蟹井 英敬
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

企業における経営成果の把握は、一会計期間に得られた商品やサービスの販売対価として発生した収益と、収益獲得のために同期間に発生した費用を対比させ行われる。費用の対象は、商品や原材料等の消費、労働力やその他のサービスへの支払い、建物や機械設備等の固定資産の減価などがある。
 商品や原材料等は、購入時に取得原価を棚卸資産として計上し、会計期間中の販売量や消費量をもとに取得原価を費消原価と未費消原価に分配し発生費用を計上する。また、労働力やその他のサービスは、給与や手数料等として利用に応じて支払われた費用を計上することとなり、いずれも発生費用の認識は容易である。
 これに対して、固定資産については、企業において長期にわたって収益を生み出す源泉であるから、その取得原価は、将来の収益に対する費用の一括前払の性質をもっている。固定資産のうち建物や機械設備等については、使用または時間の経過によって、その価値が減少するため、取得時に一括して費用に計上するのではなく、その使用または時間の経過による価値の減少に応じて徐々に費用化するのが合理的であるとし減価償却の計算が生まれている。
 減価償却を適正に行うためには、取得価額、償却方法、耐用年数などが合理的なものでなければならない。しかしながら、これらの決定をすべて法人の判断に委ねた場合には、税の公平上問題が生じるおそれがあることから、法人税法は恣意性を排除し、課税上の公平性を確保する観点から減価償却に関する事項について規定し一定の制限を設けている。
 減価償却制度については、これまでの改正により簡素化は図られてはきたものの、複数の用途がある資産の耐用年数の適用区分や耐用年数の短縮など様々な論点について個別に対応している実態がある。
 そこで、減価償却制度について、企業会計と税法との関係性を整理するとともに、制度の沿革や税制調査会での議論などからその考え方を明らかにしたうえで、制度に内在する諸問題を探りつつ、減価償却制度の在り方について研究を行う。

2 研究の概要

(1)減価償却の目的

イ 会社法における減価償却

会社法においては、法431条において「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。」と規定されているだけで減価償却に関する具体的な規定自体はなく、また、会社計算規則第5条2項においても「相当の償却をしなければならない。」と規定されているだけである。

ロ 中小企業の会計に関する指針における減価償却

中小企業の会計に関する指針では、「34.固定資産の減価償却」において「有形固定資産の減価償却の方法は、定率法、定額法その他の方法に従い、耐用年数にわたり毎期継続して適用する」ことや「減価償却における耐用年数や残存価額は、その資産の性質、用途、使用状況等に応じて合理的に決定しなければならない。」ことが示されている。

ハ 企業会計原則における減価償却

企業会計原則では、「第三 貸借対照表原則 五 貸借対照表価額」において、「資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって各事業年度に配分しなければならない。有形固定資産は、当該資産の耐用年数期間にわたり、定額法、定率法等一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分し、・・・。」と規定されている。また、減価償却の目的については、「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書」の「第三 有形固定資産の減価償却について 第一企業会計原則と減価償却」において、「減価償却の最も重要な目的は、適正な費用配分を行うことによって、毎期の損益計算を正確ならしめることである。」と示されている。
 これらの規定からすると、企業会計における減価償却とは、資産の取得原価についてその減耗額を見積り、その資産の使用期間にわたって正しく費用配分する会計手続きであり、その目的は毎期の期間損益計算を正確なものにするためのものといえる。

ニ 税法上の減価償却

税法上の減価償却の目的は、企業会計と同様に費用配分とする考え方が一般的である。
 ただし、減価償却の目的について、判例から探ると中には「投下資本の回収」と説明しているものもある。例えば、大阪地裁平成30年3月14日判決(LEX/DB文献番号25449958)においては、「・・・減価償却資産の取得費用をその耐用年数にわたって配分することにより、各事業年度の損益計算を適正なものとし、投下資本の回収を図ることを目的とするものと解される。」と示しているものもある。

(2)減価償却制度の沿革等

イ 昭和の減価償却をめぐる主な動き

(イ) 昭和20年代

昭和22年に申告納税制度が全面的に採用されたことに伴い、これまで内規であった減価償却に関する事項が法人税法施行細則に規定され、税法上の減価償却制度が確立された。その後、昭和24年のシャウプ勧告を受け、昭和26年度に減価償却制度の改正が行われており、その際、これ以降の耐用年数の考え方の基礎となる「固定資産の耐用年数の算定方式」が公表されている。これに示された考え方によると、耐用年数は、物理的減価及び経済的減価を考慮したうえで、固定資産が本来の用途用法により現に通常予定される効果を上げることができる期間となっている。

(ロ) 昭和30〜40年代

昭和30年代になると、耐用年数が技術革新の状況を反映していないとして耐用年数の短縮を求められるようになり、昭和39年度改正において、機械装置及び無形固定資産を中心に耐用年数の平均15%程度短縮や機械及び装置の耐用年数を978区分から約1/3の369区分に整理するなど抜本的な見直しが行われた。また、昭和41年度改正では、昭和26年以来改正が行われなかった建物の耐用年数を工場用建物、倉庫等に重点を置いて15%程度短縮するとの答申を受けて、建物を中心に耐用年数の改正が行われた。

(ハ) 昭和50〜60年代

減価償却制度については、度々改正は行われたものの、抜本的な改正は行われることはなく、特に耐用年数については、機械及び装置が昭和39年に、建物等については昭和41年に見直されて以降、全面的な改正が行われておらず耐用年数の見直しの議論が活発になった。
 一方、税制調査会は「税制の抜本的見直しについての答申」(昭和61年10月)において、減価償却制度の目的は、期間損益を適正に計算するために固定資産の取得価額を使用期間に応じて費用配分することにあるとし、次のように述べている。
 「平均使用年数と法定耐用年数との間にはある程度の乖離がみられるものの、現段階で法定耐用年数について必ずしも大幅な見直しを必要とする状況にはない。」、また、「資金の早期回収等の政策的観点から耐用年数の見直しを行うことは、法定耐用年数の考え方になじまない。」。

ロ 平成の減価償却をめぐる主な動き

平成になると法人税の課税ベースの拡大の議論が活発に行われるようになり、そのなかで減価償却制度の見直しも取り上げられるようになった。

(イ) 税制調査会「法人課税小委員会報告」

税制調査会は「法人課税小委員会報告」(平成8年11月)において、「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」という基本的方向性に沿って、課税ベースの問題を中心に法人課税のあり方を検討するとした。
 そのなかで減価償却制度については、@建物及び構築物については、定額法に限ることが適当である。A建物及び構築物の耐用年数の中には、資産の使用の実態はともかく、費用配分の期間としてみた場合あまりに長期に過ぎるものがあり、耐用年数を短縮することも考える。B耐用年数経過後も資産を使用している場合に備忘価額までの償却を認めることについては、慎重な対応が必要である。などの報告がなされている。
 また、この報告では、税法と商法・企業会計原則との関係についても述べられており、その要旨は次のとおりである。
 税法、商法、企業会計原則は、それぞれ固有の目的と機能を持っている。したがって、税法の適正な課税の実現という考え方から、商法・企業会計原則と異なった取扱いを行う場合があることは当然である。法人税の課税所得は、今後とも、商法・企業会計原則に則った会計処理に基づいて算定することを基本としつつも、適正な課税を行う観点から、必要に応じ、商法・企業会計原則における会計処理と異なった扱いをすることが適切と考える。

(ロ) 平成10年度改正

平成10年度改正においては、上記の報告で示された考え方を基本として、建物の償却方法の定額法への統一、建物の耐用年数を概ね10%から20%程度短縮などの改正が行われた。

(ハ) 平成19年度及び20年度改正

平成19年度及び平成20年度改正においては、減価償却制度について抜本的な見直しが行われている。税制調査会は「平成19年度の税制改正に関する答申‐経済活性化を目指して‐」(平成18年12月)において、経済活性化の観点から、早急な見直しが必要な項目として減価償却制度や留保金課税制度の在り方を挙げ、減価償却制度については、@減価償却制度は、償却資産の使用期間にわたって費用と収益を対応させるものであるが、国際的な競争条件を揃え、ハンディキャップをなくすことが重要であるとして、合理的な説明が困難な償却可能限度額について廃止すべき。A設備投資の促進し、生産手段の新陳代謝を加速する観点から、残存価額を廃止するとともに、償却率についても国際的に遜色のない水準に設定すべき。B法定耐用年数・設備区分については、簡素化等の見直しをしていく必要がある。特に技術革新のスピードが早く、実態としても使用年数の短いものについては、早急に法定耐用年数を短縮すべき。と答申した。
 これを踏まえ平成19年度においては、国際的なイコールフッティングの観点から、償却可能限度額及び残存価額の廃止、250%定率法の導入、一部資産の耐用年数の短縮などが行われた。
 この改正で、250%定率法の導入とともに、一部の資産について耐用年数の見直しが行われているが、注目すべきは、これは資産の実際の使用期間が法定耐用年数と比較し短いからではなく、国際的なイコールフッティングの観点で行われている点にある。この耐用年数の見直しについて、山本守之教授は、「近年では、効用持続期間よりも、企業が投下した資本を何年で回収するかという発想で耐用年数が定められるのである。平成19年度の税制改正で次の資産の法定耐用年数が短縮されたのもこのような考え方によるものである。」、「国際的なイコールフッティング(対等の地位、競争条件の平等化)のために日本も耐用年数を5年(改正前10年)としたもので、会計学の旧い考え方(効用持続期間)では実務に対応できなかったのである。」と述べている。
 また、250%定率法の導入について、日本税理士会連合会は、「企業会計と法人税制のあり方について-平成19年度諮問に対する答申-」(平成20年3月)で「税法に新定率法が導入されたことにより、企業会計と税法の間で減価償却制度に関する理念が乖離し、税法上の償却限度額は、費用の適正な期間配分を行うという企業会計とは異なるものとなった。」と指摘している。
 平成20年度改正では、機械及び装置の資産区分の整理や耐用年数などの見直しが行われ、この見直しにより大部分で耐用年数が短縮されている。しかしながら、税制調査会「第46回総会・第55回基礎問題小委員会」(平成18年6月)資料によると、機械装置の平均使用年数は平均法定耐用年数に対し約1.6倍と示されている。また、税制調査会「第3回グループ・ディスカッション」(平成18年11月21日)資料においては、平均使用年数13.13年に対して平均法定耐用年数12.16年となっている。いずれの資料においても平均使用年数が平均法定耐用年数に比して長いことから、この短縮は、減価償却資産の使用実態に加え、それ以外の要素も考慮されたのではないかと考えられる。
 なお、この改正について、成道秀雄教授は、「今度の改正で実質的に大きくアメリカ式になった。いわゆる財政償却制度に実質的になったということです。」と述べている。

(ニ) 平成23年度改正

250%定率法の導入と耐用年数の短縮により、償却速度が主要国の中でトップクラスとなった一方で、その償却速度の速さから問題も生じている。「平成22年度第7回 税制調査会議事録」(平成22年11月)によると、償却化のスピードが世界で最も早い国の一つとなったが、企業は利益確保のため、償却限度額を使い切れていない例も多い状況にあるとして見直しの議論となっている。
 結果、平成23年度改正においては、償却速度を主要国並みに見直すこととされ、250%定率法が200%定率法に改正されている。

ハ 減価償却の考え方の変遷

耐用年数は、昭和26年に公表された「固定資産の耐用年数の算定方式」を基礎として定められており、その考え方は効用持続年数となっている。この効用持続年数にわたって減価償却資産の取得価額を配分することから考えて、税法上の減価償却の考え方は、企業会計と同様に費用配分であるといえる。
 また、税制調査会「税制の抜本的見直しについての答申」(昭和61年10月)は、資金の早期回収等の政策的観点から耐用年数の見直しを行うことは、法定耐用年数の考え方になじまないと説明していることから、この時も企業会計と同様であると考えられる。
 しかしながら、平成になると、国際的なイコールフッティングの確保の観点で、250%定率法の導入や一部資産の耐用年数の短縮が行われており、このことから減価償却制度は、適正な費用配分を基本としているものの、その改正には、企業における減価償却資産の使用実態のみならず、それ以外の要素も考慮されるようになったとも考えられる。
 ただし、行われた改正の範囲が制度全体ではなく、耐用年数など限定的に行われていることからすると、費用配分としての減価償却制度の考え方を変えたものではないと考えている。

(3)法人税法における減価償却制度の概要

イ 損金経理要件

法人税法上、減価償却費を損金算入するためには、法人が確定した決算において償却費の損金経理を行う必要がある(法法31@)。
 これは、税法が法人に選択の余地を認めている事項についての最終的な意思表示は、申告書によってではなく、確定した決算によって行われるべきとの考え方によるものである。また、減価償却は、内部取引のため恣意性が介入しやすいので、恣意性を最高意思決定機関である株主総会の承認を要することで可能な限り排除するためである。
 減価償却については、このような目的で損金経理を前提としたものとなっているが、償却限度額の定めと相まって、企業会計に影響を与えていると逆基準性が指摘されている。

ロ 償却限度額及び償却方法

減価償却費として損金に算入できる金額は、法人が償却費として損金経理した金額のうち、減価償却資産を取得した日及び減価償却資産の種類の区分に応じて政令で定める償却方法の中から法人が選定した償却方法に基づき計算された償却限度額までの金額(法法31@)とされており、法人税法上の減価償却費の計算は、あくまで損金の額に算入できる償却限度額を計算するものとなっている。

ハ 法定耐用年数

企業会計においては、個々の減価償却資産の状況等に応じて合理的に耐用年数を見積もることとされている。一方、法人税法上の耐用年数については、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(以下、「耐用年数省令」という。)によって資産の種類別に法定化されており、法人が見積もった耐用年数を償却限度額の計算に使用することはできないこととされている(法令56)。
 耐用年数は、耐用年数省令において、別表第一から別表第六まで定められており、算定の基本的な考え方は、昭和26年に公表された「固定資産の耐用年数の算定方式」にあるとされている。

(4)諸外国の減価償却制度

イ 米国の減価償却制度

(イ) 減価償却制度の目的及び変遷

減価償却について、米国の会計基準はAccounting Standards Codification(ASC) Topic360において、見積り残存価額を控除した資産の原価を見積り耐用年数にわたって配分することを規定しており、その目的は費用配分にある。
 一方で現行税法における減価償却制度は、投下した資本の回収を目的とするものとなっている。
 ただし、米国における減価償却制度については、最初から企業会計と税法で異なっていたわけではなく、もともと米国では企業の自由裁量で減価償却を行うことを認め、税務においては企業会計に基づく減価償却を尊重する立場をとっていた。
 しかしながら、1980年代になると米国経済はインフレーションや失業率の上昇など厳しい状況に置かれ、経済的耐用年数に基づく減価償却制度ではインフレーションの進行に伴う償却不足について理論上対応できないことや減価償却計算の複雑さが問題視されるようになった。
 これらに対応するためにレーガン政権は、1981年の経済復興税法(Economic Recovery Tax Act)において、従来の減価償却の考え方に変えて原価回収(cost recovery)とうい概念を取入れた加速度原価回収制度(accelerated cost recovery system:ACRS)を導入した。その後、1986年税制改革法において、加速度原価回収制度は償却期間が延長され、現在の修正加速度原価回収制度(modified accelerated cost recovery system: MACRS)となっている。

(ロ) 減価償却制度(修正加速度原価回収制度)の概要

修正加速度原価回収制度においては、減価償却資産の取得価額は、適用される償却(回収)期間、償却方法及びコンベンションにより償却されることとなり、残存価額は存在せず取得価額の全額が償却可能となっている。
 修正加速度原価回収制度は、2種類の減価償却制度から成っており、修正加速度原価回収制度において通常用いられることとなる制度が通常減価償却制度(general depreciation system:GDS)である。また、その補助的な位置づけとして代替的減価償却制度(alternative depreciation system:ADS)が設けられている。
 通常減価償却制度では、有形動産を資産の種類に応じて、3年資産、5年資産、7年資産、10年資産、15年資産、20年資産の6種類に分類され、また、不動産については、居住用賃貸資産が27.5年資産、非居住用不動産が39年資産に分類される。償却方法は、それぞれの区分に応じて定められている。
 代替的減価償却制度は、一定の資産または納税者が選択した場合に適用され、通常減価償却制度に比べ償却期間が長く、償却方法については定額法に限定されている。
 なお、米国では、加速度原価回収制度の他にIRC179条の選択、特別償却があり、それぞれが別個の投下資本の回収制度とされているため、併用適用が可能となっている。

ロ 英国の減価償却制度

企業会計上の減価償却費は、申告書上で加算され、「税務上の減価償却費(Capital allowance)」が税務計算上で減算される。
 償却率については、法定耐用年数表は存在せず、機械設備18%、乗用車8%、18%、特別償却率資産(長期性資産および建物に一体化している資産を含む)8%などとなっており、「税務上の減価償却費」の対象となった機械設備は、個別に減価償却計算を行なうのではなく、1つの償却プール(General pool)に集約され、その期末残高に償却率を乗じて計算される。

ハ ドイツの減価償却制度

企業が、経済的耐用年数に応じて、毎期規則的に費用計上することを前提として損金算入が認められている。経済的耐用年数は、原則として企業の合理的な見積りによることができるが、建物の償却率は税法で規定されており、その他の動産(機械装置、器具備品、車両等)については、連邦財務省が推奨耐用年数表を公表している。

ニ フランスの減価償却制度

時の経過により価値が減少する全ての有形固定資産で事業の用に供されるものについて、損金経理を要件として損金算入されるが、税務上の限度額を超えて減価償却をすることは認められない。
 償却方法は、定額法が原則であるが、一定の資産については、定率法を選択することができる。定額法償却率は、原則として、見積もられた資産の耐用年数に基づいて決定される。

ホ 韓国の減価償却制度

各事業年度に計上した固定資産の減価償却費について、大統領令の定めるところにより計算した金額を超過する部分の金額は、各事業年度の所得金額の計算上、損金に算入しないものとされている。
 償却方法は、償却資産の種類に応じて定められており、有形固定資産は、定率法又は定額法(「建築物」は定額法のみ)。無形固定資産は、定額法。鉱業権は、生産高比例法又は定額法。鉱業用固定資産は、生産高比例法、定率法又は定額法となっている。
 耐用年数については、資産種類別に定められており、なかには業種別資産の区分もある。なお、業種別資産等については、基準耐用年数に25%加減算した範囲内(耐用年数範囲)で法人が選択できることとなっている。

ヘ 中国の減価償却制度

税法において固定資産の定義、取得価額(課税基礎)の確定、償却方法及び最短耐用年数等について規定している。
 減価償却は原則として定額法により行うこととなる。残存価額については、企業が固定資産の性質と使用状況に基づいて、合理的に見積もることとなる。
 耐用年数については、固定資産ごとに法定耐用年数が定められており、建物、構築物は20年、飛行機、列車、船舶、機器及びその他生産設備は10年、生産経営に関連する器具、工具、家具等は5年、飛行機、列車、船舶以外の運輸工具は4年、電子設備は3年となっている。

ト シンガポールの減価償却制度

税法上、資本的支出の費用配分という考え方はなく、減価償却制度は政策的配慮から、投資奨励策として資産の損金算入を認めた制度となっている。
 そのため、税務上、減価償却が認められるものは原則として、産業用建物及び構築物、機械及び設備、ノウハウ及び特許使用権等の無形固定資産となっている。
 産業用建物及び構築物、機械及び設備の減価償却は、取得時償却と年次償却の2つの方法により行われることとなる。

チ 日本に減価償却制度との比較

日本の制度と各国の制度を比較すると、日本と比べ特に耐用年数が簡略化されたものとなっている。
 例えば、韓国は日本の別表第二と同じように業種別資産の区分があるが、日本の55区分に対して9区分となっている。また、英国は、法定耐用年数はないものの、機械設備の償却率が18%となっていることから実質1区といえる。

(5)法定耐用年数と企業における有形固定資産の使用状況との比較分析

税法上の減価償却の目的は、企業会計における減価償却と同様に費用配分とする考え方が一般的であるといわれているが、一方で、我が国の減価償却制度については、平成19及び20年度税制改正によって、実質的に財政償却制度になったとの指摘もある。
 そこで、法定耐用年数と企業における実際の有形固定資産の使用状況とを比較することで、費用配分期間としての耐用年数の妥当性の検証を試みる。
 この法定耐用年数との比較には、毎年、内閣府が実施している民間企業投資・除却調査(以下、「除却調査」という。)の有形固定資産の除却に関する調査結果を使用するが、調査年度によって、平均使用期間にバラツキがある資産も見受けられることから、直近3年(2019(令和元年)年度から2021(令和3)年度)の平均使用期間に有効回答数を加味して算出した3年間の平均使用期間を使用する。なお、この比較は、除却調査結果の詳細なデータまで把握したうえで行ったものでないため、より正確な実態把握には、更に詳細なデータを収集したうえでの分析が必要と考えている。

イ 建物の耐用年数との比較

建物の除却調査はその用途に応じて分類されているのに対して、法定耐用年数は構造及び用途に応じて分類されているため、両者を比較して有意な評価をすることはできなかった。他方で、建物の除却調査の中で比較すると、事務所の平均使用期間は住宅や工場などと比べ短く、逆に工場の使用期間は住宅や集合住宅などと比べ長い傾向が見受けられ、この点、建物の法定耐用年数の定め方との違いが見受けられた。

ロ 船舶、航空機、車両及び運搬具の耐用年数との比較

いずれの資産も法定耐用年数に比べ平均使用期間が長い傾向にある。特に、自動車は、その傾向が顕著で、平均使用期間の最短が二輪自動車の10.4年、最長が旅客用自動車の13.8年に対して、法定耐用年数は二輪自動車が3年又は4年、旅客用自動車は3年から5年となっており、法定耐用年数の2倍以上の年数が使用されていることが見受けられた。

ハ 工具、器具及び備品の耐用年数との比較

工具については、除却調査において機械工具と金型の2種類がある。いずれも除却調査における資産の詳細まではわからないものの、機械工具の平均使用期間が16.2年に対して、法定耐用年数は用途に応じて2年から13年まで定められている。ただし、法定耐用年数の13年は白金ノズルで、これを除いた場合には2年から8年となる。除却調査の資産に白金ノズルが含まれているのかは不明であるが、たとえ含んでいたとしても多く含んでいるとは考えにくいことから、この点を考慮すると法定耐用年数より平均使用期間の方がかなり長いように見受けられる。また、金型については、平均使用期間14.1年に対して、法定耐用年数は2年又は3年となっている。除却調査における資産がすべて法定耐用年数3年の資産であったとしても平均使用期間との間に4.7倍もの開きがあるように見受けられた。
 器具及び備品については、法定耐用年数と平均使用期間がかなり近いものもあるが、全体的に法定耐用年数より平均使用期間の方がかなり長いくなっており、その乖離も2倍を超えるものが非常に多いような状況である。
 なお、器具及び備品についてはその種類も多く、除却調査の資産の区分と耐用年数表における資産の区分とを明確に対応させることが困難なものもあったが、バスケットクローズに区分される資産が多く把握されたため、その区分の在り方を検討するに当たっては、使用実態をより精緻に把握する必要があると考える。

ニ 機械及び装置の耐用年数との比較

ここでは、除却調査結果の「(表8)除却された有形固定資産の産業別平均使用期間(年)」を基に算出した3年平均使用期間と機械及び装置の法定耐用年数と比較を行うが、除却調査結果によると、各業種で除却された資産は多種多様であり、一定の前提を置かないとその傾向を把握することは困難である。そこで、各業種(産業分類)の3年間の除却数(有効回答数)が一番多かった資産がその業種で主に使用される機械及び装置に該当するものと仮定したうえで、除却調査の産業分類に対応する法定耐用年数との比較を試みた。
 農林水産業で除却数が一番多いのは、農業用機械で平均使用期間は15.8年である。この業種に対応する法定耐用年数は、農業用設備(7年)、林業用設備(5年)、漁業用設備(5年)、水産養殖業用設備(5年)であるが、この場合は農業用設備の法定耐用年数との比較で足りる。そうすると、法定耐用年数よりも平均使用期間が2倍以上長いことがわかる。
 以下同様に鉱業、建設業を確認すると、鉱業においては、建設・鉱山機械の平均使用期間22.0年に対して、法定耐用年数は、鉱業、採石業又は砂利採取業用設備として3年、6年、12年が定められている。最長の12年と比較しても1.8倍の乖離が認められる。また、建設業は、平均使用期間22.2年に対して、法定耐用年数は6年で3.7倍となっている。
 製造業については、食料品製造業以下、その他製造業まであるが、業種によって乖離の程度にバラツキがあるものの、すべてにおいて平均使用期間が法定耐用年数よりも長いことがわかる。その乖離も2倍を超えるものが多く、なかには繊維工業のように3倍を超えるものもある。
 また、平成19年度税制改正において、国際的なイコールフッティングの確保の観点で法定耐用年数が5年に見直された、半導体用フォトレジスト製造設備、フラットパネル用フィルム材料製造設備については、いずれも化学工業用設備に該当する。化学工業用設備の法定耐用年数は、これら2つの設備を含む5年の他に4年と8年が定められている。これに対して、除却された化学機械の平均使用期間は、21.3年とかなり長いことがわかる。同じく法定耐用年数の見直しが行われた、フラットパネルディスプレイ製造設備の法定耐用年数は、電子部品、デバイス又は電子回路製造業用設備に該当し、この設備の5年の他に6年と8年が定められている。これに対して、除却された半導体製造装置の平均使用期間は、16.7年で半導体用フォトレジスト製造設備などと同様にかなり長いことがわかる。
 なお、電気業以下については、業種と除却資産との関係性が明確でないものも含まれていることから、確たることは言えないものの、これまで確認してきた資産と同様に使用期間が長い傾向が見受けられた。

ホ 小括

建物はその用途によって平均使用期間に違いがあり、法定耐用年数の定め方との傾向で違いが見受けられたが、除却調査と法定耐用年数とでは、分類の仕方が異なるため、有意な比較はできなかった。
 車両及び運搬具、工具、器具及び備品については、平均使用期間と法定耐用年数との間で2倍を超えて大きく乖離している状況が認められた。
 機械及び装置についても、車両及び運搬具などと同様に平均使用期間と法定耐用年数との間で2倍を超えて大きく乖離している資産が多くある状況が認められた。機械及び装置については、税制調査会「第46回総会・第55回基礎問題小委員会(平成18年6月)」資料において、平均使用期間は平均法定耐用年数に対し約1.6倍と示されている。今回行った比較とでは、前提条件が異なっているため、一概に言うことはできないものの、両者の乖離は以前より大きくなっていることも懸念される。

3 まとめ

税法における減価償却制度の意義は、法定耐用年数の算定の考え方や損金経理を前提としていることなどから、企業会計と同様に適正な費用配分にある。
 しかしながら、これまで250%定率法(現在は、200%定率法)の導入や法定耐用年数の見直しなど、国際的イコールフッティング等の観点から制度改正が行われ、現に法定耐用年数は、企業における減価償却資産の平均使用期間に比して、かなり短い状況にあるように見受けられる。
 現行の法人税法における減価償却の仕組みは、適正な費用配分の考え方に基づき各規定が設けられているが、配分期間の基礎である法定耐用年数が実際の使用期間と大きく異なり、それが常態化していくと適正な費用配分との関係において大きな問題である。そのため、法定耐用年数については、適正な費用配分期間として妥当なものとなるよう随時見直しが行われていく必要があるものと考える。
 また、昭和40年の耐用年数省令の制定以来、資産区分の大幅な見直しが行われてこなかった別表第一に掲げられる減価償却資産、特に器具及び備品については、必要に応じて今の時代に即した資産区分の検討をすることも考えられる。


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はじめに 193
第1章 減価償却制度の目的と沿革 195
第1節 減価償却制度の目的 195
1 会社法における減価償却 195
2 中小企業の会計に関する指針における減価償却 195
3 企業会計原則における減価償却 196
4 国際会計基準における減価償却 197
5 法人税法における減価償却 199
第2節 減価償却制度の沿革 201
1 昭和の減価償却をめぐる主な動き 201
2 平成の減価償却をめぐる主な動き 205
3 小括 213
第2章 法人税法における減価償却制度の概要 215
第1節 減価償却資産の範囲及び取得価額 215
1 減価償却資産の概念 215
2 減価償却資産の範囲から除かれるもの 216
3 取得価額 217
第2節 損金算入額と償却限度額 218
1 損金経理要件 218
2 償却限度額 219
3 償却方法 219
第3節 耐用年数 222
1 法定耐用年数 223
2 耐用年数の短縮 232
3 中古資産の耐用年数 237
第3章 諸外国の減価償却制度 242
第1節 米国の減価償却制度 242
1 減価償却制度の目的及び変遷 242
2 減価償却制度(修正加速度原価回収制度)の概要 243
第2節 欧州諸国の減価償却制度 249
1 英国の減価償却制度 249
2 ドイツの減価償却制度 249
3 フランスの減価償却制度 250
第3節 アジア諸国の減価償却制度 251
1 韓国の減価償却制度 251
2 中国の減価償却制度 252
3 シンガポールの減価償却制度 253
第4節 我が国の減価償却制度と諸外国の制度との比較 253
1 損金経理要件 253
2 償却方法 254
3 耐用年数 254
4 小括 255
第4章 法定耐用年数と企業における有形固定資産使用状況との比較 257
第1節 耐用年数省令別表第一に掲げられる資産の耐用年数との比較 259
1 建物の耐用年数との比較 259
2 建物附属設備の耐用年数との比較 261
3 船舶、航空機、車両及び運搬具の耐用年数との比較 261
4 工具、器具及び備品の耐用年数との比較 262
第2節 耐用年数省令別表第二に掲げられる資産の耐用年数との比較 265
第3節 小括 273
結びに代えて 274