岡村 秀直
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的

制限超過利息による違法利得に係る経済的効果が、その後にその行為が無効であることに基因して失われた場合に、各事業年度の益金の額から減算されることにより生じる法人税の還付を求めた更正の請求について、判断を異にした裁判例がある。東京高裁平成26年4月23日判決・訟月60巻12号2655頁(最高裁平成27年4月14日第3小法廷決定(上告棄却・上告不受理)により確定)及び大阪高裁平成30年10月19日判決・判タ1458号124頁(上告受理申立て)は、異なる倒産処理法制を採用しており、それぞれの会計処理が判断に影響を与えたのか、あるいは、倒産処理法制の選択を含む他の要素が判断に影響を与えたのかが、必ずしも明らかとはいえない。
 法人税における所得金額の計算は、公正処理の基準に従って計算される(法法22C)とし、この基準に基づき、契約の解除又は取消し等の事実が生じた場合における損失の額は、継続企業であることを前提に前期損益修正損として、それらの事実が生じた事業年度の損金の額に算入することとされている(法基通2-2-16、法人税基本通達逐条解説)が、この前提が異なる場合の取扱いは明らかではない。また、両判決は、いわゆる「公正処理基準」、「管理支配基準」、「後発的事由による更正の請求」など論点が企業会計、税法、民法と多岐に渡り、それぞれが交錯しているといえる。
 このため、各論点を概括し検討するとともに、継続企業であることを前提としない法人において、既に行われた私法上の法律行為が無効となった場合に生じた損失の法人税法上の取扱いについて、研究・整理する。

2 東京高裁平成26年4月23日判決・訟月60巻12号2655頁

(1)概要
 本件は、更生会社A株式会社(以下「本件更生会社」という。)の更生管財人(原告・控訴人・上告人)が各事業年度(以下「本件各事業年度(東京)」という。)において、利息制限法に規定する利率(以下「制限利率」という。)を超える利息の定めを含む金銭消費貸借契約に基づき利息及び遅延損害金(以下「約定利息」という。)の支払を受け、これに係る収益の額を益金の額に算入して法人税の確定申告をしていたところ、本件更生会社についての更生手続(以下「本件更生手続」という。)において、約1兆3,800億円の過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定したことから、本件更生会社の管財人である控訴人が、本件各事業年度(東京)において益金の額に算入された金額のうち更生債権に対応する制限利率を超える約定利息に係る部分は過大であるとして、同部分を益金の額から差し引いて法人税の額を計算し、本件更生会社の本件各事業年度(東京)の法人税に係る課税標準等又は税額等につき各更正をすべき旨の請求(以下「本件各更正の請求(東京)」という。)をしたことに対し、処分行政庁であるB税務署長(被告・被控訴人、被上告人)は、更正をすべき理由がない旨の各通知の処分(以下「本件各通知処分(東京)」という。)をしたことから、控訴人が、被控訴人に対し、主位的に、本件各通知処分(東京)の取消しを求め、予備的に、民法703条に基づき、本件各更正の請求(東京)に基づく更正がされた場合に還付されるべき金額に相当する金額の不当利得の返還を求める事案である。
 原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が控訴した。

(2)東京地裁(平成25年10月30日判決・判時2223号3頁)の判旨
 棄却

イ 争点1(本件各更正の請求(東京)が通則法23条の要件を満たすか否か)について
 @「・・・本件更生会社の本件各事業年度の法人税に係る課税標準等若しくは税額等の計算が法人税法の規定に従っていなかったか否か又は当該計算に誤りがあったか否かが問題となる。」
 A「・・・法人の各事業年度の所得金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とし(法人税法22条1項)、益金の額に算入すべき金額を同条5項所定の資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益の額とする一方(同条2項)、損金の額に算入すべき金額を同条3項各号に掲げる費用又は損失の額とし、上記の収益の額及び損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(公正処理基準)に従って計算されるものとする旨を定めている(同条4項)。また、・・・「企業会計の基準」等の文言を用いず「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」と規定していることにも照らすと、現に法人のした収益等の額の計算が、法人税の適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的(同法1条参照)とする同法の公平な所得計算という要請に反するものでない限りにおいては、法人税の課税標準である所得の金額の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から定められたものと解され(最高裁平成4年(行ツ)第45号同5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)、法人が収益等の額の計算に当たって採った会計処理の基準がそこにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)に該当するといえるか否かについては、上記に述べたところを目的とする同法の独自の観点から判断されるものと解するのが相当である。
 また、・・・法人が特定の事業年度において金銭の貸付けの取引に係る利息又は遅延損害金の債務の弁済として金銭の支払を受けた場合に関し、異なって解釈すべき根拠は見当たらない(最高裁昭和46年判決参照)。
 そして、以上に述べたところからすると、各事業年度の収益又は費用若しくは損失について、・・・前期損益修正の処理は、法人税法22条4項に定める公正処理基準に該当すると解するのが相当である。」
 B「以上に述べたところを前提とすれば、・・・本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の「計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」になるとはいえない」(丸数字は筆者が加筆した。)。

ロ 争点2(不当利得返還請求権の有無)について
 「・・・本件更生会社が納付した本件各事業年度の各法人税額について、本件全証拠によっても、原告が主張するように「法律上の原因」のないこと(民法703条)に該当する事由が存在するとは認め難いものというべきである。原告が指摘する最高裁昭和49年判決は、本件とは事案を異にするから、同判決に基づく原告の主張も採用することができない。」

(3)東京高裁の判旨
 棄却
 (東京地裁判決の「理由」をそのまま引用し、それに加え次のとおり判示した。)「前期損益修正の処理は、法人税法22条4項に定める公正処理基準に該当すると解される一方、本件更生会社について、これと異なり過年度所得の更正を行うべき理由があるとはいえず、通則法23条1項1号に該当するものとは認められず、本件更生会社が納付した法人税について法律上の原因がないともいえないことは、前記引用に係る原判決の説示のとおりであり、」また、「本件更生会社は、本件更生手続において、会社分割によってその主たる事業である消費者金融事業をスポンサー企業に譲渡し、本件更生会社自体は継続的に所得を計上する法人とはせずに清算業務を行い、解散することとしたものであり、その結果、前期損益修正による税務処理によって課税関係の調整を受ける余地がなくなったが、これは、本件更生会社が上記のような更生計画を立てたことによる結果であるから、そのことをもって、本件更生会社について、更生会社一般において特段の手当がされていない前期損益修正の処理と異なる処理を行うべき理由は見いだし難いし、本件更生会社により納付された法人税を被控訴人が保持し続けることが著しく公平に反し、不当利得としてその返還請求を認めるべきということはできない。」

3 大阪高裁平成30年10月19日判決・判タ1458号124頁

(1)概要
 本件は、破産者株式会社X(以下「本件破産会社」という。)の破産管財人(原告・控訴人)が、〔1〕主位的に,本件破産会社の平成7年度から同17年度まで(ただし、同11年度を除く。)の各事業年度(以下「本件各事業年度(大阪)」という。)に係る法人税の確定申告(以下「本件申告」という。ただし、その後更正がされた事業年度分については更正後のもの。以下同じ。)について控訴人が平成27年6月19日付けでした各更正の請求(以下「本件各更正の請求(大阪)」という。)に対して、Y税務署長(被告・被控訴人)が同年9月14日付けで更正すべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分(大阪)」という。)をしたことについて、本件破産会社の破産手続(以下「本件破産手続」という。)において一般調査期間の経過をもって総額555億3373万9096円の過払金返還請求権が破産債権者表に記載されることにより破産債権として確定したことが通則法23条1項1号及び同条2項1号に該当するから、これに対応する法人税額が減額更正されるべきであるのに、これを認めなかった本件各通知処分(大阪)は違法であると主張して、被控訴人に対し、本件各通知処分(大阪)のうち法人税額合計5億円の範囲での一部取消し(一部請求)を求めるとともに、〔2〕予備的に、本件各通知処分(大阪)が適法であるとしても、被控訴人は本件各事業年度(大阪)において益金の額に算入された上記各過払金返還債権に対応する同事業年度の法人税相当額66億5526万3845円を法律上の原因なく利得している旨主張して、不当利得返還請求権に基づき、そのうち5億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年3月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

(2)大阪高裁の判旨
 控訴認容。原判決一部取消。

イ 総論

・ 「控訴人が本件破産会社についてした本件会計処理は法人税法22条4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)に合致するものであり是認されるべきであった」。

・ 「・・・本件破産会社が本件過払金返還債権1に係る不当利得返還義務を負うことが確定判決と同一の効力を有する破産債権者表の記載により確定し、その結果、破産会社に生じていた経済的成果が失われたか又はこれと同視できる状態に至ったと解されることにより、本件申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なることが確定したというべきである」。

ロ 争点(1)(本件過払金返還債権1が破産債権者表に記載され、当該債権に係る不当利得返還義務が確定判決と同一の効力により確定したことをもって、本件各更正の請求(大阪)が通則法23条1項及び2項所定の要件を満たすか)について

(イ) 通則法23条1項及び2項の関係
 「・・・本件においては、まず、通則法23条1項の該当性、すなわち、本件各更正の請求の対象である本件申告が、課税標準等若しくは税額等の計算において租税実定法である法人税法の規定に従っていなかったか否か、又は法人税法の規定に照らして当該計算に誤りがあったか否かについて検討し、その後に同条2項の該当性(後発的事由の有無)を検討することとする。」

(ロ) 通則法23条1項1号該当性
 「法人税法22条4項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解され(最高裁平成4年(行ツ)第45号同5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁)、・・・前期損益修正による処理又は過年度遡及会計基準による遡及処理のみが公正処理基準に合致する唯一の会計処理としなければならないと解するのは相当ではない。そして、破産手続が、裁判所の監督の下で、利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ることを目的とする手続であり(破産法1条、75条1項)、国民の納税義務の適正な実現を通じて国税収入を確保することを目的とする国税徴収法(同法1条参照)においても、破産手続は強制換価手続に、破産管財人は執行機関にそれぞれ位置付けられていること(同法2条12号、13号)をも考慮すると、上記の場合における収益・費用等の帰属年度に関する会計処理については、破産管財人において、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行と矛盾せず、かつ、破産手続の目的に照らして合理的なものとみられる会計処理を行っている場合には、法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、法人税法上も上記会計処理を公正処理基準に合致するものとして是認するのが相当である。」
 (破産会社に前期損益修正の処理等に係る会社法の規定の適用がないこと)
 「・・・本件計算書類関係諸規定は、破産会社には適用されないと解するのが相当である。このことは、本件破産会社について、本件計算書類関係諸規定に依拠する前期損益修正の処理や過年度遡及会計基準に係る遡及処理が唯一の公正処理基準とはいえないことの裏付けとなる。」
 (破産会社の場合、過年度の確定決算の修正に伴う弊害は認められないこと)
 「・・・破産手続が、裁判所の監督の下で、利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ることを目的とする手続であり、破産会社は、破産手続による清算の目的の範囲内において、破産手続が終了するまで存続するに過ぎない存在であること(破産法1条、35条、75条1項)を踏まえると、破産会社において過年度に計上した収益の額を修正する必要がある場合に、破産管財人において過年度の確定決算自体を修正したとしても、そのことにより、株主等の利害関係人や債権者との利害調整の基盤が揺らぐとは考えられない。このことは、租税法律関係の処理についても同様であり、国税徴収法上の執行機関でもある破産管財人が過年度の確定決算を修正することをもって、収益等の発生時期を人為的に操作するものであるということはできないし、法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するということもできない。」(括弧付見出しは筆者が加筆した。)

(ハ) 通則法23条2項1号の該当性
 「・・・通則法23条2項に明確な定めはないものの、同項1号にいう「課税標準等若しくは税額等の計算の基礎となった事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定した」というためには、・・・破産会社において制限超過利息を現実に収受したこと等による経済的成果が失われるか又はこれと同視できる状態になったことを要すると解される。・・・本件破産手続において、・・・各破産債権者に配当したから、少なくともその額の限度では上記経済的効果が失われたことが明らかであるものの、それを超えて、それ以外の破産債権者表に記載された不当利得返還義務についても同様に経済的成果が失われたと解するに疑問がないわけではない。」
 「法人税法が、法人が現実に収受した制限超過利息について、権利未確定の状態であるにもかかわらずこれを益金の額に算入すべき収益の額として取り扱うのは、納税者間の公平という公序の要素が含まれていると解されるところ、当該法人について破産手続開始決定がされ、破産会社自身が利害関係を有さず、専ら顧客ら(破産債権者)の損失の上に、被控訴人が利得を保持し続けることについての利害の調整が問題となる局面において、破産管財人が破産債権者に債権の全部又は一部を現実に弁済(配当)していることを求めるという意味での「経済的成果が失われること」を要求する理由に乏しい。したがって、少なくとも破産管財人による更正の請求が行われたという本件のような場面においては、破産債権者に対する現実の配当を要することなく、前記破産債権者表の記載がされたことをもって経済的成果が失われるか又はこれと同視できる状態に至ったと解するのが相当である。」

(ニ) まとめ
 「本件各更正の請求は、通則法23条1項1号及び同条2項1号のいずれにも該当し、かつ、請求期間内にされているから、いずれも理由がある。」

ハ 更正すべき範囲について
 (略)

3 結論

(1)公正処理基準
 最高裁平成5年判決の規範(「法人税法22条4項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計基準に計上すべきものと解される。」)は、先例性を有する判例と認められ、この枠組みから逸脱した法人の会計処理は、公正処理基準に合致するものとは認められない。「法人税法の企図する公平な所得計算の要請に反するものではない」というのは、解釈の幅が広いものと捉えることができる。また、本稿のこれまでの検討では少なくとも、東京高裁判決における会社更生法適用会社の本件特別損益処理、そして、大阪高裁判決における破産法適用会社の本件遡及的会計処理の各会計処理は、それぞれ企業会計が意図するところと乖離した処理である、というには根拠に乏しいと考える次第である。
 以上から、法人税法独自(固有)観点説や、公正処理基準の検討からだけでは、東京高裁判決及び大阪高裁判決における各法人の過払金返還債権に係る返還金の会計処理の是非や同返還金の損金の額への算入時期を判断することができないといわざるを得ない。

(2)管理支配基準
 過去に現実に受け取った私法上無効な収益への課税の修正の問題であるから、債務の確定では足りず、現実の返還を要するのである、との佐藤教授の見解は正鵠を得ており、東京高裁判決及び同判決が判断で引用する原審の東京地裁判決では、管理支配基準の観点からの判断がなされておらず、この点言及すべきであったと思料する。また、大阪高裁判決の「・・被控訴人が利得を保持し続けることについての利害の調整が問題となる局面において、破産管財人が破産債権者に債権の全部又は一部を現実に弁済(配当)していることを求めるという意味での「経済的成果が失われること」を要求する理由に乏しい。」とする判示は管理支配基準を正解するものではなく、最高裁昭和38年判決及び最高裁昭和46年判決と不整合であると考えられるのではないか。すなわち、大阪高裁判決は稼得した利益の返還のケースで、未収の制限超過利息からの利得は、法律上期待されない事実上の期待にすぎないから、未だ所得の実現をもたらさないことの反射的な解釈として、債務が確定するだけでは足りず現実の利得の返還を要することになるのである。
 次に、過払金返還債権に係る返還金の現実の返還がなされた数額から算出される税額は還付できるとしたときに、果たして、どの時点で現実の金員の返還があれば、経済的成果の喪失があったと認められるのであろうか。この点については後述する(5)で検討する。

(3)不当利得返還請求
 租税法における不当利得の法理によって救済した例としては、最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁がある。この最高裁判決が、いわば後発的な無効を認め、あえて不当利得の法理によって、納税者を救済するのが正義公平の立場であるとしたのは、昭和36年以前の所得については、このような救済規定が全く欠けていたことが最大の理由である。
 なお、現行法のように更正の請求が設けられている場合には、納税者は、その是正手段により救済を受けるべきであり、このような手段によることなく直ちに民法上の不当利得返還請求を行使することは許されないと解されている(最判一小昭和53.3.16・訟月24巻4号840頁)。したがって、本稿ではこの不当利得返還請求の視点からの検討は見送ることとする。

(4)倒産処理法制の選択
 破産法、民事再生法、会社更生法の各適用会社の各確定債権は、確定判決と同一の既判力を有することからすると、仮に、東京高裁判決や大阪高裁判決の消費者金融会社が制限超過利息等の過払金返還債権が確定し、消費者に対し現実の利得の返還があったとすれば、更正の請求の対象になるものと思われる。その際に適用倒産法制の選択如何により、過払金返還債権に係る返還金の損金算入時期の判断を異にするのは、債務者の資産を処分換価して債権者に配当すること、あるいは、債務者の事業または経済生活を再建し、再建された事業等から生じる収益・収入を債権者の弁済の原資とする倒産処理法制の目的に反し、倒産処理の選択肢の幅を狭めることに繋がりかねないものと考える。

(5)通則法23条2項(後発的事由に基づく更正の請求)

イ 通則法23条2項の該当性
 東京高裁判決における「過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定したこと」と大阪高裁判決における「過払金返還請求権が破産債権者表に記載されることにより破産債権として確定したこと」とが、通法23条2項1号の「事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む)」に該当するか否かについては特に疑義なく該当すると考えている。法人税にあっては、この後発的な更正の請求の大部分が適用されないこと、つまり、「・・・当該事業年度において契約の解除又は取消し、値引き、返品等の事実が生じた場合でも、これらの事実に基づいて生じた損失の額は、当該事業年度の損金の額に算入するのであるから留意する。」(法人税基本通達2-2-16)が後発的事由に基づく更正の請求を封じていることに関しては、継続企業であれば、損失が確定した事業年度で損金の額に算入することとしても、救済することができるが、継続企業を前提としない本件更生会社(更生計画において、営業権を譲渡したうえで更生会社そのものは清算することとされた。)及び本件破産会社は、会社を清算することを前提としており、他に救済方法が存在せず、通法23条2項が適用されるべきケースと考えられる。

ロ 通則法23条1項の該当性
 通法23条2項に該当するとしたときに同法23条1項各号に掲げるもののいずれかに該当する必要があると考えられている。この点について検討すると、前期(2)に記載のとおり過払金返還債権に係る返還金の現実の返還が必要なのは、先例性のある最高裁判決(最高裁昭和38年判決及び最高裁昭和46年判決)の解釈によるものである。すなわち、大阪高裁判決は稼得した利益の返還のケースで、未収の制限超過利息からの利得は、法律上期待されない事実上の期待にすぎないから、未だ所得の実現をもたらさないことの反射的な解釈として、債務が確定するだけでは足りず現実の利得の返還を要することになるのである。つまり、管理支配基準を適用すべき費用(損失)の損金算入時期が、費用(損失)を必ずしも被ったとまではいえない状況下(費用(損失)の確定にとどまり、現実の支払いの蓋然性に乏しい。)において、現実の利得の返還を要すると考えられるがために、更正の請求をする時点で、債務者である会社は、顧客に対して金銭による利得の返還をする必要があると解釈されるのである。
 以上のことから、過払金返還債権に係る返還金の現実の返還がなされない限りは、「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」(通法23条1項1号)には当たらないと解すべきである。
 そして、東京高裁判決及び同判決が引用する東京地裁判決は過払金返還債権に係る返還金の現実の返還についての言及がなされてなく、この点の判断をすべきであったといえる。また、大阪高裁判決における「破産管財人が破産債権者に債権の全部又は一部を現実に弁済(配当)していることを求めるという意味での「経済的成果が失われること」を要求する理由に乏しい。したがって、少なくとも破産管財人による更正の請求が行われたという本件のような場面においては、破産債権者に対する現実の配当を要することなく、前記破産債権者表の記載がされたことをもって経済的成果が失われるか又はこれと同視できる状態に至ったと解するのが相当である。」とする判示は上記解釈を前提にすると、最高裁昭和38年判決及び最高裁昭和46年判決を正解するものではないと考えられるのではなかろうか。

(6)過払金返還債権の消滅時効の起算点と減額更正の遡及期間
 過払金返還債権は、一般論としては過払金発生時から10年で時効により消滅すると考えられる。ところが、過払金充当合意があると認められるリボルビング方式のような契約では、取引が続く限り、時効の起算点につき、法律上の障害があるというべきであり、10年を超えて認められるケースがあると考える。
 継続企業を前提としない本件更生会社(更生計画において、営業権を譲渡したうえで更生会社そのものは清算することとされた。)及び本件破産会社は、会社を清算することを前提としており、通法23条2項により救済するべきケースであることは前記(5)に記載したとおりである。そして、佐藤教授が述べられる、過払金の現実の返還が、過去に課税された所得の消長と密接に結びついていると考えられ、前期損益修正によったのでは課税関係の修正が不十分であることが確実に見込まれるという事実関係の下では、所得額の遡及的な修正をする見解に賛同したい。あえて個人的な意見を述べるとすると、それは公正処理基準ではなく管理支配基準に基づくものであり、単に制限超過利息による過大収益がなかったものとして算出された過去の各事業年度の法人税額といえる。また、法人税法に所得税法152条のような更正の請求の特例規定がないとしても、通法23条2項という明文の規定がある以上は本件更生会社及び本件破算会社における同法の適用可能性を排除すべきではないと考える。
 この意見は、財政の安定性の観点からすると、批判を招きかねないものと思われるが、現実には、継続企業を前提とするならそもそも検討の土台に上らないし、継続企業を前提としない場合でも、制限超過利息による過払金返還債権に係る返還金の減額更正は、債務の確定だけでは足りず、現実の返還がなされた額に対応する法人税額に限り、返還されることを踏まえると、会社更生法や破産法が適用され複数事業年度に遡って返還できる会社が、発現する可能性は低いと思料されるので、課税実務に大きな影響を与えることは想定できない。


目次

項目 ページ
はじめに 188
1 研究の目的 188
2 問題の所在 188
第1章 東京高裁平成26年4月23日判決・訟月60巻12号2655頁 192
1 事案の概要 192
2 時系列 192
3 争点 194
4 東京地裁の判旨 194
5 東京高裁の判旨 195
第2章 大阪高裁平成30年10月19日判決・判タ1458号124頁 197
1 事案の概要 197
2 時系列 198
3 争点 199
4 大阪高裁の判旨 199
第3章 両裁判例を通しての検討 204
第1節 公正処理基準 204
1 意義 204
2 会計処理 207
3 評釈及び論説 207
4 判示事項及び問題点 219
5 検討 221
6 結論 226
第2節 管理支配基準 226
1 意義 227
2 評釈 229
3 判示事項及び問題点 237
4 検討 239
5 結論 243
第3節 不当利得返還請求 244
1 意義 245
2 評釈 245
3 検討 247
第4節 倒産処理法制の選択 248
1 判示事項及び問題点 248
2 検討 249
3 結論 252
第5節 通則法23条2項(後発的事由に基づく更正の請求) 252
1 趣旨 253
2 評釈 253
3 判示事項及び問題点 255
4 検討及び結論 256
第6節 過払金返還債権の消滅時効の起算点と減額更正の遡及期間 259
1 意義 260
2 評釈 260
3 検討 262
4 結論 264
結びに代えて 266