(注1)


中村 三とく

税務大学校
租税理論研究室助教授


はじめに

 じ来わが国の行政法学においては実体法に比し手続法は比較的なおざりにされていた感があったが、最近では行政の民主化と国民の権利意識の向上により事情がかなり変化し、にわかに行政手続の問題が脚光を浴びてきたようである。

 ところで、わが国の所得税法及び法人税法に青色申告制度が導入された背景には、昭和24年のシャウプ勧告(注1)がある。右の勧告に基いて、昭和25年の法律改正により、所得、法人の両税法に青色申告制度が採り入れられ、そして青色申告書について更正決定を行なう場合には、更正の通知書には理由を附記すべきことが規定された。すなわち所得税法(昭和22年法律第27号)においては法律第71号により、46条の2第2項に「政府は、青色申告書について更正をした場合においては、前条第7項(更正又は決定の通知、筆者注)の規定による通知には、同項の規定により附記する事項に代えて、更正の理由を附記しなければならない。」と、また、法人税法(昭和22年法律第28号)においては法律第72号により、32条に「政府は、第29条(更正、筆者注)乃至第31条(再更正、筆者注)の規定により課税標準若しくは欠損金額又は法人税額を更正又は決定したときは、これを当該法人に通知する。この場合において、当該更正又は決定が青色申告書を提出した事業年度分についてなされたものであるときは、通知の書面にその理由を附記しなければならない。」と規定され、現行法においても次のように同旨の規定がある。すなわち、所得税法(昭和40年法律第33号)155条2項には「税務署長は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正(前項第1号に規定する事由のみに基困するものを除く。) をする場合には、その更正に係る国税通則法第28条第2項(更正通知書の記載事項) に規定する更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない。」、法人税法(昭和40年法律第34号)130条2項には「税務署長は、内国法人の提出した青色申告に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法第28条第2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない。」と。
自主申告納税制度の中核ともいえる青色申告制度の一環の手続として規定された更正の理由附記ではあるが、わが国では行政行為の事前手続については、その大部分が個別に実体法の中に散在している状態で、立法の趣旨も必ずしも明確でなかったため、右の規定についてもその趣旨、性格等の解釈は統一されていなかった。そのため、青色申告制度の運用が軌道に乗り始めた昭和30年頃から「青色申告書にかかる更正の理由附記」についても税務官庁と納税者との間に規定の解釈をめぐって争が生じ、ついに行政処分の適否について法廷で争われるようになった。おそらく戦後税務に関する訴訟でこれ程数多く取扱われた事案も少ないのではなかろうか。而して、青色申告書にかかる更正の理由附記の問題についてはすでにいくつかの最高裁の判決も下されており、この問題に関しては判例等において問題点は一応出つくした感がある。
本稿は、この機会において青色申告書にかかる更正の理由附記に関連する判決を集録し、判示事項別に判決要旨を分析し、理由附記に関する規定に対する社会情勢の変化に伴う税界、司法界、学界等における解釈の推移を概観し、もって将来の税務行政に対する参考の資を提供しようとするものである。
なお、本稿中に引用してある判決の事件番号及び判決要旨等の下のカッコ内の数字は、後掲「青色申告書更正の理由附記に関する判決要旨一覧表」の整理番号(ゴシック書体は、最高裁判決)を示すものである。

(注1) シャウプ使節団日本税制報告書附録D(個人所得税および法人所得税の執行)、E節(附帯問題、第二款(帳簿と記録)、C(中小企業)、3正しい記録をつけるための誘引策−税務署の態度、「教育と道具の提示だけでは恐らく不十分であろう。このような道具を納税者が利用するように積極的に奨励する報酬を与えねばならない。一つの可能性は帳簿記録をつける納税者には特別な行政上の取扱を規定することである。かくして、このような特別取扱を希望する納税者は正確な帳簿記録をつける意図があることを税務署に登録する。これらの帳簿は税務署で認可された様式を用いてつけられる。(中略) このように帳簿記録をつけている納税者は他の納税者と区別されるように異なった色の申告書を提出することを認められる。税務はこのような納税者がもしそのような帳簿記録をつけ、申告をこの特別用紙ですればその年の所得を実地調査しない限り、更正決定を行わないことを保証する。また、更正決定を行なったらその明確な理由を表示しなければならない。(後略)本文に戻る

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