第1節 国際課税

1 国際的な取引への対応

(1) 国際課税に係る執行体制
 企業の海外進出や対外投資が増大・大型化する一方、外国企業の我が国への進出の活発化に伴い、国際課税の適正な執行に向けた体制の充実・強化に取り組んできた。
 近年においては、国際取引のすそ野が大企業や多数の海外子会社を有する法人のみならず、富裕層へも広がりを見せたことから、その対応策として、東京、大阪、名古屋及び関東信越国税局に設置された「国際化対応プロジェクトチーム」を中心に対応してきたところ、平成21事務年度には、東京及び大阪国税局に統括国税実査官(国際担当)を設置し、国際的租税回避スキームの把握、実態解明及び調査等の充実・強化を図ってきた。
 また、富裕層に関する情報収集機能を更に強化する観点から、平成26事務年度に重点管理富裕層プロジェクトチーム(富裕層PT)を東京、大阪及び名古屋の各国税局に設置し、平成29事務年度からは全局に拡大した。
(2) 国際戦略トータルプランの公表
 国際課税の充実の観点から、上記のとおり執行体制の整備・拡充を図ってきたほか、国外送金等調書や国外財産調書等の制度を活用した情報収集・活用の強化及び租税条約等に基づく情報交換の実施や徴収共助制度の活用等の外国当局との連携の強化に努めてきたところ、平成28年10月には、こうした国際課税の取組の現状と今後の方向性を取りまとめた「国際戦略トータルプラン」を公表した。
(3) BEPSプロジェクトへの対応
 BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトは、近年のグローバルなビジネスモデルの構造変化により生じた多国籍企業の活動の実態と各国の税制や国際課税ルールとの間のずれを利用することで、多国籍企業がその課税所得を恣為的に操作し、課税逃れを行っている問題に対処するため、経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)において平成24年に立ち上げられた。
 BEPSプロジェクトには、OECD加盟国のみならず、OECD非加盟のG20メンバー8か国も参加し、15の行動について議論を行った結果、平成27年10月に最終報告書が公表され、同年11月にG20サミットに報告された。
 最終報告書では、国際課税ルール全体を見直すことにより、多国籍企業による国際的租税回避に対処し、各国政府・多国籍企業の透明性を高めるための、様々な勧告がなされており、国税庁では、勧告内容の適切な実施に取り組んでいる。
イ 「行動1:電子経済の課税上の課題への対処」に関連して、平成27年度税制改正において、国内外の事業者間の競争条件の不均衡を是正する観点から、平成27年10月以降、国外の事業者が国境を越えて行う電子書籍・音楽・広告の配信等の電子商取引に消費税を課すこととされたことから、この制度の円滑な実施のため、関係省庁と連携し、国外事業者が加入する経済団体等へ改正内容の周知依頼を行うとともに、これらの団体や各国の在京大使館を対象とした説明会への講師派遣等を行った。
ロ 「行動5:有害税制への対抗」に関連して、相互協議1を伴わない事前確認(APA:Advance Pricing Arrangement)2のような企業と税務当局間の事前合意について、関係国に自発的に情報を提供することとされたことから、既存の情報交換の枠組みを用いて相互協議を伴わない事前確認に関する情報交換を実施した。
ハ 「行動13:多国籍企業の企業情報の文書化」に関連して、平成28年度税制改正において、移転価格税制に係る文書化制度の整備が行われたことから、この制度の円滑な実施のため、適用基準や執行方針の明確化を図りつつ、積極的な制度周知・広報を行った。
ニ 「行動14:相互協議の効果的実施」に関連して、相互協議の効果的・効率的な実施のための「ミニマムスタンダード」や「ベストプラクティス」の策定に係る議論及び各国の履行状況をモニタリングするための枠組みに係る議論に参加し、多国間での協調に取り組んだ。
 また、勧告内容は、新興国・開発途上国を含め、多数の国・地域により実施される必要があることから、平成28年に「BEPS包摂的枠組み」が組織された。本枠組みには、我が国を含む130以上の国・地域が参加しており、勧告内容の実施状況に関する相互審査などを実施している。

BEPSプロジェクトにおいて議論された15の行動

行動1:電子経済の課税上の課題への対処
行動2:ハイブリッド・ミスマッチ取決めの効果の無効化
行動3:外国子会社合算税制の強化
行動4:利子控除制限ルール
行動5:有害税制への対抗
行動6:租税条約の濫用防止
行動7:恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止
行動8:無形資産取引に係る移転価格ルール
行動9:リスクと資本に係る移転価格ルール
行動10:他の租税回避の可能性の高い取引に係る移転価格ルール
行動11:BEPSの規模・経済的効果の分析方法の策定
行動12:義務的開示制度
行動13:多国籍企業の企業情報の文書化
行動14:相互協議の効果的実施
行動15:多数国間協定の策定

(4) 国際課税制度
イ 外国子会社合算税制の見直し
 我が国経済の急激な国際化、企業の国際取引の増大、各主要国のタックス・ヘイブン利用の規制、OECD・国連の国際機関の勧告、昭和52年6月の衆議院外務委員会における「多国籍企業等国際経済に関する件」の附帯決議の採択などを背景として、昭和53年3月に、租税特別措置法の改正によりいわゆるタックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)が導入された。
 この税制は、我が国の企業が、税負担の著しく低い国・地域に設立した子会社等(特定外国子会社等)を通じて国際取引を行い、我が国の法人課税を免れることを防止するため、一定の要件に該当する場合を除き、特定外国子会社等の所得のうち、その持分に相当する額を、我が国親会社の所得に合算して課税する制度である。
 その後、平成21年度税制改正において、外国子会社配当益金不算入制度の導入に伴い、特定外国子会社等が支払う配当を、合算対象所得の計算上控除しない等の措置が講じられた。
 平成22年度税制改正においては、国外に進出する企業の事業形態の変化や諸外国における法人税等の負担水準の動向に対応し、我が国企業の国際競争力を維持する観点から、いわゆるトリガー税率を20%以下に引き下げる見直しが行われるとともに、企業実体を伴っていると認められる統括会社(事業持株会社・物流統括会社)の所得については合算対象外となるような措置等が講じられた。他方、租税回避行為を一層的確に防止する観点から、資産運用的な所得として外国子会社が受けるポートフォリオ株式・債券の運用による所得、使用料等については親会社の所得に合算して課税することとされた。
 平成27年度税制改正においては、トリガー税率が20%未満に変更され、また、適用除外基準の事業基準の判定における「統括会社」・「事業持株会社」の要件等の見直しが行われた。
 平成29年度税制改正においては、BEPSプロジェクトの最終報告書(行動3「外国子会社合算税制の強化(Designing Effective Controlled Foreign Company Rules)」)に関して、「外国子会社の経済実態に即して課税すべき」とのBEPSプロジェクトの基本的な考え方に基づき、日本企業の健全な海外展開を阻害することなく、より効果的に国際的な租税回避に対応するため、外国子会社合算税制の改正が行われた。
 具体的には、租税回避リスクを、改正前の外国子会社の租税負担割合により把握する制度から、所得や事業の内容によって把握する制度に改められた。これにより、従来は制度の対象外であった租税負担割合20%以上の外国子会社について、一見して明らかに、利子・配当・使用料等のいわゆる受動的所得しか得ておらず、租税回避リスクが高いと考えられるペーパー・カンパニー等である場合には、原則として、その外国子会社の全所得を親会社の所得とみなして合算できるようになり、他方で、経済活動の実体のある事業から得られた、いわゆる能動的所得は、外国子会社の租税負担割合にかかわらず合算対象外となった。また、企業の事務負担を軽減する観点から、改正前の制度との継続性を踏まえつつ、租税負担割合20%以上の外国子会社は、租税回避リスクの高いペーパー・カンパニー等を除き、合算課税を免除して申告不要とする制度適用免除等の措置が講じられた。
ロ 移転価格税制の見直し
 企業が国外に所在する親会社、子会社等の特殊関係企業との取引を通じて所得を国外に移転するいわゆる移転価格の問題に対処するため、欧米主要国の多くが税制上の規定の整備を図っていることや、OECD理事会における昭和54年5月の「移転価格と多国籍企業」と題する租税委員会報告書の採択、昭和56年3月の衆議院大蔵委員会における「所得の海外移転に適応した税制及び執行体制の整備について検討すること」との附帯決議がなされたことなどを背景に、我が国においても昭和60年12月に税制調査会でこの問題が取り上げられ、昭和61年度の租税特別措置法の改正によりいわゆる移転価格税制が導入された。
 この税制は、我が国法人との間に50%以上の株式の保有関係等特殊な関係のある外国法人(国外関連者)との取引を通じた所得の海外移転に対処し、適正な課税の実現を図ることをねらいとしたものであり、我が国法人と国外関連者との取引の対価の額と我が国法人と第三者との取引の対価の額、いわゆる独立企業間価格との差による所得額を課税対象とするものである。
 OECDの移転価格ガイドラインに関しては、平成22年7月に、独立企業間価格の算定方法について、事案の状況に応じ独立企業原則の考え方に照らして最も適切な方法を選定する、との考え方を採用した改定が行われた。平成23年度税制改正において、こうした国際標準との整合性を確保する観点から、従来の独立企業間価格の算定方法の適用上の優先順位を廃止し、個々の事案の状況に応じて最も適切な方法を選定する仕組みにするとともに、このような仕組みの下では利用可能な算定方法が法令において一覧できることが望ましいことから、利益分割法の下位分類である残余利益分割法等を法令で明確化するなどの改正が行われた。
 令和元年度税制改正では、OECD移転価格ガイドラインの改訂内容等を踏まえ、独立企業間価格の算定方法としてディスカウント・キャッシュ・フロー法を加えるとともに、評価困難な無形資産取引(特定無形資産国外関連取引)に係る価格調整措置が導入された。
ハ 多国籍企業情報の報告制度の創設
 多国籍企業のグローバルな活動・納税実態を把握するため、BEPSプロジェクトの勧告を踏まえ、平成28年度税制改正において、「多国籍企業グループの構成会社等の事業が行われる国ごとの活動状況に関する情報(「国別報告事項」)」、「多国籍企業グループのグローバルな事業活動の全体像に関する情報(「事業概況報告事項(マスターファイル)」)」及び「国外関連者との取引における独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(「ローカルファイル」)」を税務署に提供(又は作成・保存)することが義務付けられた。
 国別報告事項及びマスターファイルについては、直前の会計年度における連結総収入金額1,000億円以上の多国籍企業グループの最終親会社等は、その最終親会社等の会計年度の終了の日の翌日から1年以内に、国税電子申告・納税システム(e-Tax)により提供することとされた(平成28年4月1日以後に開始する最終親会社等の会計年度から適用)。このうち、国別報告事項は、租税条約等に基づく自動的情報交換により、多国籍企業グループの構成会社等の居住地国の税務当局に提供することになった。
 また、一の国外関連者との取引について、前事業年度における取引の合計金額が50億円以上又は無形資産取引の合計金額が3億円以上である法人は、ローカルファイルを確定申告書の提出期限までに作成又は取得し、保存しなければならないこととされた。このローカルファイルは、調査官が提示又は提出を求めた日から一定の期日までに提示又は提出する必要がある(平成29年4月1日以後に開始する事業年度から適用)。
ニ 国外財産調書制度の創設
 国外財産に係る所得税や相続税の課税の適正化を図るため、国外財産の保有状況について提出を求める国外財産調書制度が平成26年1月に施行された。
 本制度により、その年の12月31日において、価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する者は、その国外財産の種類、数量、価額などを記載した調書を翌年の3月15日までに提出する必要がある。

脚注

  • 1 相互協議とは、納税者が二重課税等の租税条約の規定に適合しない課税を受け、又は受けるに至ると認められる場合において、その条約に適合しない課税を排除するため、条約締結国の税務当局間で解決を図る手続である。我が国が締結した租税条約すべてに、相互協議に関する規定が含まれている。
  • 2 事前確認(APA)は、納税者の申出に基づき、海外の関連企業との取引の独立企業間価格の算定方法について、税務当局が事前に確認するものである。例えば、日本の納税者から日米間取引について、事前確認に係る相互協議の申立てがあった場合、両税務当局により相互協議が行われることになる。

2 租税条約等に基づく情報交換

(1) 租税条約等に基づく情報交換
 令和元年6月現在、我が国は、74の租税条約等を締結しており、その適用対象は130か国・地域である。全ての租税条約等に情報交換規定が設けられている。
 情報交換には、調査等に必要な情報を相手国に要請する「要請に基づく情報交換」、調査等において入手した情報を自発的に相手国に提供する「自発的情報交換」、利子・配当等に係る情報を定期的に交換する「自動的情報交換」がある。
 情報交換の件数については、平成23事務年度以降、国税庁のホームページで公表している。平成30事務年度では約186万件であり、過去10年(平成21事務年度~平成30事務年度)で最多となっている。
 情報交換件数の増加や、情報交換に係る国際的な重要性や関心の高まりを受けて、国税庁国際業務課の情報交換事務に従事する職員の数は、平成21年6月時点の4名から、令和元年6月時点の14名へと増加している。
(2) 共通報告基準(CRS)による非居住者の金融口座情報の自動的情報交換
 外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、OECDは、平成26年に、非居住者の金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」を策定・公表した。この基準に基づき、各国の税務当局は、①自国の金融機関から非居住者が保有する金融口座の残高、利子・配当等の年間受取総額等の情報の報告を受け、②租税条約等に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局にその情報を提供することとされている。
 我が国も、平成27年度税制改正により、国内に所在する金融機関から非居住者の金融口座に関する情報を国税庁に報告することを義務付ける制度を導入した。同制度は平成29年1月1日から施行されており、平成30年以降、毎年4月末までに国内に所在する金融機関から報告を受け、その年の9月末までに情報交換が行われている。
 国税庁は、平成30事務年度に実施した初回交換において、日本の非居住者に係る金融口座情報90,155件を58か国・地域に提供した一方、日本の居住者に係る金融口座情報744,986件を74か国・地域から受領した。
(3) 国別報告事項の自動的情報交換
 OECDによるBEPSプロジェクトの最終報告書(平成27年10月公表)では、各国は一定規模の多国籍企業グループに対し、その最終親会社等の居住地国の税務当局に、国ごとの収入金額、利益の額、税額等を記載した「国別報告書(CbCR: Country by Country Report)」を提供することを義務付け、また、その税務当局は、その国別報告書を租税条約等に基づく自動的情報交換により、多国籍企業グループの構成会社等の居住地国の税務当局に提供する旨の勧告がなされた。
 我が国では、平成28年度税制改正により、国内に最終親会社等を有する多国籍企業グループ(直前の最終親会社等の会計年度の連結総収入金額が1,000億円以上のものに限る。)に対し、最終親会社等の会計年度終了の日の翌日から1年以内に国別報告事項の提供を義務付ける制度が導入され、平成28年4月1日から施行されている。また、税務当局間の情報交換は、最終親会社の会計年度終了の日の翌日から15か月以内(初年度は18か月以内)に実施することが求められている。
 国別報告書(CbCR)の自動的情報交換は、平成30年から開始しており、国税庁は平成30年事務年度において、831件のCbCRを51か国・地域に提供した一方、2,100件のCbCRを42か国・地域から受領した。

3 相互協議

 移転価格課税に代表される国際間での税制やその執行面の相違から生じる二重課税等国際課税問題については、租税条約に基づく相互協議により解決が図られている。
 移転価格課税事案以外では、事前確認(APA)事案、源泉課税事案、PE(PE:Permanent Establishment)に係る課税事案等がある。
 近年、相互協議の申立て件数も増加傾向にあり、相互協議事案の適切かつ迅速な解決のため、国税庁国際業務課相互協議室の定員の増強を行うなど相互協議の体制強化を図っている。

4 徴収共助

 海外への財産の移転などによる租税徴収の回避に対しては、租税条約に基づき各国の税務当局が協力して互いに相手国の租税を徴収する「徴収共助」の枠組みにより対処している。
 我が国においては、税務行政執行共助条約が平成25年10月に発効し、本条約への参加国は毎年増加している。二国間租税条約においても、一般的な租税滞納事案を対象とした徴収共助の規定を追加する改正が順次行われるとともに、新たに締結する二国間条約にも同様の規定が設けられている。これらの条約に基づき、令和元年6月現在、我が国から60の国と地域に対して徴収共助の要請をすることが可能となっている。また、国税庁では、各国の税務当局との間で、徴収共助に関する事務手続き等を定める実施取決め協議を行っており、令和元年6月現在、10か国の外国税務当局と合意している。
 機構面の対応としては、平成24年7月に国税庁徴収課に徴収共助係を新設したほか、平成29年7月に東京・大阪国税局の徴収部に、平成30年7月に関東信越・名古屋国税局の徴収部に、国際税務専門官を1名ずつ設置している。
 滞納整理においては、共通報告基準(CRS)による非居住者の金融口座情報や租税条約に基づく情報提供要請などによる滞納者の国外財産情報の的確な把握に努めており、その上で、国内の財産では徴収が不足するなどの租税条約上の要件を満たした事案については確実に徴収共助の要請を行うなど、国際徴収に取り組んでいる。

第2節 国際会議

1 OECD税務長官会義(FTA)

 OECD税務長官会議(FTA:Forum on Tax Administration)は、税務行政の幅広い分野にわたって各国の知見・経験の共有やベストプラクティスの比較・検討を行う目的で、平成14年に設置されたフォーラムである。OECD加盟国及び主要な非加盟国・地域の長官クラスが参加している。

2 OECD租税委員会

 OECDが政策分野別に設けている委員会の一つである租税委員会は、租税政策及び税務行政の両分野において広く情報の共有・意見交換を実施しており、国際的に共通の課税ルールを整備するとともに、各国の有する知見や経験の共有化を図っている。

3 アジア税務長官会合(SGATAR)

 アジア税務長官会合(SGATAR: Study Group on Asian Tax Administration and Research)は、アジア太平洋地域諸国の税務執行当局の長が、税務執行面における国際協力の促進を図るとともに、直面する共通の課題について意見交換を行うことを目的としている。
 平成21年時点での加盟国は、日本、オーストラリア、中国、台湾、インドネシア、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、香港、ベトナム、マカオ、パプアニューギニアの15か国・地域であったが、平成22年にモンゴル、平成26年にカンボジアが新規加盟し、令和元年6月現在では17か国・地域で構成されている。
 昭和46年2月に第1回会合が開催されて以来、令和元年6月までに48回開催されている。我が国では第3回(昭和48年)、第11回(昭和56年)、第20回(平成2年)、第30回(平成12年)及び第40回(平成22年)会合が開催された。なお、第50回(令和3年)会合は日本で開催されることとなっている。

第3節 国際協力

1 技術協力

 国税庁は、開発途上国の税制・税務行政の改善、日本の税務行政に対する理解者を育成すること等を目的として、独立行政法人国際協力機構(JICA:Japan International Cooperation Agency)やOECDなどの要請を踏まえつつ、開発途上国に対する技術協力に取り組んでいる。技術協力は、開発途上国等へ職員を派遣し、現地で講義等を提供するもの(派遣型)と、国内において開発途上国の税務職員等を対象とした研修を実施し講義等を提供するもの(受入型)の2つの形態で行われており、複数国を対象とするものと、一か国を対象とするものがある。
 その実施に当たっては、税務大学校研究部国際支援室・国際支援グループが大宗を担っているが、研修の企画立案については国税庁国際業務課が担当しているため、国際支援室長、企画専門官及び教育官2名は、国際業務課に兼任の上、研修の企画立案及び実施の両面を一元的に担当している。講義は、主に国際支援グループの教授・教育官が行っているが、必要に応じて国税庁各課の職員が講義を行っており、国税庁の技術協力全体が円滑に実施される仕組みとなっている。
 平成21事務年度まで、国際支援室の企画専門官及び企画係は、それぞれ教授(国際支援グループ兼任)及び国際研修係として税務大学校教務課に配置されていたが、平成22事務年度に国際研修係は研究部国際支援室へ組織替えされ、これまで国際支援グループを統率してきた国際支援官(主任教授)が国際支援室長に名称変更し、国際支援室及び国際支援グループを一元管理することとなった。
(1) 開発途上国等への職員派遣(派遣型)
 JICAやOECDなど関係機関の要請を踏まえつつ、開発途上国等で実施される研修等に、職員を講師として派遣している。
 また、国税庁の実務や経験を踏まえ、その国の税務行政の改善に資する継続的なアドバイスを提供すること等を目的として、職員をJICAの長期専門家(相手当局に長期間常駐させるもの)として派遣している。平成21事務年度から平成30事務年度までの10年間には、インドネシア、カンボジア、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスに派遣してきた。
(2) 国内における研修の実施(受入型)
 JICAが主催する開発途上国の税務職員等を対象とした研修において、職員が研修講師を務めてきたほか、税務大学校独自のプログラムとして国税庁実務研修を平成8年4月から実施している。
イ JICA主催の研修
(イ) 国際税務行政セミナー
 国際税務行政セミナー(ISTAX:International Seminar on Taxation)は、開発途上国の税務職員を対象として、日本の税制・税務行政全般について講義等を行う研修であり、中堅職員向けの一般コース(昭和43年創設)と、幹部向けの上級コース(昭和49年創設)とがある。平成21事務年度から平成30事務年度までの10年間で、一般コースには38か国から166名、上級コースには28か国から111名を受け入れた。
(ロ) 国別税務行政研修
 特定の開発途上国の税務職員を対象とし、当該開発途上国の要望に沿ったテーマに絞り講義等が行われる研修である。
 以前、JICA長期専門家を派遣している国を対象とする国別税務行政研修は、カウンターパート研修として、国際業務課が実施していたが、当該研修も他の研修と同様に税務大学校で実施するよう業務が移管された。
 平成21事務年度から平成30事務年度までの10年間で、インドネシア、カンボジア、中国、モンゴル、ベトナム等、計14か国を対象に821名を受け入れた。
(ハ) アジア国際課税研修
 アジア諸国の税務職員を対象として、国際課税に関する講義を中心に行う研修である(平成19年創設)。
 平成21事務年度から平成30事務年度までの10年間で、計12か国から100名を受け入れた。
ロ 国税庁主催の研修(国税庁実務研修)
 世界銀行の奨学金制度等を利用して、日本の大学院(修士課程)に留学している開発途上国の税務職員等を対象とする研修であり、各大学院の履修単位の一部を構成している(平成8年創設)。
 平成21事務年度から平成30事務年度までの10年間で、慶応義塾大学、政策研究大学院大学、一橋大学、横浜国立大学、早稲田大学に留学しているアジア、アフリカを中心とした33か国からの税務職員等174名を受け入れた。
(3) OECDアジア太平洋租税・金融犯罪調査アカデミー
 近年、国際的な租税・金融犯罪が問題となっており、こうした犯罪に各国が協力して対処する必要性が高まっている。そのため、OECDが中心となり、租税犯罪調査官等を対象にした「OECD租税・金融犯罪調査アカデミー」(以下「アカデミー」という。)を各地域で実施していくこととなった。平成25年にイタリア、平成29年にケニア、平成30年にアルゼンチンにおいて、それぞれアカデミーが開講し、租税犯罪・収賄罪・マネーロンダリングなどに対する捜査手法、各国間の国際協力などに関する研修が始まった。
 こうした状況を踏まえ、国税庁は、OECDと連携しながら、アジア太平洋地域の国々を主な対象とする「OECDアジア太平洋租税・金融犯罪調査アカデミー」を令和元年5月に開講した。また、同年6月に福岡で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議において、OECDと国税庁との間で今後5年間にわたり定期的にアカデミーを実施する旨を定めた協力覚書を締結しており、年3回程度アカデミーを実施することで、アジア太平洋地域での主導的な役割を果たしていくこととしている。

2 その他の国際協力

 昭和49年から、主に外国税務当局の幹部職員等を日本に招き、両国の税務執行上の諸問題について意見交換を行っている(令和元年6月現在で23名を招へい)。