荻野 豊

国税庁審理課
税大研究科1期生


まえがき

 税法に関する訴訟事件のうちで、所得の認定を争うものは、量的にかなりの比重を占めており、その審理の方法をめぐって、これまで、いろいろと議論されることが多かった。
所得の認定を争う訴訟の性質については、従来、これを民事訴訟にいう債務不存在確認訴訟と同性質のもの、もしくはこれと類似の性質をもつものとされ、所得実額の存否が訴訟の対象であると考えられてきたようである。
このような考え方に対して、近時、有力な反対説が唱えられるに至っている。すなわち、立証責任を負担するとされている課税庁は、本来、所得発生原因たる事実について、なんら証拠を握っているわけではなく、課税の公平の目的からは、推計などの間接的な認定方法によっても所得を認定すべきものであるから、訴訟の対象は、所得認定方法の合理性の有無ということでなければならない、とする白石判事(白石健三・「税務訴訟の特質」・税理7巻12号(1964年11月)8頁以下)や町田判事(町田顕・「税法事件の審理について」・判例タイムズ201号174頁)の見解がこれである。
本稿では、この見解の分析を中心としながら、所得の認定を争う訴訟の審理に関する若干の問題を考察することとする。もとより、訴訟物そのものの意義、機能に関して検討を加えるのが議論の本筋ではあろうが、この問題が行政事件訴訟一般の問題に発展するものであるだけに、私の能力を超えるものであるし、紙数の制約もあるので、取り上げないこととした。
なお、あらかじめおことわりしておきたいのは、本稿が昭和40年度税大研究科論文集に登載された拙稿「課税所得の立証について」の延長というべきものであることである。短期間でとりまとめたので、引用した文献を最近のものに改めたほか、前稿をそのままとりいれたところも少なくない。ただ、前稿は、立証責任に関する論述を中心としたのに対し、本稿では、所得の立証に関連して他の面に多く踏みだしている。表題を改めたのはこの理由による。
なお、判例の引用にあたって、税資とあるは税務訴訟資料を、行集とあるは行政事件裁判例集を指す。

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