評価の目的である客観的な交換価値の算定において、交換価値を「処分価値」と捉えるのであれば、所有者において自由に処分することが可能な単位で評価することとなるため、整合的であると考えられる。

(8)評価通達以外の財産評価

イ 固定資産評価基準(固定資産税)

固定資産税は、土地、家屋及び償却資産の保有と市町村が提供する行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、応益原則に基づき、資産価値に応じて所有者に対し課税される財産税であるとされ、市町村長は、地方税法の規定により、固定資産評価基準によって固定資産の価格(適正な時価)を決定しなければならないとされるとともに、当該評価基準に従って評価を行うことを義務付けられている。

(イ) 課税対象土地と地目の認定

固定資産税においても、評価通達と同様に、不動産登記事務取扱手続準則に準じて地目を判定することとされており、固定資産評価基準における地目の認定は、原則として一筆ごとに行うこととされている。

(ロ) 画地の認定

固定資産評価基準における一画地は、原則として土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録された一筆の宅地によるものとされているが、同基準においては、「一筆の宅地又は隣接する二筆以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これを一体をなしていると認められる部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とする」こととしており、画地認定の例外を設けている。

ロ 不動産鑑定評価基準

不動産の鑑定評価においては、その評価の目的や条件とともに鑑定評価が必要となった背景を踏まえ、対象となる不動産を物的に確定することが基本となるため、評価対象となる土地に関して、評価時点における最も合理的な利用(最有効使用)の状況を判定することが重要となる。

ハ 区画整理土地評価基準

土地区画整理法に基づく土地区画整理事業においては、事業施行地区内の土地について、区画整理前後の宅地の価値増加等を計量するとともに、地区全体の宅地価額の総額の増減を検証するため、土地評価を行う必要があり、国土交通省の監修による「区画整理土地評価基準(案)」が発行されている。
 区画整理土地評価の基本となる評価単位は画地であり、通常は、登記の対象となっている一筆を一画地とするが、一筆の宅地において、借地権その他土地を使用し又は収益することができる権利が設定されている場合は、その権利の部分ごとに一画地とすることとされている。また、数筆に跨り一体的な土地利用がなされている場合、又は計画されている場合は、隣接する数個の画地を一個の画地とみなして評価することもできるとされている。

ニ その他

個々に土地の価格を評価(算定)するといった点では、公共用地の取得に伴う損失補償基準についても参考となろう。当該基準等に基づく土地評価においては「画地」を評価の単位とすることとするとともに、画地について、@一筆の土地、又はA所有者及び使用者をそれぞれ同じくし、かつ、同一の用途又は同一の利用目的に供されている一団の土地をいうこととしている。

(9)評価通達と他の評価基準との比較

イ 固定資産評価基準との比較

(イ) 「時価」と「評価単位」

地方税法における時価の意義に関しては、判例において、相続税法における時価と同様、「正常な条件の下に成立する取引価格」であり、「客観的な交換価値」をいうものと解されている。また、評価通達と固定資産評価基準は、いずれも地目別に評価を行う原則となっているが、宅地の評価単位となる「一画地の宅地」の判定について、評価通達は利用単位を基本としているのに対し、固定資産評価基準においては、原則筆ごとに評価を行うこととしている。これは、固定資産税が課税台帳に登録された所有者に対する賦課課税であることや、課税対象となる所有者ごとに、課税標準となる土地の価格を登記上の筆単位で課税台帳に登録する必要があることなどに起因するものと考えられる。

(ロ) 評価単位の相違等

固定資産税は、固定資産が長期的にもたらす安定的な収益力を担税力として課税するものとも考えられるが、相続税については、遺産取得による相続人等の担税力に対する一種の所得税と捉え、相続財産の価額は、相続開始時の取引価格(交換価値)を指すものと解することが相当であるという見解がある。
 各税の課税趣旨・目的等を踏まえると、固定資産税については、地方税の原則の一つである応益原則に基づく財産税であり、課税時期において、その地域・場所に存在する土地に対する課税であることからすれば、土地の評価単位については、台帳課税主義の観点から登記上の筆ごとに課税することにはなるものの、必ずしも所有者ごとの評価に拘らず、現実の利用状況により評価単位を判定することが合理的であると考えられる。
 一方で、相続税及び贈与税は、相続及び贈与等によって財産を取得した者に対し、一時的・偶発的に無償で増大した財産に(所得課税的に)担税力を求めるものであり、その取得した財産ごとに評価単位を判定すべきであると考えられる。

ロ 「画地」の判定等

土地の評価単位の判定において、評価通達を含め、他の評価基準等においても用いられる共通的な考え方の一つが「画地」である。画地については、相続税評価の場合「利用の単位となっている1区画の宅地」をいうこととされている。また、国土交通省における公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱及び同補償基準細則においては、一筆の土地、又は、所有者及び使用者をそれぞれ同じくし、かつ、同一の用途又は同一の利用目的に供されている一団の土地をいうこととしており、画地の認定における所有者及び使用者は同一であることを明示している。
 一方で、固定資産評価基準においては、所有者が異なる一体利用地を一画地として評価しており、地方税当局における実務的な取扱いとして採用される判定方法となっているほか、裁判においても、所有者が異なる一体利用地を一画地として判断しているケースが存在する。

(10)考察・検討

イ 主な整理事項

@ 相続税法の定める「時価」は、客観的交換価値であると解されており、土地の評価単位についても、「客観的な交換の単位」(特定の者に限定されない、一般的な取引が行われる単位)で判定すべきである。

A 土地の地目及び利用状況に基づく評価単位の判定は、実際の土地利用に関する「現況」によって判断されるところであり、課税庁と納税者間で争いとなる事例においても、評価通達の定めによる取扱いに関して争いはなく、その多くが事実認定を争点としたものとなっている。

B 所有権を構成する要素のうち、「使用・収益」に関しては、評価対象となる土地の利用単位を判定する要素であり、評価単位の判定においては、現況の利用状況のみならず、「使用・収益」が可能な範囲(所有者及び使用者の持つ権利が及ぶ(利用できる)範囲)を特定する必要がある。

C 「客観的な交換価値」は「処分価値」であるとも考えられることから、所有権を構成する要素である「処分」が可能な範囲の特定についても、評価単位の判定における重要な要素となる(原則として、所有者が自由に処分することができる単位を評価単位とすることが合理的である。)。

D 土地の共有に関しては、各共有者の持分権が互いの権利に制約を与えているものではないため、単独所有地と隣接する場合等における共有土地に関しては、「使用収益に制約がある土地」として捉えるのではなく、現実の利用状況に応じて評価単位を判定すべきとも考えられる。

ロ 問題点・課題

@ 土地の評価単位の判定については、地目及び利用状況によることが原則でありながら、取得者及び所有者ごとに評価することを前提として評価通達等の取扱いが構成されており、いずれの考え方が優先されるのかについて明確な定めはない。また、例外的な取扱いとして、他の所有者の土地と一体的に評価する場合があるほか、所有者の異なる土地と一体評価すべきであると個別に判断された裁判例も存在し、その判断基準が明確ではない。

A 上記@に関連して、所有者の異なる土地と隣接し、それらを一体的に利用することにより高い効用となっている土地や、大規模な商業施設等の敷地の用に供することを前提とした短冊状の換地等については、これらを一体として評価単位を判定する方が合理的であり、かつ、実態に即した評価になると考えられる場合がある。

B 「画地」の定義について、評価通達における考え方と他の法令の適用(固定資産評価基準及び区画整理土地評価基準等に基づく土地評価)における取扱いとが異なる場合がある。

ハ 補足

(イ) 所有権(使用・収益・処分)に基づく評価単位の判定について

土地の評価単位を判定する上では、所有権を構成する要素である「使用、収益、処分」が可能な範囲を特定する必要がある。「使用・収益」の可否に関しては、評価対象となる土地の利用単位を判定する要素であるが、土地の権利関係を踏まえた利用単位の判定は、利用可能な単位(他者の権利関係の影響を受けずに使用収益できる単位)の判定であり、現況に基づき利用単位を判定することとは異なる。

(ロ) 取得者単位と評価単位の関係性について

相続税及び贈与税における課税財産の評価については、基本的には取得した財産ごとに評価すべきであると考えられるが、「取得者単位で評価する」こととは本質的に別の意味であり、「取得者単位」は評価単位の判定要素ではないものと考える。つまり、土地の評価単位の問題として整理しなければならないのは、「取得した土地をどのような画地で評価すべきか」ということであり、「取得者ごとに、取得した部分のみ」で土地の評価を行うこととは異なるものと考える。

3 結論

(1)評価単位における一体評価の範囲

土地の評価単位は、現況における地目及び現実の利用状況により判断するとともに、一団の土地又は一画地の宅地等の判定については、原則として、取得及び所有する土地ごとに判定することが基本となる。
 ただし、隣接する複数の土地の評価において、取得及び所有する土地ごとに評価単位を判定すると、現況の利用目的や用途、又はその効用を維持できない場合(他者の所有する土地と一体となることによって使用・収益が可能となっている場合)については、個々の事案の状況に応じて、隣接する所有者の異なる土地も含めて一画地としてはどうか。また、大規模な商業施設の敷地の用に供される短冊状の換地等のように、地権者及び借地権者等との間で土地を一体的に利用することを前提として各土地が使用・収益され、又は権利の設定等が行われている場合には、各地権者の認識において、土地全体をあたかも共有物として割合的権利を有するような意識であると考えられるほか、一体的利用の効用は(底地を含めた)敷地全体の利用価値に影響していると考えられるため、「他者の所有する土地と一体となることによって使用・収益が可能となっている土地」として評価単位を判定することも考えられる。

(2)一画地の定義

納税者の法的安定性と予測可能性の確保の観点から、相続税評価における「一画地」の定義を明らかにする必要があるものと考える。また、所有者の異なる雑種地等を一体的に利用している状況も想定されることから、「一団の土地」についても同様に定義することも一考の余地がある。

(3)評価単位の判定順序

利用単位を判定する順序(優先順位)については、評価通達等によって明らかにすることが望ましいと考える。評価対象となる土地の所有権及び権利関係から利用可能な範囲を特定し、その後に地目等の現況を判断することによって、合理的な評価単位の判定が可能になるものと考える。

(4)今後の検討課題

評価通達は、課税の公平の確保や納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から合理的であるとされているものの、土地の評価単位の判定一つをとっても、庁質疑応答事例等によって示されている各論的な取扱いのみで判断せざるを得ない事項もあり、納税者の法的安定性及び予測可能性の確保の観点から、より明確な判断根拠が必要であろう。そこで、財産評価の原則的な考え方や基本的事項については、相続税法の委任を受けて政省令によって規定する(技術的かつ具体的な評価方法等については従来どおり評価通達によって定める)など、財産評価体系の在り方等についての検討が必要であると考える。
 評価通達の立法化については、これまでも様々な議論や研究が行われており、その実現可能性や実効性等を踏まえて賛否両論の意見があるほか、法令化の対象及び法的拘束力の及ぶ範囲等について慎重な検討が必要であるが、本研究は土地の評価単位の問題の整理にとどまるため、今後の検討課題としたい。


目次

項目 ページ
はじめに 142
第1章 財産評価の概要 144
第1節 相続税法と財産評価基本通達の関係 144
1 相続税・贈与税の課税根拠及び課税方式 144
2 「時価」の意義 145
3 土地と相続税の関係性 145
第2節 沿革 147
1 評価通達の歴史と背景 147
2 評価水準の統合と見直し 148
第2章 評価通達の定める評価単位 151
第1節 評価単位の定め 151
1 評価単位の概要 151
2 評価単位の判定要素 151
第2節 評価通達の適用における論点 154
1 地目別評価の原則と例外 155
2 複数筆の土地と一体利用 156
3 不合理分割 159
4 地積規模の大きな宅地の評価等 161
5 小括 162
第3章 評価単位の具体的な取扱い 164
第1節 評価単位と権利関係 164
1 土地の上に存する権利 164
2 使用貸借関係 165
3 その他の権利 165
4 土地の共有 166
5 所有者の異なる土地が一体利用されている場合 168
第2節 具体的な取扱いにおける論点 170
1 使用収益の制約と評価単位 170
2 取得(所有)者と評価単位の関係 172
3 小括 177
第4章 評価通達と他の財産評価との関係 179
第1節 評価通達以外の評価基準 179
1 固定資産評価基準 179
2 不動産鑑定評価基準 182
3 区画整理土地評価基準 186
4 その他 188
第2節 評価通達と他の評価基準との比較 189
1 評価方法等の比較 189
2 「画地」の判定等 194
3 小括 198
第5章 考察・検討等 200
第1節 評価単位の判定方法の明確化 200
1 合理的な評価単位 200
2 整理事項の補足 201
第2節 結論及び課題等 205
1 結論 205
2 課題等 206
結びに代えて 209

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