植田 祐美子
税務大学校
研究部教育官

要約

1 研究の目的(問題の所在)

我が国の所得税法は、住所の有無を基準として、個人の納税義務者を「居住者」と「非居住者」に区分し、居住者は全世界所得課税、非居住者は国内源泉所得に対する課税を行っている。このような課税方法は、国際的に広く認められている。
 ところが、我が国では非永住者制度を採用し、居住者を更に「非永住者」と「非永住者以外の居住者」に区分している。非永住者に該当すれば、居住者であっても原則国外源泉所得の全てが課税対象から除外され、国内払いや送金があった場合、一定の計算過程を経た国外源泉所得が課税対象とされる。非永住者制度は、本来全世界所得課税の対象である居住者の課税所得の範囲を制限することから、一般的な課税方法から逸脱する制度である。このため、同制度を巡っては古くから議論があるものの、先行研究では、非永住者制度を維持すべきかどうかを含め、一致した見解が示されておらず、研究の蓄積が継続的に進められているわけでもない。同制度は、第二次世界大戦からの復興を目指す中で創設されたところ、制度の大部分がほとんど変更されることなく存続する一方、我が国を取り巻く社会状況は内外ともに一変し、少子高齢化や人材不足を背景に、外国人材の受入れや共生社会の実現が政策目標として掲げられている。果たして、非永住者制度が現在の社会状況や政策目標の実現に適合しているのか、今一度検証してみる価値があると思われる。
 そこで、本稿では、まずは制度の改正沿革等を確認し、現行制度の今日的存在意義(目的)を明らかにする(本稿の第一目的)。現実的側面と理論的側面の両方から現行制度の点検を実施し、制度を存続させるべきか否かを判断する(本稿の第二目的)。制度を存続させると結論付けた場合には制度の改善案を提示するとともに、外国で採用されている優遇税制を我が国に輸入すべきかどうかについても敷衍的に検討する(本稿の第三目的)。以上の3点が本稿の目的である。

2 研究の概要

(1)国際租税法に係る基本事項の概観

非永住者制度は居住外国人を対象とした税制であり、国際課税分野に属する。国際租税法では管轄権に制限(競合)があることを契機にさまざまな問題が生じる。立法管轄権は各国が自由に行使することができるため、課税の競合(国際的二重課税)と空白(二重非課税)を生み出す。執行管轄権は属地主義を採用しているため、国家の領域を超えて行われる国際的な経済活動に関して脱税が行われやすくなる。
 国際的二重課税の排除方法には、外国税額控除制度の導入や国外所得の免除(国内法の整備)並びに租税条約の締結がある(他国との協調)。二重非課税の排除方法として各国の国内法や租税条約を統一することが提案されている。脱税の防止のため国際取引を把握する資料収集制度の充実(国外送金等調書、国外財産調書などの国内法の整備)や、租税条約上の情報交換規定の整備が進められている(他国との協調)。

(2)居住外国人に関する課税沿革

イ 非永住者制度創設前

所得税法創設当時は、不平等条約の影響の下、外国籍の者は課税対象として認識されていなかった(国籍主義の採用)。その後居住外国人の数が増加したこともあり、法律上外国籍の者が我が国の納税義務者となることなどが明示された(明治32年改正)。敗戦による占領期は、事実上の措置(SCAPIN)により居住外国人への課税が緩和されていた時期があったが、昭和25年措置法改正によりさまざまな優遇措置が法令化された。
 課税上の問題(国際的二重課税と執行管轄権の制約)に対しては国外所得免除方式を採用することで対処されていた(明治32年改正・大正9年改正)。生活費を課税最低限とする生活費課税方式(昭和25年措置法改正)は、国外所得の発生や送金の事実を網羅的に把握することが執行上困難であることから手当てされた。

ロ 非永住者制度の創設

非永住者制度は、昭和31年答申をきっかけに、昭和25年措置法改正で導入された送金ベース課税方式と国内払課税方式を基礎とした恒久的措置として所得税法に創設された。創設理由は、人材の確保という政策目的実現の際に税負担が阻害要因とならないよう税負担を軽くすることであった。

ハ 非永住者制度創設後

昭和37年改正では非永住者の判定に関する恣意性を排除するため住所や永住の意思に係る推定規定が導入された。平成26年改正は国外源泉所得が明確化されたことに伴う法の整備であった。平成29年改正では高度外国人材の確保のため所得の一部が課税対象から除外された。この時期の改正の中で最も重要であるのは平成18年改正である。非永住者制度を利用した租税回避事案に対応するため意思主義を廃止し、国籍要件を追加するとともに、申告書に居住形態に係る書類を添付するよう義務付けられた。

(3)現行制度の存在意義

非永住者制度が所得税法中に創設された理由は、そのルーツである昭和25年措置法改正と同じく、人材確保の際に税負担が阻害要因とならないよう税負担を軽くすることであった。制度創設後も税制改正は実施されているものの、制度の創設目的を変更したと認められるような改正は実施されていないと認められる。

(4)現行制度の点検結果

イ 政策との関係

高度外国人材を例に点検した結果、我が国で就労する際に所得税の負担が阻害要因となるのは、給与収入が3,000万円を超える若しくは国外源泉所得を多く獲得するなど一部の高所得者に限られる可能性が高いことが判明した。税負担が阻害要因となるケースや発生率を正確に把握するためには、どのような属性の、どのような所得状況の者が非永住者となっているのかを把握する必要がある。
 現在、非永住者制度は所得税法に手当てされているところ、獲得したい外国人材に応じた柔軟な制度改正を必要とするのであれば、基本法たる所得税法ではなく措置法に移行する必要があるかもしれない。非永住者の実態を把握する際効率的かつ負担の少ない情報収集制度を整備することが望まれる。

ロ 執行との関係

所得の支払や送金の状況を網羅的に把握することは、現行の情報収集制度を駆使しても困難であり、税務職員が質問検査権を行使する機会を飛躍的に増加させる。このため、国内払いや送金という課税要件は廃止することを前提に検討を進めるべきである。

ハ 総合所得税との関係

外国人材の確保に当たっては税負担が阻害要因とならないよう配慮しつつ、担税力が過度に過小評価されている事例に対しては課税対象から除外する金額に上限を設けたり、イギリスのように所得控除に制限を設けたりする必要があると思われる。制度目的を充足しつつ、過度に担税力を過小評価しない状態を保つためにどのような改正が必要であるかは、非永住者の実態を把握しなければよりよい判断ができない。

ニ 居住地管轄との関係

非永住者制度の対象者を外国籍の者に限定すること、対象者の判定期間を10年とすることは妥当である。他方で、5年もの間居住者である非永住者と我が国との間の人的つながりが相当弱められることに対する積極的な根拠が見出せなかったため、この点は改正すべきであるかもしれない。
 この点、高度外国人材を例に検討したところ、我が国の留学生を外国人材として確保する際には留学期間を除外するなど現行制度では認められていない追加的優遇措置が必要である可能性がある。できるだけ長く外国人材を雇用したい雇用者からみれば課税対象から除外する期間を長くしてほしいと要望されるかもしれない。5年という期間が妥当かどうかは、幅広い非永住者の実態をより詳細に把握した上で判断する必要がある。

ホ 全世界所得課税との関係

(イ) 原則国外源泉所得の全てを課税対象外とすること

原則国外源泉所得の全てを課税対象から除外する明確な理論的根拠も経済的事情も見出せなかった。このため、非永住者も居住者であることから原則全ての所得を課税対象とし(全世界所得課税)、具体的な理論的根拠が示すことができる所得に限り、課税対象から除外するのが望ましい。税負担の軽減という現実的側面からみて、どのような所得を除外するのが適当であるかは非永住者の実態の把握を進めた上で判断する必要がある。

(ロ) 外国税額控除との関係

非永住者は原則国外所得が免除され国内払いや送金により国外源泉所得が課税対象となった場合には外国税額控除が適用される。このため、国際的二重課税の排除は国外所得免除方式が中心となっている。国際的二重課税の排除方式について課税理論を重視し、外国税額控除方式を中心とするのがよいのか、あるいは非永住者の実態(非永住者のうち、どのくらいの者が確定申告を経ずに税の精算を完了しているのか、申告に係る代理の状況や日本語がどれだけ堪能であるのかなど)に配慮し、簡素な税の精算制度として国外所得免除方式を維持するのがよいのかは非永住者の実態に係る幅広いデータがなければ判断できない。
 ただし、国内払いや送金という課税要件は、二重課税排除に係る計算過程を非常に複雑化させており、複雑な計算過程を経なければ税の精算ができないこと自体、外国人材が我が国を就労先として決定する際、税に関係する阻害要因となる可能性がある。このため、国内払いや送金という課税要件は廃止する方向で検討するのがよいと考えられる。

(ハ) 租税条約との関係

非永住者制度は居住者の国外源泉所得の課税範囲を制限するため、租税条約上の特典(短期滞在者免税など)の利用が制限されない場合、課税の空白を生じさせる。
 条約の特典の利用制限を設けることも1つの解決手段であるが、根本的な問題解決方法は全世界所得課税に近付けることである。現行の非永住者制度は課税対象から除外する所得金額に制限を設けていないため、課税の空白が広範に及んでいる可能性がある。
 課税の空白が看過できる程度のものなのか、あるいは租税条約の改正まで踏み込む必要があるのか、妥当な判断を下すためには、まずは非永住者のうちどの程度の者がどの程度の金額の国外源泉所得を獲得しているのかなど、その実態を把握する必要がある。

ヘ 発生主義との関係

国内払いや送金をきっかけとして国外源泉所得が課税されることは、全世界所得課税に近付くという意味では好ましい。
 しかしながら、国外源泉所得を課税対象とするきっかけが国内払いや送金であるという点は見直しが必要である。なぜならば、国内払いや送金という課税要件は、国外源泉所得が発生した時点を所得の認識基準とはせず、所得の年度帰属の操作(繰延べ)を可能としているからである。課税対象から除外される国外源泉所得の額に制限が設けられていないため、操作(繰延べ)の対象金額が大きくなる場合もあり、納税者間の公平性が過度に保たれていない可能性がある。そもそも、国内払いや送金という課税要件は、発生主義のように支払手段の多様化に対応することが難しい。このため、国内払いや送金を課税要件とすることは、廃止する方向で検討すべきである。

(5)制度存続の必要性

非永住者制度は、一部の高所得者である外国人材の獲得の際に必要な制度であることが強く推測されるのであり、外国人材の確保は重要な政策課題であって、外国人材の実態を精確に把握しないまま制度を廃止しても、代替する優れた制度を立案することが困難である。これまでの点検を踏まえると、現時点では非永住者制度を存続させる必要があると考えられる。

(6)主要な問題点

イ 実態の把握が不完全であること

実体把握が不完全であるため、非永住者制度がどのような政策のどのような属性を有する外国人材にとって有効に機能しているのかを判断することができない。制度を所得税法に存置させ、外国人材からみた安定性を確保するのがよいのか、若しくは措置法に移行させ、制度の柔軟性を確保するのがよいのかを見極めるのも難しい(政策との関係)。担税力の過小評価の程度や(総合所得税との関係)、どの程度課税の空白が生じているか(租税条約との関係)を把握することもできない。税負担の軽減期間や二重課税の排除方式について、理論的側面と現実的側面のどちらを重視した制度設計にするのが妥当であるかも判断できない(居住地管轄(全世界所得課税)との関係・外国税額控除との関係)。

ロ 国内払いや送金が課税要件とされていること

国内払いや送金がされると、所得の発生状況だけではなく支払や送金の状況についても網羅的に把握する必要が生じる。これは現行の情報収集制度を駆使しても困難であり、税務職員が質問検査権を行使する機会を飛躍的に増加させる(執行との関係)。所得の帰属時期の操作を可能とし、支払手段の多様化に対応することも困難である(発生主義との関係)。二重課税排除に係る計算過程を複雑化させている(外国税額控除との関係)。

ハ 原則国外源泉所得の全てを課税対象外とすること

課税対象から除外される国外源泉所得の額が大きい場合、担税力が著しく過小評価される可能性が惹起される(総合所得税との関係)。原則国外源泉所得の全てを課税対象から除外する明確な理由が見出せない状況である(全世界所得課税との関係)。課税の空白を生じさせている可能性もある(租税条約との関係)。

(7)改善案

イ 幅広い非永住者の実態を把握すること

確定申告が必要な非永住者(給与の年間収入金額が2,000万円を超える者や給与以外の一定の収入得る者など)については、居住形態等の確認書から実態の把握をすることが可能である。一方、年末調整で税の精算を完了することが可能な非永住者は確定申告が必要な非永住者と比較すると、圧倒的に実態の把握が進んでいない。高度外国人材の所得状況等から推測すると、給与所得を獲得する非永住者の大半は年間給与収入2,000万円以下であり、年末調整で税の精算を完了することが可能であるだろう。
 そこで、例えば、給与所得に係る調書(源泉徴収票)を充実させるのはどうだろうか。源泉徴収票に非永住者の対象者か否かをチェックする欄を設け、摘要欄に居住形態等の確認書の記載事項(国籍、入国年月日、在留資格、在留期間など)を記入してもらうのである。調書の提出者(源泉徴収義務者)に対してこのような追加義務を課すことは、外国人材に申告(申請)義務を課す場合に比べると、負担が軽いと思われる。なぜならば事業主は外国人材を雇用(離職)する際、外国人材に対して旅券(パスポート)や外国人登録証などの提示を求めた上で、氏名、在留資格、在留期間、国籍などを確認し、これらの事項を記載した「外国人雇用状況の届出」を提出する義務があるからである(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律28条1項、外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針の第5)。

ロ 国内払いや送金という課税要件の廃止

国内払いや送金をきっかけに国外源泉所得が課税対象となることは全世界所得課税に近付くことになるという意味では好ましいが、多くの問題を発生させている。そもそも、国内払いや送金という課税要件は現在の決済手段の多様化に対応できないことから、同課税要件は廃止すべきである。

ハ 全世界所得課税への回帰

原則国外源泉所得の全てを課税対象から除外する理論的根拠が見当たらず、制度創設当初の経済的事情も解消されていることから、全世界所得課税へ回帰すべきである。ただし、理論的根拠を示すことができたり、非永住者の実態からみて課税しないのが適当であると判断できたりする場合は、その所得を課税対象から除外してもよいと考えられる。
 全世界所得課税に近付けることは制度を巡る問題の解決に至らなくとも問題の縮減に繋がる。課税の空白部分を縮小したり、担税力の過小評価を緩和したりするだけではなく、各国の制度の差異を活用した国際的脱税や租税回避の防止にも資するだろう。

(8)外国税制の輸入の是非

イ オランダの30%ルーリング

30%ルーリングは、給与(グロス)の30%を非課税とする優遇措置である。駐在員の子供がインターナショナルスクールに通う場合、その費用に充当するために支給された金員の全額が非課税となる。対象者は、企業や国際的な非営利団体で働く外国籍の幹部や従業員、インターナショナルスクールの教師など一時的にオランダで勤務している者であり、オランダでは入手困難な特別なノウハウを持つ者(高等専門教育を受けていることや少なくとも2年半以上の実務経験があることが基準となる。)とされている。国際関係の仕事に従事する被雇用者がジョブローテーションの一環でオランダに出向する場合にも利用できる。
 適用要件は、オランダ国外で雇用されていること、オランダで雇用される24ヶ月前のうち、16ヶ月の間、オランダから150km以内の場所に居住していないことである(ただし、オランダで職場復帰している場合も適用されることがある。)。一定額以上の給与を受領している必要があり、少なくとも38,961ユーロの給与(域外費用(自国で労働していれば発生しないであろう一時帰国費用や外国語学習費用等)を含めた場合55,658ユーロ)(ただし、修士号を持つ30歳未満の駐在員は29,616ユーロ(域外費用を含めた場合42,308ユーロ)に引き下げられる。)を獲得していることが条件である(ただし、給与に関する条件は大学や知的機関で働く科学者や研究者には適用されない。)。適用期間は最大5年間である(令和元(2019)年以前は8年間)。過去25年間におけるオランダの滞在状況によって期間が短縮されることがある。
 30%ルーリングの適用者は、ボックス1に分類される給与所得と住居から得られる所得について居住者課税を受ける。30%ルーリングが適用される場合でも所得控除が適用される。ボックス2と3に分類される所得については非居住者課税を受けることになるが、居住者課税を選択することも可能である。30%ルーリングの適用を受けるためには雇用者と共同して税務署に申請を行う必要がある。

ロ 我が国への輸入の是非

30%ルーリングは、@非課税対象額の計算が簡単であること、A雇用者と共同で税務署に申請する必要があるため制度の利用状況が明らかであること、B職種によって制度の利用条件が異なるため、国家としてどのような人材を確保したいのかが明確である。非永住者制度と比べると簡素かつ透明な制度であると言ってよい。非永住者制度と類似している点は幅広い職種を対象としていること、適用期間が最大5年であることである。対象者や適用期間という制度の基本部分に親和性があるため、仮に非永住者制度を廃止し、30%ルーリングを輸入した場合違和感なく受け入れられる可能性が高く、かつ、非永住者制度にはないメリット(主として簡素かつ透明であること)を享受することができそうである。
 しかしながら、EUに所在する研究所(EU TAX Observatory)が新たに居住することになった個人を対象とした優遇税制(令和2(2020)年時点でEU諸国において採用されている合計28税制)について実証研究した報告書をみると、30%ルーリングは@租税競争を加速させる制度であること、A租税競争に係る有害性の測定が可能であった25税制中、有害性のスコアが9であり、それなりの有害性が算出されたこと(25税制のうち最大スコアは16、最小スコアは6であった。)、B制度の受益者数が多いこと(令和2(2020)年は9万2,048人であり、集計可能な17制度中1位。過去5年間も同じく、受益者数が最も多い。)が指摘されている。我が国はEUに属しているわけではないものの、租税競争を加速させると認識されている制度をそのままの形で輸入するのは適当ではないと考えられる。

3 結論

非永住者制度は、外国人材の確保の際、税負担が阻害要因とならないよう税負担を軽減するために存在する。一部の高所得者に対して有効に機能している可能性が高く、非永住者の実態を把握しない状態で制度を廃止するのは適当ではないことから、本稿では一旦制度を存続すべきであると結論付けた。
 しかしながら、廃止説が指摘するように非永住者制度には多くの問題点があり、特に、国内払いや送金といった課税要件は早急に廃止すべきである。全世界所得課税に近付けることは課税理論に関係する多くの問題点の解決には至らなくとも、問題の規模(程度)を縮小する効果がある。制度創設当時とは違い、現在外国人材の在留資格は多様化し、その数も増加している。少子高齢化や人材不足が進む我が国において、外国人材の確保は将来に渡って重要な政策課題であり続けるだろう。まずは、多様化の進む非永住者の実態について把握することを急ぐべきである。非永住者の実態解明を進めることは外国人材の確保に関する他国の制度との比較検討を可能とし、よりよい制度変更を容易にすると考えられる。
 個人の優遇税制が国の移動に影響を与えるかどうかに焦点を当てた実証研究は少なく、国境を越えた人の移動は税以外の要因にも左右されるであろうことが既に指摘されている。外国人材に限らず、多様な人々が個人のもつ能力を十分に発揮できる環境を整備することが人材不足を解消する近道ではないだろうか。租税法からみれば、基本原則である公平負担を犠牲にしなければ外国人材が確保できない状態であるのかを正確に判断する必要があるのであって、そのためにも、外国人材の実態の把握は喫緊の課題であると言えるだろう。


目次

項目 ページ
はじめに 164
第1章 非永住者制度の存在意義 166
第1節 国際租税法に係る基本事項の概観 166
1 管轄権と租税法 166
2 課税上の問題の発生 170
3 対処策 172
第2節 改正沿革 179
1 確認の方針 179
2 明治20(1887)年所得税法の創設 180
3 明治32(1899)年改正 181
4 大正9(1920)年改正 183
5 昭和22(1947)年全文改正 185
6 昭和24(1949)年シャウプ勧告 187
7 昭和25(1950)年措置法改正 188
8 昭和27(1952)年改正 197
9 昭和31(1956)年措置法改正 198
10 昭和32(1957)年改正(非永住者制度創設) 199
11 昭和37(1962)年改正 206
12 平成18(2006)年改正 208
13 平成26(2014)年改正 209
14 平成29(2017)年改正 211
第3節 現行制度 212
1 法律の定め 212
2 非永住者制度の位置付け 212
3 非永住者該当性の判断 213
4 課税所得の決定 215
第4節 現行制度の存在意義 220
1 改正沿革(理由)の整理 220
2 現行制度の存在意義 223
第2章 非永住者制度の点検と存続の必要性 225
第1節 先行研究の状況 225
1 廃止説 225
2 維持説 228
3 制度再考説 228
4 本稿の立場 229
第2節 点検項目の決定 230
1 2つの側面からの点検の必要性 230
2 具体的な点検項目 230
第3節 政策との関係 234
1 政策状況 234
2 高度外国人材の受入れ政策 236
3 高度外国人材の特徴 237
4 所得税負担が阻害要因となっているのか 238
5 点検結果 243
第4節 執行との関係 244
1 執行の困難性 244
2 補完制度の不在 245
3 計算過程の複雑化 245
4 点検結果 246
第5節 総合所得税との関係 246
1 我が国所得税法の基本的な構造 246
2 担税力の過小評価 247
3 点検結果 249
第6節 居住地管轄との関係 249
1 我が国の居住地管轄 249
2 非永住者該当要件の適正性 250
3 点検結果 252
第7節 全世界所得課税との関係 252
1 原則国外源泉所得の全てを課税対象外とすること 252
2 外国税額控除との関係 254
3 租税条約との関係 257
第8節 発生主義との関係 263
1 発生主義を採用する理由 263
2 年度帰属の操作 263
3 支払手段の多様化 264
4 点検結果 265
第9節 制度存続の必要性 266
1 検討 266
2 結論 267
第3章 改善案 268
第1節 主要な問題点 268
1 実態の把握が不完全であること 268
2 国内払いや送金が課税要件とされていること 270
3 原則国外源泉所得の全てを課税対象外とすること 271
第2節 改善案 271
1 幅広い非永住者の実態を把握すること 271
2 国内払いや送金という課税要件の廃止 273
3 全世界所得課税への回帰 273
第3節 30%ルーリング 275
1 オランダ個人所得税の概要 275
2 30%ルーリング 276
3 我が国への輸入の是非 277
第4節 小括 279
結びに代えて 280