第1節 各税共通

1 資料情報事務

(1) 概要
 内国税の賦課に関する資料情報(以下この章において「資料情報」という。)の収集を充実させることは、申告額の適否の検討、無申告者の把握及び税務調査と行政指導の展開に役立つほか、納税者に適正な申告を促すことにもつながり、税務の運営にとって必要不可欠であり、ひいては申告納税制度の推進に重要な役割を果たしている。
 国税庁では、給与所得の源泉徴収票や利子等の支払調書などの法定資料のほか、調査の際に把握した情報など、あらゆる機会を通じて様々な資料情報の収集を行っている。
 特に、経済取引の国際化・ICT化等の進展や不正形態の変化に常に着目し、新たな資産運用手法や取引形態を把握するため、海外の企業との取引、海外投資に関する情報、インターネットを利用した電子商取引等の資料情報の収集に取り組んでいる。
 なお、国税庁で収集している資料情報は、年間5億枚に到達しており、これらの情報と申告に関するデータを一元的にシステム管理し、税務調査や行政指導に活用している。
(2) 法定資料の収集
イ 法定資料の種類
 法定資料とは、所得税法、相続税法、租税特別措置法及び内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「国外送金等調書提出法」という。)の規定によりその提出を義務付けられている資料をいい、その種類は、平成21年度末においては、53種類であったが、平成30年度末現在では60種類に及んでいる。
 平成22年度以降に新設された調書は、次のとおりである。
新設法定調書一覧
新設年 法定調書名 根拠法
平成22年 非課税口座年間取引報告書 租税特別措置法
平成23年 金地金等の譲渡の対価の支払調書 所得税法
平成24年 外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書 所得税法
国外財産調書 国外送金等調書提出法
平成25年 教育資金管理契約の終了に関する調書 租税特別措置法
平成26年 国外証券移管等調書 国外送金等調書提出法
平成27年 未成年者口座年間取引報告書 租税特別措置法
結婚・子育て資金管理契約の終了に関する調書
保険契約者等の異動に関する調書 相続税法
財産債務調書 国外送金等調書提出法

ロ 法定資料の収集状況
 法定資料の収集状況をみると、金融所得の一体課税などの制度改正があったことから種類別の収集枚数に増減があったもののおおむね3億枚以上で推移しており、平成30事務年度では3億4,287万枚となっている。
ハ 法定資料の提出状況の監査等
 法定資料は、法律により提出を義務付けているものであるから、本来ならば提出義務者の自主的な提出を待つことによりその目的を達成するのであるが、各税務署においては、まず提出義務者を的確に把握し、これらの提出義務者に対して法定資料の提出についての理解と協力を求め、適正な法定資料が期限内に提出されるよう説明会を開催するなどして指導を行っている。
 また、法律ではその提出を担保する手段として税務職員に提出義務者に対する監査の権限を付与するとともに、資料を提出しなかった者や虚偽の内容を記載した資料を提出した者に対しては刑罰を科する規定を置いている。
 なお、国外財産調書制度及び財産債務調書制度は、自己の保有する財産等に関する情報を納税者本人から提出を求める仕組みであり、適正な調書提出に向けたインセンティブとして加算税の加重・軽減措置が設けられている。
 提出内容の監査については、毎年、全国で延べ2万5千人程度の人員を投入して実施しており、不動産等の譲受けの対価の支払調書など、不動産関連資料の提出漏れ等を多く把握している。

法定資料の収集状況の推移

(単位:千枚)
事務年度
(対象期間)
昭和
25

45
平成
2

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30
25.7~26.6 45.7~46.6 2.7~3.6 21.7~22.6 22.7~23.6 23.7~24.6 24.7~25.6 25.7~26.6 26.7~27.6 27.7~28.6 28.7~29.6 29.7~30.6 30.7~元.6
収集枚数の合計
(注)
20,016 11,234 72,516 350,101 328,363 306,644 293,761 320,753 320,793 335,326 362,693 363,391 342,866
100.0% 56.1% 362.3% 1749.1% 1640.5% 1532.0% 1467.6% 1602.5% 1602.7% 1675.3% 1812.0% 1815.5% 1713.0%
主な内容 利子等の支払調書 312 - 19,290 2,293 1,907 2,240 1,616 1,089 1,144 10,416 14,447 10,557 8,695
配当等の支払調書 5,867 2,622 3,435 186,234 99,277 90,225 88,879 87,952 73,597 69,385 64,533 73,650 62,421
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書 484 2,491 6,255 15,110 15,905 19,038 21,908 14,219 13,640 10,305 14,424 12,971 9,169
不動産等の譲受けの対価の支払調書 - 482 653 274 296 419 314 346 361 376 375 412 427
給与所得の源泉徴収票 13,251 3,118 14,962 19,130 19,672 19,179 19,429 20,101 19,756 19,893 21,932 21,362 21,976
国外送金等調書 - - - 4,732 5,155 5,166 5,636 6,309 6,426 6,425 6,348 7,222 6,917

(注)下段は、昭和25事務年度を100%とした場合の各事務年度の割合を示す。

国外財産調書及び財産債務調書の提出件数

(単位:件)
  平成25年分 平成26年分 平成27年分 平成28年分 平成29年分 平成30年分
国外財産調書 5,539 8,184 8,893 9,102 9,551 9,961
財産債務調書 - - 74,802 73,360 73,427 72,633

(注)各年分の提出件数については、それぞれ翌年の6月末までに提出されたものを集計。

(3) 法定外資料の収集
イ 法定外資料の収集方法
 法定外資料の収集は、税務調査や行政指導を行う上で、活用効果が高いと認められる資料情報を重点的に収集するために実施するものであり、現在の収集方法は、①実地収集の方法による特別収集、②書面照会の方法による一般収集、③調査の際の収集、④「資料デー」として指定した特定の日に各部門が共同して申告書などの部内簿書から資料収集を行うもの及び⑤資料情報担当者などにより業界の景況、地域の動向、取引形態や資産の保有形態の変化、国際化及びICT化の進展等を注視して、税務調査に有効な資料源の開発を行い、資料を収集する「資料源開発」と5種の態様によっている。
 なお、令和元年度税制改正において、情報照会手続が整備され、官公署に加えて事業者等に対する任意の照会(事業者等への協力要請)について根拠規定が整備されるとともに、申告漏れの蓋然性が高い取引について法令上の行使要件に該当する場合には、事業者等に対して当該取引に係る情報の提出を求めることができる規定(特定事業者等への報告の求め)が整備されたことにより、令和2年1月以降は、情報収集手段の充実が図られることとなった。
ロ 法定外資料の収集状況
 法定外資料の収集状況をみると、年々増加傾向にあり、平成30事務年度では、1億6,451万枚となっている。

法定外資料の収集状況の推移

(単位:千枚)
事務年度
(対象期間)
昭和
25

45
平成
2

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30
25.7~26.6 45.7~46.6 2.7~3.6 21.7~22.6 22.7~23.6 23.7~24.6 24.7~25.6 25.7~26.6 26.7~27.6 27.7~28.6 28.7~29.6 29.7~30.6 30.7~元.6
収集枚数の合計
(注)
22,513 21,684 38,141 78,663 87,374 78,802 92,552 133,549 97,148 130,101 151,626 147,752 164,506
100.0% 96.3% 169.4% 349.4% 388.1% 350.0% 411.1% 593.2% 431.5% 577.9% 673.5% 656.3% 730.7%
内訳 特別収集 - 15,414 19,098 59,134 69,589 66,661 61,769 111,543 70,358 101,007 124,789 105,988 133,313
調査の際の収集 - 1,247 4,469 6,243 6,665 4,696 5,176 6,144 7,207 7,550 7,608 15,024 10,335
その他 - 5,023 14,574 13,286 11,120 7,445 25,607 15,862 19,583 21,544 19,229 26,740 20,858

(注)下段は、昭和25事務年度を100%とした場合の各事務年度の割合を示す。

(4) 資料情報の質的向上を図るための諸施策
イ 機構面
(イ) 課税総括課
 平成13年1月に創設された課税総括課は、近年の経済社会や納税者意識の変化、税制改正などに的確かつ柔軟に対応しつつ、適正・公平な課税の実現と納税者サービスの向上を図るため、広域的・事務系統横断的な観点から、課税部事務運営の基本方針を決定し、課税部所掌事務の総括・調整などを行っている。
 また、課税総括課は資料情報事務の主管課として事務運営の基本方針の策定、事務の管理運営を行っている。
(ロ) 統括国税実査官(資料情報担当)等
 平成16事務年度、東京国税局及び大阪国税局に、統括国税実査官(資料情報担当)を新設し、資料情報事務の運営に関する各種施策の策定、税務署の開発調査担当特別国税調査官の運営及び資料情報部門(担当)の指揮・監督を行っている。
 また、新規の資料源開発を積極的に行うため、昭和60事務年度に東京国税局、昭和62事務年度に大阪国税局に資料源開発を専担する資料調査課がそれぞれ設置され、その他の国税局においては資料源開発担当者が配置された。
 その後、平成13年1月に課税総括課が設置されたことに伴い、東京及び大阪の国税局には資料調査第三課、その他の国税局においては課税総括課内に資料源開発担当者が配置された。
(ハ) 開発調査担当特別国税調査官
 昭和50事務年度から資料源の開発を広域的に行う資料情報担当特別国税調査官が主要税務署に設置された。その後、平成13事務年度から開発調査担当特別国税調査官と名称変更して、国税局課税総括課の指揮・監督の下、常に社会経済情勢の変化などを注視しつつ、各事務系統のニーズを的確に把握した上で、実地調査による業種・業態等の実態解明を通じ、有効な資料情報を把握するための開発調査を重点的に実施することとし、即効性のある質の高い資料情報の収集に努めている。
 なお、開発調査担当特別国税調査官は、名称変更をした平成13事務年度当時は全国に42名配置されていたが、順次増員され、平成18事務年度以降は全国で65名配置されている。
(ニ) 資料センター
 資料情報の分類・送交付を効率的に行うため、全国の各国税局・沖縄国税事務所に資料センターが設置され、令和元年6月末現在13センターとなっている。
ロ 資料情報事務のICT化
 資料情報事務のICT化については、昭和42年から重要資料の管理システム、昭和59年から荷主資料せん作成システム、昭和61年からの一般収集システムなど部分的にICT化が進められ、平成元年には資料情報の一元管理及び多角的かつ高度な活用を図るため資料情報システムの運用を開始した。
 この資料情報システムは、これまで手作業で処理してきた法定資料をはじめとする資料情報を、住所、氏名等を基本項目として、コンピュータにより納税者別に名寄せを行うとともに一元的に管理・蓄積し、税務調査及び行政指導の実施のために必要な情報を出力するものである。
 なお、マイナンバー制度の導入に伴い、平成28年からマイナンバー及び法人番号が基本項目に追加された。
 また、保有する各種情報の網羅的な有効活用を促進するため、資料情報システムの再構築に取り組んでいる(令和2年導入予定)。
ハ 法定資料の提出の電子化
(イ) 光ディスク等による提出
 資料情報システムの導入に伴い、昭和62年度税制改正により、法定資料の磁気テープによる提出が可能となり、また、その後のOAシステム機器の普及により磁気テープ以外の記録用媒体の利用の進展等を踏まえ、平成12年度税制改正により、この提出の対象となる記録用媒体に磁気ディスク(FD、MO)を追加し、平成17年度税制改正において更に光ディスク(DVD、CD)を追加し、提出可能媒体の範囲を順次拡大してきた。
(ロ) e-Taxによる提出
 平成16年度から、全国的に国税電子申告・納税システム(e-Tax)により、自宅やオフィスのパソコンからインターネットを通じて税務署に提出することが可能になっている。
 また、平成24年1月からe-Tax(WEB版)を提供することにより、提出義務者の多い一部の調書については、WEB上の入力により法定資料等の作成・提出を可能とすることで利便性の向上を図った。
 さらに、平成29年1月からは、地方税ポータルシステム(eLTAX)を利用して、市区町村に提出する給与や公的年金等の支払報告書の電子申告用のデータを作成する際、税務署に提出する給与・公的年金等の源泉徴収票の電子申告(e-Tax)用のデータも同時に作成することができるようになり、作成したデータは、eLTAXに一括して送信することで、支払報告書は各市区町村に、源泉徴収票はe-Taxで税務署にそれぞれ提出できるようになった。
 これらのe-Tax提出の利便性向上策を講じたこともあり、法定資料の提出について、e-Tax利用件数は年々増加傾向にある。
(ハ) 法定資料の電子的提出の義務化
 ICT化の進展の中で、大量の情報を紙媒体でやり取りすることは非効率であるため、法定資料に関する事務の円滑化を図るとともに、法定資料を有効に活用する観点から、平成23年度税制改正により、法定資料のうち、前々年の提出枚数(提出枚数基準)が1,000枚以上のものについては、平成26年1月以後、e-Tax又は光ディスク等による提出が義務付けられた。
 さらに、行政手続のオンライン化の徹底等への取組の中で、法定資料に関する事務の円滑化を進め、法定資料の入力に係る行政コストの削減を図る観点から、平成30年度税制改正により、令和3年1月以後に提出すべき法定資料については、提出枚数基準が1,000枚以上から100枚以上に引き下げられている。
ニ 組織横断的な取組(局間連絡、課税部・調査部連携の推進)
 資料情報の収集については、社会経済の広域化、複雑化などに的確に対応し、組織力を最大限に活用した広域的・事務系統横断的調査を推進する必要があるため、平成14年に連携調査及び連携資料収集の実施に係る事務運営指針を示して、局署間の緊密な連携・協調体制を一層強化し、関係部門の相互協力による積極的な連携調査及び連携資料収集の実施を推進している。

2 電子商取引への対応

 インターネットを利用した取引は、スマートフォンやタブレット端末の急激な普及により拡大している。国境を越えた電子商取引が個人レベルでも日常的に行われ、電子マネーや暗号資産などの利用やプラットフォームを介した取引も急速に増加するなど、電子商取引の形態はますます多様化している。
 このような電子商取引への対応として、平成12年2月以降、各国税局・沖縄国税事務所に設置している「電子商取引専門調査チーム」(Professional Team for E-Commerce Taxation、通称「プロテクト(PROTECT)」)は、電子商取引の先端領域において活動している事業者及び電子商取引関連事業者等に対する情報収集や実地調査を専門的に実施している。
 また、プロテクトでは、職員全体の能力向上に資するため、実地調査等により把握した調査手法や各種ノウハウを提供している。

3 税務調査手続

(1) 概要
 税務調査手続については、平成23年12月に国税通則法の一部が改正され、手続の透明性及び納税者の予見可能性を高め、調査に当たって納税者の協力を促すことで、より円滑かつ効果的な調査の実施と申告納税制度の一層の充実・発展に資する観点及び課税庁の納税者に対する説明責任を強化する観点から、従来の運用上の取扱いが法令上明確化された。
 調査の実施に当たっては、法改正の趣旨を踏まえ、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」との国税庁の使命を適切に実施する観点から、調査がその公益的必要性と納税者の私的利益との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることを十分認識した上で、法令に定められた税務調査手続を遵守し、適正かつ公平な課税の実現を図るよう努めることとしている。
(参考)法令化された主な手続
イ 事前通知
 納税義務者に対し実地の調査を行う場合には、原則として、調査の対象となる納税義務者及び税務代理人の双方に対し、調査を行う旨のほか、調査を開始する日時・場所、調査の目的、調査の対象となる税目・期間・帳簿書類等を事前に通知する。
ロ 調査終了時の手続
 実地の調査の結果、更正決定等をすべきと認められない課税期間がある場合には、質問検査等の相手方となった納税義務者に対して、当該税目、課税期間について更正決定等をすべきと認められない旨の通知を書面により行う。
 また、調査の結果、更正決定等をすべきと認められる非違がある場合には、調査結果の内容(誤りの内容、金額、理由)の説明を行う。
ハ 理由付記
 税務署長等が、更正決定等などの不利益処分や納税者からの申請を拒否する処分を行う場合には、その通知書に処分の理由を記載する。
(2) 調査手続の法定化における対応
 平成24事務年度以降、法令解釈通達や税務調査手続に関するFAQ等を策定・公表したほか、法定化された調査手続等が適正かつ円滑に履行されるよう、全職員に対して改正に関する職員研修の実施、事務計画の見直しなど、各種の取組を実施してきた。
 また、法定化された調査手続等に係る適正な事務運営の確保及び審理機能・争訟対応機能の強化の観点から局署の体制整備も行っている。

4 マイナンバー制度への対応

(1) 概要
 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(平成27年10月5日施行)(以下「番号法」という。)に基づき、平成27年10月からマイナンバー(個人番号)及び法人番号の通知が行われ、平成28年1月から順次、社会保障、税、災害対策分野での利用が開始された。国税庁はマイナンバー及び法人番号の利活用機関であるとともに、法人番号の付番機関となっている。
(2) 導入時における法整備等への対応
イ マイナンバー
 マイナンバーは、住民票を有する全ての方が持つ12桁の番号である。
 番号法においては、マイナンバーを利用することができる事務を別表第一に掲げており、具体的な事務は主務省令において定めることとされている。このため、国税庁では、マイナンバーを利用する事務を精査し、番号法の所管府省である内閣府と必要な調整を行った(同省令は平成26年9月に公布)。
 また、番号法第16条において義務付けられている本人確認の措置に関して、番号法施行規則に基づき、国税関係手続における個人番号利用事務実施者が適当と認める書類等を規定する国税庁告示を平成27年1月30日付で公布した。
ロ 法人番号
 法人番号は、株式会社などの法人等が持つ13桁の番号であり、国税庁長官が指定・通知することとされている。また、国税庁長官は、法人番号の指定を受けた法人等の基本3情報(商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地及び法人番号)を公表することとされている。
 法人番号の指定・通知及び公表の細目については、内閣府と必要な調整を行い、「法人番号の指定等に関する省令」を制定した(同省令は平成26年8月に公布)。
ハ 特定個人情報保護評価への対応
 行政機関の長等は、番号法第28条に基づき、特定個人情報保護ファイルを保有する前に、特定個人情報保護評価を実施することとされている。
 このため、国税庁では、特定個人情報保護委員会規則及び特定個人情報保護評価指針に基づいて特定個人情報保護評価を実施し、平成27年1月から特定個人情報保護評価書を国税庁ホームページにおいて公表し、随時更新している。
ニ 問合せ等への対応
 マイナンバー制度に関する納税者からの問合せや相談に適切に対応するため、平成27年10月以降、税務署にマイナンバー制度に関する相談窓口を設置するなど、相談体制を整備した。
 また、法人番号に関する問合せ窓口として、平成27年11月からフリーダイヤルを設置するなど、法人等からの問合せに対応する体制を整備した。
(3) マイナンバー制度に係る周知・広報
 国税庁では、マイナンバー制度の定着のため、平成26年10月に国税庁ホームページにマイナンバー制度についての特設サイトを開設し、FAQなどを掲載したほか、関係民間団体や業界団体などに対する説明会などの実施、関係府省と連携して新聞やインターネット広告などを通じた広報に取り組んだ。
 また、平成29年1月以降の所得税等の申告書や法定調書等へのマイナンバー及び法人番号記載の本格化に先立ち、申告書等へのマイナンバー及び法人番号記載や本人確認書類の提示等につき、あらゆる機会を通じた周知・広報に重点的に取り組んだ。
(4) 納税者の利便性向上のための取組
 国税庁においては、マイナンバー制度の導入以降、以下のとおり、納税者利便の向上施策に取り組んだ。
イ 平成28年分の申告から、住宅ローン控除等の申告手続において、住民票の写しの添付を不要とした。
ロ 平成29年1月から、マイナポータルとe-Taxとの認証連携を開始し、マイナポータルにログインすれば、e-Tax用のIDとパスワードを入力することなく、メッセージボックスの閲覧、納税証明書に関する手続、源泉所得税に関する手続、法定調書に関する手続を利用可能とした。
ハ 平成31年1月から、e-Taxメッセージボックスに格納された申告等に係る情報をマイナポータルから閲覧可能とした。
(5) 法人番号付番機関としての取組
 平成25年5月の番号法成立を受けて、平成25年7月に長官官房企画課に法人番号準備室を設け、法人番号の指定・通知・公表を行うための「法人番号システム」の開発など法人番号制度導入に向けた準備を行った。
 平成27年10月に法人番号の交付が開始することに伴い、法人番号管理室を新設し、以降、法人等に対する番号の指定・通知及び公表を行っている。また、法人等の基本3情報の公表については、インターネット上に「国税庁法人番号公表サイト」を開設し、検索・閲覧機能、データダウンロード機能及びWeb-API機能の提供を開始した。
 さらに、法人番号は、利用範囲に制限がなく、社会的なインフラとして幅広い分野で利活用することが可能であるため、関係府省と連携を図り、行政機関や関係民間団体に対して、制度説明や利活用を働きかけ、利活用促進のため以下の施策に取り組んだ。
イ 平成27年12月には、法人番号を国際的にも唯一無二性を確保した識別コードとして利用することが可能となるよう、国連及び国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)へ国税庁を発番機関として登録した。
ロ 平成29年4月には、経済取引が国際化している中、名称や所在地の英語表記が使用される機会が多くなっていることから、国税庁法人番号公表サイトの英語版Webページを開設し、公表を希望する法人からの申込みに基づく名称及び所在地の英語表記の公表を開始した。
ハ 平成30年4月には、検索やデータ活用がしやすくなるよう、公表情報に商号又は名称のフリガナを追加した。
(6) 今後の展望
 今後、国税庁としては、「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」(令和元年6月4日デジタル・ガバメント閣僚会議)を踏まえ、マイナンバー制度のインフラとなるマイナンバーカードの普及促進にも積極的に取り組むとともに、マイナポータルを活用した申告手続の簡便化により納税手続のデジタル化を推進する。また、「デジタル・ガバメント実行計画」(平成30年7月20日同会議決定)に基づき、法人設立手続のオンライン・ワンストップ化など、法人番号を利用した行政機関間の情報連携を進め、国民の利便性向上を推進していく。

第2節 申告所得税

1 概要

(1) 申告所得税の制度概要
 申告所得税の概要は以下のとおりである。
イ 納税義務者
 所得税の納税義務者は個人であるが、利子、配当等の支払を受ける法人も、これらに対する所得税の源泉徴収を受忍する義務があるという点で所得税の納税義務者であり、更に、人格のない社団等も、法人とみなされ同様の納税義務がある。
ロ 所得の帰属
 所得税は、納税義務者に対し、その所得について課税されるが、その所得の帰属者について問題が生じることがある。この点について「実質所得者課税の原則」などの「所得の帰属に関する通則」を第1編第4章に設け、その他にも所得税法第158条で「事業所の所得の帰属の推定」について規定している。
ハ 課税所得の範囲
 所得税の納税義務者である個人は、その居住期間の長さなどに応じて居住者と非居住者に区分され、さらに、居住者は、通常の居住者と非永住者に区分され、課税所得の範囲がそれぞれ異なる。
 通常の居住者は、その源泉が国内にあるか国外にあるかを問わず、全ての所得について納税義務を負い、居住者のうち非永住者は、国内源泉所得及びそれ以外の所得で国内において支払われ又は国外から送金されたものについて納税義務を負う。非居住者は国内源泉所得についてのみ納税義務を負う。
ニ 所得税の課税単位
 所得税の課税単位は、所得者個人ごとに課税するという個人単位課税制度を基本としているが、家族ぐるみで事業に従事する場合の事業所得については、その家族間における恣意的な所得の分割を防ぐために、その事業から家族が受ける対価については必要経費に算入しないこととする一方で、給与等については一定の要件のもとで必要経費とする制度を設けている。この制度は、個人事業者における家族従業員に対する給与等の取扱いについて、専従者控除の創設と拡大、更に、青色申告者に係る事業専従者給与制度へと発展している。
ホ 所得税の計算構造等
 所得税の計算構造は、課税標準から所得控除を行った後の課税所得金額に税率を適用して算出税額を計算し、その金額から税額控除を行うことで年税額を求めるという構造となっている。
(イ)課税標準の計算
 所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額である。所得税法は、所得をその性質に応じて10種類に分類した上で、それぞれの所得につきその金額を計算し、総合課税の対象となるものは合算して総所得金額を計算するほか、所定の規定により計算された退職所得金額及び山林所得金額はそれぞれ分離課税としている。
 なお、租税特別措置法において、利子所得、配当所得に対する分離課税、株式等に係る譲渡所得等の課税の特例、先物取引に係る雑所得等の課税の特例などが定められている。
(ロ)所得控除
 所得控除は、納税者の世帯構成やその他の個人的事情による担税力の減殺を考慮したものや、政策的目的を理由としたものなどから設けられている。
(ハ)税額の計算・税額控除
 所得税の税額は、所得控除後の課税所得金額に対して税率を適用して算出され、各種の税額控除がなされる。
 この税率については、所得税制における応能負担の要請から、所得の増加に応じて適用税率を増加させる超過累進税率が採られている。
(ニ)納付手続
 申告所得税においては、申告により確定した所得税額を納期限までに納付しなければならない。納付は金銭で行うことを原則としている。
 このほか、歳入の平準化の見地と分割納付が納税者にとっても便宜な面があることから、前年の所得を基準として一定の方法で計算される予定納税額を年の途中で予納し、確定申告時にその精算を行う方法が併用されている。
(2) 最近10年間の主な制度改正等
 経済・社会の構造変化、社会保障・税一体改革の推進、経済の好循環の促進など、各種課題に対応するため、累次の制度改正が行われている。以下、主な制度改正の概要を記載する。
イ 平成22年度税制改正
 子ども手当の創設や公立高等学校の無償化等とあわせて、年少扶養親族(0歳から15歳までの扶養親族)を控除対象とする扶養控除が廃止されるとともに、16歳から18歳までの特定扶養親族に対する扶養控除の上乗せ部分が廃止されるなどの見直しが行われた。
 このほか、社会保障制度を補完する保険商品開発の進展等を踏まえ、生命保険料控除が改組された。
ロ 平成23年度税制改正
 年金所得者の申告手続の利便性向上や、給与所得者の申告手続とのバランス等の観点から、一定の年金所得者について、確定申告を不要とする制度が創設された。
 また、東日本大震災からの復興を図るために必要な財源の確保に関する特別措置法において復興特別所得税が創設され、平成25年から令和19年までの各年分の確定申告については、所得税及び復興特別所得税を併せて申告・納付することとされた。
ハ 平成24年度税制改正
 社会保障と税一体改革おける税率構造を含む改革に先立ち、課税の適正化の観点等から、給与所得控除の上限設定及び特定支出控除の見直しが行われた。
ニ 平成25年度税制改正
 給与所得者の所得構造の実態を踏まえ、格差の是正及び所得再分配機能の回復の観点から、所得税の最高税率が45%に引き上げられた。
ホ 平成26年度税制改正
 給与所得控除について、その水準が実際の勤務関係経費や主要国の水準に比して過大であり水準の適正化が必要であることから、適用される上限が引き下げられた。
ヘ 平成29年度税制改正
 働きたい人が就業調整を意識しなくて済む仕組みを構築する観点から、配偶者控除の適用に当たって申告者自身の所得制限が設けられたほか、配偶者特別控除の適用がある配偶者の合計所得金額の上限が123万円に引き上げられた。
ト 平成30年度税制改正
 働き方の多様化を踏まえ、働き方改革を後押しする等の観点から給与所得控除、公的年金等控除の控除額が一律10万円引き下げられ、基礎控除の控除額が10万円引き上げられる改正が行われた。なお、この改正は令和2年1月1日から施行とされており、令和2年分以後の所得税について適用される。
チ 令和元年度税制改正
 消費税率引上げに際し、予算措置と併せて、消費税率引上げ後の購入にメリットが出るよう、消費税率10%が適用される住宅取得等について、控除期間を現行の10年から13年に3年間延長されるなど、住宅借入金等特別控除が拡充された。

2 確定申告の状況

(1) 施策の状況等
 確定申告については、経済社会のICT化や還付申告者が増加傾向にあること等を踏まえ、納税者サービスの向上や相談事務・内部事務の効率化を図るため、電話相談の外部委託や非常勤職員の活用などに取り組むとともに、e-Taxや「確定申告書等作成コーナー」といった、ICTを利用した申告を推進している。
 「確定申告書等作成コーナー」については、利便性向上等の観点から順次改善を行っており、平成21年分から平成30年分までの確定申告における主な改善点は、以下のとおりである。今後は、スマートフォン等専用画面が利用可能な手続を順次拡大していくこととしている。
年分 改善点
H22 ・住所、氏名、予定納税額等を自動表示(自宅等からのe-Tax利用)
・青色申告書、収支内訳書の入力情報から申告書への自動転記
H24 ・医療費控除の入力の利便性向上
H27 ・給与・年金画面の創設(操作性の向上)
H30 ・スマートフォン等専用画面(年末調整済の給与所得者で寄付金控除、医療費控除の適用を受ける還付申告用)

 e-Taxについては、電子認証の普及拡大のためのインセンティブ措置として、平成19年度税制改正において、電子証明書を有する個人の電子申告に係る所得税額控除が創設され、平成19年分から平成24年分までの間でいずれか1回、所得税額から最高5,000円(平成23年分は4,000円、24年分は3,000円)の控除の適用を受けられたほか、e-Taxで申告された還付申告について、処理期間を従前の6週間程度から3週間程度に短縮する施策を実施している。また、平成30年分から、e-Tax利用の簡便化を行い、マイナンバーカード方式(e-Tax用のID・パスワードが不要)、ID・パスワード方式(マイナンバーカード、ICカードリーダライタが不要)によるe-Tax送信を新たに導入したことから、積極的に周知・広報施策を実施した。今後は、マイナンバーカード読取機能を搭載したスマートフォンを使用し、マイナンバーカード方式によるe-Tax送信を可能とすることとしており、自宅等からのe-Taxを利用した申告をより一層推進していくこととしている。
 確定申告期における相談事務については、e-Taxの利用拡大及び来署者の削減につなげることを目的として、平成19年分から「作成コーナー用パソコン」を設置し、パソコンを中心とした申告相談体制を構築し、効率的かつ円滑な会場運営に努めている。今後は、スマートフォン等専用画面の利用対象範囲の拡大を踏まえ、来署者数や会場スペース等に応じ、納税者自身のスマートフォン等を利用して申告を行うコーナーを設置し、翌年以降の自宅等からのe-Taxを利用した申告の推進を図っていくこととしている。
 なお、税務署に申告相談のため来署した納税者は、平成21年分は466万人であったものが、平成30年分では427万人となっており、9年前より38万人減少している。
 また、自宅等でのICT・e-Tax利用による所得税申告書の提出人員は、平成21年分は494万人(e-Tax:279万人、作成コーナー・書面提出:215万人)であったものが、平成30年分では1,017万人(e-Tax:543万人、作成コーナー・書面提出:474万人)となっており、9年前より523万人(e-Tax:264万人、作成コーナー・書面提出:259万人)増加している。
(2) 提出人員
 平成21年分所得税の確定申告書の提出人員は、2,367万人であったが、平成30年分は2,222万人となっており、9年間で146万人(6.1%)減少している。
 このうち、納税人員(申告納税額のあるもの)は、平成21年分は718万人であったものが、平成30年分には638万人となっており、79万人(11.0%)減少している。これを所得者別に見ると、営業等所得者は13.1%、農業所得者は24.4%それぞれ増加しているものの、その他所得者は17.5%減少している。
 また、還付申告をした者は、平成21年分は1,299万人であったものが、平成30年分は1,306万人となっており、6万人(0.5%)増加している。
 なお、譲渡所得について、平成21年分で所得がある者は45万人であったが、平成30年分で所得がある者は75万人となった。このうち平成15年から申告分離課税に一本化された株式等の譲渡所得者については、平成30年分では所得がある者は40万人となっている。
(3) 所得金額
 平成21年分所得税の納税人員の所得金額の合計は、35兆3,865億円(納税者1人当たり493万円)であったが、平成30年分は42兆1,274億円(納税者1人当たり660万円)となっており、10年間で6兆7,409億円(納税者1人当たり167万円)増加している。これを所得者別に見ると、営業等所得者は20.9%、農業所得者は42.6%、その他所得者は18.4%それぞれ増加している。
(4) 申告納税額
 平成21年分所得税の納税人員の申告納税額の合計は、2兆2,725億円(納税者1人当たり32万円)であったが、平成30年分は3兆2,826億円(納税者1人当たり51万円)となっており、10年間で1兆101億円(納税者1人当たり19万円)増加している。これを所得者別に見ると、営業等所得者は23.8%、農業所得者は99.5%、その他所得者は49.2%それぞれ増加している。

3 青色申告制度及び記帳・記録保存制度等とその普及

(1) 青色申告制度
 青色申告の一層の普及・奨励を図り、適正な記帳慣行を確立し、申告納税制度の実を上げるとともに、事業経営の健全化を推進する観点から、次の青色申告特別控除が設けられている。
イ 65万円の青色申告特別控除
 事業所得又は不動産所得を生ずべき事業を営む青色申告者がその事業につき帳簿書類を備え付けて、事業所得の金額又は不動産所得の金額に係る一切の取引の内容を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従い、整然と、かつ、明瞭に記録している場合には、65万円の青色申告特別控除の適用を受けることができる。
 なお、平成30年度の税制改正により、令和2年分以降、給与所得控除の最低保障額が65万円から55万円に引き下げられることに伴い、正規の簿記の原則に従って記録している者に係る青色申告特別控除の控除額が55万円に引き下げられることとされた。
 ただし、従来の要件に加え、次に掲げる要件のいずれかを満たす者については、引き続き青色申告特別控除額を65万円とすることとされた。
(イ) その年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳について、電子帳簿保存を行っていること。
(ロ) e-Taxにより、確定申告書に記載すべき事項及びその事業に係る帳簿書類に基づき作成された貸借対照表、損益計算書等に記載すべき事項に係る情報を送信したこと。
ロ 10万円の青色申告特別控除
 65万円の青色申告特別控除の適用を受けない青色申告者(65万円の青色申告特別控除を受けないことを選択した青色申告者を含む。)は、最高10万円の青色申告特別控除の適用を受けることができる。
(2) 記帳・記録保存制度
 昭和59年度に導入された白色申告者についての記帳・記録保存制度により、事業所得等の所得金額の合計額が300万円を超える個人事業所得者等に対して記帳義務が課されていたところ、平成23年度税制改正により平成26年1月以降は、全ての個人事業者等について、記帳義務及び記録保存義務を課すこととされた。
(3) 青色申告制度の普及
 申告納税制度の定着のためには、記帳に基づき自主的に申告できる納税者の増加が前提となるため、青色申告会等関係民間団体等の協力を得ながら青色申告の勧奨と青色申告者の指導に努めた。
 青色申告の普及については、各種説明会での利用勧奨、関係民間団体による広報活動等により、平成31年3月15日現在、青色新規申請者が26万人で、青色申告者数が677万人(営業等所得者417万1,000人、農業所得者44万1,000人、不動産所得者215万8,000人)である。
 なお、平成21年分から平成30年分の10年間で青色申告者数は131万人増加している。
(4) 記帳開始説明会・記帳指導
 納税者利便の向上、適正申告の確保及び申告水準の向上の観点から、各署において新規開業者・新規青色申請者等を対象に記帳開始説明会を開始するほか、外部委託により記帳から申告までの一貫した記帳指導を行っている。記帳指導については、大別して、①説明会方式、②会計ソフト方式、③個別指導方式により実施しているところ、パソコンを使用できる者については、会計ソフト方式に誘導し、ICTを利用した申告の普及を図っている。なお、平成30年度の記帳指導対象者数については、1万7,000人となっており、平成21年度から平成30年度の間で記帳指導対象者数は5,000人減少している。

4 調査及び指導の状況

(1) 納税者管理
 納税者管理については、膨大かつ業種等が多肢にわたる個人納税者を対象とする調査事務の効果的かつ効率的な運営を図るため、営業等所得者や農業所得者などといった所得に応じた区分のほか、高額・悪質重点の調査事務運営の推進を図るため、申告事績、調査事績及び資料情報から特に注視する必要がある者については、継続管理事案として管理している。
イ 継続管理事案
 継続管理事案については、継続管理区分による管理の要否を的確に見極めつつ、情報等の蓄積を十分に行い、事業実態等の把握・分析・検討を行った上で適期に調査対象として選定している。
ロ 継続管理事案以外の納税者
 継続管理事案以外の納税者については、KSKシステムによる管理を基本として、申告審理システムのほか、業種別管理システム、資料情報活用システム等を活用して、的確かつ効率的な調査選定をしている。
(2) 調査等の体制
 調査等については、限られた事務量の下、高額・悪質重点の調査を基本としつつ、中低階級の納税者の適正申告を確保するため、深度ある実地調査(特別調査・一般調査)や短期間で行う着眼調査(実地)、実地調査以外の接触を適切に組み合わせるなど、バランスのとれた事務量配分に配意し効果的・効率的な調査を実施している。
 また、事業・投資活動の国際化、会計処理や商取引のICT化の進展、いわゆる富裕層の資産運用の多角化・国際化といった社会経済情勢の変化に的確に対応するため、無申告となっている者も含め、これらの取引を行っている納税者に対し、積極的に調査に取り組んでいる。
 更に、今後は、調査事務の効率化・高度化を図るため、モバイル端末を活用するなど、ICTの活用を推進していくこととしている。
(3) 調査等の状況
 調査等については、高額・悪質な不正計算が見込まれるものを対象に、深度ある実地による調査(特別調査・一般調査)を優先して実施する一方、特定の事項などに申告漏れ等が見込まれる事案には、短期間で行う実地による着眼調査を実施しているほか、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接により、申告漏れ、計算誤り又は所得(税額)控除の適用誤りがある申告を是正するなどの接触(以下「簡易な接触」という。)を実施し、適正・公平な課税に努めている。
 所得税の実地調査事績をみると、平成21事務年度では、10万2,000件の調査を実施し、申告漏れ所得金額は5,853億円(1件当たり573万円)、追徴税額(加算税を含む。)は1,020億円(1件当たり100万円)であったが、平成30事務年度では、7万4,000件の調査を実施し、申告漏れ所得金額は6,024億円(1件当たり819万円)、追徴税額(加算税を含む。)は961億円(1件当たり131万円)となっており、10年前より調査件数は2万8,000件減少、申告漏れ所得金額は171億円(1件当たり246万円)増加、追徴税額(加算税を含む。)は59億円(1件当たり31万円)減少している。
 また、簡易な接触事績をみると、平成21事務年度では、57万1,000件の調査を実施し、申告漏れ所得金額は2,817億円(1件当たり49万円)、追徴税額(加算税を含む。)は154億円(1件当たり3万円)であったが、平成30事務年度では、53万7,000件の調査を実施し、申告漏れ所得金額は3,017億円(1件当たり56万円)、追徴税額(加算税を含む。)は233億円(1件当たり4万円)となっており、10年前より調査件数は3万4,000件減少、申告漏れ所得金額は200億円(1件当たり7万円)増加、追徴税額(加算税を含む。)は79億円(1件当たり1万円)増加している。

5 譲渡・山林所得

(1) 譲渡・山林所得の概要
イ 譲渡所得(下記6以外の関係)
 譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいい、土地建物等以外の資産を譲渡した場合の譲渡所得は総合課税の対象とされ、土地建物等を譲渡した場合の譲渡所得は分離課税の対象とされる。
ロ 山林所得
 山林所得とは、所有期間が5年を超える山林の伐採又は譲渡による所得をいい、分離課税の対象とされる。
(2) 譲渡・山林所得に係る主な改正の概要
 譲渡・山林所得の課税制度について、平成22年から令和元年までの間の主な改正は、次のとおりである。
イ 譲渡所得(下記6以外の関係)
(イ) 平成25年度税制改正
 中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律による措置の終了による影響の緩和を図る観点から、「債務処理計画に基づき資産を贈与した場合の課税の特例」が創設された。
(ロ) 平成26年度税制改正
 生活に通常必要でない資産の範囲に、主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産以外の資産(ゴルフ会員権等)が追加され、その譲渡により生じた損失については、各種所得と損益通算ができないこととされた。
 また、「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」について、相続財産である土地等の譲渡をした場合の譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算する金額が、その者が相続又は遺贈により取得した全ての土地等に対応する相続税相当額から、その譲渡をした土地等に対応する相続税相当額とされた。
(ハ) 平成28年度税制改正
 空き家の発生を抑制し、地域住民の生活環境への悪影響を未然に防ぐ観点から、「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」が創設され、相続又は遺贈により、被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を取得した相続人が、その取得をした被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等について、一定の要件を満たす譲渡をした場合には、3,000万円の特別控除を適用できることとされた。
(ニ) 令和元年度税制改正
 「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」について、被相続人が相続開始の直前において老人ホーム等に入居していた場合であっても、一定の要件の下で特例を適用できることとされた。
ロ 山林所得
 平成24年度税制改正において、森林法の改正に伴い、「山林所得に係る森林計画特別控除」の対象者が森林経営計画の認定を受けた者とされ、同年及び平成27年度税制改正において、森林計画特別控除の控除率に係る改正が行われた。
(3) 申告の状況
 譲渡所得の申告状況は、経済情勢の変化、土地需要の動向、税制改正等により各年の所得がある者に増減があった。平成21年分では、確定申告をした者は136万人、このうち所得がある者は45万人、所得金額は3兆2,839億円であったが、平成30年分では、確定申告をした者は154万人、このうち所得がある者は75万人、所得金額は8兆2,269億円となった。
 上記のうち、土地等の譲渡所得(総合譲渡を含む。)については、平成21年分では、所得のある者は21万人、所得金額2兆1,312億円であったが、平成30年分では、所得がある者は35万人、所得金額は5兆328億円となった。
 また、株式等の譲渡所得等については、平成21年では、所得がある者は25万人、所得金額は1兆1,527億円であったが、平成30年分では、所得がある者は40万人、所得金額は3兆1,941億円となっている。
 山林所得の申告状況は、平成21年分では所得のある者が3,430人、所得金額は60億円であった。また、平成30年分では、所得のある者が4,651人、所得金額は48億円であった。
(4) 調査及び指導の状況
イ 課税資料の確保
 譲渡所得については、その課税原因の把握の基礎となる不動産所有権移転登記資料や不動産取引資料等の的確な収集に努めている。また、各種法定調書等についても積極的な収集に努めている。
ロ 申告指導
 確定申告期における相談事務については、e-Taxの利用拡大及び来署者の削減につなげることを目的として、「作成コーナー用パソコン」を設置し、パソコンを中心とした申告相談体制を構築し、効率的かつ円滑な会場運営に努めている。
 また、譲渡所得については、その発生が臨時・偶発的であり、一般に税法等のなじみが薄い者が多いこと、また、課税の特例制度の多様化に伴い制度の内容が複雑化していることなどから、リーフレット等の配布による課税制度の周知を図るほか、税理士会、証券業協会等の協力を得て、各種広報、説明会等を通じて適正申告の啓もうに努めている。
ハ 調査の状況
 譲渡所得及び山林所得の調査は、高額・悪質と見込まれる事案を重点的に調査着手している。
 また、経済取引のグローバル化・ボーダーレス化の急速な進展を受けて、海外資産の譲渡事案や外国人による国内財産の譲渡事案についても、不正や申告漏れが見込まれる場合には、積極的な調査着手をしている。
 なお、平成30事務年度分までの譲渡所得の調査等事績は次のとおりである。

譲渡所得の調査等実績

譲渡所得の調査等実績

(5) 寄附財産に係る譲渡所得等の非課税承認事務
 個人が法人に対して譲渡所得等の基因となる資産の贈与又は遺贈をした場合には、その時における価額に相当する金額によりその資産の譲渡があったものとみなして、その贈与又は遺贈をした者に対し譲渡所得等の課税が行われることとされている(所得税法第59条第1項第1号)。
 しかし、個人が、国や地方公共団体に対して資産を贈与又は遺贈した場合における譲渡所得等については非課税とされているほか、公益社団法人、公益財団法人、特定一般法人(一定の要件を満たす一般社団法人及び一般財団法人)その他の公益を目的とする事業を行う法人に対して資産を贈与又は遺贈した場合についても、その贈与又は遺贈が、教育や科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときには、その譲渡所得等について非課税とされている。
 近年の主な税制改正事項については、平成29年度及び同30年度税制改正において、民間が担う公益活動の促進に資する観点から、非課税承認手続の特例に係る対象法人の拡充や、特定の寄附財産に係る買換えの特例の創設などの所要の措置が講じられた。
 この非課税承認の事務については、国税局(所)及び税務署における事実関係の的確な調査及び進達事務の迅速化を図るとともに、国税庁においては、適正な審査及び早期処理に努めているところである。
 なお、承認申請の処理状況は、次のとおりである。

承認申請の処理状況

事務年度
法人種類
平成
21

22

23

24

25

26

27

28

29

30
 
学校法人 32 56 48 40 41 41 36 64 39 29
財団法人 37 56 20 31 19 16 107 75 51 55
社会福祉法人 94 92 105 39 81 72 100 71 53 82
医療法人 1 3 3 10 6 1 0 1 1 0
宗教法人 87 87 104 38 38 25 36 63 29 35
その他の法人 60 37 61 42 82 52 69 71 108 90
合計 311 331 341 200 267 207 348 345 281 291

6 金融・証券所得税制

(1) 利子等に対する課税の概要
 公社債及び預貯金の利子並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配については利子所得として課税の対象となり、昭和63年4月1日以後、一律に源泉分離課税とされていた。
 なお、平成28年1月1日以後、特定公社債等の利子等については上場株式等の譲渡損失との損益通算等が可能となったことに伴い、原則として申告分離課税とされたほか、特定口座(源泉徴収選択口座)に受け入れることが可能とされている。
(2) 配当等に対する課税の概要
 法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、金銭の分配、基金利息並びに投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く。)及び特定受益証券発行信託の収益の分配については配当所得として課税の対象となり、源泉徴収の上、原則として総合課税(配当控除可)とされていた。
 なお、平成21年1月1日以後、上場株式等の配当等(大口株主等を除く。)については、上場株式等の譲渡損失との損益通算等が可能となったことに伴い、申告分離課税(配当控除不可)との選択とされたほか、平成22年1月1日以後、特定口座(源泉徴収選択口座)に受け入れることが可能とされている。
 また、一定の上場株式等の配当等に係る配当所得が非課税となるいわゆるNISA制度(平成26年1月1日~)、つみたてNISA制度(平成30年1月1日~)及びジュニアNISA制度(平成28年4月1日~)が措置された。
(3) 株式等の譲渡等に対する課税の概要
 株式等の譲渡をした場合の所得については譲渡所得等として課税の対象となり、平成15年1月1日以後、「株式等に係る譲渡所得等の課税の特例」及び「上場株式等を譲渡した場合の株式等に係る譲渡所得等の課税の特例」として申告分離課税とされた(同時に特定口座制度が措置)ほか、平成28年1月1日以後、「一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例」及び「上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例」に改組されている。
 また、配当所得と同様、一定の上場株式等の譲渡等に係る譲渡所得等が非課税となる各NISA制度が措置された。
(4) 先物取引に対する課税の概要
 先物取引に係る差金等決済をした場合の所得については雑所得等として課税の対象となり、平成13年4月1日以後、まず商品先物取引に係る差金等決済が申告分離課税とされた。その後、対象となる取引の追加等が行われており、商品先物取引等、金融商品先物取引等及びカバードワラントについて差金等決済をした場合の所得が「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」として申告分離課税とされている。
(5) 金融・証券所得税制に係る主な改正の概要
 金融・証券所得税制については、軽減税率の特例措置の終了、金融所得課税の一体化、NISA制度や国外転出時課税制度の創設など、この10年間における変遷が特に顕著であった。平成22年から令和元年までの間の主な改正は、次のとおりである。
イ 平成22年度税制改正
(イ) 金融所得課税の一体化の取組みの中で個人の株式市場への参加を促進する観点から、「非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置」(NISA制度)が創設され、平成24年1月1日から導入することとされた(ただし、平成23年度税制改正により導入期日は平成26年1月1日に延期されている。)。
(ロ) 平成13年9月30日以前から引き続き所有していた一定の上場株式等を平成15年1月1日から平成22年12月31日までの間に譲渡した場合に、その上場株式等の平成13年10月1日における価額の80%に相当する金額を取得費とすることができる「平成13年9月30日以前に取得した上場株式等の取得費の特例」について、適用期限(平成22年12月31日)の到来をもって廃止することとされた。
ロ 平成23年度税制改正
(イ) 上場株式等の配当等及び譲渡所得等に係る軽減税率(所得税7%、住民税3%)の特例措置の適用期限が、平成25年12月31日まで延長された。
(ロ) 上記(イ)の軽減税率の特例措置の終了時期に合わせる形で、「非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置」の導入期日が2年延長され、平成26年1月1日からとされた。
(ハ) 店頭商品デリバティブ取引等に係る投資家保護策が講じられてきたことを踏まえ、金融商品間の課税の中立性を高める観点から、平成24年1月1日以後、「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」の対象に、店頭商品デリバティブ取引、店頭デリバティブ取引及び上場されていないカバードワラントに係る差金等決済をした場合の所得が追加された。
ハ 平成25年度税制改正
(イ) いわゆる税制抜本改革法等において公社債を含めた金融所得課税の一体化を進めることが検討課題とされていたこと等に鑑み、公社債等の譲渡所得等を非課税とする制度を改め、株式等と同様に譲渡益課税の対象とすることとされた。
 この金融所得課税の一体化を進めるに当たっては、簡素かつ分かりやすい税制の構築を目指すとともに、配当所得との課税方式のバランスや非上場株式の特性も考慮して、損益通算の対象となる上場株式等に係る譲渡所得等と損益通算の対象とならない非上場株式等に係る譲渡所得等とを別々の分離課税制度とすることとされた。すなわち、株式等の譲渡所得等については、平成28年1月1日以後、「上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例」と「一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例」に改組された。
 この金融所得課税の一体化という抜本改正に伴い、平成25年度税制改正においては、株式等譲渡益課税制度に係る各種特例に関しても所要の改正が行われている。
(ロ) 上記(イ)に関し、平成28年1月1日以後、公社債、公社債投資信託等に対する課税方式について、次のとおり見直しが行われた。
A 特定公社債及び公募公社債投信等の利子・譲渡所得等を申告分離課税とし、これらの所得間及び上場株式等との損益通算並びに損失の繰越控除が可能とされた。
B 特定公社債等については、投資家の申告事務等に配慮し、特定口座での取扱いが可能とされた。
C 一般個人投資家の投資対象とならない特定公社債以外の公社債及び私募公社債投資信託等については、損益通算不可とされた。
(ハ) 平成21年1月1日から平成25年12月31日までの間における上場株式等の配当等及び譲渡所得等に係る軽減税率(所得税7%、住民税3%)の特例措置は、平成25年12月31日をもって廃止され、平成26年1月1日以後は、本則税率(所得税15%、住民税5%)を適用することとされた。
(注)軽減税率の特例措置については、平成20年度税制改正において、一旦、平成20年12月31日をもって廃止されたものの、平成21年度税制改正及び平成23年度税制改正により平成25年12月31日まで継続・延長されていた。
ニ 平成27年度税制改正
(イ) NISA制度について、投資家の裾野を一層拡大し、家計の資産形成を更に支援する観点から、平成28年分以後、非課税投資限度額が従来の年間100万円から120万円に引き上げられた。
(ロ) NISA制度の利用実態を見ると、非課税口座を開設している者はこれまでも比較的多くの株式投資を行っていた高齢者層に偏っていたことから、若年者層への投資の裾野拡大を図るとともに、高齢者層から若年者層への世代間の資産移転を促すことを目的として、対象者を20歳未満の者に限定した「未成年者口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置」(ジュニアNISA制度)が創設され、平成28年4月1日から導入することとされた。
(ハ) 株式等のキャピタルゲインに対する課税については、国際的に、株式等の売却等により実現した時点で、株式を売却した納税者が居住している国において課税されることが原則となっているところ、こうした仕組みを利用して、巨額の含み益を有する株式を保有したまま国外転出し、キャピタルゲイン非課税国において売却することにより課税逃れを行うことが可能となっていた。
 こうした課税逃れを防止する観点から、主要国の多くが国外転出時点の未実現の所得(含み益)を国外転出時前の居住地国で課税するようになっており、平成26年9月に公表されたBEPS(税源侵食と利益移転)プロジェクトにおいても、国外転出時における未実現のキャピタルゲインに対する課税が、租税回避措置として位置づけられた。
 そこで、日本においても、主要国と足並みを揃え、一定の国外転出者に対して、国外転出直前に有価証券等(対象資産)を譲渡してこれを同時に買い戻したものとみなして、その未実現のキャピタルゲインに課税する「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」(国外転出時課税制度)が創設され、平成27年7月1日以後の国外転出から適用されることとされた。
 また、居住者の有する対象資産が、贈与、相続又は遺贈により非居住者に移転した場合についても、前述の国外転出時課税制度と同様に、その未実現のキャピタルゲインに課税する「贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例」(国外転出時課税(贈与・相続)制度)が創設され、平成27年7月1日以後の贈与、相続又は遺贈から適用されることとされた。
ホ 平成28年度税制改正
(イ) 平成28年4月1日以後、無記名の公社債、無記名の株式又は無記名の投資信託等の受益証券の元本の所有者以外の者が利子等の支払を受ける場合には、その元本の所有者が利子等の支払を受けるものとみなす措置が廃止された。
(ロ) 平成28年10月1日以後、「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」の対象から、商品先物取引業者以外の者を相手方として行う店頭商品デリバティブ取引及び金融商品取引業者のうち第一種金融商品取引業を行う者以外の者又は登録金融機関以外の者を相手方として行う店頭デリバティブ取引が除外された。
ヘ 平成29年度税制改正
 NISA制度は、株式などのリスク資産への投資に親しみがなかった者に継続的な資産形成を始めるインセンティブを付与する観点から導入されたが、その利用者がこれまでも株式投資を行っていた高齢者層に偏っているなど、必ずしも制度趣旨に沿った利用状況になかったことから、家計の安定的な資産形成を支援する観点から、特に少額からの長期積立・分散投資を促進するための制度として、「非課税累積投資契約に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置」(つみたてNISA制度)が創設され、NISA制度との選択により、平成30年1月1日から導入することとされた。
ト 平成30年度税制改正
 迅速な事業再編等を支援するための措置として、株式を対価とする他の法人の株式等の取得に際しての株式の発行等に関する会社法の特例措置(産業競争力強化法等の一部を改正する法律(平成30年法律第26号))が講じられ、税制面においてもこれを推し進める観点から、認定特別事業再編事業者が行う特別事業再編により、個人がその有する他の法人の株式等を譲渡し、その認定特別事業再編事業者の株式の交付を受けた場合には、その株式等の譲渡はなかったものとみなすこと等とする「特別事業再編を行う法人の株式を対価とする株式等の譲渡に係る譲渡所得等の課税の特例」が創設され、平成30年7月9日から施行することとされた。
チ 令和元年度税制改正
(イ) 成年となる年齢を18歳とする等の措置を講ずることを内容とする民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)の成立(令和4年4月1日施行)により、税制上、年齢要件を20歳又は成年(未成年)としている制度も18歳に引き下げることとされた。
 このため、NISA制度における非課税口座を開設することができる年齢要件やジュニアNISA制度における未成年者口座を開設することができる年齢要件についても18歳に引き下げられた。ただし、これらの制度においては、年齢要件の判定が1月1日現在で行われることに鑑み、令和5年1月1日以後に開設される非課税口座及び未成年者口座に適用することとされた。
(ロ) 「特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等」(ストック・オプション税制)について、その適用対象者に株式会社等の取締役、執行役及び使用人である個人以外の個人(特定従事者)が加えられた。
 また、特定従事者がストック・オプション税制の適用を受けて取得をした株式を保有したまま国外転出をする場合、一定の要件を満たす株式については、その国外転出の時に権利行使時価額による譲渡があったものとみなして課税されること等とされ、これらの改正は、令和元年7月16日から施行することとされた。

第3節 源泉所得税

1 概要

(1) 源泉徴収制度
 所得税は、所得者自身が、その年の所得金額とこれに対応する税額を計算し、これを自主的に申告して納税する、いわゆる「申告納税制度」を建前としているが、これと併せて特定の所得については、その所得の支払の際に支払者が所得税を徴収して納付する源泉徴収制度を採用している。
 この源泉徴収制度は、給与や利子、配当、税理士報酬などの所得を支払う者が、その所得を支払う際に所定の方法により所得税額を計算し、その所得の支払金額からその所得税額を差し引いて国に納付するという制度であり、これは、主として徴税の確実性と所得者の煩雑な納税手続を省くために設けられているものである。
 また、復興特別所得税においても、平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に生じる所得のうち、所得税の源泉徴収の対象とされている所得については、所得税を徴収する際に、復興特別所得税を併せて徴収し、納付することとなっている。
 この源泉徴収制度により徴収された所得税及び復興特別所得税の額は、源泉分離課税とされる利子所得などを除き、例えば、報酬・料金等に対する源泉徴収税額については、確定申告により、また、給与に対する源泉徴収税額については、通常は年末調整という手続を通じて、精算される仕組みとなっている。
(2) 源泉徴収義務者と源泉徴収の対象所得
 源泉徴収制度においては、源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税を徴収して国に納付する義務のある者を「源泉徴収義務者」といい、源泉徴収の対象とされている所得の支払者は、それが会社や協同組合、学校、官公庁であっても、また、個人や人格のない社団・財団であっても、全て源泉徴収義務者となる。
 源泉徴収の対象となる所得の範囲は、支払を受ける者の区分に応じて異なっており、例えば居住者の場合には、利子等、配当等、給与等、退職手当等、公的年金等、報酬・料金等、生命保険契約等に基づく年金、定期積金の給付補塡金等、匿名組合契約等の利益の分配、特定口座内保管上場株式等の譲渡所得等、懸賞金付預貯金等の懸賞金等、割引債の償還差益及び割引債の償還金に係る差益金額となっている。
 また、内国法人が受ける利子や配当、馬主が受ける競馬の賞金などや、非居住者や外国法人が受ける特定の国内源泉所得についても、同様に源泉徴収を行うこととなっている。
 源泉徴収義務者は、所定の税率により所得税及び復興特別所得税を源泉徴収した上、原則として、その源泉徴収の対象となる所得を支払った日の翌月10日までに「納付書(所得税徴収高計算書)」を添えて納付することとなっている。
 なお、給与の支払を受ける者が常時10人未満である源泉徴収義務者については、所轄税務署長の承認を受けることにより、源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税を7月10日と翌年1月20日にまとめて納付することができるいわゆる「納期の特例」の制度が設けられている。
(3) 主な制度改正等
 源泉徴収制度について、平成22年から令和元年までの間の主な改正事項は、次のとおりである。
イ 平成22年度税制改正
(イ) 平成22年度税制改正により、次の改正が行われた。
A 扶養控除について、年齢16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)に対する扶養控除が廃止され、特定扶養親族の範囲が年齢19歳以上23歳未満の扶養親族に変更された。また、同居特別障害者に対する障害者控除の額が1人につき75万円に変更された。これらの改正は、平成23年分以後の所得税について適用された。
B 生命保険料控除が改組され、介護医療保険料控除(適用限度額4万円)が創設されるとともに、各生命保険料控除の合計適用限度額が12万円とされた。この改正は、平成24年分以後の所得税について適用された。
(ロ) 平成24年度税制改正により、給与等の収入金額が1,500万円を超える場合の給与所得控除額について上限が設けられた。この改正は、平成25年分以後の所得税について適用された。
(ハ) 平成25年度税制改正により、所得税の税率について、課税所得4,000万円超の区分が設けられ、その税率が45%とされた。この改正は、平成27年分以後の所得税について適用された。
(ニ) 平成26年度税制改正により、給与所得控除の上限額が引き下げられた。この改正は、平成28年分以後の所得税について適用された。
(ホ) 平成27年度税制改正により、非居住者である親族(国外居住親族)に係る扶養控除等の適用を受ける場合には、その親族に係る親族関係書類及び送金関係書類を提出又は提示しなければならないこととされた。この改正は、平成28年分以後の所得税について適用された。
(へ) 平成28年度税制改正により、通勤手当の非課税限度額が月額15万円に引き上げられた。この改正は、平成28年1月1日以後に支払われるべき通勤手当について適用された。
(ト) 平成29年度税制改正により、次の改正が行われた。これらの改正は、平成30年分以後の所得税について適用された。
A 配偶者控除及び配偶者特別控除の控除額について、居住者の合計所得金額と配偶者の合計所得金額の区分に応じた控除額とされたほか、居住者の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、配偶者控除の適用を受けることはできないこととされた。また、配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額が38万円超123万円以下とされた。
B 給与等の源泉徴収の際の扶養親族等の数の算定に当たり、配偶者が源泉控除対象配偶者に該当する場合には、扶養親族等の数に1人を加えて計算することとされた。
C 年末調整において配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受ける場合には、「給与所得者の配偶者控除等申告書」を提出しなければならないこととされた。
(チ) 平成30年度税制改正により、次の改正が行われた。これらの改正は、令和2年分以後の所得税について適用される予定。
A 給与所得控除額が一律10万円引き下げられるとともに、給与等の収入金額が850万円を超える場合の上限が引き下げられた。
B 基礎控除額が10万円引き上げられた。また、合計所得金額が2,400万円を超える居住者についてはその合計所得金額に応じて控除額が逓減し、合計所得金額が2,500万円を超える居住者については基礎控除の適用はできないこととされた。これらの改正に伴い、年末調整において基礎控除の適用を受ける場合には、「給与所得者の基礎控除申告書」を提出しなければならないこととされた。
C 給与等の収入金額が850万円を超える居住者で、年齢23歳未満の扶養親族を有する者など一定の者について、その者の給与等の収入金額(その給与等の収入金額が1,000万円を超える場合には、1,000万円)から850万円を控除した金額の10%に相当する金額を給与所得の金額から控除する所得金額調整控除が創設された。この改正に伴い、年末調整において所得金額調整控除の適用を受ける場合には、「所得金額調整控除申告書」を提出しなければならないこととされた。
D 各種所得控除等を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件等の見直しが行われた。
ロ 退職所得
 平成24年度税制改正により、特定の役員等に対する退職手当等については、収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1相当額を退職所得の金額とする累進緩和措置が廃止された。この改正は、平成25年分以後の所得税について適用された。
ハ 公的年金等
(イ) 平成30年度税制改正により、公的年金等控除額が一律10万円引き下げられるとともに、公的年金等の収入金額が1,000万円を超える場合の上限が195万5,000円とされた。また、公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が、1,000万円を超え2,000万円以下である場合には一律10万円を、2,000万円を超える場合には一律20万円を、それぞれ上記の改正後の公的年金等控除額から引き下げることとされた。これらの改正に伴い、非居住者の公的年金等に係る源泉徴収等における控除額計算の基礎額が、年齢65歳未満の者については5万円に、年齢65歳以上の者については9万5,000円に、それぞれ引き下げられた。これらの改正は、令和2年分以後の所得税について適用される予定。
(ロ) 令和元年度税制改正により、公的年金等について「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出していないものに対し、その公的年金等の支払者が支払う公的年金等に係る源泉徴収すべき税額は、公的年金等の金額から公的年金等控除額及び基礎控除に対応する控除の額の月割額に公的年金等の金額に係る月数を乗じて計算した金額を控除した残額に、5%の税率を乗じて計算することとされた。この改正は、令和2年1月1日以後に支払うべき公的年金等について適用される予定。
ニ 金融・証券税制
(イ) 平成21年度及び平成23年度税制改正により、上場株式等の配当等及び源泉徴収選択口座における上場株式等の譲渡所得等の軽減税率の特例について、その適用期限が平成25年12月31日まで延長された。
(ロ) 金融所得課税の一体化
 平成25年度税制改正により、源泉徴収選択口座内保管上場株式等の譲渡による所得等及び源泉徴収選択口座内配当等に対する源泉徴収等の特例並びに上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の対象となる上場株式等の範囲に特定公社債、公募公社債投資信託などが含まれることとされた。この改正は、平成28年分以後の所得税について適用された。
(ハ) NISA・ジュニアNISA
A 平成22年度税制改正により、非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置(NISA)が創設され、平成23年度税制改正により、平成26年1月1日から適用することとされた。また、平成25年度税制改正により、平成26年1月1日以後に開設する非課税口座に係る開設期間、非課税期間、口座開設手続等の改正が行われた。さらに、平成26年度税制改正により、平成27年1月1日以後、一定の手続の下で、同一の勘定設定期間内において、非課税管理勘定を設定する金融商品取引業者等の変更又は非課税口座の再開設が可能とされた。
B 平成27年度税制改正により、NISAについて、平成28年分以後の非課税管理勘定の限度額が120万円に引き上げられた。
 また、未成年者口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置(ジュニアNISA)が創設された。この改正は、平成28年1月1日以後に未成年者口座の開設の申込みがされ、同年4月1日からその未成年者口座に受け入れる上場株式等について適用された。
C 平成29年度税制改正により、NISAについて、非課税累積投資契約に係る非課税措置(つみたてNISA)が創設された。この改正は、平成29年10月1日以後に累積投資勘定の設定に係る手続を行い、平成30年1月1日以後に設定された累積投資勘定に受け入れる上場等株式投資信託について適用された。
D 平成30年度税制改正により、NISAについて、非課税適用確認書等の添付を要しない非課税口座簡易開設届出書の提出をして非課税口座を開設することができることとされた。この改正は、平成31年1月1日以後に提出をする非課税口座簡易開設届出書について適用された。

2 源泉徴収義務者数等の推移

(1) 源泉徴収義務者数の推移
イ 給与所得の源泉徴収義務者数は、平成21事務年度末(平成22年6月30日)は368万2,000件であったが、平成30事務年度末(令和元年6月30日)では353万2,000件と年々減少しており、特に個人の源泉徴収義務者の減少が著しい。
ロ 一方、給与所得以外の所得の源泉徴収義務者数について平成21事務年度末(平成22年6月30日)と平成30事務年度末(令和元年6月30日)とを比較すると、
① 利子所得については、4万6,000件から3万5,000件(約0.8倍)に
② 報酬・料金等所得については、293万件から284万7,000件(約1.0倍)に
それぞれ減少しているが、
① 配当所得については、12万7,000件から14万7,000件(約1.2倍)に
② 上場株式等の譲渡所得等については、8,000件から1万2,000件(約1.5倍)に
③ 非居住者等所得については、2万3,000件から3万6,000件(約1.6倍)に
それぞれ増加している。

所得種類別義務者推移

所得種類別義務者推移

(2) 源泉所得税額の推移
 源泉所得税額が租税及び印紙収入の総額に占める割合は、平成21年度は27.1%であり、現在は26%程度で推移している。
 なお、平成30年度概算額の源泉所得税額は15兆7千億円で、一般会計の租税及び印紙収入合計額59兆790億円に占める割合は26.6%となっている。

租税及び印紙収入(一般会計分)に占める源泉所得税額等の推移

租税及び印紙収入(一般会計分)に占める源泉所得税額等の推移

3 事務運営体制

(1) 未納整理事務
イ 概要
 未納整理に当たっては、未納発生の抑制のため説明会や調査等のあらゆる機会を通じて期限内納付についての認識の高揚を図り、未納者への早期接触、自主納付の推進などの取組を行うことにより、未納の早期・確実な処理に努めるとともに、後述する源泉所得税事務集中処理センター室(以下「源泉事務センター」という。)を中心に効率的な処理に努めることとしている。
 また、過年分納付遅延者については、原則、事務年度内に処理が完了するよう、計画的に未納整理を実施することとしている。更に、源泉事務センターでの処理により削減された事務量を必要に応じ、過年分納付遅延者、継続的納付遅延者、大口納付遅延者への対応に充てるとともに、悪質な大口納付遅延者など未納整理の処理困難事案については、各税務署で個別に管理し実地の調査を実施するなど、確実な処理に努めている。
ロ 効率的な未納整理の実施(源泉事務センターについて)
 未納整理は、他の事務と独立し大量かつ反復的に発生する事務であるため、集中化による効率化が期待できることから、平成17事務年度の大阪国税局を皮切りに、未納整理事務の集中化の試行を開始し、平成22事務年度に機構措置がなされ、その後順次拡大し、平成29事務年度に沖縄国税事務所での集中化の取組が実施されたことをもって全局(所)において未納整理事務の集中化が図られた。
(2) 調査及び行政指導事務
イ 調査及び指導の体制
 調査事務の実施に当たっては、内部事務や未納整理事務の効率的な処理を通じて調査事務量を最大限確保することとし、源泉所得税調査は、法人税等の調査の際に、併せて源泉所得税の調査を実施する同時調査を基本とし、同時調査の対象とならない調査課所管法人等の源泉徴収義務者に対して行う源泉実地(確認)調査の二本立てにより効率的な調査事務運営に努めることとしている。
 特に、法人税等の納税義務がないため同時調査の対象とならない法人等に対して、源泉所得税の観点から調査を実施する源泉実地調査は、源泉国際課税など真に源泉所得税固有の問題を解明する必要があると認められる者を調査対象者として厳選し、深度ある調査の実施に努めることとしている。
ロ 調査の状況
 源泉所得税の調査事績について、平成21事務年度の調査件数は186千件であったが、平成30事務年度の調査件数は116千件となっている。
 調査件数については、平成25年1月に施行された国税通則法の改正に伴い調査手続が法定化されたことにより、1件当たりの調査事務量が増加したことに起因し、減少しているが、近年は内部事務等の効率化などにより調査事務量を確保することでわずかに増加している。
 なお、調査による追徴税額は、平成21事務年度は379億円であったが、平成30事務年度は370億円となっている。

調査事績の推移

項目
事務年度
実地調査件数 非違があった件数 調査による追徴税額 調査1件当たりの追徴税額
うち重加算税適用件数 うち重加算税適用追徴税額
  千件 千件 千件 億円 億円 千円
平成21事務年度 186 50 6 379 68 203
平成22事務年度 169 45 5 381 67 225
平成23事務年度 174 46 5 336 57 193
平成24事務年度 136 33 4 285 52 210
平成25事務年度 117 32 3 254 49 217
平成26事務年度 117 34 3 261 46 223
平成27事務年度 113 34 4 435 54 384
平成28事務年度 116 35 4 281 61 243
平成29事務年度 116 36 4 304 56 263
平成30事務年度 116 36 4 370 73 319

(3) 審理事務
 源泉所得税の審理に当たっては、所得税法だけではなくいわゆる財形法や年金法、著作権法、金融商品取引法、あるいは各国との租税条約など幅広い知識を要するとともに、社会経済情勢の変化等により複雑・困難な審理事務も増加傾向にあるため、審理専門官や審理担当官を中心とした審理体制の整備や研修の実施等により、審理の充実を図ることとしている。
 また、平成25年1月に施行された国税通則法の改正に伴い調査手続が法定化されたことも踏まえ、審理専門官等は、課税処理の統一性・適法性の確保の観点から、課税要件の充足性の適否のみならず必要な証拠の収集・保全についても的確な助言を行うこととしている。
(4) 内部事務の一元化による事務運営
 平成21事務年度においては、各税目の申告書処理、債権管理、窓口関係など、多様な事務を一つの部門で一体的に処理するために、管理運営部門が設けられた。これに伴い源泉所得税事務のうち入力事務などの内部事務が定員とともに管理運営部門に移管された。
(5) 年末調整事務の負担軽減に向けた取組
 「規制改革実施計画」(平成29年6月9日閣議決定)において「年末調整手続の簡便化」が掲げられたことを踏まえ、被用者がマイナポータルを通じて保険会社等から電磁的に交付された控除証明書等を入手し、これら控除証明書等を用いて簡便・正確に控除申告書を作成の上、雇用者に電磁的提出を可能とするソフトウェアを提供することとし、開発に着手した(令和2年10月リリース予定)。

第4節 法人税

1 概要

(1) 法人税の制度概要
イ 納税義務者
 法人税の納税義務者は、「内国法人」と「外国法人」に分類される。
 内国法人とは国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいい、外国法人とは内国法人以外の法人をいう。
 また、法人を「公共法人」、「公益法人等」、「協同組合等」及び「普通法人」に区分し、更に、法人でない社団や財団で代表者や管理人の定めがあるもの(以下「人格のない社団等」という。)を法人とみなして法人税の納税義務者としている。
ロ 課税所得の範囲
 内国法人に対する法人税は、次の所得に対して課税される。
(イ) 各事業年度の所得
 法人の事業活動に伴い生じた益金の額から損金の額を控除した金額
(ロ) 各連結事業年度の連結所得
 親法人及びその親法人との間に完全支配関係にある全ての子法人で構成されるグループを納税単位とし、個別益金額から個別損金額を控除した金額
(ハ) 退職年金等積立金
 上記(イ)及び(ロ)のほか、退職年金業務等を行う信託会社や生命保険会社等には退職年金等積立金額に対する法人税が課される。なお、平成11年4月1日から令和5年3月31日までの間については、課税が停止されている。
 また、内国法人の課税所得の範囲は法人の種類によって異なり、種類別に課税所得の範囲を分類すれば、次のとおりである。
課税所得
内国法人の種類
各事業年度の所得 各連結事業年度の所得 退職年金等積立金
公共法人 (納税義務なし)
公益法人等 収益事業から生じた所得にのみ課税 退職年金業務等を行う法人に対して課税
人格のない社団等
協同組合等 すべての所得 すべての所得
普通法人

(2) 主な制度改正等
 平成22年度税制改正においては、持株会社制のような法人の組織形態の多様化に対応するために、100%グループ内の法人間の取引等について法人税法の改正が行われた。
 平成23年度税制改正においては、平成23年3月11日に発生した東日本大震災に伴う被災者等の負担の軽減及び復旧・復興へ向けた取組の推進を図るため、税制上の臨時特例措置及び復旧・復興のために要する財源について、時限的な税制措置が行われた。
 平成26年度税制改正においては、外国法人に対する課税原則が、従来のいわゆる総合主義(全所得主義)から帰属主義へ法人税法の改正が行われた。
 平成29年度税制改正においては、阪神・淡路大震災や東日本大震災の際に特別立法で措置されていた災害関連措置について、法人税法に常設の規定とされた。
 平成30年度税制改正においては、収益認識に関する会計基準の導入に対応するために、法人税法についても収益の認識時期等の改正が行われた。
(3) 認定NPO法人制度関係
 平成23年に特定非営利活動促進法の一部を改正する法律が公布(平成24年4月1日施行)され、これまで国税庁長官が認定していた認定NPO法人制度が廃止され、新たに都道府県知事又は指定都市の長が認定する認定制度が開始された。
(4) 大法人の電子申告義務化
 平成30年度税制改正において、政府税制調査会等の議論を踏まえ、「法人税等の申告書の電子情報処理組織による提出義務」(「大法人の電子申告義務化」)が創設された。具体的には、令和2年4月1日以後に開始する事業年度において資本金の額等が1億円を超える内国法人並びに相互会社、投資会社及び特定目的会社等が行う、法人税等の申告は、申告書及び添付すべきものとされている書類の全てを電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により提出しなければならないこととされた。

2 申告の状況

(1) 法人数
 平成30事務年度末(令和元年6月30日)の法人数は、313万2千件であり、平成21事務年度末(平成22年6月30日)(299万8千件)に比べて4.5%(13万4千件)増加している。
 なお、法人数は7年連続で増加し、平成30事務年度末(令和元年6月30日)は過去最高となった。

法人数の状況

法人数の状況

(2) 申告件数
 平成30年度の申告件数は、292万9千件であり、平成21年度(278万6,000件)と比べて5.1%(14万3,000件)増加している。
 なお、申告件数は6年連続で増加し、平成30年度は過去最高となった。
 有所得申告割合(繰越欠損控除後)をみると、平成20年度に初めて30%を割り込み、平成22年度には25.2%まで減少したものの、平成23年度以降は年々増加傾向にあり、平成30年度には34.7%まで回復した。

申告件数の状況

申告件数の状況

(3) 所得金額
 平成30年度の所得金額の総額は、73兆3,865億円であり、平成21年度(33兆8,310億円)と比べて116.9%(39兆5,555億円)の増加となった。
 なお、所得金額の総額は9年連続で増加し、平成30年度は過去最高となった。

所得金額の状況

所得金額の状況

(4) 申告税額
 平成30年度の申告税額の総額は、12兆7,922億円であり、平成21年度(8兆7,296億円)と比べて46.5%(4兆626億円)の増加となった。
 なお、過去最高であった平成元事務年度の申告税額18兆6,412億円と比較すると、法人税率低下の影響などにより、31.4%の減少となっている。

申告税額の状況

申告税額の状況

3 調査及び指導の状況

(1) 調査事績
 調査事績の推移をみると、厳しい定員事情の下、実地調査件数は平成20事務年度以降、減少傾向にあった。こうした中、平成25年1月には改正国税通則法が施行され、これに伴って、実地調査1件当たりの日数が増加したことにより、平成25事務年度の実地調査件数は過去最低の9万1,000件まで減少することとなった。
 平成26事務年度以降は、より一層の調査事務量の確保等に取り組んだ結果、実地調査件数は回復基調に転じており、平成30事務年度には9万9,000件まで回復し、平成25事務年度と比較して9.1%(8,000件)の増加となった。
 また、平成30事務年度の申告漏れ所得金額は1兆3,813億円、追徴税額は1,943億円であり、平成25事務年度と比較してそれぞれ83.8%(6,298億円)、22.1%(352億円)の増加となった。

調査の状況

調査の状況

(2) 消費税還付申告法人に対する取組
 虚偽の申告により不正に消費税の還付金を得るなど、不正還付等を行っていると認められる法人については、的確に選定し、厳正な調査を実施している。
 平成30事務年度における消費税還付申告法人への実地調査件数は6,600件、追徴税額は175億円であり、平成25事務年度と比較して実地調査件数は2.2%(100件)の減少、追徴税額は141.7%(102億円)の増加となった。
(3) 無申告法人に対する取組
 事業を行っているにもかかわらず、申告を行っていない法人を放置しておくことは、国民の公平感を著しく損なうものである。このため、こうした稼働無申告法人に対しては、効果的な資料情報を収集するとともに、指導や調査を重点的に実施している。
 平成30事務年度における無申告法人への実地調査件数は2,700件、追徴税額は142億円であり、平成25事務年度と比較して実地調査件数は6.0%(200件)の減少、追徴税額は107.2%(74億円)の増加となった。
(4) 海外取引法人等に対する取組
 海外の取引先への手数料を水増し計上するなど、不正計算を行う海外取引法人等に対しては、国外送金等調書をはじめとした資料情報等から選定し、租税条約等に基づく情報交換制度を積極的に活用するなど、深度ある調査の実施に努めた。
 平成30事務年度における海外取引法人等への実地調査件数は1万6,000件、海外取引等に係る申告漏れ所得金額は6,968億円であり、平成25事務年度と比較してそれぞれ27.5%(3,000件)、290.8%(5,185億円)の増加となった。

4 税務署所管

 税務署の法人課税部門は、原則として資本金1億円未満の中小法人を所管しており、事務運営に当たっては、的確な納税者管理に基づき、大口・悪質重点の調査を基本としつつ、効率的な調査・接触を適切に組み合わせるなど、効果的・効率的な事務運営を推進し、総体としての適正申告の確保を図ることとしている。
 税務署の事務運営は、これまで、直面する様々な課題に対応してきたところであり、最近の10年間においても、次のとおり必要な見直しを行うなど的確な運営に努めた。
(1) 調査選定機能の充実
 調査選定機能については、財務諸表分析、資料情報分析及び統計分析手法を活用した非違可能性スコア等を総合的に勘案した点数を算出し、各法人の調査必要度を数値化するなど、平成22年10月にシステム改修を行い、調査選定の的確化・効率化を図った。
(2) 優良申告法人の表敬制度の見直し
 優良申告法人の表敬制度は、申告納税制度の趣旨に即した適正な申告と納税を継続し、他の納税者の模範としてふさわしいと認められる法人について、表敬状を交付して敬意を表するものである。
 平成26事務年度において、本制度に係る事務運営指針を改訂し、優良申告法人の選定基準の一つである法人税の所得基準に加えて、消費税の納税額基準を設け、対象の拡大を図るとともに、個別指導(行政指導)に基づく表敬を新たに創設するなど、制度の充実を図った。

5 調査査察部所管

(1) 概要
イ 調査課所掌事務の概要
 調査課(国税庁調査査察部調査課、東京国税局調査第一部、調査第二部、調査第三部及び調査第四部、大阪国税局調査第一部及び調査第二部、名古屋国税局調査部、その他の各国税局調査査察部における調査担当並びに沖縄国税事務所調査課をいう。以下この節において同じ。)においては、原則として資本金1億円以上の内国法人と外国法人の法人税・消費税及び国・都道府県の特別会計やその他の公共法人に係る消費税の調査事務を所掌している。
 調査課において所管する法人は、各業界・地域をリードする法人が中心となっている。所管法人数は3万2,813法人(令和元年6月現在)と全法人数の1%であるが、法人申告税額は、8兆3,422億円(平成30年4月1日~平成31年3月31日)となっており、全法人の申告税額総額のうち約65%を占めるなど、我が国経済に占めるウェイトが大きいといった特徴を有する。
ロ 執行体制
 最近10年間で、執行体制は、主に国際課税分野への対応力の強化を目的として、次のように拡充されてきた。
 平成23事務年度には、部次長による的確な事案の進行管理等の充実を図るため、東京国税局調査第四部に次長を新設した。また、事前確認審査に係る大型事案及び複雑・困難事案の増加に対して的確な管理を行うため、東京国税局調査第一部国際情報第二課に主任国際情報審理官を新設した。
 平成25事務年度には、移転価格税制対象法人の増加、移転価格事案の複雑・困難化及び事前確認審査の申出件数の増加に対応するため、名古屋国税局に国際情報課を新設した。
 平成28事務年度には、事前確認審査の申出件数の増加に対し、早期処理及び各事案への深度ある審査の実施を図るため、東京国税局調査第一部国際情報第二課に主任国際情報審理官を増設した。
(2) 大規模法人調査への取組
 税務を取り巻く環境が変化する中にあって、とりわけ大規模法人においては、企業活動の広域化、国際化、高度情報化が著しく進展しているところである。
 このため、調査課においては、経済・社会情勢の変動下における企業動向を注視しつつ、所管法人の業況等の把握や有効な資料情報の収集・活用に努め、調査必要度に応じた調査事案の的確な選定を行うとともに、調査の早い段階からの積極的な調査審理や部次長等幹部の関与による調査展開に応じた的確な事案の進行管理を行うなど、一層効果的・効率的な事務運営の実施に努めている。
 近年においては、大規模法人の税務コンプライアンスと申告水準の更なる向上を図り、適正・公平な課税を実現するため、法人の税務リスクを的確に把握し、リスクが小さいと判断される法人には調査以外の手法により自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に導く「協力的手法」を活用し、他方、調査必要度が高いと判断される法人に対しては重点的・効率的に調査を実施することで、リスク・ベース・アプローチに基づく所管法人全体の適切な監理及び適正な事務量配分に努めている。
 調査課の施策として取り組んできた施策は以下のとおり。
イ 調査の重点化(平成21事務年度~)
 経済社会の広域化、国際化及び高度情報化の進展に的確に対応するため、取引・事業実態の的確な把握に努め、調査の必要度が高いと判断される法人に対しては、重点的な調査を行うとともに、有効な調査手法を開発し調査の充実に努めた。
ロ 協力的手法(平成23事務年度~)
 大企業の税務コンプライアンスの維持・向上を図るため、税務調査以外の手法として、税務当局と大企業が適正申告に向けて協力的に行動する取組(協力的手法)を導入した。
(イ) 税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組
 平成23事務年度より、国税局特別調査官所掌法人に対する税務調査の機会を利用して、税務に関するコーポレートガバナンス(以下「税務CG」という。)の状況を確認するとともに、税務調査終了時には国税局幹部が経営責任者等と意見交換を実施し、効果的な取組事例を紹介するなど、その充実を促す取組を行った。
 税務CGの状況が良好等一定の場合には、次回の調査時期を延長等することとしたほか、当該企業の経営責任者等が出席する関係団体の会合等の機会に税務CGの充実の重要性などについて説明した。
 また、平成27事務年度には税務CGに係る事務運営指針を公表し、本取組の透明性を高めることにより、取組の更なる定着を図った。
(ロ) 申告書確認表等
 平成26事務年度より、国税局が行う申告書のチェックや税務調査の結果から、誤りが生じやすいと認められる事項を表形式に取りまとめた「申告書確認表」及び「大規模法人における税務上の要注意項目確認表」を国税庁ホームページに掲載するなど、企業の適正申告に向けた自発的な取組を後押しした。
ハ 連結法人への対応
 連結法人の増加に対応するため、連結法人の的確な質的管理を行い、単体法人と同様に調査必要度の高い連結グループを選定し、親法人所轄部署と子法人所轄部署の緊密な連携、協調のもと一体的な調査を実施した。特に、大規模連結グループについては、グループ全体の情報の集約化を通じて、効果的・効率的な調査に努めた。
 なお、効果的・効率的な連結調査実施の観点から、平成15事務年度以降、KSKシステムを補完するOAシステムの開発・改訂を行うなどにより、発議事務をはじめとした連結事務の省力化を図っている。
ニ 高度情報化への対応
(イ) 調査の充実
 企業においては、パソコンをはじめとする情報処理機器を利用した業務処理が主流になるとともに、クラウドサービスに代表されるように企業間及び企業と一般消費者との間における電子商取引が拡大・多様化するなど、高度情報化が進展している。
 東京国税局、大阪国税局及び名古屋国税局に設置されている調査開発課を中心に、高度情報化の進展に即した調査手法の開発等に取り組み、その内容を組織内で共有するなど、組織全体において、企業の高度情報化の進展に的確に対応した。
 また、平成26事務年度に研修体系の見直しを行うことと併せて、デジタルフォレンジック(パソコンなどの情報処理機器の電磁的記録の証拠保全及び調査・分析を行うともに、電磁的記録の改ざん・毀損等について分析・情報収集等を行う技術)に関する研修を導入するなど、ICTに関する全体的な能力向上や専門家の育成に努めた。
(ロ) 電子帳簿保存法への対応
 企業におけるペーパーレス化、帳簿書類の電子化の進展を背景に、平成10年7月に電子帳簿保存法が施行され、国税関係帳簿書類に係る電子的記録等による保存が可能となった。
 また、平成17年4月の電子帳簿保存法の改正において、スキャナ保存制度が導入され、国税関係書類について、一定の要件の下でスキャナデータによる保存が可能となった。
 電子帳簿保存法の適用法人に対する調査に当たっては、保存要件の遵守状況を的確に確認するなどその適正かつ円滑な執行に努めた。
 電子帳簿保存法適用法人数は年々増加し、令和元年6月現在累計で約32,800法人(所管法人に占める割合は30.1%)となっており、今後更なる適用法人数の増加が見込まれる。
ホ 経済社会の広域化への対応(平成21事務年度~)
 企業のグループ化、取引の複雑化・広域化等が進展する中、組織内外に対して、より波及効果の高い調査を実施するためには、事前に入念な情報収集・多角的な分析、想定される問題点の裏付けを行い、適切な調査体制を編成することが重要であることから、平成21事務年度から各国税局・沖縄国税事務所に調査企画部署を設置するとともに、新たな調査体系として「企画型調査」を導入した。
 平成22事務年度以降は、調査企画部署の拡充を徐々に行いつつ、事案組成に係るノウハウの共有や端緒情報の発掘を組織的に行うように努めた。
 また、平成27事務年度以降は、事案組成に係る端緒情報を安定的に発掘するため、将来を見据えた新たな視点からテーマを設定して事案組成に取り組むように努めた。
 これらの取組の結果、東京国税局や大阪国税局といった経済・取引の中心地に所在する国税局では体制整備やノウハウの蓄積等により、課税部等への波及効果のある事案など多岐に渡る事案が安定的に組成できるようになった。他方、この他の国税局においては、マンパワー不足や情報の不足により事案組成が困難となる場合が多く見受けられたことから、平成28事務年度以降は、東京国税局及び大阪国税局が、自局の事案組成のみにとらわれず、組織全体のパフォーマンス向上を意識した事案組成や情報収集等を積極的に行い、センター局を意識した取組を行った。
ヘ 調査審理等の充実(平成21事務年度~)
 調査等に係る課税処理の的確性・統一性を確保するため、調査審理については、審理担当部署が準備調査段階での申告書の事前審理を行うとともに、調査の早い段階から調査事案等に積極的に関与することにより調査担当部門と連携して調査審理の充実を図った。
 租税回避事案を含む複雑困難事案等の調査に際しては、納税者の主張を踏まえつつ、事実認定と法令の適用を的確に行った。
 争訟が見込まれる事案については、審理担当部署と調査担当部門が一体となって、問題事項に関する論点などについて十分な検討を尽くし、的確な証拠資料の収集と保全に努めるとともに、課税部等の関係各課との緊密な連携の下、当局の主張の補強、証拠資料の補充及び納税者の主張に対する反論などの多角的な検討による的確な対応を行った。
 納税者からの税務上の取扱いに関する照会については、原則として当該納税者を所掌する調査担当部門において対応することとし、必要に応じて、審理担当部署と協議することにより、的確に回答した。
 平成22年度税制改正により導入されたグループ法人税制、BEPSプロジェクト等の考え方に基づいた国際課税制度の大幅な改正等について、その制度内容を十分に習得するとともに、的確かつ円滑な執行を確保した。
ト 海外取引調査の適切な実施、移転価格税制の的確な執行(平成21事務年度~)
(イ) 海外取引調査の適切な実施
 複雑・多様化する海外取引及び国際的租税回避に対応するため、国際課税に関する調査を専門的に行う部署に必要な人員の配置を行って調査体制の充実を図り、積極的な調査を実施した。
A 調査体制の充実
 様々な事業体・金融商品や各国の税制・租税条約の違いなどを利用した国際的租税回避に的確に対応するため、東京国税局、大阪国税局、名古屋国税局及び関東信越国税局の調査(査察)部には、それぞれ国際調査課を置いている。
 各国税局・沖縄国税事務所においては、国際課税に係る幅広い知識と経験を有する国際税務専門官を配置しており、国際的な課税問題に的確に対応するため、毎年、国際税務専門官の増設を要求している(平成30事務年度における調査課の国際税務専門官は128名)。
 また、国際課税に係る法令の適切な解釈・適用や複雑・高度化する金融商品等に対する課税上の問題点の解明等を的確に実施するため、平成19事務年度より東京国税局において採用を開始した、弁護士や金融機関出身者などの専門家(任期付職員)についても増設を行った(平成30事務年度は東京国税局に金融専門家6名、東京国税局、大阪国税局及び名古屋国税局に法務専門家計4名)。
B 執行上の取組
 国際調査課は、資料情報を収集・分析の上、課税上の問題点を多角的に検討した上で国際取引事案に関する調査企画を担うほか、複雑な海外取引に係る調査手法の研究・開発を専門的に行っている。特に、国際的租税回避事案については、東京国税局、大阪国税局、名古屋国税局及び関東信越国税局の課税部に置かれた統括国税実査官(国際担当)や、平成26事務年度に東京国税局、大阪国税局及び名古屋国税局の課税部に設置された重点管理富裕層プロジェクトチーム(富裕層PT)と連携し、組織横断的な情報収集・分析を行っている。分析の結果、調査が必要と認められた場合には、調査対象者の態様に応じ、複数の調査担当部署による連携調査を始めとした組織的な調査体制を編成し、総合的な調査を的確に実施している。
 国際税務専門官は、国際的な税務上の問題が潜在する事案の発掘、調査選定の関与及び自ら積極的な税務調査を実施しているほか、必要に応じて海外取引調査事案を担当する調査担当班に同行し、調査支援・指導を行っている。特に国際調査課が設置されていない各国税局・沖縄国税事務所の海外取引事案については、国際税務専門官を最大限活用するとともに、複雑・困難な事案に関しては、東京国税局及び大阪国税局が国際税務専門官等の派遣や理論的支援を実施し、その調査ノウハウを伝播することにより、調査の充実を図った。
C BEPSプロジェクトへの対応と今後の展望
 BEPSプロジェクトの最終報告書(行動1「電子経済の課税上の課題への対応」)を受けて、平成27年度税制改正において、国内外の事業者間の競争上の不均衡を是正する観点から、平成27年10月1日より、国外の事業者が国境を越えて行う電子書籍・音楽・広告の配信等の電子商取引に、新たに消費税を課税することとされた。このような国境を越えた役務の提供に対する消費税について適正な課税を確保するため、国外事業者が行う電気通信利用役務の提供に係るビジネスモデルの実態把握、事業者の特定、申告状況等の確認等の観点から、国外事業者に係る情報の収集・分析を行うとともに、調査必要度の高い国外事業者に対する調査を実施している。
 平成29年度税制改正においては、BEPSプロジェクトの最終報告書(行動3「外国子会社合算税制の強化」)における「外国子会社の経済実態に即して課税すべき」との基本的な考え方に基づき、より効果的に国際的な租税回避に対応するため外国子会社合算税制が改正され、更に平成30年度税制改正では、BEPSプロジェクトの最終報告書(行動7「恒久的施設認定の人為的回避の防止」)及びこれにより改定されたOECDモデル租税条約の規定を踏まえ、国内法における恒久的施設の規定を国際的なスタンダードに合わせる改正がなされた。今後は、これらの改正の内容を踏まえて、外国子会社に係る情報の収集や実態解明に的確に取り組むとともに、組織再編などを利用した租税回避や、恒久的施設の認定を人為的に回避することによる租税回避に対して的確な執行の確保に努めていくこととしている。
(ロ) 移転価格税制の執行
 企業活動の国際化の進展に伴い、移転価格税制の対象となる取引が増加するとともに、取引の内容も複雑化・高度化している。こうした経済社会の急激な変化に対応し、適正・公平な課税を確保する観点から、移転価格税制の的確な執行に努めている。
A 調査体制の充実
 移転価格調査を専門に担当する部署として、東京国税局に国際情報第一課、国際情報部門及び特別国税調査官(移転価格担当)を、大阪国税局に国際情報第一課をそれぞれ置いている。また、名古屋国税局の国際情報課及び関東信越国税局の国際調査課においても、移転価格調査を行っている。移転価格税制の適正かつ円滑な執行を図るため、移転価格課税事案について審理部局とともに組織的な検討を行っている。
B 執行方針等の明確化
 移転価格税制に関する通達及び事務運営指針については、ほぼ毎年改正を行い、執行方針や適用基準の明確化を図っている。平成23年6月には、独立企業間価格の算定に当たって最も適切な方法を選定する際に検討すべき事項等の明確化を図り、平成28年6月には、BEPSプロジェクトの最終報告書(行動13「多国籍企業の企業情報の文書化」)を受けて、平成28年度税制改正における移転価格税制に係る文書化制度の改正を踏まえた所要の整備を行った。また、BEPSプロジェクトの最終報告書(行動8「無形資産取引に係る移転価格ルール」)を踏まえ、令和元年度税制改正において、独立企業間価格の算定方法としてディスカウント・キャッシュ・フロー法が追加されたとともに、評価困難な無形資産取引(特定無形資産国外関連取引)に係る価格調整措置が導入されたことから、令和元年6月に、その適用に際しての留意点等を通達及び事務運営指針に追加した。
 また、納税者の自発的な税務コンプライアンスの維持・向上を図る観点から、平成28事務年度には、納税者による自主的な検討・対応に有用な情報を掲載した「移転価格ガイドブック」を作成・公表するとともに、文書化制度の整備を踏まえ、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類」(ローカルファイル)の作成状況を確認し、適切に指導するなどの事務運営の見直しを行った。
C 事前確認(APA:Advance Pricing Arrangement)
 移転価格税制の適用に係る法人の予測可能性を確保し、当該税制の適正かつ円滑な執行を図るため、事前確認審査を専門に担当する部署として、東京国税局及び大阪国税局に国際情報第二課を、事前確認審査(及び移転価格調査)を担当する部署として、名古屋国税局に国際情報課を置いている。
 更に、事前確認事案の処理促進のため、事前確認審査部局及び相互協議部局間の緊密な連携を図っている。
 事前確認の申出については、国際取引の増加を反映して引き続き増加基調にあり、平成21事務年度に126件であった申出件数は平成30事務年度には141件へと増加している。
(ハ) 租税条約等に基づく情報交換
 海外取引調査は、取引先が国外に所在しているために通常の国内取引調査に比べて取引の実態把握・解明が困難な状況にあることから、租税条約等に基づく外国税務当局との情報交換を効果的に活用するなどして、国外に所在する取引先に関する情報の入手に努めている。また、調査担当者が外国税務当局と直接対面して情報を交換する「情報交換ミーティング」を実施することにより、迅速な回答を要する事案や複雑な事案等についても外国税務当局からタイムリーに的確な情報を入手することで、国際的な租税回避に適切に対処しているほか、外国税務当局に対する自発的情報提供についても積極的に行った。
(3) 適格退職年金契約に関する事務
 適格退職年金制度は、事業主が信託会社(信託業務を兼営する銀行を含む。)、生命保険会社又は全国共済農業共同組合連合会と締結した退職年金契約について、国税庁長官の承認を受けた場合に課税上の特例が認められるものである。
 本制度は、受給者の保護を目的とした確定給付企業年金法が施行されたことに伴い、平成14年度税制改正により廃止されており、現存する適格退職年金契約については、経過措置により、平成24年3月31日までに限り存続することが認められていた。
 また、平成24年度税制改正により平成24年4月1日以降も契約が継続する既存の適格退職年金契約のうち、いわゆる閉鎖型で事業主が倒産等により存在しないなどの事情により他の企業年金制度への移行が困難なものについては、適格退職年金契約に係る税制上の優遇措置を継続する措置が講じられており、調査課において、これらの契約に係る届出の受理を行っている。

第5節 相続税及び贈与税

1 概要

 この概要では、税制、事務の変遷等について述べるが、事務の変遷等については、譲渡所得、山林所得等を含めた資産税事務全体の流れから説明する。
(1) 相続税及び贈与税の制度概要
イ 相続税
 相続税は、人の死亡を契機として、相続などにより財産を取得した場合に課税される租税である。
 相続税には、①死亡した者(被相続人)が生前において受けた社会・経済上の要請に基づく税制上の特典や負担の軽減などにより蓄積した財産を清算する、いわば所得税を補完する機能や、②相続により相続人が得た偶然の富の増加に対し、その一部を税として徴収することで、相続した者としなかった者との間の負担の均衡を図り、併せて富の過度の集中を抑制する機能などがある。
 相続税の課税方式には、遺産課税方式と遺産取得課税方式がある。遺産課税方式は、被相続人の遺産総額に応じて課税する方式であり、遺産取得課税方式は、各相続人が相続した遺産額に応じて課税する方式である。
 我が国では、遺産取得課税方式を採りつつ、これに遺産課税的要素を採り入れている。
 なお、相続税法(昭和25年法律第73号)は、税法の構成として、相続税を補完するために贈与税をも同一税法内に規定しており、一税法二税目の特異な法律構成となっている。
ロ 贈与税
 贈与税は、個人から贈与により財産を取得した場合に課税される租税である。
 相続税は、相続開始時において現存する財産について課税される租税であるが、そうすると、相続税の課税が見込まれる者は、生前に、贈与により財産を移転してもらっておけば、相続税の負担を回避することができる。これを防止するためには、生前になされた贈与財産についても課税する必要が生ずる。
 これが、贈与税を課税する理由であり、贈与税が相続税の補完税であるといわれるゆえんである。
(2) 制度の主な変遷
イ 相続税
(イ) 平成22年度税制改正
 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例について、制度の趣旨を徹底し、併せて租税回避的な利用を排除する観点から、相続人等が相続税の申告期限まで事業又は居住を継続しない宅地等が、適用対象から除外された。
(ロ) 平成23年度税制改正
 東日本大震災による被害が未曾有のものであることに鑑み、被災納税者の実態等に照らし、緊急対応の措置として、現行税制を適用した場合の負担を軽減する等の措置を国税において講ずることとされ、相続税については、特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例などが創設された。
(ハ) 平成24年度税制改正
 森林施業の集約化や路網整備等による林業経営の効率化・継続確保等を通じた森林整備を推進する観点から、山林について相続税の納税を猶予する制度が創設された。
(ニ) 平成25年度税制改正
A 地価が大幅に下落する中においても、バブル期の地価上昇に対応した基礎控除や税率構造の水準が据え置かれてきた結果、課税割合(課税件数)や負担割合(納税者の負担水準)が低下しており、相続税の有する資産の再配分機能は低下している状況が続いていた。こうした状況を踏まえ、相続税の再配分機能の回復、格差の固定化の防止等の観点から、相続税の基礎控除を「5,000万円+1,000万円×法定相続人」から「3,000万円+600万円×法定相続人」に引き下げるとともに、税率適用区分の刻み数を6段階から8段階とし、相続税の最高税率を50%から55%に引き上げる税率構造の見直しが行われた。
 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用された。
B 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例について、居住や事業の継続に配慮する観点から、居住用宅地の適用対象面積の上限を240㎡から330㎡に拡大するとともに、居住用宅地と事業用宅地(貸付事業用宅地を除く。)の完全併用を可能とする等の拡充がなされた。
 この改正は、原則として、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用された。
C 非上場株式等についての相続税の納税猶予制度について、より多くの中小企業が活用できるように、雇用確保要件について「5年間の間、毎年8割以上」から「5年間平均で8割」に緩和する等の抜本的な見直しが行われた。
 この改正は、原則として、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する非上場株式等に係る相続税から適用された。
(ホ) 平成26年度税制改正
 医療法人について、持分なし医療法人への移行を促進し、移行を円滑に進めることを可能とする観点から、医療法人の持分について相続税の納税を猶予する制度が創設された。
 この改正は、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(平成26年法律第83号)附則第1条第2号に掲げる規定の施行の日(平成26年10月1日)以後に相続又は遺贈により取得する医療法人の持分に係る相続税について適用された。
(ヘ) 平成29年度税制改正
A 国外財産に係る相続税の納税義務の見直しが行われ、経済のグローバル化に伴い、日本で就労する外国人が増加していることへの対応として、駐在など住所が一時的な一定の外国人(過去15年以内に日本に住所を有していた期間の合計が10年以下である外国人)については、日本に住所を有したことがないものとして、その国外財産を相続税の課税対象としないこととされた。その一方で、租税回避を抑制するため、相続人又は被相続人が10年以内に国内に住所を有する日本人である場合は、国内財産及び国外財産を相続税の課税対象とする見直しが行われた。
B 非上場株式等についての相続税の納税猶予制度について、中小企業経営者の高齢化が進行していること等を踏まえ、早期かつ計画的な事業承継の更なる促進を図る観点から、制度を更に使いやすくするために、災害による被害を受けた場合や主要取引先の倒産等により売上が減少した場合に引き続き猶予が継続されるよう、雇用確保要件を免除する等の見直しが行われた。
C 昭和16年に創設された物納制度は、手続面については平成18年に大幅に見直しがされたが、物納に充てることができる財産やその順位については、昭和22年に現行の規定に改正されて以降、大きな見直しはされてこなかった。当然のことながら、この間に相続税の納税者数や課税割合、また、相続財産の構成状況等、相続税を巡る納税環境は大きく変化している。
 こうした状況を踏まえ、金銭納付が困難な納税者にとっての物納制度の利便性の向上を図るといった観点から、これまで物納順位が第2順位であった社債及び株式等の有価証券のうち、金融商品取引所に上場されているもの等が第1順位になるとともに、これまで物納できなかった有価証券でも、金融商品取引所に上場されているもの等が第1順位で物納できるように見直しが行われた。
 この改正は、平成29年4月1日以後の物納申請分から適用された。
(ト) 平成30年度税制改正
A 非上場株式等についての相続税の納税猶予制度について、中小企業の円滑な世代交代を集中的に促進し、生産性向上に資する観点から10年間の時限措置として、納税猶予割合を80%から100%に引き上げるなど、相続時の納税負担が生じない制度が創設された。
B 一般社団法人等については、個人の資産を法人に移転し、役員を交代して親から子に財産の支配権を移転することで、実質的に相続税の課税を免れることができるとの指摘がなされてきたことを踏まえ、同族関係者が理事の過半を占めている一般社団法人等について、その同族理事の1人が死亡した場合、その法人の財産を対象に、その法人に相続税を課税することとされた。
C 美術品・文化財の次世代への確実な承継を実現し、計画的な保存・活用を促進する観点から、重要文化財及び世界文化の見地から特に優れた登録有形文化財について、相続税の納税を猶予する制度が創設された。
 この改正は、文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第42号)の施行の日(平成31年4月1日)以後に相続又は遺贈により取得する特定美術品に係る相続税から適用された。
D 農地等についての相続税の納税猶予制度について、平成27年に制定された都市農業振興基本法の趣旨を踏まえ、都市農地を貸し付けた場合にも納税猶予を継続できる特例が創設された。
 この改正は、原則として、都市農地の貸借の円滑化に関する法律(平成30年法律第68号)の施行の日(平成30年9月1日)以後に相続又は遺贈により取得をする特例農地等に係る相続税について適用された。
E 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例について、被相続人が有していた宅地等を相続等により取得した相続人の事業又は生活を維持するために設けられた趣旨に即したものとなるように、持ち家に居住していない者に係る特定居住用宅地等の範囲の見直しや貸付事業用宅地等について相続開始前3年以内に貸し付けた宅地等を除外する等の見直しが行われた。
(チ) 令和元年度税制改正
A 個人事業者の事業承継を促進するために、個人の事業用資産についての相続税の納税を猶予する制度が創設された。
B 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例について、平成30年の改正に引き続き、本来の趣旨を逸脱した適用を防止する観点から、特定事業用宅地等から相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等を原則として除外する見直しが行われた。
C 民法(相続法)の改正による配偶者居住権の創設や相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(特別寄与料の創設)等に対応した相続税法の改正が行われた。
 この改正は、配偶者居住権に係るものは令和2年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について、それ以外のものは令和元年7月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用された。
ロ 贈与税
(イ) 平成23年度税制改正
 東日本大震災による被害が未曾有のものであることに鑑み、被災納税者の実態等に照らし、緊急対応の措置として、現行税制を適用した場合の負担を軽減する等の措置を国税において講ずることとされ、贈与税については、①特定土地等及び特定株式等に係る贈与税の課税価格の計算の特例や②住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置に係る住宅用家屋についての居住期限等の特例などが創設された。
(ロ) 平成24年度税制改正
 農地の集積が円滑に進められるよう贈与税の納税猶予の適用を受けている農地等について、担い手に農地を貸し付けた場合にも納税猶予が継続できる特例(特定貸付けの特例)が創設された。
(ハ) 平成25年度税制改正
A 贈与税が相続税の補完税であることを踏まえ、相続税の見直しに準じて、税率適用区分の刻み数を6段階から8段階とするとともに、贈与税の最高税率が50%から55%に引き上げる税率構造の見直しが行われた。その一方で、高齢者層が保有する資産をより早期に現役世代に移転させ、消費拡大や経済活性化を図る観点から、20歳以上の子や孫等が受贈者となる場合の贈与税の税率構造を緩和する見直しが行われ、直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例が創設された。
 この改正は、平成27年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用された。
B 相続時精算課税制度について、若年世代への資産の早期移転を促進する観点から、受贈者に20歳以上の孫を追加するとともに、贈与者の対象年齢が65歳から60歳に引下げられ、制度の対象範囲が拡大された。
 この改正は、平成27年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用された。
C 高齢者層が保有する資産を若者世代に移転させるとともに、教育・人材育成をサポートする観点から、子や孫に対する教育資金の一括贈与に係る贈与税について、子・孫ごとに1,500万円までを非課税とする制度が創設された。
D 非上場株式等についての贈与税の納税猶予制度について、より多くの中小企業が活用できるよう、相続税と同様の抜本的な見直しが行われた。
 この改正は、原則として、平成27年1月1日以後に贈与により取得をする非上場株式等に係る贈与税について適用された。
(ニ) 平成26年度税制改正
 医療法人について、持分なし医療法人への移行を促進し、移行を円滑に進めることを可能とする観点から、医療法人の持分について贈与税の納税を猶予する制度が創設された。
 この改正は、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律附則第1条第2号に掲げる規定の施行の日(平成26年10月1日)以後に認定医療法人の持分の放棄があった場合の経済的利益に係る贈与税について適用された。
(ホ) 平成27年度税制改正
A 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置について、足元の住宅市場活性化策並びに消費税率10%への引上げに伴う駆け込み及び反動減対策の観点から、非課税枠が最大1,000万円から最大3,000万円にまで拡充された。
B 祖父母や両親の資産を一括贈与により早期に移転することを通じて、若年層の経済的不安を解消し、子や孫の結婚・出産・育児を後押しするため、これらに要する資金の一括贈与に係る贈与税について、子・孫ごとに1,000万円までを非課税とする制度が創設された。
(ヘ) 平成29年度税制改正
A 国外財産に係る贈与税の納税義務について、相続税と同様の見直しが行われた。
B 非上場株式等についての贈与税の納税猶予制度について、相続税と同様の見直しが行われるとともに、猶予取消時の税負担への不安を軽減するため、相続時精算課税制度との併用を認めることとされた。
(ト) 平成30年度税制改正
 非上場株式等についての贈与税の納税猶予制度について、中小企業の円滑な世代交代を集中的に促進し、生産性向上に資する観点から10年間の時限措置として、納税猶予割合を80%から100%に引き上げるなどにより、贈与時の納税負担が生じない制度が創設された。
(チ) 令和元年度税制改正
A 個人事業者の事業承継を促進するために、個人の事業用資産について贈与税の納税を猶予する制度が創設された。
B 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置及び直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、契約件数の推移や機会の平等の確保に留意した見直しが必要との指摘があったことなどを踏まえ、①受贈者に所得要件が設定されるとともに、直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、②契約期間中の贈与者死亡時における一定の財産の残額が相続財産へ加算することとされるとともに、③使途の見直し等が行われる一方、④30歳以上の就学継続には一定の配慮を行う等の見直しが行われた。
 この改正は、①及び②は平成31年4月1日以後に取得する信託受益権等について、③は令和元年7月1日以後の教育資金の支出について、④は同日以後30歳に達する受贈者について適用された。
(3) 概説
 平成21年以降の相続税についてみると、平成25年度税制改正の基礎控除額の引下げ(平成27年1月1日施行)により課税割合(死亡者数に占める相続税の課税対象となった被相続人の数の割合)は上昇した。また、贈与税については、税制改正等の影響により課税人員及び取得財産価額は増加傾向にある。
(4) 事務運営の変遷等
 相続税・贈与税、譲渡・山林所得等の資産税の事務運営は、基本的には、課税対象が臨時的・偶発的事実に基づいているものが大部分である。そのため第一には、国税局・税務署が常に一体となってこれら変動する課税対象を的確に把握し、関係する各税事務の間で均衡のとれた運営を行うこと、第二には、資産税に係る納税者の多くが税法に関する知識が十分でない上に、税務署との接触の機会が少ないことに鑑み、関係法令等の内容の周知と申告相談の充実に努め、適正な申告をしていないと認められる納税者に対しては、的確な調査を行って適正・公平な課税を確保することを目的としている。
 平成25年1月に贈与税の申告手続についてe-Taxによる送信を可能とし、納税者の利便性向上及び事務の効率化・高度化に努めている。

2 申告の状況

(1) 相続税
 相続税の申告状況は、平成21年分では、相続税額がある申告書の提出に係る被相続人数は5万人、当該被相続人に係る相続人数は12万人、課税価格は10兆959億円、納付税額は1兆1,632億円であった。その後、平成25年度税制改正により基礎控除額の引下げ(平成27年1月1日施行)により、課税人員が大幅に増加した。平成29年分では、被相続人数は11万人、当該被相続人に係る相続人数は25万人、課税価格は15兆5,884億円、納付税額は2兆185億円となった。
(2) 贈与税
 贈与税の申告状況は、平成21年分では、申告人員は36万人、課税価格は1兆5,533億円、申告納税額は1,036億円であった。このうち、相続時精算課税については、申告人員は7万人、課税価格は7,565億円、申告納税額は219億円となっている。その後、贈与税の申告人員は平成22年分から平成27年分まで増加傾向にあったが、平成27年分をピークに、減少傾向に転じた。平成29年分では、申告人員は51万人、課税価格は1兆9,880億円、申告納税額は2,077億円となった。このうち、相続時精算課税については、申告人員は5万人、課税価格は6,076億円、申告納税額は331億円となっている。

3 調査と指導の状況

(1) 相続税
イ 課税資料の確保
 相続税の課税資料の収集は、課税対象者とその相続財産の把握を目的とするものであるが、課税対象者については相続税法第58条に基づく通知書により把握することができることから、相続財産の把握と課税内容の充実に関する資料の確保に努めている。
ロ 申告指導
 相続はその発生が臨時的・偶発的であり、納税者には、一般に税法等になじみの薄い者が多い。このため、パンフレット等を国税庁ホームページに掲載し、相続税法の周知に努めている。
 また、平成25年度税制改正による基礎控除額の引下げ(平成27年1月1日施行)により、申告件数の大幅な増加が見込まれたため、平成27年5月、国税庁ホームページに「相続税の申告要否判定コーナー」を開設し、納税者の利便性の向上を図った。
ハ 調査の状況
 続税の調査は、高額・悪質と認められるものを中心に、預貯金、有価証券などの金融資産の把握に重点をおいて実施している。
 なお、相続税の実地調査事績の推移は下図のとおりである。

相続税の実地調査状況

相続税の実地調査状況

(2) 贈与税
 贈与税の調査は、高額・悪質と認められるものを中心に実施しており、贈与税単独での調査に加えて、相続税あるいは所得税等の調査時においても、贈与課税の有無・適否について検討している。

4 財産評価

(1) 財産評価の基本的考え方
 相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、相続税法に「財産の取得の時における時価」によることと規定されているが、相続税等の課税の対象となる財産は多種多様であり、これら各種の財産の時価を把握することは必ずしも容易ではないことから、国税庁長官は財産評価基本通達に各種財産の評価方法を具体的に定め、内部的な取扱いを統一するとともに、これを公開し、納税者の申告・納税の便に供している。
 したがって、財産評価事務は、財産の評価が相続税及び贈与税の課税価格に直接影響するものであることから、相続税及び贈与税事務において、きわめて重要なものである。
(2) 相続税及び贈与税における財産評価の変遷
 平成21年以降の相続税及び贈与税における財産評価方法に関する主要な改正は、おおむね次のとおりである。
イ 定期金に関する権利の評価(平成22年)
 平成22年度税制改正において、相続税法第24条及び第25条が改正され、定期金に関する権利の評価方法が見直されたことを踏まえ、その具体的な評価方法等を明らかにするための改正を行った。
ロ 取引相場のない株式の評価方法の改正(平成25年)
 株式保有割合が25%以上である評価会社を一律に株式保有特定会社として評価すべきか否かが争われた事案について、東京高等裁判所平成25年2月28日判決において、平成9年の独占禁止法の改正に伴って会社の株式保有に関する状況が、株式保有特定会社に係る評価通達の定めが置かれた平成2年の評価通達改正時から大きく変化していることなどから、株式保有割合25%という数値は、もはや資産構成が著しく株式等に偏っているとまでは評価できなくなっていたといわざるを得ないと判断されたことを受け、現下の上場会社の株式等の保有状況等に基づき、財産評価基本通達189((特定の評価会社の株式))(2)における大会社の株式保有割合による株式保有特定会社の判定基準を「25%以上」から「50%以上」に改正した。
ハ 上場新株予約権の評価(平成26年)
 上場会社が、既存株主全員に対して新株予約権無償割当て(会社法277)を行い、その新株予約権自体が金融商品取引所に上場される事例が近時増加していることを踏まえ、上場新株予約権の評価方法を定めた。
ニ 利付公社債及び割引発行の公社債の評価(平成28年)
 平成25年度税制改正において、公社債等に係る所得に対する道府県民税の課税方式が見直され、平成28年1月1日以後に受ける特定公社債等の利子等に係る所得については、利子割の課税対象から除外した上で、配当割の課税対象とされたことから、利付公社債の評価等について、「源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額」に含むこととしている「特別徴収されるべき道府県民税」に利子割の額のみならず配当割の額に相当する金額も含まれるよう所要の改正を行った。
 また、公社債等に係る所得に対する所得税の課税方式が見直され、平成28年1月1日以後に発行される割引発行の公社債の償還差益に係る源泉徴収は、発行時ではなく償還時に行うこととされたことから、割引発行の公社債の評価について、割引発行の公社債の差益金額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額がある場合には、その金額を控除した金額によって評価する所要の改正を行った。
ホ 森林の立木の評価(平成29年)
 「平成29年度税制改正の大綱」において、「相続税等の財産評価の適正化」として「杉及びひのきについて、現行評価額を全体的に引き下げるとともに、松について、原則として、標準価額を定めず個別に評価することとする。」こととされたことを受け、次の改正を行った。
(イ) 森林の主要樹種の立木の評価
A 切替樹齢
 切替樹齢(m年)について、市場価逆算価格を基に算定し、杉は37年、ひのきは33年に改めた。
B 標準伐期
 木材の需給状況等により、全国的に標準伐期が長期化している実態を踏まえ、杉及びひのきの標準伐期を10年後ろ倒しに改めた。
C 適用利率
 標準伐期を超え標準伐期の2倍の樹齢までの立木の評価に適用する利率について、売買実例を基に算定し、1.5%に改めた。
D 標準価額表等
 植林費、育林費及び補助金等の実態を調べるなどして、「標準伐期にある森林の立木の標準価額表」除く杉及びひのきの各種金額を改めた。
(ロ) 森林の主要樹種以外の立木の評価
 立木評価の一層の適正化を図る観点から、松、くぬぎ及び雑木を「森林の主要樹種以外の立木」に改めるとともに、「森林の主要樹種以外の立木」の価額について、標準価額を基として評価することとしていた取扱いを見直し、原則として、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価することとする改正を行った。
ヘ 取引相場のない株式等の評価(平成29年4月)
 「平成29年度税制改正の大綱」において、「相続税等の財産評価の適正化」として「類似業種比準方式について、①類似業種の上場会社の株価について、現行に課税時期の属する月以前2年間平均を加える、②類似業種の上場会社の配当金額、利益金額及び簿価純資産価額について、連結決算を反映させたものとする、③配当金額、利益金額及び簿価純資産価額の比重について、1:1:1とする。」こととされたことを受け、同内容に基づき改正を行った。
 また、併せて「評価会社の規模区分の金額等の基準について、大会社及び中会社の適用範囲を総じて拡大する。」こととされたことを受け、近年の上場会社の実態に合わせた改正を行った。
ト 広大地の評価の廃止と地積規模の大きな宅地の評価の新設(平成29年)
 「平成29年度税制改正の大綱」において、「相続税等の財産評価の適正化」として「広大地の評価について、現行の面積に比例的に減額する評価方法から、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法に見直すとともに、適用要件を明確化する。」こととされたことを受け、「広大地の評価」を廃止するとともに、「地積規模の大きな宅地の評価」を新設し、その適用要件については、地区区分や都市計画法の区域区分等を基にすることにより明確化を図る改正を行った。
チ 取引相場のない株式等の評価(平成29年9月)
 「平成29年度税制改正の大綱」において、「相続税等の財産評価の適正化」として「株式保有特定会社(保有する株式及び出資の価額が総資産価額の50%以上を占める非上場会社をいう。)の判定基準に新株予約権付社債を加える。」こととされたことを受け、同内容に基づき改正を行った。
リ 土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価(平成30年)
 近年、土砂災害特別警戒区域の指定件数が増加していることを踏まえ、「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」を新設し、土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価に当たり、その宅地に占める土砂災害特別警戒区域内となる部分の地積の割合に応じて一定の減額補正を行うこととした。
(3) 相続税財産評価と他の公的土地評価との関係
 相続税財産評価、固定資産税評価及び地価公示の関係は、国税と地方税当局等の間で、情報交換を行うなど相互の連絡を密にし、評価の適正化・均衡化を図ってきたが、昭和60年頃に都心から始まった地価の急激な高騰は、土地の資産としての有利性を助長し、公的土地評価の均衡化の観点からも大きな問題となったことから、各方面から公的土地評価の一層の適正化・均衡化を求められることとなった(土地基本法(平成元年12月22日法第84号)・総合土地政策推進要綱(平成3年1月25日閣議決定)・土地税制のあり方についての基本答申(平成2年10月30日政府税制調査会))。
 これを受け、相続税評価額においては平成4年分より、地価公示価格の8割程度を目途にするとともに評価時点も前年7月1日から地価公示の評価時点と同じ当年1月1日に変更し、また、固定資産税評価額においても、平成6基準年度より地価公示価格の7割程度を目途にそれぞれ評価することとし、これにより評価の適正化・均衡化を図ることとした。
(4) 適正かつ効率的な路線価等の作成への取組
 相続税の土地の評価に用いる路線価等については、評価中心署への評価事務の集中化を進めるとともに、評価中心署に評価事務の責任者として、不動産鑑定理論等の高度な知識を有する評価専門官を配置することや不動産鑑定士による鑑定評価を用いることにより、適正かつ効率的な作成に努めている。
 なお、路線価図等については、納税者等の申告・納税の便に供するため、平成13年より、冊子のほか、国税庁ホームページで公開しており、平成20年分からは路線価図等の冊子を廃止し、インターネット閲覧のみとすることにより、路線価等の公開を1か月前倒しして原則として7月1日に公開することとした。
 また、平成26年分からは掲載期間を延長し、過去7年分の路線価等を国税庁ホームページに掲載している。

第6節 酒税

1 概要

(1) 酒税の特色
 酒税は、酒類の消費の背後にある担税力に着目して酒類に対して課される税であり、個別消費税の一つとして間接税に分類される。
 酒税の課税制度の特色としては、(イ)移出課税制度、(ロ)従量税制度、(ハ)申告納税制度、(ニ)分類差等課税制度の4点が挙げられる。
 また、「酒税法」(昭和28年法律第6号)には、他の税法には見ることのできない特色の一つとして、酒類等の製造及び酒類販売業について免許制度を採用している。
(2) 酒税法の沿革
 長い歴史をもつ我が国の酒税制度は、昭和28年に現行の酒税法が制定された後、昭和37年に酒類の分類(10種類11品目)の改正等大幅な見直しが行われた。平成元年には、税制の抜本改革の一環として、清酒やウイスキー等に設けられていた級別制度や従価税制度が廃止されるとともに、酒類間の税負担格差の縮小を図る観点から、税率の見直し等が行われた。
 平成元年以降の数次の酒税法改正においても、酒類の生産・消費の状況等を踏まえ、税制の中立性、公平性の確保の観点から酒類間の税負担格差の縮小が図られてきた。
 なお、平成11年以降の酒税法改正の概要は次のとおりである。
イ 平成15年には、酒類の消費動向の変化等を踏まえ、酒類間の税負担格差の縮小を図るとともに、ビールや発泡酒の定義の見直し、移入した課税済酒類に係る税額控除制度の適用要件の拡大及び酒類等の検定制度の廃止等の各種受忍義務の見直しが行われた。
ロ 平成18年には、平成17年11月の政府税制調査会による税制改正に関する答申を受け、「あるべき税制」の構築に向けた改革の一環として、酒類の分類の簡素化及び酒類間の税負担格差の縮小等所要の改正が行われ、沿革的な原料と製造方法の差異により分類されていた改正前の10種類11品目の分類は、その製法や性状に着目して、発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類、混成酒類の4種類に大括り・簡素化された。税率の見直しに当たっては、この4種類の分類ごとに、担税力に応じた負担を求める観点から、基本税率を定めた上で、酒類の生産・消費に与える影響にも配意しつつ、酒類間の税負担格差を縮小することとされた。
 なお、従前の分類については、消費者の商品選択の基準として既に定着したものとなっていること等を踏まえ、改正前の区分を基本的に維持しつつ、新たに17の品目に区分し存置された。
ハ 平成29年には、酒類間の税負担の公平性を回復する等の観点から、ビール系飲料や醸造酒類の税率格差を解消する等の税率の見直しを行うとともに、ビール、発泡酒及び果実酒の定義の見直し、未納税移出・未納税引取制度の見直しをはじめとした酒税制度の簡素・合理化等が行われた。

2 申告の状況

(1) 課税数量
 酒類の課税数量(国内出荷数量)は、平成11年度で1,017万KLとピークに達したものの、その後、人口減少社会の到来といった外的要因による影響もあり、酒類の需要は横ばいから減少傾向に転じ、平成30年度では868万KLとなっている。
 近年の酒類の生産・消費の状況をみると、酒類全体の消費が減少傾向にある中で、ライフスタイルの変化等による消費者のし好の多様化がみられる。これに応じる形で、酒類の製造技術の向上等により従来とは異なる原料や製法の酒類の生産量が増加し、とりわけビール及び発泡酒以外の低アルコール分で発泡性を有する酒類の消費が増加している。
 課税数量の主な品目別の推移は、次のとおりである。
イ 清酒の課税数量は、昭和48年度に177万KLとピークに達したが、その後は減少傾向となり、平成21年度には62万KLまで落ち込んだ。更に、平成30年度には49万KL(ピーク時の約30%)まで落ち込んでいる。
 なお、清酒の国内消費は年々低下しているものの、近年海外での日本食に対する関心の高まりに伴って、輸出量は増加傾向となっている。
 また、清酒の課税数量をタイプ別に区分して見ると、純米酒及び純米吟醸酒の課税移出数量は伸びており、清酒全体に占める割合も増加している。
 更に、清酒製造業の出荷金額は、平成24年から増加基調にあり、出荷金額の単価も上昇している。これは、より高付加価値の商品の需要の高まりを表すものと考えられる。
ロ 連続式・単式蒸留焼酎の課税数量は、平成16年度に105万KLとピークに達した。その後、緩やかな減少傾向となり、平成21年度は101万KL、平成30年度は81万KLとなっている。
ハ ビールの課税数量は、平成6年度には741万KLとピークに達し、酒類全体の総課税数量の約74%を占めたものの、その後低価格ビールの輸入量の増加や発泡酒等の競合製品が登場したことにより、平成7年度以降減少傾向に転じ、平成21年度には302万KL、平成30年度には248万KL(ピーク時の約33%)まで落ち込んでいる。
ニ 果実酒及び甘味果実酒の課税数量は、平成9年度から平成10年度にかけての赤ワインブームにより増加し、平成10年度には39万KLとなった。その後減少傾向に転じ、平成21年度には26万KLであったが、近年では日本ワインの人気の高まり等により再び増加傾向となり、平成30年度には再び36万KLに達している。
ホ ウイスキー及びブランデーの課税数量は、昭和58年度には41万KLとピークに達したが、消費者のし好の変化等による影響により、平成21年度には9万KLまで減少した。しかし、近年はハイボールブームにより増加傾向にあり、平成30年度には19万KLとなっている。
ヘ リキュールの課税数量は、平成21年度には169万KLとなった。平成30年度には240万KLとなり、ビール、発泡酒に次ぐシェアを占めるものとなっている。
ト 発泡酒の課税数量は、原料・製造方法がビールと同一で麦芽比率だけが低いもの等、品質的にもビールに近似したものが生産されたことから、平成6年度以降大幅に需要が拡大し、平成14年度には265万KLとピークに達した。しかし、平成16年度から平成17年度にかけて登場したリキュール等のいわゆる「新ジャンル飲料」に需要がシフトし、平成21年度には115万KL、平成30年度には64万KL(ピーク時の約24%)まで落ち込んでいる。
(2) 今後の展望
 国内の市場環境は、平成20年に1億2,808万人であった人口が減少過程に入っており、その構成においても、成人人口に占める60歳以上の割合が、平成元年度の23.2%から平成30年度には41.1%へ増加するなど、人口減少社会の到来、高齢化が進展している。
 飲酒習慣のある者は、男女ともに30歳代から大幅に増加し、70歳以上では減少する傾向があるため、人口構成の変化が酒類の消費に与える影響は大きいものと考えられる。
 また、成人1人当たりの酒類消費数量について、平成元年度以降は、平成4年度の101.8Lをピークとして減少傾向にある。
 このような環境の変化を背景に、酒類の課税移出数量は引き続き減少傾向となる可能性があると考えられる。

3 検査・調査

 酒類には高率の酒税が課されており、国家財政上重要な物資であることから、酒税法において、酒税の検査・調査に従事する職員に対して、一定の検査・調査の権限を与えている。一方、酒類等製造者や酒類の販売業者に対しては、記帳義務、申告義務検査を受ける義務、承認を受ける義務、届出義務などの受忍義務を課している。これらの義務違反には罰則を設け、酒類の製造過程から消費の段階に至るまでの生産と流通の実態を十分に把握できるような体制を確立し、酒税の検査・調査を行ってきている。
 酒税の検査・調査体制は、経済情勢、社会情勢の変遷による酒税の課税方式等の沿革とともに歩んできたところであり、必要に応じ調査事務運営の見直しを行い、物的検査法のみならず経理面からの検査法も導入するなど、長年にわたる創意工夫によって確立したものである。
 近年における酒類業界は、ICT化の進展等に伴い、取引環境が多様化したことに加え、平成18年には酒税法の改正が行われ、酒類の分類及び定義等が大幅に見直されたところである。このような状況の下、適正・公平な課税を実現し、複雑・困難化する検査・調査事案に対応するため、平成19事務年度以降、酒類指導官を設置する広域運営中心署に、広域運営対象署の酒税定員を集約し、検査・調査事務専担部門を設置するなど、検査・調査事務を更に効率的・効果的に実施できるよう、体制の整備を図っている。

4 免許

 酒類等の製造及び酒類販売業については、酒税の適正かつ確実な徴収を実現するため、酒類の製造者及び酒類の販売業者の乱立を防止し、消費者への税の転嫁を容易にするとともに、課税上の検査を十分に行う観点から、酒税法により免許制度が採用されている。
(1) 酒類の製造免許
 酒類の製造免許に関しては、平成11年3月に閣議決定された「規制緩和推進3か年計画(改定)」を踏まえた取扱いの改正、一部酒類の需給調整要件の廃止や「構造改革特別区域法」(平成14年法律第189号)による農家民宿等が自ら生産した米を原料として濁酒(いわゆる「どぶろく」)を製造する場合の最低製造数量基準を適用しないこととする特例等がこれまで講じられてきた。
 近年では、平成29年度税制改正により、類似する酒類間の税率格差が商品開発や販売数量に影響を与えている状況を改め、酒類間の税負担の公平性を回復する等の観点から、ビール系飲料や醸造酒類の税率格差の解消、ビールの定義拡大などの酒税改革が行われた。
 これにより、従来は発泡酒に区分されていた商品について、麦芽比率67%以下の商品や副原料として果実や一定の香味料を少量用いている商品についても、ビールとして製造することが可能となり、また、改正前に発泡酒の製造免許を有していた者に対して、ビールの製造免許が付与されたものとみなされることとなった。
 なお、主な品目別の製造免許場数の推移についてみると、次のような変化がみられる。
イ 清酒は、長期的需要低迷により、平成21年度末で1,906場まで減少した。その後も需要の低迷が続いた影響により、平成30年度末では1,740場と、ピーク時である昭和31年度末の約43%まで減少している。
ロ 連続式・単式蒸留焼酎は、昭和50年代以降の需要の増加等を反映し、昭和59年度末には1,021場まで増加した。その後、減少傾向となり、平成13年度末では、922場まで落ち込んだが、平成15年度の焼酎ブームを受けて平成21年度末では999場となった。平成30年度末では965場となっている。
ハ ビールは、平成6年4月の酒税法改正により、いわゆる「地ビール」の製造が可能となり、年々増加を続け、平成6年度末で63場(内地ビール製造場数6場)であったものが、平成11年度末では326場(内地ビール製造場数264場)まで増加した。
 平成15年4月の酒税法改正において、ビールの副原料の範囲が拡大されたことに伴い、改正前に発泡酒の製造免許を有していた者に対して、ビールの製造免許が付与されたものとみなされ、平成15年度末で337場(内地ビール製造場数263場)とピークに達したが、その後は減少傾向にあり、平成30年度末では499場(内地ビール製造場184場)となっている。
ニ 特区法の酒税法の特例を受けた濁酒製造場については、創設当初の平成15年度末で4場(特区数は11件)であったものが、平成30年度末では194場(特区数は164件)と大幅に増加した。
ホ その他の品目のうち、発泡酒、その他の醸造酒、スピリッツ、リキュール及び雑酒については、平成18年5月の酒税法改正による各酒類の定義の見直し等により製造免許が付与されたものとみなされた関係で平成18年度に大幅に増加したが、それ以降は減少傾向にある。
(2) 酒類の販売業免許
 酒類の小売業免許については、平成13年1月1日の距離基準の廃止や平成15年9月1日の人口基準の廃止、平成18年8月31日の「酒類小売業者の経営の改善等に関する緊急措置法」(議員立法)に基づく緊急調整地域の失効により、需給調整規制が実質廃止されたため、免許場数は平成11年度末に17万7,482場であったものが、平成19年度末では20万1,874場と急増した。しかし、それ以降は減少傾向にあり、平成30年度末では17万5,173場となっている。
 酒類の卸売業免許については、「規制・制度改革に係る方針」(平成23年4月8日閣議決定)において、酒類卸売業への新規参入に関するニーズを踏まえた上で、需給調整要件を緩和(免許枠の拡大、新たな免許区分の設定等)し、免許の付与について弾力的運用を講じること等が盛り込まれ、平成23年度中に検討し、結論を得ることとされた。これを受け、新たな免許区分の設定や、全酒類卸売業免許等における免許可能件数の計算方式の見直しを行い、平成24年9月より施行した。
 酒類の卸売業免許場数は、平成に入ってからは平成2年度の1万8,510場をピークに減少傾向にあり、平成30年度では1万2,302場となっている。
(3) 今後の展望
 酒類の製造免許場数については、果実酒やウイスキーなど、近年の人気の高まりから、製造免許の取得が増加することが考えられる。
 また、酒類の販売業免許場数については、近年は減少傾向にあるものの、引き続き、高水準での免許申請件数が見込まれる。
 国税庁としては、これらの免許の申請等の処理に当たり、酒税法及び法令解釈通達に規定されている要件について適正に審査を行うとともに、円滑な処理を行っていく。

5 酒類の生産状況と原料事情

(1) 酒類の生産状況
 酒類の生産は、前述の課税移出数量と同様に平成11年度の959万5,000KLをピークに逐年減少し、平成30年度は797万8,000KLとなっている。
イ 清酒
 清酒の生産数量は、昭和48年度の142万1,000KLをピークとして減少傾向にあり、平成30年度では40万6,000KLとピーク時の28.6%まで減少している。
ロ 連続式・単式蒸留焼酎
 連続式・単式蒸留焼酎(平成18年4月までは、しようちゆう甲類・乙類)の生産数量は、増加傾向にあり、平成12年度には75万7,000KLとなり、清酒の生産数量を上回ることとなった。
 平成16年度には104万3,000KLと過去最大数量を記録したものの、平成17年度以降減少傾向にあり、平成30年度においては79万KLとなっている。
ハ ビール
 ビールの生産数量は、平成6年度の710万1,000KLをピークとして減少傾向にあるが、全酒類の生産数量に占めるビールの割合は依然としてトップである。
 平成30年度においては254万4,000KLとなっており、全酒類の生産数量に占める割合は31.9%となっている。
ニ ウイスキー及びブランデー
 ウイスキー及びブランデーの生産数量は、昭和58年度の41万2,000KLをピークとして減少傾向にあり、平成19年度においては、6万3,000KLとピーク時の15.3%まで減少していたものの、平成20年度以降は増加に転じており、平成30年度においては、14万4,000KLとピーク時の35.0%まで回復している。
(2) 酒類の原料事情
 酒類原料は、主として農産品及び農産加工品であり、その供給及び価格は、我が国の農業政策及び海外市場の動向と深く関わっている。当庁としては、酒類製造者において酒類原料を安定的に確保できるよう必要に応じて関係者への働きかけを行ってきている。
イ 清酒用原料
 清酒用原料米は、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」(平成6年法律第113号。以下「食糧法」という。)が平成7年11月に施行されたことに伴い、平成8年産米より、自主流通米の一部を加工用米として、自主流通法人(全農、全集連等)から酒造協同組合を含む加工用米需要者団体等を通じて売り渡されることとなった。
 更に平成15年7月の食糧法改正により、平成16年4月からは、流通ルートによる法規制上の区分(計画流通米、計画外流通米)が廃止され、制度上は「民間流通米」と備蓄米として売買される「政府米」の区分のみとなった。
 また、清酒の課税移出数量が減少傾向となる中、吟醸酒、純米酒などの特定名称酒が堅調に推移していることに伴い、酒造好適米の需要が増加したことから、平成26年産米から清酒の製造数量増加に対応した酒造好適米の増産分について、主食用米の生産数量目標の増減に左右されることなく、その枠外での生産が行えるように取扱要領(「需給に応じた米生産の推進に関する要領」(農林水産省生産局長通知))の見直しが行われた。
 なお、清酒原料米の安定的な取引の拡大に向け、生産者側と需要者側との情報交換の場として、農林水産省及び当庁同席の下で平成28年以降毎年「日本酒原料米の安定取引に向けた情報交換会」が開催されており、原料米(酒造好適米、加工用米)の取引の現状やその課題を踏まえ、需要に応じた安定的な生産に向け議論が行われている。
ロ 蒸留酒用原料
 原料用アルコール及び連続式蒸留焼酎の原料としては、とうもろこし、粗留アルコール等が使用されており、そのほとんどが輸入されている。輸入原料は、関税割当制度(「関税暫定措置法」(昭和35年法律第36号)第8条の6)によって一定の数量までは、無税(1次税率)とされていたが、粗留アルコールについては、国産原料である切干甘しょの生産が平成14年度をもって終了することに伴い、平成15年度改正により、関税割当制度が廃止された。
 ただし、国内の粗留アルコール精製業者保護の観点から、無税が適用されるものについては「アルコール飲料の原料アルコールの製造用のもの(連続式蒸留機により蒸留して使用するものに限る。)」とする用途別軽減税率の仕組みは存続することとした。
 単式蒸留焼酎用原料米については、国産米が使用されていたが、平成5年度の国産米の米不足を契機に、タイ産米の供給が行われたことにより、平成6年度以降は、主にタイ産米が使用されるようになった。
 平成20年9月には、カビ毒や残留農薬が検知されたため事故米穀として非食用に安価で国から米穀を買い受けた米穀卸売業者が、その事故米穀を単式蒸留焼酎等の原料に販売するという事件が発生した。
 当庁としては、事故米穀を使用したおそれのある酒類について、酒総研に依頼し、カビ毒等の無料分析を実施したほか、当該酒類を廃棄する場合の例外的な取扱いを定めた。また、関係省庁に対し、売上減に対する支援措置の要請を行い、平成20年度に行う各支援措置の手当てがなされた。
 泡盛用原料米については、古くからタイ産米が使用されてきたという経緯があり、現在もタイ産の長粒種米を輸入し原料として使用されている。
 なお、泡盛のブランド価値を高め、その魅力をPRするためには、テロワール(地域に根ざした原料調達)が重要であるとして、「琉球泡盛海外輸出プロジェクト行動計画」(平成31年4月改定)では、沖縄県産の長粒種米を生産し、その米を用いた泡盛を製造することを計画している。
ハ ビール及びウイスキー用原料
 ビール及びウイスキーの主原料である麦芽には、主として国産又は輸入した二条大麦(ビール大麦)を製麦した麦芽並びに輸入麦芽が使用されている。
 国産のビール大麦については、生産農業者団体とビール業界との間で契約栽培が行われている。また、輸入麦芽については、昭和49年10月から輸入が自由化され、関税割当制度が採用されている。
 輸入麦芽の関税割当数量の範囲内の1次税率は、ウイスキー用輸入麦芽(ピートされたもの)については自由化された当初から、ビール用輸入麦芽については、昭和61年4月から無税となった。
ニ ワイン用原料
 ぶどう苗木の輸入に当たっては、植物防疫法に基づき隔離された場所で原則1年間栽培し、植物防疫所が実施する病害虫の付着の有無を確認する検査(隔離検査)を受検することが必要とされており、これまでは植物防疫所のほ場においてのみ隔離検疫を実施してきた。
 近年の日本ワインブームにより、輸入ぶどう苗木の需要量が当該ほ場の受入可能本数を上回る状況が続くようになったことから、平成30年1月に民間ほ場が備えるべき要件を整理し、病害虫の散逸防止が図られる一定の基準を満たした民間の指定施設(屋内ほ場)でも隔離検疫の実施が可能となった。
 しかし、指定施設となるための条件が厳しく、費用が高額になるなどの課題もあることから、ワイン醸造用ぶどうの大生産地であるフランスとの間で、同国から輸入する苗木の隔離検疫を免除することが可能かどうかの協議が進められている。

6 表示

 酒類製造者が製造場から移出する酒類、酒類販売業者が保税地域から引き取る酒類、酒類販売業者が詰め替えて販売場から搬出する酒類については、その容器又は包装の見やすい所に、一定の表示事項を、容易に識別することができる方法で表示しなければならないこととされている。
 平成18年3月の所得税法等の一部を改正する等の法律(法律第10号)の施行に伴う酒税法施行令の一部を改正する政令(政令第130号)により、①酒類の種類(品目)表示を廃止し、酒類の品目を表示、②粉末酒を除く全ての酒類にアルコール分を表示、③発泡酒及び雑酒については、税率適用区分を表示、④その他の発泡性酒類については、発泡性を有する旨及び税率適用区分が新たに表示事項とされた。
 この表示は、酒税の保全を目的として規定されているものであるが、消費者の商品選択にも資するものとなっている。
(1) 表示基準(酒類業組合法第86条の6)
 平成元年4月からは酒類業組合法の一部改正(昭和63年法律第109号)により、財務大臣は、酒類の取引の円滑な運行及び消費者の利益に資するため、酒類の製法、品質その他これらに類する事項について、酒類製造業者又は酒類販売業者が遵守すべき表示の基準を定めることができる措置が講じられた。
 これにより、(イ)「清酒の製法品質表示基準」(平成元年11月国税庁告示第8号)、(ロ)「果実酒等の製法品質表示基準(平成27年10月国税庁告示第18号)、(ハ)「酒類における有機の表示基準」(平成12年12月国税庁告示第7号)、(ニ)「酒類の地理的表示に関する表示基準」(平成27年10月国税庁告示第19号)、(ホ)「二十歳未満の者の飲酒防止に関する表示基準」(平成元年11月国税庁告示第9号)の5つの基準が定められている。
イ 清酒の製法品質表示基準
 清酒については、酒造技術の発達や消費の多様化に伴い、吟醸酒、純米酒、本醸造酒といった製法や品質の異なる様々なタイプの清酒が酒屋の店頭で見られるようになったが、それらの表示には法的なルールがなく、消費者からどのような品質のものであるかよく分からないという声の高まりを受け、清酒の製法品質表示基準が平成元年11月に定められ、平成2年4月から適用されている。
 その後、清酒が輸入されるようになるなど、清酒を取り巻く環境が大きく変化したことから、平成9年2月に一部改正(国税庁告示第2号)し、消費者の商品選択を保護し、消費者利益に資する観点から、平成15年10月に一部改正(国税庁告示第10号)を行った。
 また、関税法施行令の改正等に伴い、平成27年9月(国税庁告示第13号)及び平成29年3月(国税庁告示第4号)に一部改正を行った。
ロ 果実酒等の製法品質表示基準
 ワインのラベル表示はその出所や品質の判断要素として重要視されており、EUを始め、アメリカやオーストラリアなど多くの国において公的なワインの表示に関するルールが定められている。
 他方、国内においては「日本ワイン」のほか輸入濃縮果汁や輸入ワインを原料としたものなど様々なワインが流通しており、ワインのラベル表示に関する公的なルールもなかったため、消費者にとって「日本ワイン」とそれ以外のワイン(海外原料使用のワイン等)の違いが分かりにくいという問題があった。
 こうした状況を踏まえ、「日本ワイン」の国際的な認知の向上、消費者にとって分かりやすい表示といった観点から、国際的なルールを踏まえたワインの表示のルールを定めることとし、国税審議会の答申を受け、「果実酒等の製法品質表示基準」を平成27年10月に定め、平成30年10月から適用している。
 このワインの表示ルールでは、例えば、ワインに地名を表示する場合には、その地域内で収穫したぶどうを85%以上使用する等、一定のルールを設けている。
ハ 酒類における有機の表示基準
 「酒類における有機の表示基準」は、有機農産物、有機農畜産物加工食品、有機畜産物及び有機農畜産物加工酒類を原料として製造した酒類における「有機」又は「オーガニック」の表示基準及び遺伝子組換え農産物を原料として製造した酒類における遺伝子組換えに関する表示基準が定められている。
 平成13年9月に農林水産省において「遺伝子組換えに関する表示に係る加工食品品質表示基準第7条第1項及び生鮮食料品品質表示基準第7条第1項の規定に基づく農林水産大臣の定める基準」(以下「遺伝子組換え表示基準」という。)が改正されたことに伴い、平成14年12月に一部改正(国税庁告示第11号)を行った。
 平成20年6月には、「有機加工食品の日本農林規格(JAS規格)」(以下「有機JAS規格」という。)(平成17年農林水産省告示第1606号)及び遺伝子組換え表示基準の改正により有機畜産物等の追加及び有機農畜産物加工酒類に使用することができる食品添加物についての整理を行うため、一部改正(平成20年6月国税庁告示18号)を行い、有機JAS規格と国際食品規格である「コーデックス規格」との整合性を図るため、同年7月に一部改正(国税庁告示第22号)を行った。
 なお、遺伝子組換え表示基準の加工食品の規定に係る準用規定は、食品表示基準の施行に伴う平成27年10月の一部改正(国税庁告示第20号)により、当該準用規定を削除した。
ニ 酒類の地理的表示に関する表示基準
 地理的表示(GI:Geographical Indication)制度は、酒類や農産品において、ある特定の産地ならではの特性(品質、社会的評価等)が確立されている場合に、当該産地内で生産され、一定の生産基準を満たした商品だけが、その産地名(地域ブランド名)を独占的に名乗ることができる制度である。
 国税庁では、「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」の規定に基づき「地理的表示に関する表示基準」(平成6年12月国税庁告示第4号)(以下「旧表示基準」という。)を平成6年12月に定め、平成7年6月に「壱岐」(蒸留酒)、「球磨」(蒸留酒)、「琉球」(蒸留酒)をGIに指定し、保護を行ってきた。
 また、平成17年9月には、清酒の地域ブランド確立に向けた体制の整備を図るため、旧表示基準の一部を改正して清酒の地理的表示の保護を行うこととし、平成17年12月に「薩摩」(蒸留酒)及び「白山」(清酒)を、平成25年7月に「山梨」(ぶどう酒)を指定した。
 しかし、旧表示基準では地理的表示の指定の要件が具体的に示されていないこともあり、十分な活用が進まなかったという状況を踏まえ、日本産酒類のブランド価値の向上や輸出促進の観点から、平成27年10月に全ての酒類を対象とした「酒類の地理的表示に関する表示基準」(以下「表示基準」という。)として大幅な見直しを行い、地理的表示の指定を受けるための基準の明確化、消費者に分かりやすい統一的な表示のルール化等の制度の体系化を行った。
 制度の見直し後、平成27年12月に国レベルのGIとして「日本酒」(清酒)を、平成28年12月に「山形」(清酒)を、平成30年6月に「北海道」(ぶどう酒)及び「灘五郷」(清酒)を指定している。
 なお、TRIPS協定に基づき諸外国のGIを日本において実効的に保護するため、国際交渉を通じて、平成17年4月に「メキシコ合衆国」、平成19年9月に「チリ共和国」、平成24年3月に「ペルー共和国」、平成31年2月に「欧州連合(EU)」の地理的表示の確認を行うとともに、日本のGIについても、相手国で保護がされることで合意した。
ホ 二十歳未満の者の飲酒防止に関する表示基準
 「二十歳未満の者の飲酒防止に関する表示基準」(平成元年11月国税庁告示第9号)は、アルコール飲料としての酒類の特性に鑑み、20歳未満の者の飲酒防止のための対応が必要とされたため、平成元年11月に定められ、平成2年4月から適用されている。
 制定時においては、酒類の自動販売機に対する表示について定められていたが、酒類容器への20歳未満の者の飲酒防止に関する注意表示を全酒類に拡大するため、平成9年2月に一部改正(国税庁告示第3号)を行っているほか、平成15年6月(国税庁告示第4号)、平成17年9月(国税庁告示第22号)にそれぞれ一部改正を行っている。また、平成30年6月に民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号)が公布され、令和4年4月1日から施行されることとなったが、飲酒年齢は、引き続き20歳以上が維持されることから、国民の誤認防止を図る等の観点から、令和元年6月に「未成年者」を「二十歳未満の者」に改める改正を行っている。
(2) 表示に関する命令(酒類業組合法第86条の7)
 平成15年4月の酒類業組合法の改正(法律第33号)により、財務大臣は、表示基準のうち、酒類の取引の円滑な運行及び消費者の利益に資するため、特に表示の適正化を図る必要があるものを重要基準として定め、重要基準に違反していると認められるときは、重要基準に違反している者に対して、指示命令を行い、命令に違反した場合に罰則を課すことができることとされた。この改正を受けて、平成15年12月に「酒類の表示の基準における重要基準を定める件」(国税庁告示第15号)を定めた。
 なお、平成27年10月に行った一部改正(国税庁告示21号)により、「果実酒等の製法品質表示基準」及び「酒類の地理的表示に関する表示基準」の一部が重要基準に該当することとされた。

7 酒類の公正取引

 酒類業の健全な発達のためには公正な取引環境の整備が重要であることから、平成18年8月31日に、酒類に関する公正な取引の在り方、国税庁の対応、及び公正取引委員会との連携方法等を明らかにした「酒類に関する公正な取引のための指針」(以下「指針」という。)を制定・公表している。
 当庁では、この指針の周知・啓発を通じた酒類業者の自主的な取組を推進するほか、酒類の取引状況等実態調査(以下「取引実態調査」という。)に基づく改善指導を行うことで、公正な取引環境の整備に向けた取組を行ってきた。しかし、指針のルールに則していない取引が見受けられる状況が継続していたこと等を受け、過度な価格競争を防止する等の観点から、平成28年5月27日(同年6月3日公布)に酒税の保全及び酒類の取引の円滑な運行等を図るため、議員立法により「酒税法及び酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律の一部を改正する法律」(平成28年法律第57号。以下「酒税法等改正法」という。)が成立した。これにより、酒類の公正な取引につき、酒類業者が遵守すべき必要な基準を定めるものとされた。
 この酒税法等改正法を受け、平成29年3月に「酒類の公正な取引に関する基準」(国税庁告示第2号。以下「基準」という。)を制定・公表した。この酒税法等改正法では、基準を遵守しない酒類業者に対し、「指示」、「公表」、「命令」及び「罰則」(さらに酒税法に基づき「免許の取消し」)を行えることなどが措置された。また、公正取引委員会との間の相互報告制度が創設され、独占禁止法の不公正な取引方法に該当する事実があると思料された場合には、酒類業組合法第94条第4項の規定に基づき公正取引委員会に対する報告を行うなど、公正取引委員会との連携が強化されている。
 基準施行後は、従来の指針に加え、新たに策定した基準の遵守状況を確認するため、取引実態調査を実施し、調査の結果、基準や指針を遵守していない取引が認められた場合には、指示や改善指導等を行っている。
 更に、酒類業者の公正な取引の確保に向けた自主的な取組を促す観点から、毎年、同調査の結果概要とともに、指示事例や改善指導事例等を公表している。引き続き、基準等の周知徹底、深度ある取引実態調査の実施に努め、問題ある酒類業者には厳正に対処していくこととしている。

8 社会的要請への対応

(1) 酒類の適正な販売管理
イ 20歳未満の者の飲酒防止への取組等
 酒類は、致酔性、依存性といったアルコール飲料としての特性を有する特殊な商品であり、20歳未満の者の飲酒は成長段階の心身に多大な影響を与えるほか、非行等社会問題の原因ともなるため、適正な販売管理が求められている。
 当庁では、アルコール飲料としての酒類の特性に鑑み、より良い飲酒環境を形成し、消費者利益と酒類業の健全な発達を期する観点から、酒類業界に対し、20歳未満の者の飲酒防止に配意した販売や広告、宣伝を行うよう要請している。また、酒類業組合法に規定する酒類の表示義務及び「二十歳未満の者の飲酒防止に関する表示基準」等の各種表示基準の遵守について、周知・啓発を行うなど、所要の措置を講じてきている。
 更に、「酒類に係る社会的規制等関係省庁等連絡協議会(内閣府、警察庁、総務省、公正取引委員会、国税庁、文部科学省及び厚生労働省)」において決定された「未成年者の飲酒防止等対策及び酒類販売の公正な取引環境の整備に関する施策大綱」(平成12年8月30日)に基づき、毎年4月を「20歳未満飲酒防止強調月間」としたことを受け、20歳未満飲酒防止啓発のためのポスター及びリーフレットの作成・配布等の広報活動及び啓発キャンペーン活動の支援を関係省庁及び業界団体と協力して推進している。
 なお、全国小売酒販組合中央会では、従来型酒類自動販売機(年齢確認機能等、20歳未満の者の酒類購入を防止するための機能がないもの)を撤廃する決議(平成7年5月)をしており、当庁においても、酒類業者の自主的な取組を促す観点から、毎年4月1日現在の酒類自動販売機の設置状況等について公表している。
ロ 適正な販売管理体制の整備
 酒類の販売管理については、従来、販売場へ販売責任者を配置するよう指導を行ってきたが、未成年者飲酒禁止法の罰則強化や酒類小売業免許の規制緩和に伴い、酒類の適正な販売管理の確保について、より実効性のある制度が必要とされた。このため、平成15年の酒類業組合法の改正(平成15年法律第33号)により、酒類小売業者に対して、販売場ごとに酒類販売管理者を選任することが義務付けられたほか、選任した酒類販売管理者に、酒類小売業者への助言及び従業員等への指導に必要となる酒類の特性及び商品知識、酒類販売に当たり遵守すべき法令等を習得するための研修(酒類販売管理研修)を受講させるよう努める(努力義務)こととされた。
 この酒類販売管理研修の受講については、平成28年6月に改正された酒税法等改正法により義務化が図られ、平成29年6月からは、酒類小売業者は、過去3年以内に酒類販売管理研修を受けた者のうちから酒類販売管理者を選任するとともに、当該販売管理者に3年を超えない期間ごとに酒類販売管理研修を受講させなければならないこととされた。また、酒類小売業者は、販売場ごとに、公衆の見やすい場所に、酒類販売管理者の氏名、研修の受講事績等を記載した標識を掲示しなければならないこととされた。
 当庁においては、この改正を受け、酒類小売業者に対して積極的な周知・啓発を行い、確実な研修受講を指導するとともに、酒類販売管理研修実施団体に対して研修実施のための支援を行っている。
 更に、酒類販売管理者の選任の状況、「二十歳未満の者の飲酒防止に関する表示基準」の遵守状況等を確認するため、酒類の販売管理調査を実施し、問題点が認められた場合には改善指導等を行うなど酒類の適正な販売管理に向けた環境整備を行っている。
ハ アルコール健康障害対策
 アルコール健康障害対策を総合的かつ計画的に推進して、国民の健康を保護し、安心して暮らすことができる社会の実現に寄与することを目的として、アルコール健康障害対策基本法(平成25年法律第109号)が制定され、平成26年6月1日に施行された。
 同法において、酒類業者は、アルコール健康障害の発生等の防止に配慮するよう努めることや、国は、酒類の表示、広告その他の販売の方法について、酒類業者の自主的な取組を尊重しつつ、アルコール健康障害を発生させるような不適切な飲酒の誘引を防止するため、必要な施策を講ずるものとされ、平成28年5月31日に同法に基づき「アルコール健康障害対策推進基本計画」(以下「基本計画」という。)が閣議決定された。
 この基本計画を受け、当庁においては酒類業者に対し、20歳未満の者への販売禁止の周知を徹底することなどに取り組むとともに、酒類業界においては、広告・宣伝に関する自主基準を改正し、テレビ広告における起用人物の年齢の引上げ及び飲酒の際の効果音・描写方法の見直し等を行っている。
(2) 環境問題への対応
イ 3Rの推進
 近年、廃棄物の減量化、再資源化を通じて地球環境の保全を図ろうとする動きが世界的に高まりを見せており、我が国においても3R1の推進など環境保全に関する施策が強く求められている。
 当庁としては、酒類業を所管する立場から、酒類業者が「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」(平成7年法律第112号。以下「容器包装リサイクル法」という。)、「資源の有効な利用の促進に関する法律」(平成3年法律第48号)及び「食品循環資源の再生利用等に関する法律」(平成12年法律第116号。以下「食品リサイクル法」という。)等の環境関係法令に適切に対応するよう、「酒類業者のための容器包装リサイクル法のあらまし」や「酒類業者のための食品リサイクル法のあらまし」等を作成し、法令の周知、啓発を行っているほか、「酒類のリターナブルびんの普及に関する委託調査」を実施し、その結果を国税庁ホームページで公表することにより、リターナブルびんについての情報提供を行っている。
 また、関係省庁とともに毎年10月を「3R推進月間」と定め、国税庁ホームページ等の広報手段を用いて消費者に対する啓発を行っている。
ロ 地球温暖化対策
 平成17年2月の「京都議定書」において、我が国の国際的な約束として平成20年度から平成24年度までの期間に、温室効果ガスの排出量を基準年度対比で少なくとも6%削減することが定められ、当該目標達成のため、政府は、「地球温暖化対策の推進に関する法律」第8条の規定に基づき「京都議定書目標達成計画」(以下「目標達成計画」という。)を同年4月に定めた。
 この目標達成計画を受け、当庁においては、平成9年に日本経済団体連合会が策定・公表した「経団連環境自主行動計画」に参加する酒類業界の自主行動計画に対し、平成20年3月に国税審議会酒類分科会においてフォローアップを行っており、以降、定期的にフォローアップすることとしている。
 さらに、「目標達成計画」に代わって平成28年5月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」においても、政府は、各業種により策定された低炭素社会実行計画及び2030年に向けた低炭素社会実行計画に基づいて実施する取組について、関係審議会等による厳格かつ定期的な評価・検証を実施することとされていることから、引き続き、目標達成に向けた業界の取組を支援していく。

脚注

  • 1 Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)、Reuse(リユース:再使用)Recycle(リサイクル:再生利用)の頭文字のRのことで、循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)においては、この順番が優先順位とされている。

9 酒類製造者に対する技術支援等

 酒類製造業者に対する技術支援等は、国税局鑑定官室(沖縄国税事務所においては間税課鑑定官。以下同じ。)が行っており、国税庁が酒類行政を行う上で重要な業務である。技術支援の歴史は古く、明治時代から行われていたが、当初は重要な財源であった酒税の安定確保を主な目的としていた。その後、時代の要請を受ける形で幾多の変遷を経てきた。
(1) 醸造技術等の普及の推進に関する技術支援
 個々の酒類製造者に対する技術指導や技術相談への対応、酒造組合等の講習会や審査会等への職員派遣を通じて、独立行政法人酒類総合研究所(以下「酒総研」という。)の研究成果をはじめとする先端技術等の普及を推進した。
 近年、クラフトビールや日本ワインの人気の高まり、地方創生への行政支援などにより新規の酒類製造者が増加しているが、これらの多くは酒類の製造経験が少なく、製品の品質が安定しない傾向がある。そのため、各国税局鑑定官室では、年に1回、製品の官能評価と科学分析を行い、製造工程や衛生管理等において改善すべき課題が見られた場合には、技術指導を行うとともに、技術相談にも積極的に応じた。また、既存の酒類製造者に対しても、技術基盤の維持・向上のための支援を必要とする場合には所要の技術支援を行ってきた。
 また、酒税法上の課税に係る義務等を適切に果たし、製造する酒類の成分や数量等を適正に管理するため、アルコール分の分析等に係る技術指導を全国的に実施した。
 更に、食品衛生法、労働安全衛生法等各種法令等の遵守状況、環境保全、酒造労務体制の合理化、税制改正に伴う品目の定義の変化等、様々な課題に対して、その都度、技術的な観点から支援を実施した。
 国内市場が量的に飽和する中、内外の消費者に日本産酒類の魅力を訴求するためには、効果的な商品の差別化・高付加価値化やブランド化の推進等が重要になる。酒類製造の現場では従来以上に高い技術力を求められることになり、今後は、こうしたニーズに応え得る質の高い技術指導の実施が求められる。
 更に、人材の確保・育成や良質な原料の円滑な確保も課題であり、伝統技術の継承・進化のみならず、業務効率化や高付加価値化等の支援にも取り組んでいく必要がある。
 なお、これら業界の課題の解決の中でIoTやAIのテクノロジーの活用が必要となる場面も想定され、今後検討していく必要がある。
(2) 酒類の品質及び安全性に関する技術支援等
 酒類の生産から消費までの全ての段階における酒類の安全性の確保と品質水準の向上を図ることを目的として、酒類の安全性に係る成分等について実態把握を行い、必要に応じて関係機関と連携しながら改善等のための技術支援等を行った。
イ 放射性物質に関する安全性の施策
 平成23年3月に発生した東日本大震災とそれに続く福島原発事故においては、被災製造場の復興に対する技術面からの支援はもとより、放射性物質に対する酒類の安全性確保について、酒総研と緊密に連携しながら、酒類製造場内にある出荷前の酒類及び醸造用水に加え、市場に流通している酒類についても調査を実施するなど、全国の鑑定官室が総力を挙げて取り組んだ結果、これまで基準値を超える放射性物質が検出された酒類は無く、安全性の確保は勿論のこと、蓄積された科学的知見は輸出環境の改善にも大きく寄与した。
 これらの分析結果については国税庁ホームページにて定期的に掲載しており、その安全性について広く周知している。
ロ HACCPの考えを取り入れた衛生管理への対応
 平成30年6月13日に改正食品衛生法が公布され、食品衛生管理の国際的手法であるHACCP(危害分析と重要管理点)が制度化され、各食品等事業者が衛生管理計画を策定・実施・記録すること等が定められたことに伴い、手引書の作成等、業界団体の対応を支援している。
ハ 全国市販酒類調査
 全国市販酒類調査は、国内で流通している全ての品目の酒類(輸入酒を含む。)について、酒類の品質及び安全性並びに表示基準等の遵守状況に係る分析等を行い、結果については、国税庁ホームページに掲載することで広く国民に周知するとともに、技術指導に活用した。
 分析項目は、時々の社会問題や分析技術の進歩発展等を配慮して随時見直し、調査内容が時宜を得たものになるよう努めている。
 食品衛生法上に基準値のあるメチルアルコール並びに食品添加物として使用基準のある亜硫酸塩・ソルビン酸について、調査の結果、問題がある可能性を把握した場合は、当該製造者等に対し地方公共団体(保健所等)に連絡する等の措置を講じるよう指導するとともに、酒類製造場に臨場して、製造工程のどこに起因するか確認し、低減のため技術指導を行った。
ニ 酒類中の微量成分に関する技術支援
 我が国においては食品衛生法上の規制値はなく、国際的にも規制値はないものの、議論がなされているカルバミン酸エチルの酒類中の含有量について、この10年で調査を実施したほか、これを減らすために酒総研で研究・開発された技術については、国税局鑑定官室が実施する技術指導や講習会等を通じて、酒類製造者に広く技術支援を行った。
ホ 酒類の表示
 (炭素)安定同位体比の測定は、アルコール添加の有無など食品表示及び清酒の製法品質表示基準の真偽判定に有効と言われるが、高度な設備、技術を要するため、酒総研と連携して対応した。
(3) 酒類の国際的な技術的課題等への対応
イ 食品添加物及び食品汚染物質の国際規格及び国際基準等の策定への参画
 酒類の保存のために使用される食品添加物や酒類中に含まれる食品汚染物質についての国際的な規格、基準等を定めているコーデックス委員会において、国税庁鑑定企画官は、関係する部会等に出席し、規格等の策定に参画した。
ロ  遺伝子組換え生物及び生物多様性
 遺伝子組換え生物の産業利用等についての国際的な枠組みの国内担保法である「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成16年2月施行)の運用のうち、酒類業に関する産業使用は財務省の所管であり、国税庁鑑定企画官は技術事項を含む取扱い等について担当しており、遺伝子組換え酵母等の使用状況について監視を行っている。
 特に、遺伝子組換え生物等に関するこの10年間の動きとしては、「ゲノム編集技術」等の新たな育種技術が台頭した。このことを受け、今後、酒類分野の所管官庁として、当該技術を使用した醸造微生物等の取扱いについての対応を進めることとしている。
ハ ワインに使用する添加物等
 平成31年2月1日に発効した日EU・EPAには、日本ワイン自己証明制度の導入や主要なワイン添加物の相互承認といったワインの貿易促進に関係する技術的事項が含まれる。特に、添加物の承認に当たっては、その安全性についての科学的データを収集し内容をとりまとめるといった作業が必要であり、高度な技術的専門性が求められる。
 これらについて、国税庁鑑定企画官は、協定発効までに承認が必要な添加物11品目について平成31年1月18日所要の手続を完了するなど、酒総研と連携しながら適切に対応を進めている。

10 酒類業の振興

(1) 酒類行政の基本的方向性
 国税庁においては、前述の通り酒類業の健全な発達を任務の一つとし、「酒税の保全並びに酒類業の発達、改善、調整に関すること」等を所掌事務としている。
 加えて、近年は、累次の閣議決定等により、政府全体で輸出促進の取組を進めてきており、事業所管官庁として、酒税の保全の観点にとどまらず、酒類業の振興について積極的な役割を果たすことが求められている。
 こうした状況を受け、平成31年3月、「酒類行政の基本的方向性」(以下「基本的方向性」という)についてとりまとめた。「基本的方向性」においては、「官民の適切な役割分担の下、事業者や業界団体等が創意工夫を発揮して意欲的な取組が行われるようサポートや環境整備に取り組む」等の方針とともに、具体的な取組を示した。今後、当該「基本的方向性」に沿って、酒類業の振興を強化していく。
(2) 日本産酒類の輸出促進
イ 政府方針等
 日本産酒類の輸出促進に関しては、平成24年5月に国家戦略担当大臣が立ち上げた「ENJOY JAPANESE KOKUSHU(國酒を楽しもう)」プロジェクト(國酒プロジェクト)によって、財務省、外務省、農林水産省等の関係省庁が一体となって、清酒・焼酎の認知度向上と輸出促進を国家戦略として取り組むこととなった。
 その後、平成25年1月に閣議決定された「日本経済再生に向けた緊急経済対策」においては、「日本産酒類の総合的な輸出環境整備」が記載されるとともに、同年6月に閣議決定された「日本再興戦略」においては、クールジャパン推進の一環として「日本産酒類の輸出促進」が盛り込まれ、日本産酒類については、「2020年までの輸出額の伸び率が農林水産物・食品の輸出額の伸び率を上回ることを目指す」こととされた。
 また、「日本再興戦略2013(平成25年6月14日閣議決定)」で、「2020年までに農林水産物・食品の年間輸出額1兆円」という目標が設定された。なお、「総合的なTPP関連政策大綱(平成27年11月25日TPP総合対策本部決定)」において「2020年の1兆円目標の前倒し」が盛り込まれたことから、「未来投資戦略2017(平成29年6月9日閣議決定)」において、1兆円の達成目標が2019年に前倒しされた。
 更に、「成長戦略実行計画・成長戦略フォローアップ・令和元年度革新的事業活動に関する実行計画(令和元年6月21日閣議決定)」及び「経済財政運営と改革の基本方針2019(令和元年6月21日閣議決定)」において、引き続き「総合的なTPP等関連政策大綱(平成29年11月24日TPP等総合対策本部決定)」を着実に実施することとされた。
 国税庁では、このような閣議決定等も踏まえ、輸出促進の取組を進めている。
 最近10年間においては、以下の取組を行っている。
ロ 海外需要の開拓
 国際的なイベントの機会に合わせ、各国要人・プレスが集まる機会を活用し、日本産酒類のPRを実施している。
 平成24年には、総理の外遊やダボス会議等の機会に、酒類の製法・品質に対する知見に優れた国税庁技術系職員を派遣し、日本産酒類のPRを実施した。
 平成28年以降は、日本産酒類の競争力強化・海外展開推進に向けた施策実施のための予算を措置し、平成28年のリオオリンピック(ブラジル)、同年G7伊勢志摩サミットの機会や、平成30年のジャポニスム2018(フランス)、令和元年のG20大阪サミットにおいて、プロモーションを実施した。また、海外における日本の情報発信拠点であるジャパン・ハウスを活用するとともに、海外イベント等においても情報発信を行っている。
 また、海外における日本産酒類の専門的知識を持つ人材の増加を目的として、平成26年からは、在京の駐日外交官を対象とした酒蔵ツアーを開催するとともに、平成29年からは「海外の日本産酒類専門家育成事業」を実施している。
 更に、具体的な販路開拓支援を行うため、平成29年以降、イギリス・ドイツにおける大規模なアルコール飲料見本市にジャパンブースを設置し、国内酒類事業者にビジネスマッチングの機会を提供している。
 この他、インバウンド需要を喚起し、観光振興、地方創生及び日本産酒類の輸出促進を図ることを政策目的として、平成29年度税制改正(観光庁との共同要望)において、輸出酒類販売場制度が創設された。引き続き、免税店制度を活用した訪日外国人旅行者等に対する酒蔵ツーリズムを推進していく。
ハ 国際交渉
 酒類に課される関税の撤廃や、日本産酒類の輸出の障壁となる外国の制度・規制の見直し、平成23年3月に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故後に導入された輸入規制の撤廃について、関係府省や関係機関と連携しつつ、国際交渉等の場を通じて働きかけを行っている。
 平成31年2月に発効した日EU・EPAでは、EUに対する日本産酒類の輸出について、①全ての酒類の関税即時撤廃、②「日本ワイン」(国産ぶどうのみを原料とし、日本国内で製造された果実酒)の輸入規制の緩和、③単式蒸留焼酎の容量規制の緩和、④EU域内における酒類の地理的表示の保護を実現した。
ニ ブランド化の推進
(イ) 地理的表示(GI)の普及拡大
 国税庁では、日本産酒類のブランド価値向上や地域ブランド化の促進等の観点から、地理的表示の指定や普及拡大に取り組んでいる。
 地理的表示の要望や運営に当たっては、手続面・技術面で支援を行っており、酒類業者等に対して、制度周知や理解の促進を目的とした説明会等を開催している。
 また、消費者等の認知度向上に向けたシンポジウム等を開催している。
(ロ) 果実酒等の製法品質表示基準(以下「ワインの表示ルール」という。)の定着のための取組
 ワインの表示ルールはワイン製造業者にとって初めての公的なルールであったことから、ブランド名を変更する必要のあるワインも市場に多数存在していた。
 そこで、3年間の経過期間も十分に活用し、ラベル表示の変更が必要な場合には、ワイン製造業者から原料調達、製造実態やブランド名を存続したい意向等を十分に聞き取り、最小限の変更でワインの表示ルールを満たすことができるよう、丁寧に指導してきた。
 このワインの表示ルールが定着していくことにより、地域に根ざしたブランド化が進むとともに消費者の商品選択が容易になることで、ワイン製造業者やぶどう農家の振興などにもつながるよう、日本ワインの消費者向けシンポジウム、業界団体や研究機関等を集めた情報交換会等を開催している。
(参考)ワインの表示ルール(抜粋)
・ 国産ぶどうのみを原料とし、日本国内で製造された果実酒のみが「日本ワイン」と表示できる。
・ 「日本ワイン」に限り①地名、②ぶどうの品種名、③ぶどうの収穫年を表示できる。
(3) 沖縄振興
 平成30年4月13日に内閣府沖縄振興局、国税庁、沖縄県酒造組合等で組織する「琉球泡盛海外輸出プロジェクト」を立ち上げた。
 本プロジェクトは、沖縄県の地域振興の一環として、琉球泡盛の輸出数量を令和2年に70KL、令和4年までに100KLとすることを目標に、琉球泡盛の海外展開を促進するため官民一体となった取組を推進することとしており、国内外での泡盛PRイベントなどを実施している。
(4) 酒類業者の経営改善等に関する事務
 酒類業の経営改善等に対しては、業界のニーズを踏まえ、経営指導の専門家等を講師とした研修会を開催し、中小酒類業者における経営革新等の取組事例の紹介や中小企業に対する各種施策の説明を行い、経営改善等に向けた自主的な取組を支援しているほか、酒類業組合等を通じた有用な情報提供等を行い、酒類業者から経営革新等に関する相談等があった場合には、関連情報の提供及び関係機関の紹介などにより、適切な指導、助言に努めている。
 また、「中小企業等経営強化法」(平成11年法律第18号)に定める経営革新計画や経営力向上計画等の作成支援等を行うとともに、酒類業者の経営活性化事例のうち、集約事業、共同事業等に関する取組や、経営革新計画、地域産業資源活用事業計画等の認定を受けて事業を行っている事例等について情報収集し、その結果について国税庁ホームページを活用して情報提供している。
 このほか、平成23年3月に「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法」(平成22年法律第67号)、平成26年1月に「産業競争力強化法」(平成25年法律第98号)等が施行されたことを受け、それぞれの法律に基づく中小酒類業者の認定事業等への取組が円滑に行われるよう、積極的な啓発・支援に努めている。

第7節 消費税

1 概要

(1) 制度概要
 課税対象は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等及び特定仕入れ並びに保税地域から引き取られる外国貨物である。
 納税義務者は、事業者及び外国貨物の引取者であり、事業者は課税期間(個人事業者は暦年、法人は事業年度)の末日の翌日から2月以内に(個人事業者については翌年の3月31日までに)申告・納税し、外国貨物の引取者は引取りの時(特例申告を行う場合は、引取りの日の属する月の翌月末日)までに消費税を申告・納税する。
(2) 主な制度改正等
 消費税法は、所得・消費・資産にバランスのとれた税制の実現を目指した税制改革の一環として昭和63年12月に創設され、平成元年4月から施行された。
 平成3年5月には、議員立法により非課税範囲の拡大、簡易課税制度の見直し等所要の改正が行われた。
 平成6年秋の税制改革及び平成8年度税制改正により、消費税率を3%から4%(新たに創設された地方消費税と合わせた税率は5%)に引き上げるとともに、簡易課税制度、限界控除制度等が見直され、平成9年4月1日から施行された。
 平成15年度税制改正により、事業者免税点制度及び簡易課税制度等について抜本的な改革が行われたほか、総額表示義務規定が創設された。
 平成24年の社会保障と税の一体改革により、消費税率を平成26年4月1日に4%から6.3%(地方消費税率と合わせた税率は8%)、平成27年10月1日に6.3%から7.8%(地方消費税率と合わせた税率は10%)に段階的に引き上げる改正が行われた。その後、第二段階目の税率引上げの時期について、平成27年度税制改正により、平成29年4月1日に変更され、更に、平成28年11月に成立した抜本改革法等改正法により令和元年10月1日に変更された。
 平成27年度税制改正により、電気通信回線(インターネット等)を介して国内の事業者・消費者に対して行われる電子書籍の配信等の役務の提供(「電気通信利用役務の提供」)を受ける者の住所等が国内であれば国内取引として消費税が課されることとされた。これに伴い、事業者向け電気通信利用役務の提供については、当該役務の提供を受けた国内事業者が申告・納税を行うリバースチャージ方式が導入され、これ以外の電気通信利用役務の提供については、当該役務の提供を行った国外事業者が申告・納税を行うこととされた。
 平成28年度税制改正により、消費税率7.8%への引上げと同時に日々の生活における負担を減らすため軽減税率制度を実施するとともに、適格請求書等保存方式(インボイス方式)を導入することとされ、それぞれの実施時期は、平成28年11月に成立した抜本改革法等改正法により、軽減税率制度は、平成29年4月1日から令和元年10月1日に、適格請求書等保存方式は、令和3年4月1日から令和5年10月1日にそれぞれ2年半延期された。
 平成30年度税制改正により、輸出物品販売場制度について、外国人旅行者の利便性の向上及び免税販売手続(購入記録票の提出等)の効率化等を図る観点から、令和2年4月1日以後、免税販売手続が電子化されることとされた。

2 申告・届出等の状況

(1) 課税事業者届出書等の届出状況
 課税事業者届出書の各年度末時点における届出状況をみると、平成21年度末の約340万6,000件から平成22年度末の約327万1,000件とやや減少し、その後は、各年度末とも320万件ほどで推移している。なお、平成30年度末においては約323万7,000件となっている。
 また、課税事業者選択届出書の各年度末時点における届出状況をみると、平成21年度末から平成25年度末までは8万件台で推移してきたが、平成26年度末に約9万4,000件に増加し、その後も増加を続け、平成30年度末は約12万5,000件となっている(表「課税事業者届出書等の届出状況」参照)。
(2) 申告件数の近年の推移
 納税申告の年間件数の推移をみると、平成21年度の333万2,019件、平成22年度の323万4,011件、平成23年度の306万6,067件と減少し、その後は300万件ほどで推移している。なお、平成30年度においては298万8,999件となっている。
 一方、還付申告の年間件数の推移をみると、平成21年度の16万1,297件から減少傾向にあったが、平成25年度に増加に転じ、平成30年度においては18万8,205件となっている(表「課税額(還付額)の推移(税関分を除く。)」参照)。
(3) 課税額(還付額)の近年の推移
 課税額(税関分を含む。)の各年度分の推移をみると、平成21年度から平成25年度までは、12兆円ほどで推移してきたが、平成26年4月の税率の引上げなどがあり、平成27年度は20兆2,661億円に増加した。その後は安定的に推移して、平成30年度においては21兆7,139億円となっている。
 また、還付額(税関分を除く。)の各年度分の推移をみると、平成21年度から平成25年度まで、2兆円ほどで推移してきたが、平成26年4月の税率の引上げなどがあり、平成26年度から増加に転じ、平成30年度においては4兆3,845億円となっている(表「課税額(還付額)の推移(税関分を除く。)」、「税関分の課税額の推移」参照)。

課税事業者届出書等の届出状況

区分 課税事業者届出書 課税事業者選択届出書 新設法人に該当する旨の届出書 合計
  千件 千件 千件 千件
平成21年度 3,406 89 18 3,513
22 3,271 84 15 3,370
23 3,197 80 13 3,290
24 3,173 81 13 3,266
25 3,149 85 13 3,247
26 3,137 94 13 3,244
27 3,186 104 14 3,304
28 3,197 110 14 3,322
29 3,213 118 14 3,345
30 3,237 125 15 3,377

(注)各年度末(翌年3月末日)時点の届出件数を示している。
 納税義務者でなくなった旨の届出書又は課税事業者選択不適用届出書を提出した者は含まない。
 四捨五入の関係上、各項目の係数の和が合計値と一致しないことがある。

課税額(還付額)の推移(税関分を除く。)

区分 個人事業者 法人 合計
件数 税額 件数 税額 件数 税額
    百万円 百万円 百万円
平成21年度 納税申告計 1,391,202 409,930 1,940,817 9,238,508 3,332,019 9,648,438
還付申告及び処理 42,299 32,302 118,998 1,792,863 161,297 1,825,165
22 納税申告計 1,328,409 395,610 1,905,602 9,118,867 3,234,011 9,514,477
還付申告及び処理 36,555 22,671 114,835 2,004,394 151,390 2,027,065
23 納税申告計 1,199,365 376,361 1,866,702 8,927,532 3,066,067 9,303,893
還付申告及び処理 32,886 15,982 109,863 2,003,046 142,749 2,019,028
24 納税申告計 1,142,708 373,758 1,842,934 8,939,763 2,985,642 9,313,521
還付申告及び処理 30,788 14,814 107,479 1,903,264 138,267 1,918,078
25 納税申告計 1,124,255 372,784 1,833,987 9,009,787 2,958,242 9,382,570
還付申告及び処理 32,523 17,106 112,948 2,037,277 145,471 2,054,383
26 納税申告計 1,127,002 528,266 1,835,315 12,976,283 2,962,317 13,504,549
還付申告及び処理 35,573 27,469 123,518 3,592,563 159,091 3,620,032
27 納税申告計 1,127,647 590,769 1,842,181 14,728,696 2,969,828 15,319,465
還付申告及び処理 36,789 34,965 130,535 3,644,253 167,324 3,679,218
28 納税申告計 1,127,472 601,209 1,856,023 15,620,511 2,983,495 16,221,721
還付申告及び処理 36,961 34,403 136,065 3,840,780 173,026 3,875,183
29 納税申告計 1,123,409 599,681 1,862,465 15,840,802 2,985,874 16,440,483
還付申告及び処理 37,650 35,023 142,197 4,083,848 179,847 4,118,871
30 納税申告計 1,117,426 599,542 1,871,573 15,890,654 2,988,999 16,490,196
還付申告及び処理 38,946 35,406 149,259 4,349,075 188,205 4,384,481

(注)各年4月1日から翌年3月31日までの間に終了した課税期間について、翌年6月30日現在の申告又は処理による課税事績である。
 四捨五入の関係上、各項目の係数の和が合計値と一致しないことがある。

税関分の課税額の推移

区分 納税申告件数 納税申告税額
  百万円
平成21年度 10,594,366 2,263,089
22 11,669,286 2,498,440
23 12,053,991 2,826,797
24 12,480,426 2,904,921
25 12,683,996 3,349,521
26 12,725,698 5,155,309
27 12,719,200 4,946,596
28 13,272,872 4,440,828
29 14,017,258 4,848,977
30 14,870,512 5,223,677

(注)各4月1日から翌年3月31日までの間の申告又は処理による課税事績である。

3 調査と指導の状況

(1) 調査事績の推移
 消費税の調査については、平成3年の機構改革により、所得税調査や法人税調査の際に併せて消費税の調査を実施する同時調査体制を採用し、所得税や法人税を含めた課税の適正化を図っている。
 近年における消費税の調査事績の推移をみると、平成21事務年度においては、個人事業者に対し約10万2,000件、法人に対して約13万1,000件の調査を行い、そのうち、個人事業者については約7万1,000件の調査で311億円、法人については約7万2,000件の調査で614億円の消費税をそれぞれ追徴した。
 その後調査件数は減少し、平成30事務年度においては、個人事業者に対して約8万6,000件、法人に対して約9万5,000件の調査を行い、そのうち、個人事業者については約6万2,000件の調査で345億円、法人については約5万6,000件の調査で800億円の消費税をそれぞれ追徴した(表「調査事績の推移」参照)。
(2) 消費税不正還付への対応
 国税庁においては、消費税の適正課税の確保について、重要な課題の一つとして取り組み、特に、不正還付事案については、厳正な対処に努めている。
 具体的には、消費税に係る還付申告書について、添付書類や保有する資料情報等に基づき、還付理由等について厳格な審査を行っている。その上で、内容に疑義があった場合には、還付を保留し、書面照会や実地調査を行い、申告内容に誤り等が認められた場合には確実に是正し、消費税不正還付の防止に努めている。とりわけ、悪質な不正還付事案については、資料調査課をはじめとした局調査実施部署で厳正な調査を実施したほか、刑事告発を行っている。

調査事績の推移

事務年度 個人事業者 法人
調査件数等 申告もれのあった件数 追徴税額
(含・加算税)
調査件数等 申告もれのあった件数 追徴税額
(含・加算税)
  千件 千件 億円 千件 千件 億円
平成21年度 102 71 311 131 72 614
22 98 67 253 117 65 557
23 99 67 246 120 66 458
24 84 58 211 88 50 474
25 76 52 209 87 49 378
26 86 59 232 91 52 452
27 88 61 271 90 52 565
28 87 61 301 93 55 785
29 88 62 322 94 55 748
30 86 62 345 95 56 800

(注)事務年度とは、その年の7月から翌年の6月までの期間をいう。

4 制度改正への対応

 前述のとおり、消費税導入以後、累次の制度改正が行われてきたが、その間、消費税に係る事務運営の中心施策の一つに据えてきたのは、事業者が消費税の改正内容等を十分に理解して自ら適正な申告と納付ができるよう、万全な広報・相談体制を整えることであった。
 近年においても、消費税率の二段階にわたる引上げと軽減税率制度の実施等に関して、広報・相談対応に最大限取り組んできた。
 具体的には、消費税法の改正内容等に関する相談については、税務相談室「電話相談センター」のほか、平成25事務年度から各税務署に設置している「改正消費税相談コーナー」及び平成29年7月から国税庁に設置している「消費税軽減税率電話相談センター」において、適切かつ丁寧に対応した。
 また、事業者から寄せられた様々な質問等を踏まえた質疑応答事例を作成し適時に更新してきたほか、関係府省庁と連携して、全国各地で軽減税率制度の説明会を開催するとともに、事業者団体等が開催する研修会等に講師派遣を実施することにより、事業者の制度理解の確保に努めた。
 更に、消費税転嫁対策特別措置法に規定された総額表示義務の特例や転嫁拒否等に関する相談についても、関係府省庁と連携して適切に対応してきた。
 国税庁としては、制度改正の内容が理解され、消費税の適正な執行確保が図られるよう、引き続き、こうした施策のきめ細やかな実施に努めていく。

第8節 その他の諸税

1 登録免許税

(1) 概要
 登録免許税は、不動産、船舶、航空機、会社、人の資格などについての登記や登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定及び技能証明について、登記等を受ける者を納税義務者として課税される。
 平成18年4月1日から平成25年3月31日までの間に、土地の売買による所有権の移転の登記を受ける場合のその登記に対する登録免許税の税率は、本則1,000分の20のところ、平成23年3月31日までは1,000分の10、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの間は1,000分の13、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間は1,000分の15に軽減することとされていた。
 平成25年度税制改正において、経済状況を踏まえ、土地需要を喚起し、土地取引の活性化・有効利用の促進を図る観点から、平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に土地の売買による所有権の移転の登記を受ける場合については、引き続き、1,000分の15の税率に軽減することとされた。その後、この軽減措置は2年ごとに延長され、令和3年3月31日までの措置となっている。
 平成30年度税制改正においては、いわゆる所有者不明土地問題に対して、政府としては、相続登記の促進を掲げるとともに、長期間相続登記が未了の土地の解消を図るための方策等について、関係省庁が一体となって検討を行うこととしており、このような状況を踏まえ、税制としても相続登記を促進するための措置が設けられた。すなわち、長期間相続登記が未了である土地への対応として、相続により土地の所有権を取得した個人が、その相続によるその土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡し、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に、その死亡した個人をその土地の所有権の登記名義人とするための登記を受ける場合には、登録免許税を課さないこととされた。また、相続登記が未了の土地を発生させないための対応として、個人が、平成30年11月15日から令和3年3月31日までの間に、土地について相続による所有権の移転の登記を受ける場合において、その土地が相続登記の促進を特に図る必要がある一定のものであり、かつ、その土地の登録免許税の課税標準となる不動産の価額が10万円以下であるときは、登録免許税を課さないこととされた。
(2) 課税の状況
 登録免許税については、国税通則法の規定により、特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するほか、その納付税額の確認なども各登記機関が行うこととなっているため、国税庁が行う事務は登録免許税に関する相談等に限定される。

2 たばこ税及びたばこ特別税

(1) 概要
 たばこ税及びたばこ特別税(以下この2において「たばこ税等」という。)は、製造たばこを課税の対象とし、製造場からの移出時又は保税地域からの引取時に、製造者又は引取者を納税義務者として課税される。
 製造たばこの製造者は、原則として、毎月の移出分を翌月末日までに、また、製造たばこの引取者は、保税地域から引き取る時までに、それぞれたばこ税等を申告・納付する。
 たばこ税の税率は、平成22年度税制改正において、国民の健康の観点から、平成22年10月1日より引き上げられ、1,000本につき5,302円とされた。
 平成27年度税制改正においては、紙巻たばこ全体の消費量が減少する中で、低価格である旧3級品の紙巻たばこの消費量が急増しているといった状況等に鑑み、旧3級品の紙巻たばこに係る特例税率は、平成28年4月1日に廃止された。併せて、激変緩和等の観点から、特例税率の廃止に伴う一定の経過措置が講じられた。
 平成30年度税制改正においては、国及び地方において厳しい財政事情であることを踏まえ、財政物資としてのたばこの基本的性格に鑑み、税率が引き上げられ、令和3年10月1日以後は1,000本につき6,802円とされた。併せて、激変緩和等の観点や予見可能性への配慮から、段階的に引き上げる経過措置が講じられた。

たばこ税率の引上げに伴う税率の経過措置

期間 国のたばこ税率(1,000本当たり) (参考)
地方のたばこ税率
(1,000本当たり)
たばこ税 たばこ特別税 合計
平成30年10月1日から令和2年9月30日まで 5,802円 820円 6,622円 6,622円
令和2年10月1日から令和3年9月30日まで 6,302円 820円 7,122円 7,122円
令和3年10月1日以降 6,802円 820円 7,622円 7,622円

 このほか、加熱式たばこについては、たばこ税法上、パイプたばこに区分されていたが、紙巻たばこに代替するものとして、紙巻たばこと同様の価格帯で販売されているにもかかわらず、紙巻たばこと比べて低い税負担額となっている状況に鑑みて、加熱式たばこの区分が新たに設けられ、その課税標準の換算方法について見直しが行われた。併せて、激変緩和等の観点から、段階的に実施する経過措置が講じられた。
 なお、たばこ特別税の税率は、平成10年12月1日の創設以来、1,000本につき820円とされている。
(2) 課税の状況
 たばこ税等の課税標準数量は本数換算で、平成21年度においては2,354億2,940万本、平成30年度においては1,575億62万本となっている。
 また、課税額は、平成21年度においては1兆211億円、平成30年度においては9,858億円となっている。
(3) 調査と指導の状況
 たばこ税等の調査対象場所には、製造たばこの製造場のほか、法定製造場、手持品課税製造たばこ(税率の引上げ時に、流通過程にある差額課税対象製造たばこ)の貯蔵場所があり、平成21事務年度においては9場、平成30事務年度においては134場に対して実地調査を行った。

3 揮発油税及び地方揮発油税

(1) 概要
 揮発油税及び地方揮発油税(以下この3において「揮発油税等」という。)は、揮発油(比重が0.8017を超えない炭化水素油)を課税の対象とし、製造場からの移出時又は保税地域からの引取時に、製造者又は引取者を納税義務者として課税される。
 揮発油の製造者は、原則として、毎月の移出分を翌月末日までに、また、揮発油の引取者は、保税地域から引き取る時までに、それぞれ揮発油税等を申告・納付する。
 なお、石油化学製品の製造のために消費される揮発油やゴムの溶剤用等に供される揮発油の免税措置及びバイオマス由来燃料を混和して製造されたガソリンに含まれるエタノールに相当する揮発油税等を軽減する措置等が講じられている。
 揮発油税等の各本法上における税率は、1KLにつき揮発油税は24,300円、地方揮発油税は4,400円とされているが、租税特別措置法において、税率の特例措置が設けられている。
 具体的には、平成5年12月1日から平成30年3月31日までの間の措置として、揮発油税は48,600円、地方揮発油税は5,200円(暫定税率)とされていたが、平成22年度税制改正において暫定税率は廃止され、その後は、厳しい財政事情や地球温暖化対策等を考慮し、当分の間の措置として、暫定税率と同様の税率が維持されることとなった。
 このほか、揮発油(ガソリン)価格が高騰した場合における揮発油税及び地方揮発油税の特例税率の適用停止措置が創設されたが、この措置は、東日本大震災の復旧及び復興の状況等を勘案し、平成23年4月27日から適用が停止されている。
(2) 課税の状況
 揮発油税等の課税標準数量は、平成21年度においては5,596万KL、平成30年度においては4,828万KLとなっている。
 また、課税額は、平成21年度においては3兆61億円、平成30年度においては2兆5,930億円となっている。
(3) 調査と指導の状況
 揮発油税等の調査対象場所には,揮発油の製造場のほか、特定石油化学製品の製造場、貯蔵場所及び使用場所並びに特定用途免税揮発油の使用場所等がある。
 平成21事務年度においては80場、平成30事務年度においては64場に対して実地調査を行った。

4 航空機燃料税

(1) 概要
 航空機燃料税は、航空機燃料を課税の対象とし、航空機への積込時に、航空機の所有者等を納税義務者として課税される。航空機の所有者等は、毎月分を翌月末日までに申告・納付する。
 航空機燃料税の本法上の税率は、1KLにつき26,000円とされているが、平成23年度税制改正において、租税特別措置法で税率の特例措置が設けられている。
 具体的には、航空会社のコスト削減や航空行政の改革の一環として、平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に積み込まれる航空機燃料について、1KLにつき18,000円に引き下げられた。
 沖縄路線に係る航空機燃料税の税率は、平成9年度以降、租税特別措置法において、税率を軽減する特例措置が講じられていたが、平成23年度税制改正において全体の税率が引き下げられたことにより、1KLにつき9,000円に引き下げられた。
 特定の離島路線に係る航空機燃料税の税率は、平成11年度以降、租税特別措置法において、税率を軽減する特例措置が講じられていたが、平成23年度税制改正において全体の税率が引き下げられたことにより、1KLにつき13,500円に引き下げられた。
 なお、税率の特例措置は、いずれの措置も適用期限が到来するごとに延長され、令和2年3月31日までの措置となっている。
(2) 課税の状況
 航空機燃料税の課税標準数量は、平成21年度においては476万KL,平成30年度においては505万KLとなっている。
 また、課税額は、平成21年度においては1,090億円、平成30年度においては782億円となっている。
(3) 調査と指導の状況
 平成21事務年度においては47場、平成30事務年度においては20場に対して実地調査を行った。

5 石油ガス税

(1) 概要
 石油ガス税は、自動車用の石油ガス容器に充てんされた石油ガス(以下この5において「課税石油ガス」という。)を課税の対象とし、石油ガスの充てん場からの移出時に石油ガスの充てん者を納税義務者として課税される。
 石油ガスの充てん者は、毎月分を翌月末日までに申告し、翌々月末日までに納付する。
 税率は、課税石油ガス1KGにつき17円50銭となっている。
(2) 課税の状況
 石油ガス税の課税標準数量は、平成21年度においては141万t、平成30年度においては88万tとなっている。
 また、課税額は、平成21年度においては247億円、平成30年度においては154億円となっている。
(3) 調査と指導の状況
 平成21事務年度においては222場、平成30事務年度においては247場に対して実地調査を行った。

6 石油石炭税

(1) 概要
 石油石炭税の課税物件は、原油、石油製品及びガス状炭化水素並びに石炭である(石油製品については輸入に係るものに限る。)。
 国産の原油、ガス状炭化水素及び石炭の納税義務者は、その採取者であり、採取場から移出した月の翌月末日までに申告し、納税する。輸入に係る原油、石油製品及びガス状炭化水素並びに石炭の納税義務者は、これらの引取者であり、保税地域から引き取るときまで(国税庁長官の承認を受けた者は、引き取った月の翌月末日まで)に申告し、納税する。
 税率は、原油及び輸入石油製品については1KLにつき2,040円、LNG及びLPGは1tにつき1,080円、石炭は1tにつき700円となっている。
 なお、石油化学製品製造用輸入ナフサ等の免税措置、石油化学製品製造用国産ナフサ等及び国産農林漁業用A重油の還付措置等が講じられている。
 平成24年度税制改正においては、地球温暖化対策を進める観点から、租税特別措置法により地球温暖化対策のための石油石炭税の課税の特例が創設され、平成24年10月1日から適用されることとされた。
 この特例により上乗せする税率は、原油及び石油製品については1KLにつき760円、ガス状炭化水素は1tにつき780円、石炭は1tにつき670円に段階的に引き上げられた。併せて、上乗せする税率について、苛性ソーダ製造業の自家発電用輸入石炭の免税措置及び内航運送用船舶等の国産軽油又は重油の還付措置等が講じられた。

石油石炭税の税率の推移

課税物件 本則税率
(石油石炭税法)
地球温暖化対策のための税率の特例
(租税特別措置法)
平成24年10月1日~ 平成26年4月1日~ 平成28年4月1日~
原油・石油製品
(1kl当たり)
2,040円 2,290円 2,540円 2,800円
ガス状炭化水素
(1t当たり)
1,080円 1,340円 1,600円 1,860円
石炭
(1t当たり)
700円 920円 1,140円 1,370円

 平成26年度税制改正においては、輸入石油製品と比較して税負担面で不均衡が生じている状況等に鑑み、石油製品等を精製する過程で発生する非製品ガスにかかる石油石炭税相当額を還付する特例措置が創設された。
(2) 課税の状況
 石油石炭税の課税標準数量は、平成21年度においては原油が1億7,839万KL、石油製品が768万KL、ガス状炭化水素が8,876万tであり、平成30年度においては原油が1億4,202万KL、石油製品は1,342万KL、ガス状炭化水素が1億284万t、石炭が1億1,995万tとなっている。
 また、課税額は、平成21年度においては5,477億円、平成30年度においては7,887億円となっている。
(3) 調査と指導の状況
 平成21事務年度においては17場、平成30事務年度においては15場に対して実地調査を行った。

7 印紙税

(1) 概要
 印紙税の課税物件は、各種の契約書、手形、株券、金銭の受取書等20種類の文書である。
 納税義務者は、文書の作成者であり、納付は、原則として課税文書に収入印紙を貼り付け、消印をする方法によるが、このほか、現金で納付する方法もある。税率は、文書の種類に応じ200円から60万円までとなっている。
 平成25年度税制改正においては、税制に関する抜本的な改革の一環として、金銭又は有価証券の受取書に係る印紙税の負担を軽減するため、金銭又は有価証券の受取書の免税点が、3万円未満から5万円未満に引き上げられたほか、住宅・土地取引の現状や消費税率の段階的な引上げが予定されていたことに鑑み、不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の軽減措置について、軽減割合及び対象範囲が拡充された。
 平成29年度税制改正においては、近年、災害が頻発していることを踏まえ、被災者や被災事業者の不安を早期に解消するとともに、復旧や復興の動きに遅れることなく税制上の対応を手当てする観点から、自然災害等により被害を受けた者が作成する契約書等に係る印紙税の非課税措置が創設された。
(2) 課税の状況
 印紙税の現金納付分の課税人員は、平成21年度においては17万1,485人、平成30年度においては17万2,330人となっている。
 また、課税額は、平成21年度においては2,001億円、平成30年度においては1,562億円となっている。
(3) 調査と指導の状況
 印紙税は、自主的な納付の形態を採っており、税の追徴に併せて行政的に制裁するという観点から、貼り付けをしなかった場合は不足税額の3倍相当額(印紙税を納付していないことについて自主的な申出があった場合は、不足税額の1.1倍)が、消印をしなかった場合は税相当額の過怠税が徴収されることになっている。
 平成21事務年度においては4,172場、平成30事務年度においては2,379場に対して調査等を行った。
 また、そのうち現金納付の方法を採っている納税者についてみると、調査対象場数は、平成21事務年度においては17,061場、平成30事務年度においては20,377場であるが、このうち平成21事務年度は724場、平成30事務年度は583場に対して実地調査を行った。
 印紙税は、納税義務者が極めて広範にわたるところから、「印紙税の手引」等のパンフレットの配付、説明会の開催など様々な方法による指導に重点を置くとともに、日常の電話等による多数の照会に対して、的確な回答ができるよう体制を整えている。

8 自動車重量税

(1) 概要
 自動車重量税の課税の対象は、道路運送車両法の規定に基づき、新規検査、継続検査、構造等変更検査又は予備検査を受けて自動車検査証の交付又は返付を受ける自動車(検査自動車)及び使用の届出をして車両番号の指定を受ける軽自動車(届出軽自動車)である。
 自動車重量税は、自動車検査証の交付・返付を受ける者や車両番号の指定を受ける者が、所定の自動車重量税納付書に自動車重量税印紙を貼り付け、それを国土交通大臣もしくはその権限の委任を受けた運輸支局長等に提出することなどにより納付することとされている。
 自動車重量税の税率は、自動車の区分に応じ、昭和49年度税制改正で導入された暫定税率(その後の税制改正において延長措置が講じられている。)が適用されてきたが、平成22年度税制改正において、暫定税率を廃止し、当面の間の措置として、本則税率の2倍(自家用乗用車の場合)の税率とすることとされた。
 自動車検査証の有効期間内に使用済みとなった自動車については、使用済自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)に基づいて適正に解体され、道路運送車両の解体を事由とする永久抹消登録等がなされた場合に、自動車検査証の有効期間内の残存期間に相当する自動車重量税を還付する措置が講じられている。
 平成21年度税制改正においては、厳しい経済状況の中、自動車の買換・購入需要を促進し、併せて今後我が国が目指すべき低炭素社会の実現を図る観点から、環境性能に優れた自動車に対して、自動車重量税を減免する措置(いわゆる「エコカー減税」)が講じられた。なお、この減免措置は、適用期限が到来するごとに対象となる自動車の範囲を見直した上で延長され、令和3年4月30日までの措置となっている。
 平成29年度税制改正においては、近年、災害が頻発していることを踏まえ、被災者や被災事業者の不安を早期に解消するとともに、復旧や復興の動きに遅れることなく税制上の対応を手当てする観点から、自然災害により被災した自動車に係る自動車重量税の還付措置が創設された。
 また、税制において適正公平な課税を実現するための仕組みを構築する観点から、自動車メーカー等による不正行為に起因して自動車重量税に納付不足額が生じた場合には、納付不足額にその1割に相当する金額を加算した額を自動車メーカー等から徴収する等の制度が創設されるとともに、法定納期限の到来した自動車重量税について納付不足額が生じた場合、第三者の申出により第三者から徴収することができる経過措置が設けられた。
(2) 課税の状況
 自動車重量税の課税額は、平成21年度においては9,850億円、平成30年度においては6,956億円となっている。

9 電源開発促進税

(1) 概要
 電源開発促進税の課税の対象は、一般送配電事業者の販売電気である。
 納税義務者は、一般送配電事業者であり、毎月分を翌月末日までに住所地の税務署長に申告・納付する。電源開発促進税の税率は、1,000KWにつき375円となっている。
 電力システム改革の一環として、「電気事業法等の一部を改正する法律」(平成26年6月11日成立)により、電気事業法の事業区分が見直されたことに伴い、電源開発促進税法上の納税義務者についても「一般電気事業者」から「一般送配電事業者」に変更された。
(2) 課税の状況
 電源開発促進税の課税標準である販売電気の電力量は、平成21年度においては8,735億8,136万KW時、平成30年度においては8,621億1,031万KW時となっている。
 また、課税額は、平成21年度においては3,276億円、平成30年度においては3,233億円となっている。

10 国際観光旅客税

(1) 概要
 平成30年度の税制改正において、観光先進国実現に向け、より高次元な観光施策の充実に必要な財源の確保を図るため、国際観光旅客税法が創設され、平成31年1月7日に施行された。
 本税は、原則として、同日以降の日本からの出国を対象に、出国1回につき1,000円が課税される。
 本税の課税対象は、旅客の航空機又は船舶による日本からの出国であり、本税の納税義務者は、航空機又は船舶により日本から出国する旅客となるが、原則として、国際旅客運送事業を営む者である航空会社又は船舶会社が特別徴収義務者として、旅客から本税を徴収し納付することとなる。
 なお、国際旅客運送事業を営む者のうち、国内に本店又は事務所等を有する国内事業者は税務署に、国内事業者以外の者(国外事業者)は税関に、本税の納付等の手続を行う。
(2) 課税の状況
 国際観光旅客税の課税人員は、平成30年度においては702万人となっている。
 また、課税額は、平成30年度においては70億円となっている。