藤山 直樹
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

平成30年7月6日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)」(以下「改正民法」という)は成立し、同月13日に公布された。
 改正内容として、配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮などの観点から、配偶者居住権及び配偶者短期居住権の創設、相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として特別寄与制度の創設、遺留分制度に関する見直し等が行われ、これを受けて令和元年度に相続税法(昭和22年法律第87号)(以下「相法」という)も改正され、配偶者居住権の創設に伴う改正、特別寄与料の創設に伴う改正、遺留分減殺請求の改正に伴う所要の整備等が行われた。これらの改正は、相続を契機として新たな権利関係を生じさせるものであり、特に相続税、贈与税の課税関係が不明瞭となる論点が想定されるなど大きな影響があるものと考える。
 そこで、本稿では、民法(相続法)改正による私法上の権利関係を明確にした上で、相続税、贈与税を中心に、課税関係へ与える影響を考察する。

2 研究の概要

(1)民法(相続法)の改正

イ 民法(相続法)改正の経緯

民法(明治29年法律第89号)第5編相続については、昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げや寄与分制度の創設等の見直しが行われて以来の大きな改正である。平成25年9月に最高裁において当時の民法900条4号ただし書き「嫡出でない子の相続分は、嫡出子の相続分の2分の1」とする規定が、「法の下に平等」と定める憲法14条に違反するとの決定がされ、この規定を削除することを内容とする法律案を国会に提出する過程で、各方面から、この改正が及ぼす社会的影響に対する懸念や配偶者保護の観点からの見直しの必要性など、様々な問題が提起されたことがきっかけである。

ロ 改正民法の内容

第196回国会で成立した改正民法の従前の法律からの変更点等は、@配偶者の居住権を保護するための方策(配偶者短期居住権及び配偶者居住権の新設)、A遺産分割等に関する見直し、B遺言制度に関する見直し、C遺留分制度に関する見直し、D相続の効力等に関する見直し、E相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(特別寄与制度)の6項目となっている。本稿では、改正民法において、相法を中心に課税上の問題点があると思われる、配偶者短期居住権、配偶者居住権、遺留分制度に関する見直し及び特別寄与制度について考察する。

(2)配偶者短期居住権

イ 配偶者短期居住権の新設

(イ) 新設の経緯等

改正民法において、配偶者が相続開始の時に遺産に属する建物に居住していた場合には、遺産分割が終了するまでの間、無償でその居住建物を使用できるようにすることを目的として新設された。

(ロ) 配偶者短期居住権の内容

配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、その居住していた建物(以下「居住建物」という)の所有権を相続又は遺贈により取得した者に対し、居住建物について無償で使用する権利を有するとされた。また、存続期間については、居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合は、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日とされた。さらに、配偶者短期居住権は存続期間の満了によるほか、配偶者が配偶者居住権を取得したとき、又は配偶者が死亡したときに消滅する。

ロ 配偶者短期居住権の課税への影響

配偶者短期居住権については、使用貸借の規定が準用されるが、収益はできず、財産性が認められない権利とされていることから、相続税の課税対象には馴染まないとされている。
 過去の判例(平成8年最高裁判決)においては、使用貸借契約が成立したものと推認される場合に、配偶者が取得する使用利益は特別受益には当たらず、その具体的相続分から控除されることはないとしている。
 配偶者短期居住権と類似のものとされる使用貸借における課税関係について、土地の使用貸借に係る使用権の価額は零として取り扱うとされている。この点からも配偶者短期居住権については、課税対象財産にはならない。

(3)配偶者居住権

イ 配偶者居住権の新設

(イ) 新設の経緯等

高齢化社会の進展により、相続開始時点で配偶者が既に高齢になっている事案が増加しているが、このような場合にも、その配偶者としては、住み慣れた居住環境での生活を継続するために居住権を確保しつつ、その後の生活資金としてそれ以外の財産についても一定程度確保したいという希望を有する場合も多いことが想定された。
 そこで、配偶者に居住建物の使用を認め、一方で処分権限のない権利を創設することによって、遺産分割の際に、配偶者が居住建物の所有権を取得するよりも低廉な価額で居住権を確保することができるようにすることを意図したものである。

(ロ) 配偶者居住権の内容

配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合には、遺産分割協議又は遺贈により、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益する権利を取得すると規定した。
 なお、配偶者が配偶者居住権を取得した場合には、その財産的価値に相当する価額を相続したものとして扱われる。
 存続期間については、配偶者の終身の間とされたが、遺産の分割協議、遺言、審判により期間を定めることも可能とされた。
 配偶者が用法に違反していた場合、居住建物の所有者は、配偶者居住権を消滅させることができるとされ、また、配偶者居住権は、その存続期間の満了前であっても、配偶者が死亡したときは、消滅する。

ロ 配偶者居住権に対する課税への影響

(イ) 配偶者居住権の評価についての考察

令和元年度の相法の改正では、この配偶者居住権の評価について、原則的な「時価」による評価ではなく、地上権等と同様に評価方法が法定化(相法23条の2)された。
 相続税は、相続又は遺贈により取得した財産に対し課するものであることから、配偶者居住権の相続が「財産的価値に相当する価額を相続」したものである以上、配偶者居住権が一定の評価の対象となることは妥当であろう。

(ロ) 居住建物の一部が賃貸の用に供されていた場合

A 相法等の規定

居住建物において、その建物の一部を被相続人が生前、第三者に対し、賃貸の用に供していた場合、その部分(以下「賃貸部分」という)については、配偶者居住権は成立するものの、賃借人たる第三者は既に被相続人から引渡しを受けていることから、当該第三者に対し配偶者居住権は対抗できない。この場合の配偶者居住権及び配偶者居住権に基づき居住建物の敷地を使用する権利(以下「配偶者敷地利用権」、また、配偶者居住権及び配偶者敷地利用権を「配偶者居住権等」という。)の相続税の評価については、実質的に配偶者居住権に基づく使用及び収益ができない部分を除外して評価することとなる。一方、当該物件の所有権を取得した配偶者以外の相続人は自身の相続税の計算上、賃貸の用に供されている部分については、100%自己所有として評価することになるが、宅地(土地又は土地の上に存する権利を含む。以下「宅地等」という。)については、貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)の適用が可能となる場合がある。

B 賃貸部分の一部が一時的に空室であった場合

貸家建付地について、財産評価基本通達は、「継続的に賃貸されていた各独立部分で、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含むこととして差し支えない。」と規定している。
 一方、賃貸部分については、配偶者居住権自体は成立することから、居住建物の所有権を相続した相続人(以下「居住建物相続人」という)が賃貸の用に供さなくなった場合には、配偶者がその部分を使用及び収益することが可能となる。その場合、居住建物相続人が、新たな賃借人に貸し付けた場合については、居住建物相続人が配偶者から借り受けた上で当該賃借人に貸し付けたことになるとの指摘もある。その結果、当該賃貸部分については、「配偶者居住権の評価において控除できないのではないか」等の疑問が生じる。
 改正民法は、配偶者は従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用にすることを妨げないと規定していることから、賃貸の用に供されなくなった場合に、配偶者はその部分を新たに居住の用に供することは可能となる。しかしながら、居住の用に供するために増改築を行う場合には居住建物相続人の許可が必要であるため、当該相続人が配偶者に対し、増改築を認めないケースも多いと思われる。実態として、居住建物の所有者が引き続き貸付事業を営んでいる状態と変わらない状態が継続する場合も多いことが想定される。この点については、従前の配偶者の居住部分は確保されていること等から、配偶者居住権の新設の趣旨等にも反しないものと考える。
 このことから、配偶者居住権の相続税評価にあたっては、一時的に空室であった部分について、賃貸の用に供されている部分に含めることを規定する相続税法基本通達の適用は妥当であろう。
 次に、居住建物相続人が居住建物の敷地である宅地等を有する場合、他の特例適用条件に合致していれば、当該宅地等のうち、賃貸の用に供している部分については小規模宅地等の特例の適用を受けることが可能となる。この場合、一時的に空室であった場合については、租税特別措置法通達(以下「措通」という)69の4−24の2(被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等)において、「貸付事業の用に供されていた宅地等には、当該貸付事業に係る建物等のうちに一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合における当該部分に係る宅地等の部分が含まれることに留意する」と定めている。
 また、貸付事業用の小規模宅地等の特例は、要件の一つとして「事業承継要件」を求めている。仮に、一時的に空室になった時点で、配偶者に当該空室部分の使用権が移り、居住建物相続人は当該部分を配偶者から使用貸借をして新たに貸し付けをするということになると、被相続人から貸付事業を引き継いだことにならず、事業承継要件を満たさないのではないかといった疑問が生じる。
 貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用に関係する措通の中に、対象の宅地等が使用貸借されている場合について規定した措通69の4−4の2(宅地等が配偶者居住権の目的となっている建物等の敷地である場合の被相続人等の事業の用に供されていた宅地等の範囲)がある。
 措通69の4−4の2は、措通69の4−4(被相続人等の事業の用に供されていた宅地等の範囲)の考え方を踏まえて、租税特別措置法69条の4第1項に規定する「被相続人等の事業の用に供されていた宅地等」の範囲について、当該宅地等が配偶者居住権の目的となっている建物等の敷地である場合の判定方法を示したものである。
 本通達は、配偶者居住権者がその建物等を無償で貸し付けていた場合において、配偶者居住権者以外の「被相続人等」が当該建物等を無償で借り受けて当該建物等を事業の用に供していたときは、当該宅地等は当該「被相続人等」の事業の用に供されていた宅地等に該当するとしている。これを、本考察に置き換えれば、「一時的に空室」があった時点は、被相続人の死亡による相続開始後ではあるが、事業用部分(の一部)を使用貸借し引き続き事業の用に供すれば、「事業承継要件」に該当すると判断してもよいのではないかと考える。
 一時的に空室があった場合の貸付事業用部分については、措通69の4−24の2の適用と措通69の4−4の2の取扱いを準用することで、貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例の適用をすることは可能であると考える。

(ハ) 配偶者が増改築をした場合の課税関係

配偶者が費用を負担し、居住建物の増改築を行った場合、所有者に対し、その費用の償還を請求できることになるが、配偶者が所有者に対し費用負担を求めない場合には、配偶者から所有者に対し、贈与があったものとして贈与税の課税が検討されることとなる。
 民法196条2項は、占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増加額を償還させることができると規定している。
 また、判例は、「民法608条2項、196条2項が、賃借人に有益費償還請求権を与えている法意は、賃借人が賃借物につき有益費を支出してその価値を増加させているときには、増加価値を保持したまま賃借物が返還されると賃貸人は賃借人の損失において増加価値を不当に利得することになるので、現存する増加価値を償還させることにあると解される。」としている。
 一方で、相法9条は、対価を支払わないで利益を受けた場合においては、「当該利益を受けた時において」、「当該利益を受けた者が当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)」について当該利益を受けさせた者から贈与があったものとみなすと規定している。ところで、民法242条は、「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。」と定めており、不動産の所有者は増改築部分の所有権を取得することになる。
 上記の判例は、「賃借人が賃借物につき有益費を支出してその価値を増加させているときには、増加価値を保持したまま賃借物が返還されると賃貸人は賃借人の損失において増加価値を不当に利得することになるので、現存する増加価値を償還させることにあると解される。」としているが、例えば、配偶者居住権者と居住建物の所有権者が同居している場合には、「増加価値を不当に利得する」時点は、居住建物の増改築時(民法242条により増改築部分の所有権も取得できることになるばかりではなく、同居の場合、所有者自身も直接的に増改築の恩恵を受けることができる)といえ、この場合、増改築時に贈与税の課税の有無を判断する必要があろう。つまり、贈与税の課税については、当事者間の認識や、増改築の経緯など総合勘案して判断されるべきものと考える。

(ニ) 配偶者居住権消滅時の課税関係

配偶者の死亡により配偶者居住権は民法の規定上消滅するが、配偶者居住権は居住建物の所有者に対し、相続を原因として移転するものではないので、相続税の課税関係は生じず、また、配偶者居住権が有期で設定されて存続期間が満了した場合についても同様に贈与税の課税は生じないとされている。一方で、租税回避を目的とした配偶者居住権の設定が行われる可能性がある等の指摘がある。
 仮に、配偶者居住権等の評価額が対象物件の25%だとすれば、居住建物相続人にとっては、全体の75%に対する相続税を負担すれば、二次相続時において、その権利を結果的に100%取得することが可能になる。
 配偶者居住権に限らず新しい制度ができれば、それまでの課税関係(評価額や相続税額)に変化が生じることは当然とも言えると考える。しかしながら、相続税の納税額が結果的に減少することのみを理由として配偶者居住権を設定したとすれば、制度の趣旨に反するおそれがあるとともに、結果的に納税者間の不公平感につながり、何らかの対応も必要になろう。

(4)遺留分侵害額請求権

イ 遺留分制度についての改正

近年の遺留分制度は、遺留分権利者の生活保障や遺産の形成に貢献した遺留分権利者の潜在的持分の清算等を目的とする制度となっており、その目的を達成するためには必ずしも物権的効果まで認める必要性はなく、遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する価値を返還させることで十分ではないかとの指摘もされていた。
 これらの指摘を踏まえ、遺留分減殺請求権は遺留分侵害請求権へと改正されることとなった。
 主な改正内容としては、遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができるとし、遺留分侵害額請求権は、その権利の行使により金銭債権が発生するものとするとともに、遺贈や贈与の「減殺」を前提とした規定の改正などの整備を行った。

ロ 遺留分制度の課税への影響

遺留分とは、被相続人の財産の中で、法律上その取得が一定の相続人に留保されていて、被相続人による自由な処分(遺贈・贈与等)に対して制限が加えられている持分的利益をいうものであり、一定の相続人には、遺留分に相当する利益を相続財産から取得できる地位が法律によって保障されている。
 遺留分権利者が取得した金銭債権は、遺留分に相当する利益を相続財産から取得できる地位を持つものがその権利を行使することによって取得できるものである。この遺留分権は、不可侵的な相続権であり、この意味では相続権の広い意味での一つに属するといえ、これらによって取得する財産(遺留分侵害額請求権の行使による金銭債権)は相続によって取得した財産であるといえよう。

(5)特別寄与制度

イ 特別寄与制度の創設及び制度の内容

相続人以外の者が、被相続人の療養看護等を行った場合には、相続開始後、一定の要件の下で、相続人に対し金銭請求をすることができるようにすることを目的として特別寄与制度が創設された。
 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたことが要件であり、その対象となるのは、被相続人の親族とし、相続人、相続を放棄した者等は除かれた(以下「特別寄与者」という)。

ロ 特別寄与制度の課税への影響

特別寄与料は、特別寄与者から相続人に対して請求するものであり、被相続人から相続又は遺贈により取得したものではないものの、被相続人の死亡と密接な関係を有し、経済的には遺産の取得に近い性質がある。そのため、一連の相続の中で課税関係を処理することが適当であることから相続税を課税(みなし遺贈)することとされた。
 特別寄与料を支払った相続人については、その支払いは被相続人の死亡によるものであり、遺産の中から支払うか否かにかかわらず、その支払った金額の部分の担税力が減殺されることから、課税財産から減額することが適当であるとされた(相法13条4項)。

(イ) 特別寄与料の支払と過去の贈与税に対する更正の請求

特別寄与料の支払額の方が相続により取得した財産の価格よりも大きくなった場合、相続税の課税価格から控除しきれなかった金額について、遺留分のように国税通則法23条又は相法32条の規定により過去の贈与税に対する更正の請求が可能か否かといった疑問が生ずる。
 相続人が特別寄与料を負担した場合には、相続税の課税価格から当該支払額が控除できることを相法13条4項で規定しているが、同条1項では、被相続人の債務や葬式費用は、当該相続又は遺贈により取得した財産から控除する旨を定めており、相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額(相法19条)により加算される財産の価額については、適用の対象とされていない。
 特別寄与制度については、特別寄与者が相続人に対し、寄与に応じた額の金銭の支払いを請求するものであり、相続財産の分割を請求するものではない。一方で、特別寄与料の支払いをする相続人からみれば、相続財産そのものの減少ではなく相続に関連する債務と捉えることができることから、相法13条の債務に当たると考える。相法13条は、相続又は遺贈により取得した財産からの控除を前提とし、過去の贈与からの精算を予定していない。
 以上のことから、特別寄与料の支払額の方が相続により取得した財産の価格よりも大きかった場合、相続税の課税価格から控除しきれなかった金額を過去の贈与税の申告分から更正の請求をすることはできないと考える。

(ロ) 特別寄与料(みなし遺贈)と相法18条の2割加算

相法18条の規定は、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額を2割加算すると規定している。特別寄与制度により、特別寄与料を取得する者は、相続人以外の親族であることから、原則として2割加算の適用対象となる。しかしながら、特別寄与料の取得については、2割加算の対象外とするべきではないかとの指摘がされている。

A 2割加算の対象外とすべきとの考え方

夫の寄与分の中で妻の寄与分を認める裁判例では、妻の寄与分は夫の寄与分に含まれることになることから、夫婦が取得した寄与分については2割加算がされないことになり、この点を不均衡と感じる納税者もいるのではないかとの指摘がある。
 また、国会審議の中で、「特別寄与者の被相続人に対する生前の労苦に報いるという形の立法趣旨からすると、2割加算が特別寄与者にとっては酷になるのではないか。」との指摘もされている。

B 考察

特別寄与料の請求は、必ずしも家庭裁判所に調停を求めるものではなく、当事者間での話し合いで決定できる性質のものであることから、相続人に該当しない孫への遺贈という形で財産を移転させるなどの可能性があることや、そもそも特別な寄与に対し、被相続人から遺贈により金銭の取得をした者とのバランス、さらには、担税力等の問題もないことなどを考慮すれば、特別寄与者が取得する特別寄与料が相続税の2割加算の対象となることは妥当であると考える。

3 結論

平成30年7月に改正された民法において、配偶者短期居住権、配偶者居住権及び特別寄与制度の新設と遺留分制度の改正が行われ、これを受け、相法については、令和元年度に所要の改正が行われた。
 配偶者居住権が、制度の趣旨に合わない利用がされることにより、過度の節税策が出現するおそれがある。この点に関しては、居住建物相続人が居住建物の一部(又は全部)の使用について制限されない場合に当該部分の配偶者居住権等の評価額を抑えることとすれば、配偶者居住権新設の趣旨等にもあっており、結果的に節税策を防ぐことになると考える。ただし、このような取り扱いをする場合には、相法23条の2を改正するなどの措置が必要となる。
 配偶者居住権は新設されて間もない制度であり、今後本格的に利用されていくものと思われる。今後の適用状況を注視しつつ税制改正等の必要性を検討していくことが肝要であると考える。
 遺留分制度については、「減殺請求」から「侵害額請求」に変更されたが、基本的に相続税については、改正前と同等の課税関係と整理できる。しかしながら、遺留分の侵害額の請求に対応するために、金銭の支払に代えてその請求の基因となった遺贈又は贈与により取得した財産(非上場株式等)を給付した場合には、その給付は代物弁済となり、納税猶予の確定事由に該当することになる。ただし、自己の資産を売却し、その代金を遺留分権利者に渡すことで、遺留分に関する請求に対応する者とのバランスを考慮すれば、納税猶予の確定事由となることは妥当であろう。


目次

項目 ページ
はじめに 301
第1章 民法(相続法)の改正 302
第1節 民法(相続法)の改正経緯 302
1 法務大臣からの諮問までの経緯 302
2 法制審議会における審議等 303
3 改正法案の成立等 305
第2節 改正民法の内容 305
1 配偶者の居住権を保護するための方策 306
2 遺産分割等に関する見直し 307
3 遺言制度に関する見直し 308
4 遺留分制度に関する見直し 308
5 相続の効力等に関する見直し 309
6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策 309
第2章 配偶者短期居住権 310
第1節 配偶者短期居住権の新設 310
1 新設の経緯等 310
2 配偶者短期居住権の内容 311
第2節 配偶者短期居住権の課税への影響 313
1 配偶者短期居住権と相続税 313
2 配偶者短期居住権と贈与税 314
3 小括 315
第3章 配偶者居住権 316
第1節 配偶者居住権の新設 316
1 新設の経緯等 316
2 配偶者居住権の内容 318
3 民法部会における配偶者居住権の評価について 321
第2節 配偶者居住権の課税への影響 324
1 配偶者居住権の評価について 324
2 居住建物の一部が賃貸の用に供されていた場合 329
3 配偶者が増改築をした場合の課税関係 336
4 配偶者居住権消滅時の課税関係 340
5 配偶者居住権と小規模宅地等の特例 343
6 小括 347
第4章 遺留分侵害額請求権 349
第1節 遺留分制度についての改正 349
1 改正の経緯等 349
2 改正民法の内容 350
第2節 遺留分制度の改正に対する相続税法等の対応 352
第3節 遺留分制度の課税への影響 352
1 遺留分侵害額請求権と相続税 353
2 小括 357
第5章 特別寄与制度 360
第1節 特別寄与制度の創設 360
1 創設の経緯等 360
2 特別寄与制度の内容 361
第2節 特別寄与制度の課税への影響 362
1 特別寄与制度創設に関する相法の改正 362
2 特別寄与料の支払と過去の贈与税についての更正の請求 363
3 特別寄与料(みなし遺贈)と相法18条の2割加算 366
結びに代えて 369