瀧田 信宏
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

消費税の国内取引に係る納税義務者は課税資産の譲渡等を行った事業者であり、委託販売による課税資産の譲渡にあっては、通常、「委託者」が課税資産の譲渡を行った者とされ、「委託者」において「受託者」が収受する委託販売による資産の譲渡対価を課税標準とし、「受託者」は、「委託者」から収受する委託販売手数料(役務の提供の対価)を課税標準として、それぞれ消費税の納税義務を負うと解されている。しかし、委託販売による課税資産の譲渡を行った者が誰であるかが争われた大阪地裁平成25年6月18日判決(税資263号順号12235、以下、本稿において「平成25年大阪地裁判決」という。)は、「受託者」である原告(商法551条の「問屋(といや)」)は課税資産の譲渡を行った者に該当する旨判示した。
 当該判決は、委託者→受託者(原告)→買受人という一連の取引が委託販売であることを認めつつ、「受託者」は課税資産の譲渡を行った者に該当するとしたものであって、これまでの委託販売による課税資産の譲渡に係る納税義務者の判定とは異なる解釈によるものであるが、その判断基準が必ずしも明らかにされているとは言い難く、委託販売による課税資産の譲渡に係る納税義務者の判定について納税者の予測可能性を害する状況にあることが危惧される。
 また、軽減税率制度の実施後においては、委託販売に係る資産が軽減対象資産である場合、「受託者」における消費税の課税標準が「資産の譲渡」の対価であるか「役務の提供」の対価であるかによって適用税率が異なることから、当該判決を根拠に、「委託者」が課税資産の譲渡を行った者となるべき委託販売であるにも関わらず、「受託者」が、自らが課税資産の譲渡を行った者に該当するとして軽減税率を適用した消費税申告を行うことも考えられる。
 更に、当該判決のように「受託者」(問屋)が課税資産の譲渡を行った者に該当するとしても、依然、「委託者」と「受託者」の私法上の関係は委任関係にすぎず、「受託者」における当該課税資産の譲渡に係る課税仕入れをどのように解すべきか、また、適格請求書等保存方式への移行後の委託販売における仕入税額控除の適用要件をどのように解すべきかについても疑問が生じる。
 本研究は、このような問題意識の下、軽減税率制度下における委託販売に関する消費税法上の諸問題について考察し、消費税法の整備の必要性についての論点整理と提言を行うことを目的とするものである。

2 研究の概要

(1)消費税における実質行為者課税

消費税法13条は、「法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、この法律の規定を適用する」として実質行為者課税の原則を規定しており、この規定は、所得税法12条、法人税法11条に規定する実質所得者課税の原則と同じ趣旨の下に、消費税についてもいわゆる実質課税の原則(実質主義)が要請されることを前提として、納税義務者の判定について規定したものであり、実質行為者課税の原則の適用例として考えられるのは、事業者免税点制度や簡易課税制度を利用した租税回避の防止である。
 なお、消費税法基本通達4−1−1は、「事業に係る事業者がだれであるかは、資産の譲渡等に係る対価を実質的に享受している者がだれであるかにより判定する」旨を定め、これは、資産の譲渡等の名義人と対価を享受する者とが必ずしも一致しないことから、法律上の名義にとらわれることなく、経済的実質により対価を享受する者をもって資産の譲渡等を行ったものとみなすこととしたことを念のため明らかにしたものとされている。
 実質所得者課税の原則は、「課税物件の実質帰属課税主義」の所得税法、法人税法における一つの表れであるといわれており、その解釈については、法律的帰属説と経済的帰属説の二つの見解があるところ、学説では法律的帰属説が通説的地位を占め、裁判例においては経済的帰属説を支持する立場やこれを採用したと解されるものもあるが、法律的帰属説を前提とするものが多い。

(2)委託販売による課税資産の譲渡に係る納税義務者等

イ 委託販売

一般的な用語としての「委託販売」とは「品物を商人に委託し、手数料を支払って売りさばかせること」、経済社会おいては「自己の商品などの売買を他人に委託し、委託を受けた他人が、相手方を求めて売買取引を行う」という取引形態であり、「取引所の会員である証券会社や商品取引員が顧客の委託を受けて行う証券や商品の売買」や「卸売市場を介して行われる青果物、水産物等の売買」は典型的な委託販売の例であると考えられる。
 なお、委託販売に関する私法上、税法上及び会計上の取扱いは次のとおりである。

(イ) 私法関係

民法には「委託」に関する直接の規定はないが、法律行為の委託を「委任」(民法643)、法律行為以外の事務の委託を「準委任」(民法656)と規定している。
 また、商法には「委託販売」に関する直接の規定はないが、商品やサービスの流通に関する私法上の諸営業として、「仲立人」(商法543)、「問屋及び準問屋」(商法551、同558)、「代理商及び特約店」(商法27〜31)がある。
 なお、民法上の代理と類似の概念として「授権」がある。経済上の代理である間接代理(非顕名代理)は問屋、仲買人がその例で、自己の名で契約を結び法律効果も自己に帰属するが経済的効果は委託者に帰属するという制度であり、法律効果が本人に帰属しない点で代理とは異なる。授権は、間接代理のように行為者が自らの名で契約を結ぶが、効果は本人に帰属するというもので、民・商法に規定はないが、学説によって認められている。
 授権とは、自己の名で法律行為をしながら、その法律効果を他人に帰属させる制度であり、委託販売の法律構成として実際上も重要な意義があると指摘されている。現行民法には、授権についての規定は存在しないが、授権(処分授権)については、明文の規定を置くべきであるという意見がある。

(ロ) 税法関係

消費税法上、「委託販売」という文言が使用された規定はないが、消費税法基本通達4−1−3、同9−1−3、同10−1−12において、「委託販売等の場合の納税義務者の判定」、「委託販売による資産の譲渡の時期」、「委託販売等に係る手数料」を定めており、所得税法及び法人税法にも「委託販売」という文言を使用した規定は見当たらないが、それぞれ基本通達において委託販売に関し「総収入金額の収入にすべき時期」、「収益の帰属の時期」について定めている。

(ハ) 企業会計原則

会計上は、実現主義の原則に基づいて、委託販売に係る売上収益の実現の日を定めている(企業会計原則第二損益計算書原則三のB注6)。

ロ 問屋が介在する委託販売に関する裁判例の考察(平成25年大阪地裁判決)

(イ) 事件の概要

中央卸売市場において出荷者(委託者)から販売の委託等を受けて牛枝肉等の卸売業を営む原告(受託者)が、買受人に対する牛枝肉等の販売に係る債権が貸倒れとなったことに伴い、貸倒れに係る消費税額の控除をして消費税等の確定申告をしたのに対し、課税庁が、原告は牛枝肉等の販売に係る課税資産の譲渡を行った者ではないから貸倒れに係る消費税額の控除は認められないとして更正処分を行ったため、その処分の取消しを求めた事案である。

(ロ) 判示

卸売市場における牛枝肉取引において、原告は商法上の問屋と認められ、原告と買受人との間の売買契約に係る経済的利益は原告ではなく出荷者に帰属するものであって、牛枝肉の譲渡に係る対価を享受するのは原告ではなく出荷者であるとしても、売買代金回収リスク、瑕疵担保責任等に照らせば、牛枝肉取引において、原告が、その法的実質として、単なる名義人として課税資産の譲渡等を行ったにすぎないということはできない(法律的帰属説)から、原告は、課税資産の譲渡を行った者として、貸倒れに係る消費税額の控除の適用を受けるものと解するのが相当である。

(ハ) 判決に対する評釈等

裁判所の認定は事実認定が不足しているとの一部の意見はあるものの、法解釈的には本判決を妥当とする複数の評釈や意見がある。

(ニ) まとめ

法解釈的にみれば本判決は支持されていると考えられるが、委託販売による課税資産の譲渡において受託者が納税義務者となる場合の判断基準が明らかにされているとは言い難く、消費税法13条について法律的帰属説による解釈が妥当するとしても、資産の譲渡等に係る対価を享受している者が誰なのかという点からは疑問が残る。受託者において現に貸倒れが生じているという事実を前提とした本判決を委託販売全般あるいは他の問屋が介在する取引に当てはめるのは慎重であるべきと考える。
 なお、本判決においては、原告である受託者における仕入税額控除の適用関係について触れられていないが、この場合の原告の仕入税額控除をどのように考えるべきかについても疑問が残るところであり、消費税について制度上整理すべき問題を表面化させた裁判例と考えられる。

(3)EU付加価値税における委託販売の取扱い

イ EU付加価値税

現行のEU付加価値税のベースとなるEUの統一的な指令(EU指令)においては、「資産の譲渡」を「有形資産の所有者としての処分権を移転すること」と定義し、これに加え、@公共機関の名において、又は法律上の義務により行われる所有権の移転、A最後の支払いと同時に所有権移転が起こる所有権移転リース契約又は割賦販売契約に基づく資産の引渡し、B販売コミッション又は購入コミッション契約に基づく資産の移転は資産の譲渡とみなされる旨規定している。また、2021年から、マーケットプレイス等を使用して資産の譲渡を斡旋(facilitate)する場合に、マーケットプレイス等が資産を購入し、販売したことを擬制する制度が導入されている。

ロ EU主要国における委託販売の取扱い

(イ) 英国

物品あるいはサービスが問屋取引を通して提供される場合、問屋に対する譲渡及び問屋による譲渡として取り扱われる(英国付加価値税法32条4項)。また、自己の名で行動する代理人への供給及び代理人による供給の両方が代理人による譲受若しくは譲渡として取り扱われる(英国付加価値税法47条2A項)。

(ロ) ドイツ

自己の名を用いて委託者の計算に基づき行う、いわゆる問屋取引については、委託者と受託者の間に契約上売買取引は存在しないが、委託者と受託者の間に供給が存在するものとされている(ドイツ売上税法3条(3))。

(ハ) フランス

事業者が第三者の取引のため、単に自己の名義を使用して資産の譲渡の仲介を行い、又は役務の提供の仲介を行った場合、当該名義人たる個人が資産を譲り受け又は役務の提供ないし供与を受けたものとみなされる(フランス租税一般法典256条X項)。

(4)問屋が介在する取引に係る消費税法上の諸問題

イ 問屋営業

問屋営業における問屋(受託者)と委託者との契約は、物品の売買の名を問屋の名、委託者の計算においてなす旨の一種の委任契約(民法643)であり、問屋は善管注意義務(民法644)、指値順守義務を負う。また、問屋は、委託者のために行った販売又は買入れにつき、相手方が問屋に対し債務を履行しないときは、委託者に対し自らその履行をする責任を負う(商法553)。
 また、問屋が委託者のために相手方との間でなす販売又は買入れについては、問屋自身が契約当事者として相手方に対し権利義務を有する(商法552)。

ロ 国内取引における問題点

平成25年大阪地裁判決を踏まえると、次のような問題点が考えられる。

(イ) 納税者の予測可能性(消費税法13条の適用関係)

一般に卸売業者(受託者)から買受人への生鮮食料品等の卸売に係る資産の譲渡の納税義務者は出荷者(委託者)となり、卸売業者は出荷者に対して行った役務の提供につき納税義務を負うが、納税義務者が誰であるかの判断基準が明確にされないまま卸売業者が買受人への資産の譲渡につき納税義務を負う場合があるとすれば、卸売市場における資産の譲渡(卸売業者→仲卸業者等)に係る納税義務者の判定につき、納税者の予測可能性を害する状況にあることが危惧される。

(ロ) 軽減税率制度下における適用税率

卸売市場における委託販売による課税資産の譲渡に係る納税義務者が出荷者であり、卸売業者の課税標準が手数料収入(役務の提供の対価)となる場合は卸売業者に軽減税率の適用はないが、同納税義務者が卸売業者となり、卸売業者の課税標準が買受人から収受する金額(資産の譲渡の対価)となる場合(販売資産が軽減対象資産に該当する場合)は軽減税率の適用があることから、私法上の法的立場(問屋)が同一で同様の行為を行いながら、適用税率が異なる場合が生じると考えられる(公平性の問題)。

(ハ) 貸倒れに係る消費税額の控除

問屋には、別段の意思表示又は慣習がある場合を除き履行担保責任(商法553)があるから、原則的には問屋が売買代金回収リスク(貸倒れリスク)を負っているが、平成25年大阪地裁判決による限り、法律上の履行担保責任のみをもって卸売業者が課税資産の譲渡を行った者であるとは判定されないと考えられる。そうすると、卸売業者に法律上の履行担保責任があったとしても課税資産の譲渡を行った者に該当しない場合も考えられるが、この場合、買受人に債務不履行があったとしても、卸売業者に貸倒れに係る消費税額の控除の適用はないものと考えられる(出荷者には貸倒れが生じないから貸倒れに係る消費税額の控除の適用を受けるべき者が存在しない場合があることが考えられる。)。

(ニ) 卸売業者の仕入税額控除

売買代金回収リスク等から卸売業者が課税資産の譲渡を行った者に該当すると判断される場合であっても、出荷者と卸売業者の間には資産の譲渡がないことから、卸売業者には当該課税資産の譲渡に係る課税仕入れがなく仕入税額控除の適用がないものと考えられる。

ハ 輸出入取引における問題点

(イ) 国外事業者による問屋を介した国内委託販売

輸入代行業者(商法上の問屋)が、国外事業者から、国内における商品販売を委託され、輸入代行業者が外国貨物の引取りに係る消費税を納税する場合について、次のような問題が考えられる。
 輸入代行業者は引き取りに係る消費税を納付するが、その輸入品の国内おける資産の譲渡の納税義務者は一般的には委託者である国外事業者となるため、輸入代行業者は委託手数料を課税売上げ(輸出免税の適用については別途検討)とし、引き取りに係る消費税を仕入税額控除(還付)の対象とすることになり、輸入代行業者を経由して貨物を購入した小売業者等である国内事業者においては、国内において行う国外事業者からの課税仕入れが仕入税額控除の対象となるものと考えられる。国外事業者(免税事業者を除く。)が国内における資産の譲渡につき消費税の申告・納付を適正に行うかはその国外事業者のコンプライアンスに委ねられ、仮に申告・納付が行われない場合に我が国の税務当局が国外事業者に消費税の申告・納付を行わせることには多くの困難を伴う。

(ロ) 国外事業者による問屋を介した国内委託買入

輸出代行業者(商法上の問屋)が、国外事業者から、国内事業者からの商品買入れを委託され、輸出代行業者が国内事業者から引き渡しを受けた商品の輸出行為を行う場合について、次のような問題が考えられる。
 問屋の法的性質からすれば、買入れに係る売買契約の当事者は輸出代行業者と国内事業者、買入れに係る商品の所有権は国内事業者から輸出代行業者、同時に輸出代行業者から国外事業者に移転すると考えられ、輸出代行業者は国外事業者から収受する委託手数料が課税売上げ(輸出免税の適用については別途検討)となると考えられる。そして輸出代行業者から国外事業者への買入商品の所有権の移転は売買によるものとは法的性質が異なり、輸出代行業者と国外事業者の間の法的関係が委任関係であることからすれば、輸出代行業者から国外事業者に資産の譲渡があったとみるのは困難であると考えられる。問屋を介した委託買入には、本来は輸出免税制度により国境税調整が行われるべき取引が連続せず、輸出免税制度が適正に機能しないことが懸念される(輸出免税の適用を受けるべき真の輸出者は誰かという問題)。

ニ 適格請求書等保存方式の適用関係

(イ) 媒介又は取次ぎに係る業務を行う者を介して行われる課税仕入れ

いわゆる委託販売において買受人が仕入税額控除の適用を受けるために保存が必要となる請求書等は、委託者が発行する「適格請求書等」であるが、委託者と受託者がいずれも適格請求書発行事業者(課税事業者)であって一定の要件を満たす場合に受託者が自己の氏名等を記載した適格請求書等を委託者に代わって発行することが認められているところ(媒介者交付特例)、この場合の請求書等はあくまでも適格請求書等である。そして、卸売市場におけるせり売など、媒介又は取次ぎに係る業務を行う者を介して行われる一定の課税仕入れについて仕入税額控除の適用を受けるために保存が必要となる請求書等は、媒介又は取次ぎに係る業務を行う者が発行する「請求書、納品書その他の書類」であり、この請求書等は「適格請求書等」ではない(当該書類には作成者の登録番号が記載されていなければならないから、作成者は適格請求書発行事業者でなければならない。)。
 卸売市場におけるせり売など、媒介又は取次ぎに係る業務を行う者を介して行われる一定の課税仕入れについては、委託者が適格請求書発行事業者(課税事業者)である必要はなく、委託者が免税事業者であっても買受人において仕入税額控除の適用を受けることが可能である。

(ロ) 平成25年大阪地裁判決を踏まえた適用関係

卸売市場における取引において出荷者(委託者)が課税資産の譲渡を行った者である場合、買受人は卸売業者(受託者)が作成した書類の保存を要件として仕入税額控除を行うことができることから、出荷者に対して適格請求書の交付を要求する必要はない。そして、卸売業者は出荷者から収受する手数料(役務の提供の対価)を課税資産の譲渡等の対価として認識すれば足りるということになる。
 一方、問屋である卸売業者が課税資産の譲渡を行った者である場合、その課税資産の譲渡を行った卸売業者から交付を受けた適格請求書(媒介者交付特例ではなく課税資産の譲渡を行った者としての適格請求書)の保存が買受人における仕入税額控除の適用要件となるべきであるが、買受人が行う課税仕入れに係る課税資産の譲渡を行った者が出荷者であるか卸売業者であるかを問わず、買受人は卸売業者が作成した書類を保存することで仕入税額控除の適用要件を満たすこととなる。この場合、いずれも卸売業者の登録番号が記載されることになるが、厳密にいえば根拠となる規定(項)が異なるのであり、その請求書等が適格請求書なのかその他の書類なのか判別できない。

(ハ) 卸売市場等への出荷者に対する適用関係

卸売市場においてせり売又は入札の方法により行われる課税資産の譲渡等その他媒介又は取次ぎに係る業務を行う者を介して行われる課税資産の譲渡等のうち一定の課税資産の譲渡等については、事業の性質上、適格請求書を交付することが困難な課税資産の譲渡等として適格請求書等の交付義務が免除されている(新消法57の4@ただし書)。
 平成25年大阪地裁判決のように卸売業者(取次ぎに係る業務を行う者)が買受人に対する課税資産の譲渡を行ったと判断されるような場合、卸売業者の「媒介又は取次ぎに係る業務を行う者」という立場は維持されるのかという疑問があるし、適格請求書等保存方式への移行が出荷者の所得水準の的確な把握に資する観点からも、委託者における適格請求書等の交付義務を免除することの妥当性について検討すべき課題があると考える。

ホ 問屋が介在する取引に係る消費税法上の諸問題の要因

(イ) 問屋が介在する取引に係る諸問題に共通する要因

卸売市場において問屋が介在する委託販売には納税義務者が卸売業者であるか委託者であるかを問わず問題点が考えられるが、いずれの場合も委託者と問屋との間及び問屋と買受人との間の資産の移転を「資産の譲渡」として考えると問屋の課税仕入れ及び問屋の貸倒れに係る消費税額の控除問題は生じないと考えられる。また、そのように考えるとすれば課税資産の譲渡に係る納税義務者が明確となることから納税者の予測可能性の問題もなく、問屋が行う資産の譲渡等が委託者から収受する委託販売手数料と買受人から収受する資産の譲渡の対価の両建てになることから軽減税率制度下における適用税率の問題も生じないと考えられる。
 更に輸出入取引における問題点や適格請求書等保存方式の適用関係における課題についても、問屋を起点とする前後の取引を「資産の譲渡」として考える場合には問題が生じないと考えられる。
 問屋が介在する取引に係る消費税法上の諸問題に共通する要因は、問屋を起点とする前後の取引(資産の移転)に「資産の譲渡」としての取引の連続性(連鎖)がないことにあるといえる。

(ロ) 資産の譲渡の意義とその範囲

消費税法は、「資産の譲渡」について定義規定を置いておらず、消費税法基本通達5−1−10において「法第2条第1項8号に規定する『資産の譲渡』とは、資産につきその同一性を保持しつつ、他人に移転させることをいう。」ことを明らかにしている。
 問屋(間接代理)について、「通常、本人は事務処理者に委託物(または資金)の処分権を授与(授け与えること)し、事務処理者はその処分授権に基づく処分によって所有権を取得した売却代金(または購入物)を本人に給付する」ものであると解されるとすれば、委託販売の場合に委託者から問屋へ棚卸資産の所有権の移転はなく、委託買入の場合は問屋から委託者への所有権の移転があるということになると考えられる。
 売買など資産に係る所有権の移転を伴う資産の移転は資産の譲渡の典型例であるとしても、資産の譲渡に該当するか否かが資産に係る所有権の移転を要件とするものではないから、委託販売の場合に委託者から問屋に資産の所有権の移転がないとしても、問屋は委託者から資産の処分権を授与され、その処分権に基づいて資産を処分(譲渡)するという取引の特殊性に鑑みて、その処分権の授与を伴う資産の移転は実質的にみて「資産につきその同一性を保持しつつ、他人に移転させる」ものに該当すると解する余地もあると考えられるが、このような明文規定を欠く解釈は、委託者と問屋との間の法的関係が委任関係であり資産の所有権は委託者から問屋を介することなく買受人に移転することやこれまで委託販売による課税資産の譲渡に係る納税義務者(資産の譲渡等を行った者)は委託者であり、委託販売に係る資産を譲り受ける者は買受人であると解されてきたことを踏まえれば、新たな解釈による課税物件の拡大として租税法の基本原則である租税法律主義に反するとの意見があり得ることは容易に想定でき、妥当ではない。
 また、委託買入の場合の問屋から委託者への資産(所有権)の移転についても、両者間の法的関係が委任関係である以上、基本的には買入商品の所有権の移転のみをもって資産の譲渡と解することは困難と考える。

3 結論

平成25年大阪地裁判決が、問屋が介在する委託販売一般に妥当するものとは認められないとしても、問屋が介在する委託販売等には、前述した諸問題が内在していると考えられる。
 これらの諸問題については、軽減税率制度の実施に伴う仕入税額控除制度の適格請求書等保存方式への移行や諸問題に共通する要因を踏まえ、「資産の譲渡」の範囲の見直し、すなわち委託者から受託者(問屋)への処分権の授与を伴う資産の移転などについて、消費税法上の「資産の譲渡」として取引の連続性を保持させるような消費税法の整備、具体的には、「委託販売の方法その他業務代行契約に基づいて行われる資産の販売又は買入のうち、業務代行者が商法551条に規定する問屋に該当する場合の当該業務代行者に対して行われる処分権の移転を伴う資産の移転及び当該業務代行者から買受人に対して行われる資産の移転並びに業務代行者から委託者に対する買入資産に係る取次契約による合意に基づく所有権の移転はいずれも対価を得て資産の譲渡を行ったものとする」というような規定の創設による立法的解決を図ることを検討するべきはないだろうか。


目次

項目 ページ
はじめに 109
第1章 消費税の納税義務者と実質行為者課税 111
第1節 消費税の概説 111
1 消費税の性格と仕組み 111
2 軽減税率制度の実施と適格請求書等保存方式への移行 114
第2節 実質行為者課税 116
1 資産の譲渡等を行った者又は特定仕入れを行った者の実質判定 116
2 実質所得者課税の原則 119
3 実質所得者課税の原則に係る規定の解釈 121
4 小括 123
第3節 消費税の課税仕入れに係る実質主義 125
1 課税仕入れと実質主義 125
2 所得課税における実質所得課税主義 126
3 実質主義に基づく仕入税額控除 127
第2章 委託販売における納税義務者等 133
第1節 委託販売 133
1 委託販売 133
2 税法上の取扱い 139
3 会計上の取扱い 142
4 小括 143
第2節 問屋が介在する委託販売における納税義務者 145
1 事件の概要 146
2 当事者の主張 147
3 主な判決内容 148
4 判決内容に対する評釈等 151
5 小括 153
第3章 EU付加価値税における委託販売 157
第1節 EU付加価値税 157
1 付加価値税 157
2 EU付加価値税の基本的ルール 158
3 EU付加価値税における納税義務者と課税の対象 159
4 EU指令における課税の取扱い 159
5 EU付加価値税に係る最近の動向 164
第2節 欧州主要国における委託販売の取扱い 165
1 英国 165
2 ドイツ 166
3 フランス 166
4 小括 167
第4章 問屋が介在する取引に係る消費税法上の諸問題 168
第1節 問屋営業 168
1 問屋と委託者との関係 168
2 問屋と相手方との関係 169
第2節 国内取引における問題点 170
1 卸売市場制度の概要 170
2 卸売市場における委託販売に関する問題点 172
第3節 輸出入取引における問題点 174
1 輸出入取引に係る消費税の課税関係 174
2 問屋が介在する取引等に関する問題点 177
第4節 適格請求書等保存方式の適用関係 182
1 適格請求書等保存方式の概要 182
2 委託販売における適格請求書等保存方式の適用関係 187
第5節 問屋が介在する取引に係る消費税法上の諸問題の要因 194
第5章 軽減税率制度下の委託販売等に対する消費税の課税の在り方 196
第1節 消費税の確実な転嫁と適正な仕入税額控除 196
1 取引の連続性の保持 196
2 資産の譲渡の意義とその範囲 198
第2節 委託販売等に係る消費税法の整備 200
1 問屋が介在する委託販売等に係る消費税法の整備 200
2 「資産の譲渡」とすべき資産の移転等 201
結びに代えて 205