2 国税庁の取組

〜 酒類業の振興 〜

 酒類業の振興に当たっては、官民の適切な役割分担の下、事業者や業界団体等が創意工夫を発揮して意欲的な取組が行われるよう、サポートや環境整備に取り組んでいきます。また、制度改善や外国政府との交渉等、民間では対応できない課題については、行政として適切に対応を図ります。更に、中小企業の経営基盤の安定に配意するとともに、酒類製造業者の技術力の強化を支援していきます。

(1)海外需要の開拓

イ 関税や輸入規制の撤廃等の国際交渉

 EPA等の国際交渉において、関税や輸入規制等の撤廃、地理的表示(GI: Geographical Indication)の保護等を求めています。
 平成31(2019)年2月に発効した日EU・EPA1では、EUに対する日本産酒類の輸出について、1全ての酒類の関税即時撤廃、2「日本ワイン」の輸入規制の緩和、3単式蒸留焼酎の容量規制の緩和、4EU域内における酒類の地理的表示の保護を実現しました。
 また、令和2(2020)年1月に発効した日米貿易協定では、米国は、1ワイン、蒸留酒の容量規制の改正に向けた手続を進めること、2米国での日本産酒類の10の地理的表示の保護に向けた検討手続を進めること、3米国での酒類の販売に必要なラベルの承認のための手続の簡素化、4米国市場における日本の焼酎の取扱いについてレビューを行うことについて約束しました。
 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故を起因とした各国の輸入規制2については、引き続き科学的根拠に基づき、撤廃を求めていきます。

  • 1 日本と欧州連合(EU)との間で、貿易や投資など経済関係を強化する目的で締結された 「経済連携協定 (EPA: Economic Partnership Agreement)」 であり、物品の貿易だけでなく、サービスや知的財産権などを含む全23章からなる包括的な協定です。
  • 2 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故後、輸出先国において導入された酒類に対する輸入規制に対しては、関係省庁、独立行政法人酒類総合研究所等と連携して、規制の解除・緩和に向けた働きかけを行っています。その結果、これまでに、EU、ブラジル、マレーシア、ロシア、タイ、エジプト、仏領ポリネシア、アラブ首長国連邦(ドバイ・アブダビ)、ブルネイ及びシンガポールにおいて、酒類に対する輸入規制が解除・緩和されています(令和2(2020)年1月末現在)。

ロ 輸出手続の迅速化・簡素化

 日本から輸出する酒類の通関に際して国税当局が発行する証明書の提出を求める国がある場合には、迅速な発行に努めています。
 令和元(2019)年9月には、輸出証明書の発行手続の迅速化の観点から、各種証明書の申請から発行までの事務手続の見直しを行いました。
 また、令和2(2020)年4月には、酒税における輸出免税の適用に当たって必要となる輸出明細書について、税務署長への提出が不要とされ、当該手続が簡素化されました。

ハ 販路開拓支援

 酒類業者等に対し、海外の輸入・流通業者とのビジネスマッチングの機会を提供するため、海外の酒類見本市への出展支援やバイヤー招へい等に取り組んでいます。

Imbibe Live商談会

ニ 国際的プロモーション

 日本産酒類の輸出促進のため、国際的イベント等におけるプロモーション、海外の酒類専門家の酒蔵等への招へい等により、日本産酒類に対する国際的な認知度や理解の向上に取り組んでいます。

SALON DU SAKE 2019でのPR
酒類専門家へのレクチャー

ホ 酒蔵ツーリズムの推進

 酒類製造者が自ら製造した酒類を訪日外国人旅行者に販売した場合に消費税に加えて酒税が免税となる「酒蔵ツーリズム免税制度」が平成29(2017)年10月から施行されました。令和元(2019)年10月現在で151の酒類の製造場が免税販売の許可を取得しており、引き続き活用促進に努めます。
 令和2(2020)年度には、新規施策として、事業者によるモデル事例の構築を支援することとしています。

(2)ブランド化の推進

イ 地理的表示(GI)の普及拡大

 地理的表示(GI)制度は、酒類や農産品について、ある特定の産地ならではの特性(品質、社会的評価等)が確立されている場合に、当該産地内で生産され、一定の生産基準を満たした商品だけが、その産地名(地域ブランド名)を独占的に名乗ることができる制度です。
 国税庁では、国内外における酒類のブランド価値向上等の観点から、地理的表示の指定や普及拡大に取り組んでおり、地理的表示の指定に向けた相談等に対しては、説明会・セミナーの実施、パンフレット等広報媒体の作成等による支援を行っています。
 令和2(2020)年6月末までに12の地理的表示を指定するとともに、消費者等の認知度の向上に向けたシンポジウム等を開催しています。

〔酒類の地理的表示の指定状況〕
  • ※1 原料の米に国内産米のみを使い、かつ、日本国内で製造された清酒のみが、「日本酒」を名乗ることができます。
  • ※2 兵庫県相生市、加古川市、赤穂市、西脇市、三木市、高砂市、小野市、加西市、宍粟市、加東市、たつの市、明石市、多可町、稲美町、播磨町、市川町、福崎町、神河町、太子町、上郡町及び佐用町
  • ※3 カッコ内は産地の範囲を記載しています。また、地図上では、都道府県単位で着色を行っており、必ずしも産地の範囲と一致しているわけではありません。

ロ ワインの表示ルールの定着のための取組

 従来、国内では、国産ぶどうのみを原料とした「日本ワイン」のほか、輸入濃縮果汁や輸入ワインを原料としたワインなど様々なワインが流通しており、消費者にとって「日本ワイン」とそれ以外のワインとの違いが分かりにくいという問題がありました。
 こうした状況から、国税庁において、日本ワインの定義などを定めた「果実酒等の製法品質表示基準」(ワインの表示ルール)を策定し、平成30(2018)年10月から施行されています。
(参考 https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/kajitsushu/index.htm
 また、日本ワインの消費者向けシンポジウムや業界団体や研究機関を集めた情報交換会なども開催しています。
 こうした表示ルールの定着により、日本ワインのブランド価値の向上を図ります。

ハ 日本酒の輸出用裏ラベルの作成・周知

 令和元(2019)年8月には、JFOODO(日本食品海外プロモーションセンター)と共同で、日本酒の裏ラベルについて、海外の消費者が日本酒を理解しやすく、相互に比較しながら選択しやすいよう、輸出用の「標準的裏ラベル」と「表記ガイド」を作成し、日本酒の輸出拡大に向けて、事業者や業界団体に周知を行っています。

ニ 日本酒のグローバルなブランド戦略に関する検討会の開催

 日本酒業界全体での輸出拡大やブランディングを推進するため、令和元(2019)年9月から、日本酒のグローバルなブランド戦略に関する検討会を開催し、委員に加え、関係省庁・機関や有識者を交え、現状の課題や今後の取組等について多面的な議論を行っています。

ホ 海外向けブランド化のモデル事例構築支援

 令和2(2020)年度には、新規施策として、事業者による海外向けブランド化の取組(戦略構築、新商品開発、販路開拓等)のモデル事例の構築を支援することとしています。

《コラム9》日本酒のグローバルなブランド戦略に関する検討会 中間とりまとめ

 日本酒のグローバルなブランド戦略に関する検討会において、令和元(2019)年12月には、同年9月から12月までの議論の概要と、これを踏まえた政府の施策について整理し、中間とりまとめとして公表しました。
 とりまとめた政府の施策の実施等に向けて、令和2(2020)年度には大幅に予算を増額し、輸出促進室を設置するなど、輸出促進の取組を抜本的に拡充することとしています。

日本酒のグローバルなブランド戦略に関する検討会 中間とりまとめ(ポイント)

  • 〇 日本酒の輸出のポテンシャルは大きい
  • 〇 文化的な観点からも積極的に価値づけを行い、ブランドカを高める
  • 〇 商品の高付加価値化とそれに見合った価格設定、そのためのブランド戦略が重要
  • 〇 主役である事業者の取組の一層の積極化を期待するとともに、政府は事業者の自主的で意欲的な取組を支援
1. 議論の概要
2. 政府の施策

(3)技術支援

イ 醸造技術等の普及の推進

 各国税局には、技術部門として鑑定官室を設置しており、酒類製造者への指導や相談対応、鑑評会や研究会などの開催、酒造組合などの講習会や審査会などへの職員派遣などを通じ、酒類総合研究所の研究成果をはじめ、先端技術などの普及を推進しています。

ロ 酒類の品質及び安全性に関する支援

 酒類の生産から消費までの全ての段階における酒類の安全性の確保と品質水準の向上を図ることを目的として、酒類の製造工程の改善などに関する技術指導を行っているほか、酒類の放射性物質に関する調査・情報提供などにより安全性を確認しています。
 また、平成30(2018)年6月の食品衛生法改正により、HACCP3に沿った衛生管理が義務化されたことから、これら制度の変更について酒類製造者への周知を図るとともに、酒類総合研究所とも協力し、酒類業団体による手引書4作成を支援しています。

  • 3 食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因を把握(Hazard Analysis)した上で、それらの危害要因を除去又は低減させるため特に重要な工程(Critical Control Point)を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理法です。国際食品規格(コーデックス)委員会(国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関)がガイドラインを制定しています。
  • 4 小規模事業者の負担に配慮し、食品等事業者団体が手引書を策定するよう、厚生労働省が定めています。酒類製造業においては、日本酒造組合中央会等8団体が共同で策定しました。手引書につきましては、厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00003.html)をご覧ください。

ハ 酒類総合研究所の取組

 鑑定官室では対応できない高度な分析・鑑定及びその理論的裏付けとなる研究・調査等については、酒類総合研究所に依頼し、実施しています。

独立行政法人 酒類総合研究所

 酒類総合研究所は、国税庁の果たすべき任務である、酒税の適正かつ公平な賦課の実現及び酒類業の健全な発達を遂行するために、国税庁からの依頼を受けた研究・調査のほか、主に以下のような取組を行っています。

  • ・先端技術などの研究開発
  • ・醸造講習実施による醸造技術者の育成
  • ・酒造組合などの講習会や審査会などへの講師・審査員の派遣

 また、近年では、酒類の輸出促進に貢献するため、長期輸送・保管しても劣化しにくい清酒製造につながる新酵母の開発など、日本産酒類のブランド価値向上のための研究開発を拡充し、実施しています。
(右図:長期輸送・保管下でも劣化しにくい新酵母の開発の様子)
 詳しくは、酒類総合研究所ホームページ(https://www.nrib.go.jp)をご覧ください。

独立行政法人 酒類総合研究所

(4)中小企業対策

 中小企業が大半を占める酒類業界が社会経済情勢の変化に適切に対応できるよう、日本酒造組合中央会の近代化事業をはじめ、業界団体の各種の取組を支援しているほか、中小企業診断士等の専門家を講師とした研修の開催、中小企業等経営強化法に定める経営力向上計画の作成支援等を行っています。
 また、関係省庁・機関や地方自治体等と連携しつつ、政府の中小企業向け施策(相談窓口、補助金、税制、融資等)について、事業者や業界団体に情報を提供し、活用の促進に取り組んでいます。

(5)沖縄振興

 「琉球泡盛海外輸出プロジェクト」を踏まえ、内閣府等の関係省庁等と連携し、沖縄県産酒類の振興に取り組んでいます。
 海外のプロモーション・イベントにおける泡盛の情報発信、海外の酒類見本市への泡盛事業者の出展支援を行っているほか、関係省庁の取組には、醸造技術の専門家として沖縄国税事務所の鑑定官が協力しています。
 また、泡盛の品質・技術の向上のため、フレーバーホイール5を活用した泡盛鑑評会を開催しています。
 泡盛の輸出促進に向け、関係省庁等と連携しつつ、国際的な情報発信等に一層取り組んでいくこととしています。

  • 5 沖縄国税事務所では、平成29(2017)年4月26日、泡盛に関する科学的知見を踏まえ、泡盛から感じることのできる香りや味わいなどの表現について整理し、似た香り・似た味わいのものを近くに配置して円状に配列したフレーバーホイールを作成しました。詳しくは https://www.nta.go.jp/about/organization/okinawa/sake/flavor_wheel.htmをご覧ください。

泡盛のフレーバーホイール

泡盛のフレーバーホイール

※については、共通認識が確立していないが暫定的に掲載

(6)酒類の公正な取引環境の整備

 酒類業の健全な発達のためには公正な取引環境の整備が重要であることから、平成18(2006)年8月に制定・公表した「酒類に関する公正な取引のための指針」や、平成29(2017)年3月に制定・公表した「酒類の公正な取引に関する基準」を酒類業者へ周知・啓発し、公正取引の確保に向けた酒類業者の自主的な取組を推進するとともに、酒類の取引状況等実態調査を実施しています。この調査において、基準に則していない取引等が認められた場合には、基準に基づく指示等を行っています。
 また、酒類業者に公正な取引の確保に向けた自主的な取組を促す観点から、毎年、調査の結果概要とともに、指示事例や改善を指導した事例を公表しています。
 引き続き、基準等の周知徹底、深度ある取引状況等実態調査の実施に努め、問題ある酒類業者には厳正に対処していきます。

(7)社会的要請への対応

イ 資源リサイクル等の推進

 食料品業界の一員として、酒類容器のリサイクルや食品廃棄物の発生抑制等を通じた循環型社会の構築の観点から、酒類業団体等を通じて酒類容器のリサイクル等への取組が一層推進されるよう周知・啓発を行うとともに、毎年10月を「3R6推進月間」と定め、関係省庁と連携した啓発活動を行っています。
 また、平成28(2016)年に閣議決定された「地球温暖化対策計画」に基づき、国税審議会酒類分科会において、ビール業界が取り組むCO2削減目標(低炭素社会実行計画)について、評価・検証を実施しています。

  • 6 Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)、Reuse(リユース:再使用)、Recycle(リサイクル:再利用)の頭文字のRのことです。

ロ 20歳未満の者の飲酒防止対策

 20歳未満の者の飲酒防止に向け、啓発ポスターやパンフレットを作成するほか、毎年4月を「20歳未満飲酒防止強調月間」と定め、関係省庁・業界団体と連携した啓発活動を行っています。
 また、「二十歳未満の者の飲酒防止に関する表示基準(告示)」の制定や酒類販売管理研修等を通じて、酒類の適正な販売管理を確保するよう酒類業者等へ指導するとともに、関係省庁と連名で酒類販売時の年齢確認の徹底を要請する文書を酒類販売業者等に発出し、指導しています。

ハ アルコール健康障害対策

 「アルコール健康障害対策基本法」に基づき「不適切な飲酒の誘引の防止」等を盛り込んだ「アルコール健康障害対策推進基本計画」が平成28(2016)年5月に閣議決定され、関係省庁・団体等と連携し、同計画に掲げられた施策に取り組んでいます。
 また、現在、第2期基本計画(令和3(2021)年4月〜令和8(2026)年3月)の策定に向けた議論が進められており、引き続き、酒類業界等と一体となって、20歳未満の者や妊産婦など飲酒すべきではない者の飲酒の誘引防止やアルコール健康障害の発生防止等の取組を推進していきます。

〜 酒類行政の基本的方向性 〜
〜 酒類行政の基本的方向性 〜

国税庁の取組についての詳細は、国税庁ホームページの「酒のしおり」(https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/01.htm)をご覧ください。