木村 美由紀
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

平成13年に導入された組織再編税制においては、法人がその有する資産を組織再編成により移転する前後で経済実態に実質的な変更がない場合(その法人による移転資産に対する支配が継続している場合)には、課税関係を継続させるのが適当であるとの考え方から、適格組織再編成として移転資産の譲渡損益を繰延べることし、また、株主の投資が継続している場合には株式の譲渡損益を繰延べることとしている(平成12年政府税制調査会「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的な考え方」(以下「基本的考え方」という。))。
 この考え方に基づき組織再編税制では、完全支配関係法人間の再編、支配関係法人間の再編、共同で事業を営むための再編などの区分に応じて適格要件が定められ、その後も、組織再編に関して、社会経済情勢の変化に伴い、度々、改正が行われてきた。
 ところが、平成29年の改正により適格組織再編とされたスピン・オフは、自社の既存事業を分割型分割により新設法人に切り出す組織再編の形態であり、本改正前は「移転資産に対する支配の継続性」の適格要件に該当せず非適格組織再編とされていたことから、基本的な考え方との整合性が問題になるとの見解も出ている。
 組織再編税制の法令の解釈において、文理上必ずしも明らかでない場合においては、その趣旨を念頭に置き解釈を行わなければならないところ、「移転資産に対する支配の継続性」、「株主の投資の継続性」及び「経済実態について実質的に変更がない」などの考え方と組織再編税制に係る法令の解釈や判例を通じて適格要件を整理・分析し、納税者の予見可能性の面から検討を行う。

2 研究の概要

(1)企業組織再編に係る法制度の沿革
 経済社会の要請により企業の組織再編行為の柔軟化に向け、関係法令の整備が行われている。
 一般に、税法、商法及び企業会計には、企業の所得あるいは利益を計算するという点で共通性があるが、他方、これらには、それぞれ固有の目的と機能がある。このため、税法、商法及び企業会計の取扱いに差異が生じることは避けられない。このような点を考慮し、組織再編成に係る税制においては、広く申告調整を認めることにより、商法や企業会計の求める処理を妨げないように配慮がなされていた。
 平成9年に事業支配の過度の集中を防止するという目的を踏まえた上で持株会社を解禁とする独禁法が改正され、設立・転化が認められた。
 また、同年には「銀行持株会社設立のための銀行等に係る合併手続の特例等に関する法律」が制定され、いわゆる三角合併方式による合併が認められ、銀行持株会社の設立を円滑にするための措置が講じられた。
 さらに、企業組織の再編を容易にするため、商法の一部改正として会社分割の採用が検討され、平成11年に、「株式交換制度」、「株式移転制度」が商法上設けられた。
 平成12年に会社分割法制が創設され改正商法が施行されることに伴い、企業の柔軟な組織再編成を可能にするため、わが国では、企業組織の変更について、課税により組織再編成に伴う取引が妨げられないようにという配慮から、現物出資、株式交換及び株式移転においては、租税特別措置法として認識され、その後の平成13年に組織再編税制の導入に至った。
 会社分割や合併が行われた場合、平成12年12月の税制調査会における答申によると、「会社分割が行われた場合会社間の資産の移転、各種引当金などの引継ぎ、株式などの交付といった局面で課税の取扱いが問題になると議論されている。
 平成17年に会社法が成立し、同時に会社法に係る諸制度間の規律の不均衡の是正とともに、各種制度の見直し等(実質改正)が行われ、株式会社と有限会社の統合、組織再編行為に係る規制の見直し等がなされた。会社法では、組織再編行為の組み合わせが多様化されている。
 平成30年度改正により拡充された産業強化法は、事業の生産性を相当程度向上させることを目指して、組織再編等を通じ事業構造を変更し、新商品の開発等に取り組む事業者は、実施しようとするこれらの取組に関する計画書を作成し、「事業再編計画」として認定を受ける(産業強化法23条)、認定を受けた事業者は、その計画の実施に関して、各種の政策的支援を受けることができる。このような産業政策によって、組織再編成を促進し企業の国際競争力強化を図っている。

(2)組織再編税制の経緯と立法趣旨
 平成12年に会社分割法制が創設され改正商法が施行されることに伴い、税制面での対応が不可欠であり、税制全般にわたる新たな枠組みを早急に構築する必要があった。企業組織の変更について、課税により、組織再編成に伴う取引が妨げられないようにという配慮から、租税特別措置法として認識され、平成13年に、組織再編税制の導入に至った。会社分割や合併が行われた場合、会社間の資産の移転、各種引当金などの引継ぎ、株式などの交付といった局面で課税の取扱いが問題になる。
 諸外国の例を見ると、会社分割により移転する資産については、その譲渡益に課税することを前提としている。しかし、会社分割には多種多様なものがあり、このうち、通常の資産の移転とは異なり、分割の前後で経済実態に実質的な変更がない会社分割については、税制上も中立的な取扱いとするとの考え方から、特例として課税の繰延べを行うものとされている。
 また、合併に係る税制上の取扱いについても、会社分割に係る税制と整合性のある取扱いとなっている。
 「企業組織再編成を円滑に進める観点からは、これに伴い形式的に資産が移転する場合には移転資産の譲渡損益を繰り延べることが要請されるが、単なる資産の売買や営業譲渡についてまで資産の譲渡損益を繰り延べることは適当ではありません。このため、企業組織再編成が行われる場合でも、譲渡損益が繰り延べられるものとそうでないものとを区別することが必要となります。」とし、「企業組織再編成により移転する資産の譲渡損益の取扱いについては、移転資産に対する支配が企業組織再編成後も継続している場合には、移転資産の譲渡損益を繰り延べることが考えられます。」といった理念から税制を構築している。
 組織再編成により資産を移転する前後で経済実態に実質的に変更が無いと考えられる場合には、課税関係を継続させるのが適当であると考えられるとした「基本的考え方」から、課税の繰延べを認める適格組織再編成の要件が創設されている。
 法的な仕組みが異なるものの実質的に同一の効果を発生させることができる組織再編成における取引に対して異なる課税を行うこととすれば、租税回避の温床を作りかねないなどの問題があるとして、実質的にも同様の形態には同様の課税を考え、課税の公平や中立性を維持しようとするものである。
 また、組織再編成創設の際には、今後も経済社会の変化に応じた改正が想定されていたことから、詳細な個別要件を具備することは困難とされていた。
 したがって、企業組織再編成の多様な形態や方法は、複雑かつ多様なものが想定され租税回避に利用される恐れがあるため、企業組織再編成に係る包括的な租税回避防止規定(法法132条の2)を設ける必要があった。

(3)組織再編税制における「継続性」と適格要件

イ 「支配の継続性」
 平成12年の税制調査会では、組織再編成に伴い形式的に資産が移転する場合には移転資産の譲渡損益を繰り延べることが要請されるが、単なる資産の売買や営業譲渡についてまで資産の譲渡損益を繰り延べることは適当ではなく、企業組織再編成が行われる場合でも、譲渡損益が繰り延べられるものとそうでないものとを区別することが必要となるとし、企業組織再編成により移転する資産の譲渡損益の取扱いについては、移転資産に対する支配が企業組織再編成後も継続している場合には、移転資産の譲渡損益を繰り延べるとしている。
 組織再編成における合併、分割、現物出資、事後設立には、一方の法人から他方の法人に資産等を移転するという点で共通性があることから、移転資産の「支配の継続性」とは、組織再編成に当たって、従前の事業の状態が継続しているということであれば、適格合併等として従前の課税関係を継続させたり、過去の欠損金の繰越額を引き継がせたりすることに合理性があるということと考えられている。
 また、完全に一体と考えられる持ち分割合の極めて高い法人間の組織再編成及び企業グループとして一体的な経営が行われている場合、移転した事業が組織再編成後も継続することを要件とすれば、「従前の事業の状態が継続」していることとなる。
 企業グループ外の法人間での組織再編成においても、「支配の継続」は、共同で事業を営むための組織再編成であれば「従前の事業の状態が継続」していると考えられるとした。
 株主においても「支配の継続性」は、完全支配関係または支配関係のある法人間における株主の投資が継続していると認められるときに譲渡損益が繰り延べられることになる。
 「支配の継続」の具体例としてグループ内組織再編成は理解できるものであるが、「共同で事業を行うための組織再編成」がなぜに「支配の継続」を具体化したものであるのかは明らかにされていないため、「支配の継続」という概念は、言葉は明瞭であるが、その内容は明確でなく曖昧である。グループ内組織再編成、共同事業組織再編成における適格要件は、「支配の継続」、「投資の継続」、「事業の継続」の各概念に基づいて再整理が必要に思われるといった意見もある。

ロ 「投資の継続性」
 組織再編成における株主の課税について、分割型の会社分割や合併により、分割法人や被合併法人の株主は、分割承継法人や合併法人の新株等の交付を受けることになる。この場合には、原則として旧株の譲渡損益の計上を行なうことになるが、株主の投資が継続していると認められるときには、譲渡損益の計上を繰り延べることができる。
 この投資の継続は、株式を実質的に継続保有しているとみることができる場合に認められるものであり、基本的には、株主が金銭などの株式以外の資産の交付を受けるか否かにより判定することとなっている。
 また完全支配関係及び50%超の支配関係にある法人間については株式の継続保有が組織再編成における適格要件となる。
 支配株主の存在しない法人については、株式継続保有要件は課されないが、支配株主が存在しない法人については、そもそも当該法人の株主は当該法人の移転資産を支配していないことから、株式継続保有要件と「移転資産に対する法人支配の継続」とが無関係であると考えられることによるものと見ることができるとした見解がある。

ハ 会社分割及び現物出資における「継続性」
 会社分割及び現物出資について、「法人は、その事業の一部を切り離したり、事業の一部を基礎として新たな法人を設立することが少なくない。これは、会社分割若しくは現物出資により行われるが、租税法においては現物出資でも、また、会社分割でも、基本的には、資産の移転がなされることに注目される。現物出資もしくは分割(分社型分割)により、資産を移転した法人は、資産と交換に株式を取得するのであるが、この場合には、支配する法人の株式を取得するものであるため、実質的には支配関係・投資は継続している。
 さらに、現物出資や分社型分割では、資産の移転があっても、出資する法人もしくは分割法人が新設会社の株式を実質的にすべて所有する場合には移転資産が株式に変化したのみであり、資産に対する支配・投資が実質的には継続しているものとされる。」としている。
 平成29年度税制改正においてスピン・オフ税制の説明では、「『移転資産に対する支配が再編成後も継続している』かどうかについて、現行の組織再編税制は、グループ経営の場合には、グループ最上位の法人がグループ法人及びその資産の実質的な支配者であるとの観点に立って判断しているという側面もあり」と表現されている。
 つまり、移転資産に対する「支配の継続」という場合に、確かにかつては、その移転資産を包含する事業を重視し、一定の関係を持った当事者において引き続きその事業が営まれていることによって、移転資産に対する支配の継続が存在していると説明していたが、その一方で、移転資産に対する支配として事業から離れてグループ経営、特に完全支配関係があるグループ法人においては、どこに資産があってもその資産に対する支配が継続しているといった見方に基づく説明も登場している。
 分割型分割の「継続性」については、「分割型分割においても、資産の移転が含まれるが、分割法人がその株主の保有株式割合に応じて分割承継法人の株式を交付する場合、もしくは合併法人の株主が被合併法人の株式を取得する場合には、資産の保有が株式という有価証券に変化したのみであり、事業に対する支配が実質的には継続しているという要件を満たす限り、損益計上の繰延べがなされる。」と述べられ実質的に支配関係の継続性は有しているとされている。

ニ 米国の組織再編における継続性
 我が国の組織再編税制における「支配の継続性」、「投資の継続性」が損益計上の繰延べの根拠であるとされており、その基礎理論は、アメリカ連邦法人税における利益の継続性、もしくは、投資の継続性という判例に基づく法理と、ほぼ同様のものとして理解できるものであるといわれている。
 米国では、組織再編の課税繰延の適用を受けるためには、形式的要件(内国歳入法368条)を満たさなければならない。また、統合型の組織再編の場合、株主継続保有要件、事業目的要件、事業継続要件といった判例を基に規則化された実務要件を満たす必要がある。
 組織再編成の税制は、投資者(株主)の法人に対する投資の継続という経済的実態に即した取扱いであり、企業の立場から事業環境に即した効率的な組織再編成、すなわち企業の健全な意思決定を租税が阻害しないという意義がある。
 一方で、組織再編成の税制は、租税負担の公平を損なう租税回避の手法で用いられる可能性がある。すなわち、税制の趣旨に関わりなく租税負担を逃れる目的で法律上の要件を形式的に満たすなど制度が濫用される懸念を包含している。そこで、アメリカでは、原則非課税とされる組織再編成の計画による交換取引と、原則課税される売却等取引との区別を目的に、「投資持分の継続性」、「事業の継続性」および「事業目的」等の司法上の法理が裁判所により形成されてきた。

ホ 組織再編税制の法解釈

(イ) 租税法の解釈
 我が国の租税法の解釈原理は、租税法律主義(憲法30条、84条)に基づく「文理解釈」である。租税法を解釈するに際しては、租税法規の立法趣旨・目的の適切な役割に関しての正確な理解が不可欠であるとされている。
 文理解釈の結果、なお複数の解釈可能性が残る場合には、租税法律主義の下でも、租税法規の趣旨・目的すなわち租税立法者の価値判断を参酌して、租税法規の意味内容を一義的に確定することが許されるとする(目的論的解釈)。
 文理解釈は、法の趣旨・目的、法的な構造に沿ったものでなければならないとされ、租税法規の立法趣旨を無視して厳格な文理解釈を行った結果、著しく不合理な結果が生じたとしても許容されると解することは、むしろ、租税法律主義や租税平等主義に反するものとなり、目的論的解釈の必要性を示していると考えられる。

(ロ) 組織再編税制における形式と実質
 組織再編成においては、「意図した経済効果を達成するために、複数の取引形式が考えられる場合、当事者は、自分にとって有利なものを選択するであろうし、さらには課税繰延扱いを受けるように(あるいは受けないように)するために、多段階行為や迂回行為をすることもあり得る。これらは、結局、経済実態の等しい取引を同じように扱っていないルールの問題ともいえる。」と指摘している。意図した経済効果を達成するために、自分にとって有利な取引を作出することもあり得ると考えることもできる。このような場合に、個別規定を形式的にのみ適用すべきか、当該個別規定の実質・実態をも考慮して判断すべきかが問題となる。
 一方で、「租税法は侵害規定であり、法的安定性の要請が強くはたらくから、その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない。」とする租税法律主義により、納税者にとっての明確性や予見可能性を確保するためにも、統一的・画一的で公平な課税・執行を確保するためにも、文理に即して解釈すべきことになるとして形式的な法解釈を取るべきとの意見も多い。
 適格組織再編成の判断は、立法時に「資産の移転が形式と実質のいずれにおいてもその資産等を手放すものであるとき」とされ、個別規定である適格要件は、形式と実質的な判断を行うために設けられた規定であるといえる。
 しかしながら、現行の組織再編において「支配の継続性」、「投資の継続性」は、形式的に適格要件を充足しているか否かで判断していることが多く、組織再編成の法的解釈において、どこまで目的論的解釈することができるのかが不明瞭である。

(4)課税上の問題

イ 判例の検討
 「支配の継続性」及び「投資の継続性」に係る適格要件の適否が争点となった判例(ヤフー事件、IDCF事件、TPR事件)おいては、個別規定である適格要件を形式的または実質的に判断するかが争点となり、その立法趣旨に照らし目的論的解釈等により、組織再編成の適格性を判断するのではなく、いわゆる一般否認規定である法法132条の2により不当性を判断している。
 組織再編成は、立法当初よりタックス・プランニングによって租税回避行為が懸念されていたことから、いわゆる一般否認規定(法法132条の2)が設けられているが、当該事件においては、実質的にみれば個別規定である適格要件についても充足しないと考えられる。
 ヤフー事件最高裁判決及びIDCF事件最高裁判決において、個別規定については形式的に課税要件を充足するよう作出されたものとし、組織再編成は、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避行為の手段として濫用される恐れがあることから、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として法人税法132条の2が組織再編税制に係る各規定の濫用防止規定であることを明確にしたとされている。
 また、TPR事件は、ヤフー・IDCF事件最高裁判決を前提・参照しつつ、適格合併等の個別的要件を形式的に充足していたとしても「行為が不自然かどうか」を税制が想定した組織再編の趣旨を念頭に判断されることを示したという点で評価できるものと考える。
 経済社会の変化に応じ、改変される組織再編税制において、一般否認規定は必要と考えられるが、納税者の予見性の観点からは、一般否認規定の可否判断は困難であり、個別規定の適否を含め判例による判断基準の積み重ねが必要となる。

ロ 個別規定と法人税法132条の2
 租税回避の本質に即した定義として、私法上有効な行為でもって、@主として税負担を減少させる目的で、A租税法上の効果を生じさせる当該租税法規の文言には反しないものの、その趣旨に反する態様によって、Bその適用を免れ又はこれを適用して税負担を軽減又は排除することであり、これは,租税回避とは、租税法規の濫用であるとするもので,現在では,OECDや世界の諸国における租税回避の捉え方にも合致するものであるとされている。
 組織再編税制における一般否認規定が適用される場面は、文言の上では要件を充足する又は充足しないものの、その趣旨・目的に反するというロジックによって、その効果発生を認めない又は認めるという構造を持っており、個別規定を書き換える側面がある。一般否認規定は、個別規定と相互補完的に機能することでその存在が認められるものであって、必ずしも個別規定と対峙するようなものであってはならないとされている。
 また、法人税法132条の2があるがゆえに、「組織再編税制に係るすべての個別規定について、その文理に加え、規定の趣旨・目的を考慮して要件充足性を検討しなければいけないことになる。」とされている。
 「立法を吟味して取引の経済実態を踏まえたルールが作られるようになれば、解釈における経済的実質主義を使う必要性はそれだけ減じられる。その意味からも、まずは、現行ルールにおける整合性の精度を上げることが先決であろう。制度そのものに整合性がない場合、それを補うために包括的否認規定に頼るべきではないからである。」との意見がある。

ハ 組織再編成税制の課題

(イ) 個別規定の明確化の必要性
 組織再編成が多様化し、それに応じた適格要件の改正も見込まれることから、基本理念である「支配の継続」、「投資の継続」の考え方においても柔軟な解釈が必要となっている。
 組織再編税制の基本理念は、組織再編成の前後で課税要件の解釈等を行う場合、文理解釈を取り、拡張解釈や類推解釈は避けるべきと考えるが、しかし、立法の趣旨・目的を勘案し解釈を確定していく場合も考えらえる。
 我が国の制定法は、比較的条文数が少なく、不確定概念など抽象的法規範が用いられることも多く、立法部門も司法が判例で法創造を期待しているところがあり、判例による法創造が実際にも重要な役割を果たしていると考えられる。
 意図した経済効果を達成するために、自分にとって有利な取引を作出することもあり得ると考えることもできる。このような場合に、個別規定を形式的にのみ適用すべきか、当該個別規定の実質・実態をも考慮して判断すべきかが問題となる。
 個別規定である適格要件は、形式と実質的な判断を行うために設けられた規定であるが、現行の組織再編において「支配の継続性」、「投資の継続性」は、形式的に適格要件を充足しているか否かで判断していることが多く、組織再編成の法的解釈において、どこまで目的論的解釈することができるのかが不明瞭である。
 組織再編成導入時に、組織再編成を利用した租税回避行為として、「複数の組織再編成を段階的に組み合わせることなどにより、課税を受けることなく、実質的な法人の資産譲渡を行う」ことが挙げられていること、「適格外し」が租税回避行為として否認される可能性、局所的に完全支配関係継続見込要件の充足を判定するだけでは、組織再編成の性格判断(適格か非適格か)が適切に行えない可能性があることなどが組織再編成の一般否認規定が置かれた理由付けであるが、組織再編成が多様化する中、訴訟も増加するものと思われ納税者予見可能性の観点から個別規定の整理は必要と考える。

(ロ) 個別規定の明確化
 組織再編成が多様化し、その都度、税制改正によって適格要件も変遷し、平成13年に導入された組織再編税制の基本理念である「支配の継続」、「投資の継続」の考え方においても広い解釈が必要となっている。このような状況の下、個別規定においては、整理が必要と思われる。
 共同事業要件のうちの特定役員引継要件において、「事業継続」を前提にしているのだから、特定役員が移転先の事業に参画することで共同して事業を継続する要素を加えれば、納税者の予見可能性も高まるものと思慮されることから、特定役員引継要件に対し事業継続に係る補完的要素を加える必要があると考える。
 完全支配関係継続要件については、適格合併の趣旨・目的に照らし事業継続が前提となるのであれば、完全支配関係にある法人間の組織再編成においても組織再編税制が通常想定している移転資産に対する支配の継続(事業の移転および継続)を求める必要があり、その趣旨・目的に関する基準の細則の制定が必要と考える。
 繰越欠損金の引継要件であるみなし共同事業要件においては、従業者引継要件を加え、「被合併法人の従業者のおおむね80%以上に相当する数の者が、合併法人において合併法人の業務に従事すべきことが見込まれており」として、事業と欠損金を引継ぐ法人を同一とすれば、欠損金と事業を同じ合併法人が引継ぐこととなる。
 金銭不交付要件については、金銭を交付すれば適格要件を充足しないこととなり、「適格外し」が可能になることから、租税回避目的で利用されることも可能であり、完全支配関係を1%でも外せば、グループ法人税制外しも行うことができることから、今後検討すべき問題と思われる。
 租税回避行為については、法法132条の2が規定されているものの、租税回避行為を防止することは困難で、新たなる手法によりスキームが作出されることは想像に難くない。そこで、米国法にあるような「事業目的」要件を創設し、明確化を図るべきと考える。

3 終わりに代えて

適格要件を趣旨・目的に適したものに明確化するため細則を設けた場合、組織再編成における適格要件の形式的な適用は法令に沿ったものとなるが、一方で明確化した細則を設けたとしても、租税回避行為が防止されるかは疑問が残る。
 また、過度な規定は企業の組織再編成の行為を阻害する懸念があるところ、適正・公平な課税や納税者の予見可能性の観点からどこまで個別規定を設ける必要があるのかは難しい問題である。
 しかしながら、組織再編成が租税回避行為に利用されるケースは今後も想定されるところであり、多様な租税回避行為について事前に個別規定を設けることは困難であるといった問題があり、細則を設けると租税回避行為はその抜け道を通って行われることも予想されるところである。


目次

項目 ページ
はじめに 20
第1章 組織再編成に係る法制度の沿革 22
第1節 組織再編に関する会社法等の変遷 22
1 企業組織再編をめぐる法改正 22
2 独禁法の改正 22
3 商法等の改正 23
4 産業競争力強化法 28
第2節 組織再編税制の経緯 29
1 組織再編税制の経緯と立法趣旨 29
2 組織再編税制の個別規定 31
3 「継続性」に係る適格要件等の改正の沿革 32
第2章 組織再編における「継続性」と適格要件 38
第1節 「支配の継続性」、「投資の継続性」の意義 38
1 「支配の継続性」と「投資の継続性」の概念 38
2 「支配の継続性」に係る要件 44
3 「投資の継続性」に係る要件 46
4 会社分割及び現物出資における要件 47
5 みなし共同事業要件の継続性と適格要件 50
第2節 米国税制等における継続保有要件 51
1 米国税制の概要 51
2 適格要件 52
3 継続性の考え方 53
第3節 組織再編税制の法解釈 55
1 租税法の解釈 55
2 組織再編税制における形式と実質 57
第4節 小括 58
第3章 課税上の問題 59
第1節 「継続性」を論点とする判例の検討 59
1 ヤフー事件(最判平成28年2月29日判決 棄却、第1審 東京地判平成26年3月18日、第2審 東京高判平成26年11月5日) 59
2 IDCF事件(最判平成28年2月29日判決 棄却、第1審東京地判平成26年3月18日、第2審・東京高判平成27年1月15日) 63
3 TPR事件(高判令和元年12月11日判決、東京地判令和元年6月27日) 66
第2節 法人税法132条の2との関係性 69
1 租税回避 69
2 個別規定と法人税法132条の2 71
第4章 組織再編税制の課題 74
第1節 個別規定の明確化 74
1 「支配の継続」の明確化 74
2 判例からみる個別規定に係る問題 75
3 スピン・オフにおける個別規定の明確化 78
4 小括 78
第2節 組織再編成の多様化 79
1 国境を越えた組織再編成 79
2 スプリット・オフ 79
3 デット・プッシュ・ダウン 80
終わりに代えて 82