飯野 利夫

一橋大学教授


はじめに

 東京証券取引所の調査によれば、昭和44年4月1日現在、東京証券取引所に上場している会社のうち、昭和43年7月から同年12月末日までに決算期の到来した第一部590社、第二部413社、計1,003社の有価証券報告書に添付されている公認会計士の監査報告書において除外事項の付せられている件数は、第一部232件、第二部168件、うち引当金に関連するものは、第一部では総件数の31.4%、第二部では25.2%となっている。これは除外事項のなかで「継続性の変更」について2番目に位する(東京証券取引所編・証券・1969・614頁以下)。
これは会社側は、公認会計士が監査意見を表明する場合の規準としている「企業会計原則」における引当金とは異なる解釈にもとづいて、証券取引法にもとづく財務諸表を作成していることにもとづく。すなわち「企業会計原則」と商法とでは、引当金の理解について、くいちがいがあるからである。このことは、先般公表された法制審議会商法部会「株式会社監査制度改正要綱案」にてらしてもあきらかである。
すなわち要綱案では、監査役の報告書の記載事項として「商法第287条ノ2の引当金が設定されているときは、その設定が必要か否か。」をあげながらも(第8第2号(3))、公認会計士または監査法人が、資本金1億円以上の株式会社の計算書類を監査した結果、取締役及び監査役に提出すべき報告書には引当金に関する事項はふくまれていない(第14第7号(5))。このことは要綱案は引当金の設定を業務執行の一部と考えて、会計に関する事項とは考えないことにもとづき、それは引当金に関する理解の相違によるものと思われる。
引当金が、会計処理及び手続に関する継続的適用すなわち継続性の原則ならびに資本準備金や資本積立金以外の資本剰余金、すなわち「いわゆる資本剰余金」とともに、早急に企業会計原則と商法または税法と調整を要すべき重要問題と考えられている所以である。
本稿では、商法および「株式会社の貸借対照表及び損益計算書に関する規則」(以下、単に「計算書類規則」という)に関連して引当金について会計学上問題となる若干の基本的事項について考察することにする。

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