露木 正人
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

近年、スマートフォンやSNSの普及により、個人等が保有する活用可能な資産等(スキルや時間等の無形のものを含む。)を、インターネット上のマッチングプラットホームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動、いわゆる「シェアリングエコノミー」によるビジネスモデルが構築されている。シェアリングエコノミーは、資産等の提供者(ホスト)及び購入者・利用者(ゲスト)並びに両者をマッチングするプラットフォーマー(シェア事業者)の3者で構成されている。また、シェアリングエコノミーには大きく分けて、@モノのシェア、A空間のシェア、B移動のシェア、Cスキルのシェア、Dお金のシェアの5つの分野が存在している。
 現在、国税庁としては、シェアリングエコノミー等の新分野に対して、適正申告のための環境作りに努めるとともに、情報収集を拡充することにより、課税上の問題があると見込まれる納税者を的確に把握し、適正な課税の確保に向けて、行政指導も含めた対応を行っているところである。
 このような状況の中で、現在、滞納者がシェアリングエコノミーに携わっていることが想定され、今後、シェアリングエコノミーに携わる滞納者が増加することも懸念されるところ、シェアリングエコノミーについては、プラットフォーマーが、マッチングした個人間における金銭の収納及び支払を仲介することが一般的であるため、提供者が滞納者である場合、その徴収方途としては、提供者(滞納者)がプラットフォーマーに対して有する債権を差し押さえることが考えられる。しかしながら、プラットフォーマーはあくまで個人間の取引の仲介役であり、提供者(滞納者)に金銭債務を負っていると単純に言えるかは疑問の余地がある。仮に、提供者(滞納者)がプラットフォーマーに対して有する債権を差し押さえることが可能であったとしても、プラットフォーマーの中には外国法人も多く存在していると推察され、国内に事業拠点となる事業所等がない場合は、滞納処分ができないと考えられる。
 また、プラットフォーマーが滞納者となる場合も想定され、プラットフォーマーが外国法人であった場合には、上記と同様の問題が生じる。
 このため、シェアリングエコノミーの概要等を把握するとともに、シェアリングエコノミーの分野ごとに、プラットフォーマーの利用規約から、契約の成立時期、債権債務の発生時期、代金の支払時期等を把握する。その上で、滞納処分上の問題点を抽出し、その対応策や徴収方途を検討・整理しておく必要がある。なお、資金の流れに着目した場合に、モノ・空間・移動・スキルのシェアでは「利用者→プラットフォーマー→提供者」の流れで資金が移動するのに対し、お金のシェアでは「提供者→プラットフォーマー→利用者」の流れで資金が移動することから、徴収方途の検討等に当たっては、お金のシェアを別建てにして検討することにする。

2 研究の概要

(1)シェアリングエコノミーの概要

イ シェアリングエコノミーの構造

現在提供されているシェアリングエコノミーのサービスは、一般的に、「プラットフォーマー(シェア事業者)」、「提供者(ホスト)」及び「利用者(ゲスト)」の3者で構成されている。@プラットフォーマーは、利用者と提供者のマッチング機能、レビューシステムや決済機能等を提供し、A提供者が利用者にサービスを提供し、B利用者はその対価を提供者に支払うというサービスモデルとなっている。利用者の支払う対価の一部は、手数料としてプラットフォーマーが徴収する例が多い。

ロ シェアリングエコノミーの分類

(イ) モノのシェア

モノのシェアリングサービスとしては、フリマアプリ等を利用した個人間のモノの売買や、月額制等で高級バッグや洋服が使い放題になるといったレンタルサービスなどが挙げられる。

(ロ) 空間のシェア

空間のシェアリングサービスとしては、民泊を含めたホームシェアや、会議室、イベントスペース、駐車場などの遊休施設のシェアなどが挙げられる。

(ハ) 移動のシェア

移動のシェアリングサービスとしては、自動車の所有者と利用者との間で共同使用契約を締結する方法を採ることによるカーシェアや、移動に係る費用はユーザー間で分担するといった相乗り型のライドシェアなどが挙げられる。このほか、移動のシェアリングサービスには、サイクルシェア、料理の運搬、買い物代行等もある。

(ニ) スキルのシェア

スキルのシェアリングサービスとは、自分の得意なことや趣味などを活かし、提供者と利用者がこれらのスキルをシェア(売買)するもので、対面型のものと非対面型のものに大別することができる。対面型のものとしては、家事、育児を始めとした「日常の用事」をシェアすることなどが挙げられる。非対面型のものとしては、文章の翻訳や校正、ロゴの作成・デザイン、データの入力などの「知識・スキル」をシェアすることなどが挙げられ、クラウドソーシングもその一形態である。

(ホ) お金のシェア

お金のシェアリングサービスとは、一般的にクラウドファンディングと呼ばれている。クラウドファンディングとは、「群衆(crowd)」と「資金調達(funding)」という言葉を組み合わせた造語で、特定の目的・プロジェクトのために、インターネットを通じて不特定多数の人々に資金提供を呼びかけ、趣旨に賛同した人々から資金を集める方法である。クラウドファンディングには、募集期間終了時に目標金額が集まらなかった場合、プロジェクトが不成立となり資金提供者に返金が行われるのが一般的であるが(All or Nothing型)、目標金額未達であっても集まった資金が資金需要者に支払われプロジェクトが実行される場合もある(All in型)。
 クラウドファンディングは、@寄付型、A売買型、B投資型、C貸付型の4類型に分類されるのが一般的である。@寄付型は、文字通り資金提供の対価がない類型であるが、寄付型であっても、ふるさと納税のように寄付に対する返礼があるものもある。A売買型は、資金提供の対価としてモノやサービスが提供される類型であり、デジタル・コンテンツや映画等の制作に活用される例が増えている。B投資型は、得られる収益の一部を金銭で分配することを約束する類型で、株主となり配当を受け取ることができる株式型と、クラウドファンディング事業者が設定した匿名組合の持分所有者となり、成果の配分を持分に応じて受け取るファンド型がある。C貸付型は、ソーシャル・レンディングと呼ばれており、クラウドファンディング事業者(プラットフォーマー)が匿名組合(ファンド)を設立して営業者となり、匿名組合への出資という形で一般個人から資金を募る一方、資金需要者に対して貸付けを行い、その貸付債権にファンドが投資するという方法が採られている。

ハ 為替取引と資金決済法

プラットフォーマーは、利用者からサービス等の対価の支払を受け、当該対価を提供者に支払うことが一般的であり、収納代行の形式をとったサービスを提供している。収納代行の形式をとったサービスについては、従前から、金融審議会において、為替取引として資金決済に関する法律(資金決済法)の規制対象に該当するか否かの議論がなされており、令和2年(2020年)に資金決済法が改正されている。
 改正資金決済法2条の2及び資金移動業者に関する内閣府令1条の 2第3号の規定により、フリマアプリやエクスローサービスを提供するプラットフォーマーは、基本的に、為替取引としての資金決済法の規制対象にはなっていないものの、同内閣府令1条の2第1号は、債務者の二重支払の危険性を回避するための規定であることから、改正資金決済法の趣旨から判断して、シェアリングサービスにおいても、利用者からプラットフォーマーへの対価の支払が完了した時点で、基本的に、利用者(債務者)の提供者に対する債務は消滅するものと考える。

(2)シェアリングエコノミーの3者間における債権債務関係

シェアリングエコノミーの3者間における債権債務関係について、民法の代理、委任等に関する一般的な事項を確認するとともに、プラットフォーマーの利用規約を概観した上で、シェアリングサービスにおける契約の成立時期、債権債務の発生時期、代金の支払時期等を把握した。

イ 契約の成立時期

契約の成立については、一般的に、「サービス等の提供者と利用者との間で直接に契約が成立し、プラットフォーマーは、専用のシステム(アプリ等)を通じて、提供者と利用者をマッチングする機会を提供するのみで、契約の当事者にはならない。」といった内容の規定が設けられている。更に、@「提供者から提供されるサービス等に対して、システム上で、利用者が利用の手続を完了した時点又は当該手続に対して提供者が承諾した時点で、提供者と利用者との間で契約は成立する。」、又はA「利用者から依頼されるサービス等に対して、システム上で、提供者が承諾した時点で、利用者と提供者との間で契約は成立する。」といった内容の規定が設けられている。
 契約の成立時期については、その内容が利用規約に明記されている場合には、基本的に、当該内容によることになる。一方、契約の成立時期が利用規約に明記されていない場合には、民法522条1項(契約の成立)の規定によることになる。すなわち、システム上で、提供者から提供されるサービス等に対して利用者が利用の手続を完了した時点、又は利用者から依頼されるサービス等に対して提供者が承諾した時点で、提供者と利用者との間で契約は成立することになる。

ロ 利用対価の支払時期について

サービス等の利用対価の支払時期については、各シェアリングサービスによって様々であり、個々の利用規約により判断するほかない。

ハ 利用者の提供者に対する債務の消滅時期

後述ニのとおり、提供者とプラットフォーマーとの間では、提供者を本人、プラットフォーマーを代理人として任意代理契約が成立していることや、債務者の二重支払の危険性の回避という改正資金決済法の趣旨から判断して、利用者の提供者に対する債務の消滅時期が利用規約に明記されているか否かにかかわらず、利用者からプラットフォーマーへの支払が完了した時点で、利用者の提供者に対する債務は消滅するものと考える。

ニ プラットフォーマーから提供者への支払について

利用規約で、提供者からプラットフォーマーへの「代理受領権限付与」が明記されているものについては、提供者を本人(委任者)、プラットフォーマーを代理人(受任者)として任意代理契約が成立している。このため、プラットフォーマーが利用者から利用対価を受領した時点で、当該対価は提供者に帰属することになるとともに、受任者であるプラットフォーマーは提供者に対して当該対価の引渡義務を負うことになり(民法646条1項)、反射的に、提供者はプラットフォーマーに対して当該対価の引渡しを受ける権利(引渡請求権)を取得することになる。
 一方、利用規約で「代理受領権限付与」が明記されていないものについて検討すると、利用規約において「代理受領権限付与」が明記されていないものの、一般的に、「プラットフォーマーが利用者から支払を受け、提供者がプラットフォーマーに支払う手数料を差し引いた上で、提供者に支払う。」といった内容の規定が設けられている。この場合においても、当該利用規約の内容から、「代理受領権限付与」が明記されているものと同様に、提供者とプラットフォーマーとの間では任意代理契約が成立しているものと考えられる。したがって、この場合においても、プラットフォーマーが利用者から利用対価を受領した時点で、当該対価は提供者に帰属することになるとともに、受任者であるプラットフォーマーは提供者に対して当該対価の引渡義務を負うことになり、反射的に、提供者はプラットフォーマーに対して当該対価の引渡請求権を取得することになる。
 以上のことから、提供者がプラットフォーマーに対して有するサービス等の利用対価の引渡請求権については、債権として差押えは可能であると考える。

(3)提供者が滞納者の場合における徴収方途の検討

イ プラットフォーマーが内国法人の場合

(イ) シェアリングエコノミーの分類ごとの差押え等の検討

A モノのシェア

モノのシェアの場合には、一般的に単発的な取引が多く、また、プラットフォーマーが利用者から支払を受けてから提供者へ支払うまでの期間が極めて短いため、実務的に、サービス等の利用対価の引渡請求権の差押えは困難であると考える。なお、モノのシェアについては、個人消費者が利用しているのが一般的であり、その取引価格は比較的に低額であると想定されることから、事業者は別として、フリマアプリ等を利用した収入に基づく課税による滞納国税の発生は少ないものと考える。

B 空間のシェア

空間のシェアの場合には、プラットフォーマーから提供者への支払時期について締め日が設定されている場合があり、その支払期限まで一定期間あることから、実務的に、サービス等の利用対価の引渡請求権の差押えは可能であると考える。なお、空間のシェアについては、シェア対象となる空間(不動産)が存在することから、当該不動産は差押えの対象となり得ると考える。

C 移動のシェア

移動のシェアの場合には、プラットフォーマーから提供者への支払期限まで一定期間あることから、実務的に、サービス等の利用対価の引渡請求権の差押えは可能であると考える。なお、カーシェアなどについては、シェア対象となる自動車が存在することから、当該自動車は差押えの対象となり得ると考える。

D スキルのシェア

スキルのシェアの場合には、プラットフォーマーから提供者への支払について締め日が設定されている場合が一般的であり、その支払期限まで一定期間あることから、実務的に、特にクラウドソーシングの場合には、サービス等の利用対価の引渡請求権の差押えは可能であると考える。

(ロ) 差押え後にプラットフォーマーが相殺を主張してきた場合

提供者がプラットフォーマーに対して有するサービス等の利用対価の引渡請求権の差押え後にプラットフォーマーが相殺を主張してきた場合には、民法511条の規定により、プラットフォーマーが差押え前に取得した債権は当然のことながら、利用規約に規定されている債権であれば、差押え後に取得した債権であっても、同一の契約に基づくものであり自働債権と受働債権の相互関連性は高く、プラットフォーマーに相殺への合理的期待があり、差押え前の原因に基づいて生じた債権であるといえることから、プラットフォーマーは差押債権者に相殺を主張することができるものと考える。なお、利用規約に規定されていない債権を自働債権とする相殺については個別に判断することになる。

(ハ) クラウドソーシングを利用したフリーランスへの対応

クラウドソーシングを利用したフリーランスが増加しているが、これらの者が滞納した場合には、プラットフォーマーに対して有するサービス等の利用対価(業務報酬)の引渡請求権の差押えを行うことになる。しかしながら、滞納者がプラットフォーマーを随時変更している場合や財産調査・差押えのタイミングなどによっては、当該引渡請求権の差押えが困難となってくることが想定される。また、業務報酬収入が滞納者の預金等口座に振り込まれた後に、預金等残高としてある場合には、当該預金等の差押えが可能であるが、預金等口座に振り込まれた直後に全額引き出されたなどの場合には当該預金等の差押えも困難となる。
 業務報酬の引渡請求権や預金等の差押えが困難な状況で、滞納者であるフリーランスが目ぼしい財産を所有しておらず、クラウドソーシングに係る業務報酬収入のみによって生計を立てている場合には、当該フリーランスに対する滞納処分が困難となってくることが想定される。
 このような状況を回避するとともに、滞納の未然防止による滞納残高の圧縮の観点から、一方策として、例えば、クラウドソーシングについては、プラットフォーマーに源泉徴収義務を負わせる制度の導入を検討してはどうか。プラットフォーマーに源泉徴収義務を負わせる制度を導入することにより、更なる適正課税の確保にもつながるものと考える。

(ニ) 利用対価の支払手段による滞納処分への影響

利用者からプラットフォーマーへの支払に当たって、利用者が金融機関口座への振込みのほかにクレジットカードなどを利用することが想定されるが、利用対価の支払手段によって、利用者の提供者に対する債務の消滅時期に違いが生じるだけであって、利用対価の引渡請求権の差押えが不可となるような影響はないものと考える。

(ホ) 利用規約の変更等による滞納処分への影響

シェアリングサービスの取引形態は、利用者がプラットフォーマーを通じて、サービス等の利用対価を提供者に支払うことが基本であることから、プラットフォーマーが利用規約を設定・変更する場合であっても、少なくともこの資金の流れは維持されるものと考える。その場合、シェアリングサービスでは、プラットフォーマーが利用者からサービス等の利用対価を受領した時点で、必ず、提供者はプラットフォーマーに対して当該利用対価の引渡請求権を取得することになり、理論的に、当該引渡請求権の差押えに影響はないものと考える。

ロ プラットフォーマーが外国法人の場合

提供者が滞納者の場合で、プラットフォーマーが日本国内に営業所又は事業所を有しない外国法人である場合には、プラットフォーマーに対する債権の差押えはできない状況にあり、徴収共助の要請を検討することになる。
 しかしながら、プラットフォーマーは支払期限までに提供者に対して銀行振込み等により支払を行うため、振り込まれた預金等口座に残額があれば、提供者(滞納者)の財産として預金等の差押えを行うことが可能であり、徴収共助に関連する被要請国の拒否事由に該当することになる。また、仮に、提供者と利用者との取引が単発的な取引であった場合には、プラットフォーマーから提供者に支払がなされた時点で、提供者には国外財産がないことになる。
 したがって、上記のような場合には、実務的に、徴収共助の要請は困難であり、振り込まれた預金等、滞納者の財産について差押えを行っていくほかないものと考える。

ハ 利用者に対する原債権の差押え

前述(2)ニのとおり、シェアリングサービスでは、プラットフォーマーは、提供者に代理して利用者からサービス等の利用対価を受領することになるが、代理受領の目的となっている債権であっても、その契約は差押債権者に対抗できないから、当該債権に対して滞納処分をすることができるとされている。このため、提供者と利用者との間で契約が成立した後、利用者がプラットフォーマーへの支払を完了するまでの間は、提供者が利用者に対して有するサービス等の利用対価の支払請求権(原債権)は存在しており、当該支払請求権(原債権)の差押えは可能であると考える。

(4)プラットフォーマーが滞納者の場合における徴収方途の検討

内国法人であるプラットフォーマーが滞納した場合には、基本的に、滞納処分における特段の制限はないので、通常の滞納整理を行うことになる。
 一方、外国法人であるプラットフォーマーが滞納した場合であっても、当該プラットフォーマーが、日本国内に動産や不動産を有する場合、日本国内の金融機関に預金等を有する場合、日本国内の営業所等に係る売掛金を有する場合など、日本国内に財産を有する場合には、これらの財産について差押えは可能である。しかしながら、当該プラットフォーマーが、日本国内に財産を有しない場合には、徴収共助の要請を検討することになる。

(5)お金のシェア(クラウドファンディング)の場合における徴収方途の検討

クラウドファンディングの場合においては、支援者(提供者)が滞納者である場合に、支援者が実行者(利用者)等から受けるリターン(支援に対するお礼やお返し)が差押えの対象財産となり得る。

イ 寄付型・売買型

寄付型・売買型では、リターンの内容にもよるが、リターンとなる返礼品や商品等が、金銭的価値を有して譲渡ができるものである場合など、差押えの対象となる財産の要件を満たしていれば、理論的には、支援者が実行者に対して有する返礼品や商品等の引渡請求権の差押えは可能であると考える。

ロ 投資型(株式型)

投資型(株式型)では、支援者はリターンとして、実行者から非上場会社の株式又は新株予約権の提供を受けることになる。
 したがって、この株式又は新株予約権が差押えの対象財産となる。

ハ 投資型(ファンド型)

投資型(ファンド型)では、一般的に、支援者はプラットフォーマーを介して実行者と匿名組合契約を締結して出資し、プラットフォーマーは委託を受けて支援者と実行者との間の金銭の支払事務を行っている。また、支援者は実行者からプラットフォーマーを介して、リターンとして匿名組合契約に基づいて利益配当を受け、契約終了時には出資金の返還を受けることになる。
 したがって、投資型(ファンド型)では、金銭の支払事務の委託を受けているプラットフォーマーを第三債務者として、匿名組合契約に基づく利益配当金及び契約終了時における出資金返還金の引渡請求権を差し押さえる。なお、匿名組合契約の当事者は支援者と実行者であることから、実行者を第三債務者として、匿名組合契約に基づく利益配当請求権及び契約終了時における出資金返還請求権を差し押さえることも可能であると考える。

ニ 貸付型

貸付型では、一般的に、支援者はプラットフォーマーとの間で匿名組合契約を締結して出資する一方、実行者はプラットフォーマーとの間で金銭消費貸借契約を締結して融資を受けている。また、支援者はプラットフォーマーから、リターンとして匿名組合契約に基づいて利益配当を受け、契約終了時には出資金の返還を受けることになる。
 したがって、貸付型では、プラットフォーマーを第三債務者として、匿名組合契約に基づく利益配当請求権及び契約終了時における出資金返還請求権を差し押さえる。

3 最後に

シェアリングエコノミーにおける滞納処分上の問題点を抽出し、その対応策や徴収方途を検討・整理したことを踏まえ、以下のとおり総括する。

(1)モノ・空間・移動・スキルのシェア

モノ・空間・移動・スキルのシェアにおいては、提供者が滞納者である場合に、理論的に、提供者がプラットフォーマーに対して有するサービス等の利用対価の引渡請求権の差押えは可能である。しかしながら、実務的に、プラットフォーマーの支払期限が短い場合や単発的な取引の場合、あるいは、財産調査・差押えのタイミングによっては、当該引渡請求権の差押えは困難となってくることが想定される。
 したがって、滞納整理の実務において、滞納者がシェアリングエコノミーの提供者として取引に携わっていることを把握した場合には、速やかにプラットフォーマーへの調査を行い、取引内容を把握した上で、滞納者がプラットフォーマーに対して有するサービス等の利用対価の引渡請求権の差押えを検討する必要があると考える。

(2)お金のシェア(クラウドファンディング)

クラウドファンディングにおいては、支援者が滞納者である場合に、支援者が実行者等から受けるリターンが差押えの対象財産となり得る。また、支援者は資金を提供する立場にあり、投資型(株式型)では一定金額の金融資産を保有していることが支援者の条件となっているなど、支援者は一定金額の金融資産を保有していることが想定される。
 したがって、滞納整理の実務においては、滞納者がクラウドファンディングの支援者として取引に携わっていることを把握した場合には、速やかに当該金融資産の財産調査・差押えと併行して、プラットフォーマーへの調査を行い、取引内容を把握した上で、支援者が受けるリターンの差押えを検討する必要があると考える。


目次

項目 ページ
はじめに 242
1 研究の目的(問題の所在) 242
2 本稿の構成 243
第1章 シェアリングエコノミーの概要 245
第1節 シェアリングエコノミーとは 245
1 シェアリングエコノミーの定義 245
2 シェアリングエコノミーの進展の背景 245
3 シェアリングエコノミーの構造 247
4 シェアリングエコノミーの市場規模 247
5 シェアリングエコノミーの安全性・信頼性向上への取組 248
第2節 シェアリングエコノミーの分類 250
1 モノのシェア 250
2 空間のシェア 251
3 移動のシェア 252
4 スキルのシェア 253
5 お金のシェア(クラウドファンディング) 256
第3節 為替取引と資金決済法 258
1 為替取引 258
2 資金決済法 259
3 収納代行等サービス 260
4 資金決済法の改正 262
5 小括 265
第2章 シェアリングエコノミーの3者間における債権債務関係 266
第1節 代理 266
1 代理とは 266
2 代理の種類 267
3 代理権 267
4 代理行為 267
5 代理の効果 268
第2節 委任 268
1 委任とは 268
2 委任と代理 269
3 委任の成立 269
4 受任者の義務 269
5 事務処理義務の一身専属性 270
6 委任の終了 271
第3節 相殺 272
1 相殺の意義 272
2 相殺の機能 272
3 相殺契約・相殺予約 273
4 相殺の要件 273
5 相殺の方法及び遡及効 274
6 相殺の禁止 275
7 差押えと相殺に関する学説 275
8 差押えと相殺に関する判例 276
9 改正後民法511条 278
10 「差押え前の原因」に基づいて生じた債権の意味 279
11 相殺権の濫用 280
第4節 利用規約の確認 280
1 契約の成立時期 281
2 利用対価の支払時期について 281
3 利用者の提供者に対する債務の消滅時期 282
4 プラットフォーマーから提供者への支払について 282
5 相殺について 283
第3章 差押え及び徴収共助について 326
第1節 差押え 326
第2節 徴収共助 327
1 条約の成立経緯等 327
2 現状 328
3 徴収共助の限界 329
4 国税の徴収共助の要件 330
第4章 提供者が滞納者の場合における徴収方途の検討 331
第1節 プラットフォーマーが内国法人の場合 331
1 シェアリングエコノミーの分類ごとの差押え等の検討 331
2 差押え後にプラットフォーマーが相殺を主張してきた場合 332
3 クラウドソーシングを利用したフリーランスへの対応 333
4 利用対価の支払手段による滞納処分への影響 334
5 利用規約の変更等による滞納処分への影響 336
第2節 プラットフォーマーが外国法人の場合 337
第3節 利用者に対する原債権の差押え 338
第5章 プラットフォーマーが滞納者の場合における徴収方途の検討 339
第1節 プラットフォーマーが内国法人の場合 339
第2節 プラットフォーマーが外国法人の場合 339
1 外国法人の納税義務 339
2 外国法人に対する滞納処分 341
第6章 お金のシェア(クラウドファンディング)の場合における徴収方途の検討 342
第1節 利用規約の確認 342
1 契約の成立時期 342
2 支援金の支払時期について 343
3 支援者の実行者に対する債務の消滅時期 343
4 プラットフォーマーから実行者への支払について 344
5 相殺について 344
6 支援者へのリターンについて 345
第2節 支援者が滞納者の場合における差押え等の検討 363
1 寄付型 363
2 売買型 363
3 投資型(株式型) 364
4 投資型(ファンド型) 366
5 貸付型 367
第3節 実行者が滞納者の場合における差押え等の検討 368
第7章 徴収方途等の総括 369
1 モノ・空間・移動・スキルのシェア 369
2 お金のシェア(クラウドファンディング) 369
結びに代えて 371