茂木 繁一

税務大学校
租税理論研究室教授


はじめに

 源泉徴収制度においては、法律関係の主体として国(税務署長)、税を「徴収して納付する」徴収義務者および税を負担する本来の納税義務者の三者が存在するが、実定法上国と直接債務関係に立つのは納税義務者でなく徴収義務者であるということで割り切られている。一見極めで単純明快のようであるが、その法律関係には他の税法の分野に見られないような独特な面を次のように持っている。

 1 本来の納税義務者は実体法としての所得税法上は、「納税義務者」である(所5・1)が、手続法としての国税通則法上は「納税者」には該当せず(通2・5号)、また 徴収義務者の義務は、所得税法上は「源泉徴収義務」として規定され(所6、181、183等)ているが、国税通則法では「納税義務」として規定されている(通15・1)というようにまぎらわしい法律構成がとられている。

 2 徴収義務者の負う国税通則法上の納税義務は、給与等の支払いの際に成立即確定することとされているが、その結果通常の納税義務の確定の場合と異なり、その義務の確定には、申告、更正、決定等の何らの確定行為を要しないで、これは自動的に確定するという理論構成がとられている。

 3 法定納期限までに源泉徴収による税金が納付されない場合には、「納税の告知」がされるが、この「納税の告知」の法的性格が必らずしも明確なものではない。

 4 最終的に法律上税を負担するのは、本来の納税義務者であるにもかかわらず、これが国と直接債権債務関係に立たないという構成もまた独特なものである。

  以上のような特徴をもつ源泉徴収の法律関係は、それ故にまた必ずしも単純明確とはいえない幾つかの問題点を内臓していると思われる。
従来この源泉徴収をめぐる法律関係についての論評解説等は余り多くはないが、法律的には基本的問題を含んでいると思われるので、今回主としてこれらの法律関係のうち本来の納税義務者の負う納税義務の法的性格、源泉徴収における「納税の告知」の特質およびそれをめぐる抗告訴訟等を中心に考察してみることとした。

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