松田 雄次
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

国税の納付については、金融機関又は税務署窓口における金銭等による納付に加え、納税者の利便性の向上の観点から、国税通則法(以下「通則法」という。)等の改正を経て、口座振替納付(以下「振替納税」という。)、インターネットバンキング等を利用した電子納税、ダイレクト納付(e-Taxを利用した口座振替)が可能となり、更なる納税者の利便性の向上を図るため、国税を納付しようとする者が一定の要件の下、指定された納付受託者に納付を委託し、納付受託者が収納機関に納付する仕組み(以下「納付委託制度」という。)が創設された。
 この納付委託制度が創設されたことにより、納付受託者をコンビニエンスストア(以下「コンビニ」という。)とするコンビニ納付(バーコード付納付書やQRコードを利用)、納付受託者をクレジットカード会社とするクレジットカード納付、納付受託者をスマートフォン決済専用のWebサイトを運営する会社とするスマホアプリ納付が可能となり、国税の納付手段は多様化している。
 加えて、国税当局としては、納税者の利便性の向上のほか、税務署の事務の効率化、ひいては現金管理等に伴う社会全体のコストを縮減する観点からキャッシュレス納付の推進に取り組んでいる。
 更に最近は、キャッシュレス納付の推進が税務行政のデジタル・トランスフォーメーションの取組に資するものであるとともに、新型コロナウイルス感染症の感染防止(非対面手続への移行)の観点からも重要性を増している。
 ここでいう「キャッシュレス納付」とは、上記国税の納付手段のうち、現金(紙幣・硬貨)を使用しない非対面の納付方法であり、@振替納税、A電子納税(インターネットバンキング及びダイレクト納付)、Bクレジットカード納付に加え、令和4年12月1日に導入されたCスマホアプリ納付を指す。
 コンビニ納付については、コンビニのレジでの対面による納付方法であり、かつ、納付は現金に限られ、クレジットカードや電子マネーの利用はできないことから、金融機関又は税務署窓口における金銭等による納付と同様に「キャッシュレス納付以外」の納付手段として区分される。
 各年度における国税の全納付件数のうち、キャッシュレス納付による納付手段での納付件数の割合を「キャッシュレス納付割合」と呼称されているが、現状、キャッシュレス納付割合は全体の約3割にとどまっている。
 近年、社会全体で決済手段の多様化やキャッシュレス化が進展している中で、更なる納付手段の多様化とキャッシュレス納付の推進について、現行の納付委託制度の今後の可能性を踏まえて考察する。

2 研究の概要

(1)納付手段の概要等

イ 多様化した納付手段

国税の多くは、申告納税方式(通則法16@一)を採用しているが、申告された国税の納付手段としては、通則法の改正等を経て、多様化している。
 新たな納付手段の創設は、納付手段の選択肢を増やすことで納税者の利便性の向上を図るものであり、多様化する納付手段のどれを選択するかは、国税を納付しようとする者の判断によっている。
 なお、国税庁は、令和7年度までにキャッシュレス納付比率4割程度とする目標を掲げ、オンライン利用率を引き上げる上での課題と課題解決のためのアクションプランを公表した。

ロ 納付手段の概要

国税の納付については、納税者の利便性の向上のほか、キャッシュレス納付の推進の観点から、納付手段が多様化したが、新たな制度創設の背景としては、従前の納付手段の短所を補うという理由もあった。
 振替納税は、利用可能税目が限定的であったが、インターネットバンキング等を利用した電子納税により、全ての税目を利用可能とした。しかし、インターネットバンキング等を利用した電子納税もインターネットバンキング契約が必要であるなどの点から利用が低調であったため、インターネットバンキングを経由しないダイレクト納付(e-Taxによる口座振替)が導入された。
 ダイレクト納付は、上記アクションプランにおいて、キャッシュレス納付の中心的な納付手段と位置付けられているが、ダイレクト納付利用届出書のオンライン提出を個人の納税者に限定し、法人の納税者においては、書面による提出となっている点は、課題を残している。

(2)納付委託制度に係る法制面の検討

納付委託制度は、納付手段によって納税者の出捐や国庫収納のタイミングが相違するほか、クレジットカード納付には、国税とは別に税額に応じた手数料が発生するなど、今後、新たな納付制度を創設する上で回避できない課題である。

イ 納付受託者に対する納付の委託の要件

@納付税額が財務省令で定める金額以下であること及びA納付書を添えて納付すること又は納付書記載事項等を通知することであり、この二つの全てに該当する場合に納付の委託をすることができる(通則法34の3@)。

ロ 法令上の検討

納付委託制度は、@通則法により、附帯税が課されないこと、納付受託者の要件、納付受託者の納付(未納付なった場合の徴収)、納税者の保護等について整備され、A財政法上の規律にも問題はない。B情報通信技術を利用する方法による国の歳入等の納付に関する法律(以下「キャッシュレス法」という。)と通則法とを比較したが、通則法は、公課徴収の基本法規たる地位を占めているからキャッシュレス法が同様の内容となっていることは当然である。C地方税等における「指定納付受託者制度」についても、地方自治法及び地方税法の改正により導入されたが、改正内容は通則法とほぼ同じ内容である。

ハ 改善に係る検討

キャッシュレス法案に係る衆議院(内閣委員会)における審議の中で、問題点等が指摘され、附帯決議が付されている。
 そのうち、附帯決議に付された事項について、国税の納付委託制度に当てはめて、改善策の検討を行った。
 1点目は、「指定納付受託者の未納付により、歳入等の納付者が二重払い等の不利益を被ることがないよう、万全の措置を講ずること。」である。
 コンビニ納付の場合は、コンビニに対して、実際に金銭の交付を受けるコンビニ店舗とその本部との間に、スマホアプリ納付の場合は、スマートフォンを使用した決済サービスを提供する会社に対して、その収納代行業者との間の相互保証や保険会社による保険を契約上義務付けるなど、確実に納付受託者から徴収できる仕組みが採られている。
 また、クレジットカード納付の場合においては、納税者が納付受託者に対する支払日(口座引落し日)が通常その納付受託者における納付期限より後となることから、納付受託者が納付すべき国税について未納となる場合であっても、納税者が二重に支払をすることは基本的にない。
 2点目は、「指定納付受託者を指定するに当たっては、納付事務を適切かつ確実に実施できるよう、指定納付受託者の要件を適切に定めること。」である。
 納付受託者の指定要件については、特に改善すべき点は見当たらなかった。
 3点目は、「システム障害等によりキャッシュレス納付を行えなくなる事態に備えるため、他の方法を確保するなど必要な措置を講ずること。」である。
 アメリカは、システム障害によりキャッシュレス納付が行えなくなる事態に備えた他の方法として、音声応答システムに電話すれば納付が可能となる措置を講じている。
 4点目は、「指定納付受託者等による納付者の個人情報の不正利用や流出を防ぐため、必要な措置を講ずること。」である。
 納税者が抱える個人情報の不正利用や流出に係る不安を払拭し、分かりやすくかつ適正なものとするためにも、納付受託者の資格要件を通則法施行規則に列挙することが望ましい。

ニ 手数料に係る検討

決済手数料負担の在り方として、納付受託者が決済手数料を負担することも考え得る。
 具体的には、納付受託業務の委託に係る入札時、入札説明書に「決済手数料は納付受託者において負担する。」と明記し、入札参加者は、サービス提供や貸倒れのリスク回避に係る費用(保険等)を見積もった上で入札することにする。これにより国が支払う契約金額は増加すると見込まれるが、いわゆる「納付手数料」と同じく、目に見えた「決済手数料」は発生しないことになり、手数料負担の在り方の一つとしては、視野に入れるべきである。

(3)納付委託制度の今後の可能性

イ 地方公共団体における電子納付手続

平成30年度税制改正において、地方税共通納税システムが導入され(令和元年10月から稼働)、地方税共同機構が地方税を取り扱うための法令上の規定が整備された。これにより、企業は、全地方団体に対して電子納付が可能となり、かつ複数の地方団体への納付についても一度の手続で可能となった。
 また、地方税の電子化を更に推進するため、令和5年4月から、地方税の納付について、地方団体から納税者へ納付書に「地方税統一QRコード(eL-QR)」を印刷の上、送付し、@eLTAX操作による電子納付、Aスマートフォン操作による電子納付、B金融機関窓口においては、金融機関がeL-QRを読み取り、eLTAX(地方税共通納税システム)を経由して、地方団体に収納データを送信する事務処理への活用が開始された。

ロ アメリカにおける納付手続

米国連邦税法の管理及び執行機関である内国歳入庁(IRS:Internal Revenue Service)においても、我が国と同様に電子納税を推奨している。
 アメリカにおける納付手続については、金融機関窓口における現金納付ができないことや税務署窓口が予約制になっていることなど、納税者に制限を設けているものの、納付手段は多様化している。
 他方、電子納税を行う際、サイトにアクセスする方法以外にもカスタマーサービス又は支払処理業者への電話による納付が可能な仕組みを採り入れるなど、スマートフォンやパソコンに不慣れな「デジタル弱者」にも配慮している点においては、日本も参考にすべき点が多々見受けられた。

ハ 電子申告と電子納税の関連性(アメリカ・韓国・日本との比較)

電子申告と電子納税の関連性を確認する観点から、我が国との比較を諸外国の中で、電子申告を1986(昭和61)年、世界に先駆けて導入したアメリカと電子申告利用率が100%に近い韓国との間で行った。
 アメリカの電子申告利用率は、法人税が71.0%、所得税が90.0%であり、電子納税利用率は、全体で約70%である。
 韓国の電子申告利用率は、法人税及び所得税ともに100%に近く、電子納税利用率は、法人税が98.6%、所得税が91.0%である。
 日本の電子申告利用率は、法人税が87.9%、所得税が59.2%であり、電子納税利用率は、全体で19.5%(インターネットバンキング12.6%、ダイレクト納付5.5%、クレジットカード納付1.5%)である。
 韓国は、記入済申告制度が導入されているため、電子申告利用率が高く、それに伴い、電子納税利用率も高いが、記入済申告制度の導入については、問題視する意見もある。

ニ 新たな納付手段の提供に係る検討

(イ) 電子マネー

自宅等でQRコードを作成すれば、コンビニ窓口での現金での納付は可能であるが、電子マネーの利用はできない。コンビニにおける電子マネーの利用は、電子マネー事業者を決済事業者として導入は可能であろうが、チャージ上限額が流通系で5万円、交通系で2万円程度となっている現状からすると、利用する納税者(個人)は、半数以下と見られ、さほど有効な納付手段となり得るとは考えにくい。

(ロ) コード決済

コード決済についても、他の納付手段同様、決済手数料の問題は内包するが、我が国のキャッシュレス決済手段において、特にコード決済の利用増加率は高く、今後も増加傾向にある決済手段として考えられる。
 地方税においては、eL-QRによる納付を可能としており、国税においても、統一的な対応を図る観点から、バーコード付納付書のバーコードを利用して、コード決済を可能とする仕組みを構築すべきである。

(ハ) 暗号資産

暗号資産(仮想通貨)とは、インターネット上で取引できる財産的価値であり、通貨には該当しない。
 納付手段として考え得るのは、納付委託制度による納付である。
 納付受託者を「暗号資産交換業者」とし、クレジットカード納付の仕組みと同様に納付受託者が運営する暗号資産納付の専用の外部サイトにアクセスして、納付書記載事項を通知して国税の納付を委託し、その委託があった日にその国税の納付があったものとみなすという制度を創設することは、利用可能税額をいくらにするかという問題はあるが可能である。しかし、ここで重要なことは、暗号資産は、価値が大きく変動するということである。
 資金決済法によって、暗号資産は、決済手段としての地位を与えられたとはいえ、投資目的で保有されているケースが多く、国税の納付手段として採用することについては、まだ見極めが必要であると考えられる。

(ニ) 外国貨幣

収入官吏が外国において外国貨幣をもって歳入金を収納するという特異な事例では、外国貨幣の売却に係る過不足についての規定を個別に設けて整理するのであろうが、国税の納付のように大量かつ反復的な手続においては、納税者が外国貨幣で納付した場合、日本銀行が要する事務(外国貨幣の売却及び過不足に係る経理)が膨大なものになり現実的ではない。

(ホ) 金融機関からの即日送金

アメリカにおける納付手続については、金融機関窓口における現金納付はできないが、納付書をサイトからダウンロードし、必要事項を記入した上、金融機関へ提示し、送金を依頼することは可能である。
 国税についても、国税庁ホームページから納付書をダウンロードして税務署に提出する又はe-Taxを利用して提出することにより、納税者の金融機関口座から税務署の指定された口座に送金(振込)することは、技術的には可能であり、現在の納付手段である電子納税のようなインターネットバンキングの利用やATMにおける納付番号(利用者識別番号)等の入力が不要であるから、納税者にとっては、より簡易な納付手段となり得るが、税務署における納付書整理等の事務処理や口座に送金(振込)された資金の国庫への振替に係る処理、更には振込手数料の問題が発生するなどの課題は残る。

(4)キャッシュレスの概要

イ キャッシュレス決済比率

経済産業省が令和5年4月6日に公表した令和4年のキャッシュレス決済比率は、36.0%である。
 キャッシュレス決済比率は、分子を「クレジットカード支払額+デビットカード支払額+電子マネー支払額+QRコード決済支払額」、分母を「民間最終消費支出」とする式に基づき、キャッシュレス決済の推進状況を把握するための指標として、経済産業省において暦年のデータを用いて毎年算出・公表されているものである。

ロ 法人企業に係るキャッシュレスの概要

我が国の法人数のほとんどは、資本金1億円以下の中小法人である。
 法人のキャッシュレス決済導入率は72%とのデータがあり、キャッシュレス決済を導入していない理由として、「顧客からの要望がない」、「手数料が高い」、「導入のメリットが不明」、「業態に合わない」、「高齢者が多く要望がない」、「銀行振込を利用」等がある。
 日本の商習慣として、一般的な取引形態は「@買い手が売り手に商品やサービスを注文する(注文書や発注書の発行)、A売り手が買い手の注文や発注に従い納品する(納品書や請求書の発行)、B買い手は、請求を月末で締めて、翌月に売り手の指定口座へ振り込む、C売り手は口座に振り込まれた代金を受け取る。」というものであり、決済方法は振込のほか、小切手や約束手形が使用される場合もある。
 振込に当たっては、口座振替が利用されることがあるが、企業間同士で現金がやり取りされるわけではなく、クレジットカード決済、電子マネー決済やコード決済はごく限定的となる。

ハ 社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の概要

マイナンバー制度は、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現する社会基盤とされ、個人番号については、まずは社会保障、税、災害対策分野に利用範囲を限定して導入され、一方、法人番号については、広く一般に公表されるものであり、官民問わず様々な用途で活用が可能とされている。

ニ 諸外国におけるキャッシュレスの状況

日本のキャッシュレス決済比率は、令和2年のデータで比較すると、諸外国中10位である。
 キャッシュレス先進国とされているスウェーデン、キャッシュレス決済比率が最も高い韓国及び近年キャッシュレス化が急速に進んでいる中国について、進展した背景や理由等を確認した。
 諸外国のキャッシュレス化の進展には、政府による政策的な取組、歴史的な背景、国の実情及び個人番号制度の普及が大きく関連している。

ホ キャッシュレスの普及に係る課題と方向性

我が国特有の実情として、他国と比べ狭小な国土、高い人口密度のほか、世界第1位の高齢者人口割合が挙げられる。
 キャッシュレスの普及に係る方向性として、少子高齢化や地域の人口減少等を背景に様々な課題が存在する我が国においては、社会のデジタル化、効率化を進め、更なる環境整備を図り、政府が掲げる「デジタルにより目指す社会の姿」と同様に、国民一人ひとりのニーズやライフスタイルに合ったサービスが提供される豊かな社会、継続的に力強く成長する社会の実現を目指すことが必要である。

(5)国税のキャッシュレス納付の推進

イ キャッシュレス決済比率との関係

国税のキャッシュレス納付割合は、全納付件数に占める振替納税を含めたキャッシュレス納付件数の割合であり、使用する単位は、源泉所得税に係る納税義務者を含めた、個人及び法人の包括的な納付件数である。
 よって、個人消費に重点を置いた経済産業省のキャッシュレス決済比率の推移を直接的に国税のキャッシュレス納付割合の推移に結び付けることはできない。

ロ 法人の電子納税に係る実態等

大多数の法人は税理士関与があり、大多数の税理士は電子申告をしているものの、その後は税理士関与がある法人の4分の3が自らで納付を行っている。
 その理由は、現金管理等のリスクにおいて税理士が代理納付を避けているためと推測できる。
 法人のほとんどである中小企業は、請求書・領収書のデジタル化、キャッシュレス化等が課題であり、そのため、中小企業庁は、中小企業共通EDI(Electronic Data Interchange)を整備するなど、電子受発注システム導入の普及に取り組んでいる。電子受発注システムの導入を促進することが、結果的には法人の電子納税の利用拡大につながると考えられる。

ハ 法人の電子納税に係る利用勧奨

定性的な分析のため、アンケートに選択式の項目とは別に自由記載欄を設け、「電子納税を選択した理由」の回答を求め、選択したきっかけや動機、電子納税を利用してよかったこと等を詳細に把握することは、マーケティング戦略において、しばしば利用されるレビュー(実際に購入した者の声は、これから購入する者の不安感を解消する。後押しになる。)と同様の効果が期待でき、より戦略的な利用勧奨が可能となる。

ニ 国税の電子納税環境整備

(イ) e-Taxの更なる利便性の向上

国税庁ホームページ画面レイアウトの分かりやすさ、操作方法の簡便化をはじめとする利用者の利便性の向上、利用者へのサポート体制の充実は不可欠である。
 キャッシュレス納付を推進する観点から、e-Taxを利用して行う納付についても専用バナーを国税庁ホームページトップ画面に設置した上で、端末操作に不慣れな者、納付のみを行う者であっても可能な限り、容易に目的達成できるような手戻りしない、見やすい画面、わかりやすい言葉を用いたシンプルな導線とするデザインに改善する必要がある。

(ロ) 地方税当局との連携・協調

デジタル3原則の一つであり、国税庁のデジタル・トランスフォーメーションにも盛り込まれているワンストップの実現のため、国税・地方税でのシステム統合を望む声があるが、法令改正及び大規模なシステム改修などの中長期的な課題の解決が必要となる。
 そこで、実際に統合する前段階として、両システムを「統一的に利用」できるよう、電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」の電子申請サービスで利用する法人・個人事業者向け共通認証システム「GビズID」の活用に係る検証を進めることが必要である。

(ハ) 電子納税の義務化

大法人に比べ、電子納税が行える環境が整っていないと思われる中小法人が大多数であることを考えると、直ちに電子納税の義務化を実施することは社会的影響が大きいものと考えられる。
 電子納税の推進は、納税者の利便性の向上のほか、金融機関や税務署における事務の効率化に資することから、一層取り組む必要があるが、義務化について検討する前に、e-Taxの更なる利便性の向上、地方税との連携、新たな納付手段の提供などの納税環境整備を進めるとともに、官民協力して積極的な利用勧奨を行うことが優先である。

(ニ) 証券による納付の廃止

小切手の電子化が進めば、おのずから証券による納付は無くなっていくものと思われる。

ホ ダイレクト納付の推進に係る考察

(イ) ダイレクト納付開始手続の一本化

国税と地方税では、ダイレクト納付利用届出書の書式、作成方法、提出先及び提出方法が相違している。「ダイレクト納付利用届出書の一本化」を図るためには、単に書式の統一化を行ったとしても、解決しない。書面によるダイレクト納付利用届出書からオンラインによる方法に国税及び地方税ともにシフトしていく必要がある。
 そのためには、法人を含めたネット口座振替受付サービスの早期実現(民間金融機関への業務委託の早期決定)及び地方税におけるダイレクト納付利用届出書に係る電子化の早期導入が望まれる。

(ロ) 令和5年度税制改正の内容

改正後は、電子申告(期限内申告に限る。)と併せてダイレクト納付の意思表示を行うことで、「各申告手続の法定納期限に自動的に口座引落し」を実施するというものであり、電子申告と同時にダイレクト納付の手続まで完了するため、利便性が大幅に向上するほか、税理士は、ダイレクト納付の手続を直接行わない(電子申告時において、納税者に対し、法定納期限(又は法定納期限翌日)に自動的に口座引落しが行われる旨を連絡する程度である)ため、現金管理等のリスクが低減するというメリットが期待される。

(ハ) インセンティブ付与

ダイレクト納付については、令和5年度税制改正により、利便性が大幅に向上したほか、税理士の現金管理等のリスクが低減したが、更にインセンティブとして、所得税の振替納税のように納期限の1か月後を振替日とすること(インセンティブ付与)を望む声がある。
 インセンティブ付与は、個人・法人に限らず技術的には可能であると思われるが、ダイレクト納付利用届出書の提出方法により税務署及び金融機関における事務負担が相違する。
 事務負担の増減のみを理由として、インセンティブ付与の可否を決めることは短絡的であり、e-Tax利用推進の観点から、個人の納税者については、ダイレクト納付利用届出書がe-Taxにより提出された場合、利用可能税目を限定し、インセンティブ付与を視野に入れるべきである。法人の納税者については、ダイレクト納付利用届出書がe-Taxによる提出ができないことがネックとなっている現状について、関係機関との協議を更に進め、e-Taxによる提出が可能となるよう措置し、法人の源泉徴収義務者に係る源泉所得税にインセンティブが付与されれば、ダイレクト納付の利用は、より一層拡大すると考えられる。
 なお、ダイレクト納付も納税者がダイレクト納付利用届出書を提出後においては、税務署及び金融機関の双方に一定期間の事務日数を要する。
 したがって、本来の納期限後にダイレクト納付の口座引落し手続(国庫金勘定への振替)を行う場合があり、いわば特例的な納付手段となるため、振替納税に準じた制度措置が必要となる。

3 まとめ

国税の納付手段は、社会の決済方法の変化(口座振替やクレジットカードの普及)、情報通信技術の発達(インターネットの普及)、技術革新(QRコードの普及)のほか、人々のライフスタイル(スマートフォンの利用拡大)の変化等に後押しされるように多様化してきた。
 キャッシュレス納付の推進に当たっては、納税者の利便性の向上のほか、金融機関や税務署における事務の効率化のため、一層取り組む必要がある。
 そのためには、e-Taxの更なる利便性の向上、地方税との連携、新たな納付手段の提供などの納税環境整備を進めるとともに、官民協力して積極的な利用勧奨を行うことが重要である。
 e-Taxの更なる利便性の向上については、申告と納税がシームレスでデジタル弱者にも配意した簡便かつ分かりやすい用語(過度に専門用語やカタカナ語を使用しない)のシステムで完結できることが大前提であり、法人に対しては、中小企業のデジタル化を国の取組により更に進めることが肝要である。
 「行政情報化推進基本計画」(平成6年12月25日閣議決定)において、初めて「電子政府」という単語が用いられて以降、我が国では、様々な取組が行われ、近年の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」においては、国の行政手続のオンライン化実施の原則(デジタル3原則)の中で、個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結(デジタルファースト)できるよう求められている中、新たな納付手段の提供及びキャッシュレス納付の推進は、ますます重要となるであろう。
 令和5年4月から「給与デジタル払い」が解禁となり普及した場合や現金貨幣が新たな形態の電子的なマネーとなる「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」の実証実験(令和5年度からパイロット実験に移行)が進んで現実的なものとなった場合は、新たな納付手段の模索が必要となろう。


目次

項目 ページ
はじめに 314
第1章 納付手段の概要等 319
第1節 多様化した納付手段 319
1 納付の手続 319
2 納付手段の多様化 320
3 キャッシュレス納付比率(割合)の目標設定 321
4 最近の動き(基本計画の策定等) 321
第2節 納付手段の概要 323
1 振替納税 324
2 インターネットバンキング等を利用した電子納税 327
3 ダイレクト納付 329
4 コンビニ納付(バーコード付納付書利用からQRコード利用へ) 334
5 クレジットカード納付 335
6 スマホアプリ納付 337
第2章 納付委託制度に係る法制面の検討 340
第1節 納付受託者に対する納付の委託の要件 341
1 納付委託制度に係る利用可能税額 342
2 納税額の実態から見た分析 342
3 納付書又は納付書記載事項が必要な理由 346
第2節 法令上の検討 347
1 通則法 347
2 財政法 351
3 キャッシュレス法(通則法との比較) 352
4 地方自治法・地方税法 355
第3節 改善に係る検討 356
1 納税者の不利益 357
2 納付受託者の指定要件 360
3 システム障害 360
4 個人情報 361
第4節 手数料に係る検討 363
1 クレジットカード納付のみ決済手数料が発生する理由(妥当性) 364
2 国税と他の機関との比較 365
3 小括 367
第3章 納付委託制度の今後の可能性 369
第1節 資金決済法との関係 370
1 資金決済法の概要 370
2 資金決済法による利用者の保護 371
3 納付委託制度と資金決済法 371
第2節 地方公共団体における納付手続 372
1 地方税の納付に係る制度 372
2 地方税共通納税システム 374
3 「地方税統一QRコード(eL-QR)」による納付 375
第3節 アメリカにおける納付手続 377
1 現金(IRSオフィス) 377
2 現金(コンビニ等) 377
3 小切手又は郵便為替 378
4 金融機関からの即日送金 378
5 電子資金の引き出し(Electronic Funds Withdrawal:EFW) 378
6 電子連邦納税システム(EFTPS) 379
7 電子納税 379
8 Direct Pay 380
9 IRS2Go 381
10 その他(オンラインでの納付計画) 381
11 小括 381
第4節 電子申告と電子納税の関連性(アメリカ・韓国・日本との比較) 382
第5節 新たな納付手段の提供に係る検討 385
1 電子マネー 385
2 コード決済 387
3 暗号資産 390
4 外国貨幣 394
5 金融機関からの即日送金 395
第4章 キャッシュレスの概要 396
第1節 一般消費者に係るキャッシュレスの概要 397
1 キャッシュレス決済比率 397
2 決済手段の利用状況 398
第2節 法人企業に係るキャッシュレスの概要 400
1 法人数等 400
2 キャッシュレス決済導入状況 400
3 日本の商習慣 402
第3節 社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の概要 403
第4節 諸外国におけるキャッシュレスの状況 403
1 スウェーデン 405
2 韓国 406
3 中国 407
第5節 キャッシュレスの普及に係る課題と方向性 409
1 日本のキャッシュレスが普及しにくい背景 409
2 我が国特有の実情 410
3 課題と方向性 410
第5章 国税のキャッシュレス納付の推進 413
第1節 キャッシュレス決済比率との関係 414
第2節 法人の電子納税に係る実態等 416
1 納付状況の実態 416
2 電子納付を選択する理由と選択しない理由 417
3 分析と考察 418
第3節 法人の電子納税に係る利用勧奨 421
1 戦略的な利用勧奨の取組 421
2 効果的な広報の取組 423
第4節 国税の電子納税環境整備 424
1 e-Taxの更なる利便性の向上 424
2 地方税当局との連携・協調 425
3 電子納税の義務化 428
4 証券による納付の廃止 431
第5節 ダイレクト納付の推進に係る考察 433
1 ダイレクト納付開始手続の一本化 434
2 令和5年度税制改正の内容 436
3 インセンティブ付与 437
第6節 小括 440
結びに代えて 442