武内 敏夫

国税庁徴収部徴収課
税大研究科第4期生


はじめに − 研究の態度

 アメリカ占領軍の示唆により、会社更生法(以下「更生法」という。)が制定(注1)、施行されて以来16年余を経過した。
この間における更生法の運用ないしは改正過程をふり返ってみると(注2)(注3)、制定当初の社会的実験(注4)という感触は、もはや跡かたもなく消え 失せ、一大実定法として、わが国法律制度の中に確固たる地位を築きつつあるようにみうけられる。
更正法は、その第1条に明示する如く、窮境にあるが再建の見込みのある株式会社(以下「会社」という。)について、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持、更生を図ることを目的としており、その目的実現のため、従来の制度にはみられない極めて強力な手続を内蔵している。
それは、従前の債務処理制度が殆ど手をつけ得なかった租税債権ならびに担保権付債権さえも、原則として一般の私債権と同様に、更生手続によらなければ、満足を受けることができないとしていることに最も象徴的にあらわされている。
そして、更生法と理念を同じくする他の類似の制度−和議(破産法による強制和議を含む。)および会社の整理−においても、裁判所の厳重な監督の下に担保権付債権も含めた一元的な更生計画を作成するなど、私債権に対する手続の整備がされることを前提とする含みを持ちながらも、将来は、更生手続に準じて租税の徴収がなされるべきであるとする思想が一般に承認されていると認められる以上(注5)、債務者復興制度の中における租税徴収について、租税債権者の側からの法的アプローチも今まで以上に要請され、かつ、重要度を増すものと思われる。
本稿はこうした見地から、さしあたって徴収の権限を有する者に与えられた同意権を常に念頭におきながら、更正手続中における特定の租税徴収手続等に関し法的検討を加えることによって、会社更生という極めて資本主義的で、しかも臨床的な法律制度の内部での租税徴収の姿をみようとするものである(注6)

〔注1〕 更生法の制定の経緯に、ついては、位野木「会社更生法要説」4頁、兼子・三ケ月「条解会社更生法」1頁以下等に詳しい。 本文に戻る

〔注2〕 更生法の運用に関する文献は、枚挙にいとまがない程多きにのぼるが、組織的、実証的研究として、
(1) 霧島・前田・田村・青山「図説会社更生法」ジュリスト354〜356号、358号
(2) 同 「会社更生計画の分析」ジュリスト378、380、383、385、388、390、392、394、396および399号
(3) シンポジウム「会社更生計画の実態」、私法29号
をあげるにとどめておく。 本文に戻る

〔注3〕 更生法の改正に関しては、昭和42年における実質的改正について、宮脇「改正会社更生法詳説」、時岡「改正会社更生法逐条解説」別冊商事法務研究5、宮脇・時岡「会社更生法等の一部を改正する法律の解説」法曹時報19巻12号、20巻1〜6号および8、9号等の文献がある。 本文に戻る

〔注4〕 兼子・三ケ月 前掲46頁、三ケ月「会社更生法の司法政策的意義」法学協会雑誌(以下「法協」と略記する。)83巻5号653頁 本文に戻る

〔注5〕 昭33・12「租税徴収制度調査会答申」第11参照。 本文に戻る

〔注6〕 更生法においては、租税債権に限らず「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」(更生法122条1項等)は、更正手続上すべて同列に取り扱われているが、本稿では、便宜租税債権についてのみ論及することとした。あらかじめお断りしておきたい。本文に戻る

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