第1節 概要

 現在、国税庁課税部における審理事務は、基本的な通達の整備や一般的な解釈通達の制定などの事務については個人課税課、資産課税課、法人課税課、消費税室の関係各課室が、事前照会事案に関する審理事務などについては審理室がそれぞれ担当している。

第2節 審理事務の現状

 経済取引が多様化し、また各種政策税制が創設されるにつれて、法令解釈通達の内容は年々複雑化し、その範囲も多岐にわたっている。したがって、納税者や税務職員に対し、かかる法令解釈通達について正しい解釈の周知徹底を図り、併せて納税者からの質問や局署からの上申に対し、適切に回答又は指示を行うことが要請されており、審理事務の重要性はますます増大している。
 また、我が国の経済・社会の高度化・複雑化が進む中での法令適用の統一性・透明性の確保が要請されていることを踏まえ、また、納税者に対して適切な情報を提供することが責務であるとの認識をもって、事前照会事案に対して的確に対応し、納税者が適正な申告等を行えるように努めている。

1 基本通達の整備及び法令解釈通達の制定等

 法令解釈についての国税庁の統一的見解として各税ごとに基本通達を制定するとともに、この基本通達について毎年定期的に見直しを行うほか、東日本大震災への対応を行うなど、法令解釈が社会情勢や経済取引の実態等からかい離することのないよう配意している。
 最近10年間における特筆すべき事項は次のとおりである。
(1) 個人課税課においては、毎年の税制改正に対応するほか、近年、仮想通貨やシェアリングエコノミー等の新分野の経済活動が広がりを見せる中、こうした経済取引を行う個人に対して課税上の取扱いを問答形式で解説するQ&Aを国税庁ホームページに掲載するなど、適正申告のための環境作りを行っている。
 また、最近においても、課税上の取扱いに影響を及ぼす司法判断がなされており、この対応として、例えば、相続等に係る生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算方法や競馬の馬券の払戻金に関する所得区分について、所得税基本通達の改正や各種様式の見直しなどの所要の措置を講じている。
(2) 資産課税課においては、平成22年以降、①中小企業や個人事業者の事業承継を促進することを目的とした非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度の抜本的な拡充や、個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予制度の創設のほか、②株式譲渡益課税については、公社債を含めた金融所得課税の一体化に係る抜本改正、NISA制度や国外転出時課税制度の創設に対応し、改正後の法令・制度が適正、円滑に執行されるよう相続税法基本通達等の改正、整備を行った。
(3) 法人課税課においては、平成22年以降、100%グループ法人税制の導入、外国法人の課税原則の見直し、収益認識に関する会計基準の導入など、社会経済情勢の大きな変化に伴う法人税法等の抜本的な改正が行われたことから、改正後の法令・制度が適正、円滑に執行されるよう法人税基本通達等の改正、整備を行った。
(4) 消費税室においては、平成24年度の社会保障と税の一体改革による消費税及び地方消費税の税率引上げ等並びに平成28年度税制改正による軽減税率制度の実施及び適格請求書等保存方式(インボイス方式)の導入に対応して、消費税法基本通達等の改正、整備を行った。

2 審理室における審理事務

 経済社会の高度化・複雑化や訴訟型社会の到来等に対して、今後とも税務行政への信頼を確保していくためには、法令適用の一層の統一性・透明性の確保を図るとともに、争訟に耐えうるよう審理を充実することが重要である。
 こうした観点から、審理室では関係各課室と連携し、①文書回答を含む事前照会への適正かつ迅速な対応、②不服申立事務の適正かつ迅速な実施、③的確な訴訟対応に努めているところである(不服申立て及び訴訟については、第7章を参照)。
(1) 文書回答手続
 事前照会に対する文書回答は、納税者サービスの一環として、個別の取引、事実等(以下「取引等」という。)に係る税務上の取扱い等に関する事前照会に対する回答を文書により行うとともに、その内容を公表することにより、同様の取引等を行う他の納税者に対しても法令の適用等について予測可能性を与えることを目的として実施している。
(2) 質疑応答事例の公開
 納税者利便の向上に資するため、納税者からの照会などに対して回答した事例のうち、他の納税者の参考となるものをホームページ上に「質疑応答事例」として平成17年1月より公開している。