品川 芳宣

税務大学校
租税理論研究室助教授


はじめに

 何人も、社会共同生活の中においては、その一員として信義に合し誠実を旨として行動することを要請される。この倫理的規範を法律において尊重し、法律関係もこれに準拠すべきことを要求するのが、ドイツ法的にいえば信義誠実の原則あるいは信義則(Treu und Glauben)であり、英米法的にいえば禁反言の原則(estoppel)であるが、以下本稿においてはこれを「信義則」ということとする。
信義則は、公序良俗の観念とともに、法と道徳との調和を図るための重要な観念とされ、もともと私法の分野で私法上の法律関係を律する(沿革的には債務の誠実な履行を旨とした)基本的な法理の一つとして発展してきたものである(注1)
本稿においては、この原則が、私法の分野においてよりも法律適合性、強行性、公益性等が一層強く要請される行政上の法律関係、とりわけその傾向が著しい租税法律関係の中でどのように適用されうるものかについて、その問題点を探ることとしたい。
なお、税法における信義則は税務官庁及び納税者の双方に適用されるべきものであるが、本稿においては特に税務官庁側に適用される場合について検討を試みたい。

(注1)民法第1条第2項に定める「権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義二従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス」の規定は、従前から、判例学説によって、裁判の具体的妥当性を実現すべき私法上の原理として認められていたところ、ほぼ理論的にも確立されたということで、昭和22年の民法改正の際明文化された。

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