第1章 財政経済の推移

 我が国経済は、平成20年9月に起きた、いわゆるリーマンショックを契機に米欧を中心とする金融不安が金融危機へと発展し、世界同時不況と呼ぶべき事態に陥る中で、急速な悪化を示した1。こうした中、実体経済の悪化が金融の一層の不安定化を招き、それが更なる実体経済の悪化を招くという経済の「底割れ」のリスクが急速に高まりつつあった。また、貿易黒字国と赤字国間のグローバルな不均衡の拡大と赤字国における過剰信用・過剰消費の中で高成長を続けてきた世界経済の構造が崩壊して、新たな均衡を模索する世界経済の「大調整」が不可避のものとなっていた。こうした状況を踏まえ、政府は平成21年4月10日に「経済危機対策」を閣議決定し、我が国経済の「底割れ」を防ぎ、内需と輸出の双発エンジンによってバランス良く経済の実現を目指すこととした2
 その後、平成21年春頃から、輸出が増加に転ずるとともに個人消費がプラスに寄与したため、経済指標は生産関連の指標を中心に上向きの傾向を示すようになり、日本経済は最悪期を脱した。しかし、なお雇用情勢は厳しく、失業率は平成21年7月には過去最高の5.7%に達した3。さらに、物価が財とサービスの両分野で下落して緩やかなデフレ状態となったことに加え、為替市場の急激な変動により円高が進み4、我が国経済はしばらく「足踏み」状態が続いた5
 その後、緩やかに景気が「足踏み」から「持ち直し」に転じつつあったが、平成23年3月11日に発生した東日本大震災とそれに伴う原子力災害により、ストックの毀損、サプライチェーンの寸断、電力供給の制約等による生産活動の落ち込みのほか、マインドの悪化による需要の減退など多岐にわたる影響が生じた6。震災により、実質GDPは平成23年第1四半期から2四半期連続の減少となった。続く第3四半期は、震災後のサプライチェーンの立て直しが夏にかけて急速に進んだこと等を背景として、多くの需要項目が名目GDP及び実質GDPの押上げに寄与した結果、「足踏み」状態にあった平成22年第4四半期以来、3四半期ぶりのプラス成長となった7。このように景気は持ち直しに復帰したものの、同時期から世界経済が減速したことを反映して、持ち直しのテンポが緩やかとなった8
 平成24年には、エコカー補助金の効果が一巡するタイミングと輸出の減少が重なったことにより、復興需要の下支えがあったにもかかわらず、景気は下向きに転じ、内外需ともに減少したことから、同年の実質経済成長率は、マイナス成長となった9。しかし、平成24年の秋以降には円高修正の動きや株価上昇が進んだことから、我が国経済は、平成24年11月を景気の谷として、それ以降、緩やかな回復を続けた。平成25年1月11日に閣議決定された「日本経済再生に向けた緊急経済対策」や日本銀行の「量的・質的金融緩和」の導入の効果もあったことから、実質GDPはプラス成長となり、リーマンショック前の高い水準までおおむね回復した10
 景気が緩やかな回復基調をたどる中で、平成25年10月に、平成26年4月1日から消費税率(国・地方)が5%から8%へ引き上げられることが決定された。個人消費については、平成25年秋以降、自動車を中心に徐々に駆け込み需要が顕在化し、消費税率引上げ直前の平成26年3月にかけては、家電のほか、衣料品、日用品・飲食料品などにも駆け込み需要が発生し、消費全体が大きく増加したが、駆け込み需要の反動によって4月に大きく減少した。こうした異時点間で発生する支出の代替効果を個人消費全体についてみると、平成26年4月の消費税率引上げに伴う駆け込み需要とその反動は、2.5~3.3兆円程度(実質GDPの0.5~0.6%程度)と推計された11。消費税率引上げによる需要の過度の変動が景気の下振れリスクとならないよう、駆け込み需要とその反動対策として、1兆円規模の税制措置等や、5.5兆円規模の「好循環実現のための経済対策」を含む「経済政策パッケージ」が決定・実行されたものの、平成9年に3%から5%へ引上げた時と比較して、引上げ幅が3%と大きかったこと等から、結果として、前回よりも大きな駆け込み需要とその反動減が生じることとなった12
 平成27年には、名目GDP、実質GDP、GDPデフレーターが18年ぶりにそろって前年比プラスとなり、雇用・賃金関係の指標が1990年代初頭以来となる改善をみせた。一方で、新興国・資源国経済の脆弱性等のリスクに加え、平成28年6月にイギリスの国民投票でEU離脱が支持されたこと等、世界経済の先行きに対する景気への影響が懸念された13
 平成28年後半からは、世界経済が緩やかに回復に転じたことに伴って日本の輸出や生産は持ち直しが続き、企業収益は過去最高となり、雇用・所得環境も改善された。また、個人消費や民間企業設備投資など国内需要も持ち直しており、好循環が進展した。実質GDP成長率も上向き姿勢を示し、安定した回復が続いた14
 以上のように、我が国経済は平成26年度から平成30年度まで、4年間連続での回復基調を実現した。この4年間に渡る景気回復局面では、海外経済の緩やかな回復を背景に、企業の稼ぐ力が高まり、企業収益が過去最高となる中で、雇用・所得環境が改善し、所得の増加が消費や投資の拡大につながるという「経済の好循環」が着実に回ったことで、景気回復が長期化したと言える15
 一方で、平成30年に始まった世界経済の減速は、平成31年の我が国経済を下押しする要因となった。しかし、経済外需の弱さが長期化する中でも、外需の減少ペースが急激なものではなかったことと外需の影響を受けにくい非製造業の堅調さにより、内需は持ち直しを続けた16

脚注

  • 1 内閣府『平成21年度 年次経済財政報告』内閣府、2009年、5頁
  • 2 「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議『経済危機対策』2009年、内閣府、2009年、1頁
  • 3 緊急雇用対策本部『緊急雇用対策』内閣府、2009年、1頁
  • 4 『明日の安心と成長のための緊急経済対策』、2009年、1頁
  • 5 内閣府政策統括官室『日本経済2010-2011』内閣府、2010年、157頁
  • 6 内閣府『平成23年度 年次経済財政報告』内閣府、2011年、286頁
  • 7 内閣府政策統括官室『日本経済2011-2012』内閣府、2011年、2頁
  • 8 内閣府政策統括官室『日本経済2011-2012』内閣府、2011年、172頁
  • 9 内閣府政策統括官室『日本経済2012-2013』「むすび」内閣府、2012年、1頁
  • 10 内閣府政策統括官室『日本経済2013-2014』内閣府、2013年、2頁
  • 11 内閣府政策統括官室『日本経済2014-2015』内閣府、2014年、9頁
  • 12 内閣府政策統括官室『日本経済2014-2015』「むすび」内閣府、2014年、1頁
  • 13 内閣府『平成28年度 年次経済財政報告』内閣府、2016年、121頁
  • 14 内閣府政策統括官室『日本経済2016-2017』内閣府、2016年、2頁・3頁
  • 15 内閣府政策統括官室『日本経済2018-2019』内閣府、2019年、208頁
  • 16 内閣府政策統括官室『日本経済2019-2020』内閣府、2019年、2頁

第2章 租税及び印紙収入の収入状況

 平成21年度から平成30年度の10年間の租税及び印紙収入(一般会計分)の合計額(以下この章において「租税収入」という。)の推移をみると、平成20年9月に起きた、いわゆるリーマンショックを契機とする世界同時不況の影響等により、平成21年度の租税収入は38.7兆円と前年度から5.6兆円の減少となった。その後、景気が緩やかに回復を続けたことから、平成22年度以降増加に転じ、平成25年度は47.0兆円と平成21年度から8.3兆円増加した。
 平成26年度は消費税率引上げの影響もあり、消費税収が前年度から5.2兆円の増収となるなど、租税収入は54.0兆円と前年度から7.0兆円増加し、また、平成27年度は56.3兆円と前年度から2.3兆円増加した。
 平成28年度は、年度前半の世界経済の減速、為替の円高方向への動きや金融資本市場の変動等の影響により、租税収入は55.5兆円と7年振りに前年割れを記録したものの、その後は、輸出や生産の持ち直しが続くとともに、個人消費や民間設備投資が持ち直すなど民需が改善し、平成29年度は法人税収が前年度から1.7兆円の増収となるなど、租税収入は58.8兆円と前年度から3.3兆円の増加となり、平成30年度は60.4兆円と平成21年度から21.7兆円の増加、バブル期の平成2年度(60.1兆円)を超え過去最高を記録した。

第3章 税制の変遷

1 平成20年代の変遷

(1) 平成21年度税制改正
 平成21年度税制改正においては、リーマン・ブラザーズ破綻をきっかけとして起きた世界的な金融危機に対応するため、政府が総合的な経済対策である「生活対策」を発表したことを受けて、住宅ローン減税の拡充、証券優遇税制の延長のほか、いわゆるエコカー減税の創設や中小企業の法人税軽減なども盛り込まれ、短期集中型の景気刺激策に重点を置いて減税一色となった。
(2) 平成22年度税制改正
 平成22年度税制改正においては、「控除から手当へ」等の観点からの扶養控除の見直し、国民の健康の観点を明確にしたたばこ税の税率の引上げ、「新しい公共」を支える市民公益税制の拡充、納税者の視点に立った租税特別措置等の見直し等の措置が一体として講じられた。
(3) 平成23年度税制改正
 平成23年度税制改正においては、国内企業の国際競争力強化や雇用・国内投資の拡大等の観点からの法人実効税率の引き下げ、「新しい公共」を支える市民公益税制の拡充、更正の請求期間の延長や税務調査手続の明確化等の納税環境整備の推進等の措置が講じられた。
 また、平成23年3月11日に発生した東日本大震災に対して、被災者等の負担の軽減及び復旧・復興へ向けた取組の推進を図るため、国税では2回、地方税では3回にわたり税制上の臨時特例措置が講じられるとともに、復旧・復興のために要する財源について、歳出削減及び更なる税外収入の確保に加え、時限的な税制措置が行われた。
(4) 平成24年度税制改正
 平成24年度税制改正においては、平成22、23年度の改革の方向性との整合性に留意しつつ、特に喫緊の対応を要する、新成長戦略実現に向けた税制措置、税制の公平性確保と課税の適正化に向けた取組、平成23年度税制改正の積み残し事項への対応等を中心に改正が行われた。具体的には、給与所得控除・退職所得課税の見直し、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充・延長、復興支援税制、地球温暖化対策のための税の導入等が行われた。
(5) 平成25年度税制改正
 急速な少子高齢化や社会経済状況が大きく変化する中で、世代間及び世代内の公平性が確保された社会保障制度を構築することにより支え合う社会を回復することが我が国の直面する重要な課題であるとの考えの下、平成24年2月17日に「社会保障・税一体改革大綱」が閣議決定され、これに基づき、同年3月末に税制抜本改革法案が社会保障制度改革の法案とともに国会へ提出された。同法では、消費税率を平成26年4月に8%へ、平成27年10月に10%へ段階的に引き上げることのほか、所得税の最高税率の引上げ、相続税の基礎控除の引下げの見直しなど、消費税以外の事項の改革の方向性も盛り込まれた。
 その後、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」が公布されることとなった。
 平成25年度税制改正では、社会保障・税の一体改革を着実に実施するための措置が講じられたほか、「成長と富の創出の好循環」の実現に向け、民間投資の喚起、雇用・所得の拡大、中小企業対策・農林水産業対策等のための税制上の措置も講じられた。
(6) 平成26年度税制改正
 平成26年度税制改正では、デフレ脱却・経済再生に向け、設備投資の促進、研究開発投資の促進、所得の拡大等を図るための税制措置が講じられた。具体的には生産性向上設備投資促進税制の創設、研究開発税制の拡充、所得拡大促進税制の拡充、復興特別法人税の1年前倒し廃止等が行われた。
(7) 平成27年度税制改正
 平成27年度税制改正では、デフレ脱却・経済再生に向けた税制措置、地方創生に係る税制措置、消費税率10%への引上げ時期の変更、BEPSプロジェクト(BEPS:Base Erosion and Profit Shifting(税源浸食と利益移転))の勧告を踏まえた外国子会社配当益金不算入制度の見直し等が講じられた。具体的には、成長志向に重点を置いた法人税改革として、課税ベースを拡大して税率を引き下げることで、企業が収益力を高め、賃上げに積極的に取り組むよう促すこととしたほか、消費税については、税率10%への引上げ時期を平成29年4月とすること等とし、さらに、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税制度の延長・拡充や地方拠点強化税制の創設等を行うこととした。
(8) 平成28年度税制改正
 平成28年度税制改正では、経済の好循環を確実なものとする観点から、成長志向の法人税改革を平成27年度に引き続いて行うこととされ、法人実効税率20%台が実現し、国際的に遜色のない水準となった1。一方で、消費税の引上げに伴う影響緩和策として、軽減税率制度が導入されることとなり、軽減税率の適用対象品目については、購入の際にその消費税負担が直接軽減され、痛税感を緩和できること等の観点2から、「酒類及び外食を除く飲食料品」等とされた。また、複数税率制度の下において適正な課税を確保する観点から、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が令和3年4月に導入されることとなった他、少子化対策・教育再生や地方創生の推進、復興支援等に取り組むとともに、BEPSプロジェクトの勧告を踏まえた多国籍企業情報の報告制度の創設等を行った。
 平成28年6月1日には、平成29年4月に予定されていた消費税率の引上げが2年半延期されることが表明された。その後、平成28年11月28日に公布された「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律等の一部を改正する法律」において、消費税率10%への引上げ時期が令和元年10月1日とされた。また軽減税率制度や適格請求者等保存方式、各税における反動減対策など、消費税率引上げに伴って実施することが確定している税制措置について各措置の内容は維持しつつ、その実施時期を2年半延期することとされた。
(9) 平成29年度税制改正
 平成29年度税制改正においては、就業調整を意識しなくて済む仕組みを構築する観点から配偶者控除・配偶者特別控除の見直しを行うとともに、経済の好循環を促す観点から研究開発税制及び所得拡大促進税制の見直しや中小企業向け設備投資促進税制の見直し等が行われた。併せて、酒類間の税負担の公平性を回復する等の観点から酒税改革が行われるとともに、日本企業の健全な海外展開を支えつつ国際的な租税回避により効果的に対応するため、外国子会社合算税制が見直された。このほか、災害への税制上の対応に係る各種の規定の整備等も行われた。
(10) 平成30年度税制改正
 平成30年度税制改正においては、働き方の多様化を踏まえ、様々な形で働く人をあまねく応援する等の観点から個人所得課税の見直しを行うとともに、デフレ脱却と経済再生に向け、賃上げ・生産性向上のための税制上の措置を講じ、さらに、中小企業の代替わりを促進する事業承継税制の拡充、観光基盤の拡充・強化を図るための恒久的な財源の確保の観点から国際観光旅客税の創設が行われた。その他、恒久的施設の範囲の見直し、税務手続の電子化の推進やたばこ税の見直し等も行われた。
(11) 令和元年度税制改正
 令和元年度税制改正においては、少子高齢化が進む中、持続的な成長経路を実現するためには、潜在成長率を引き上げていくことが重要であり、「生産性革命」と「人づくり革命」に最優先で取り組む必要があるという観点から、消費税率の引上げに際して自動車と住宅に対する税制上の支援策等を講ずるほか、イノベーションを促進するための研究開発税制の見直し、経済活動の国際化・多様化を踏まえた国際課税の見直し、金地金等の密輸に対応するための消費税における仕入税額控除の見直しや国税当局が事業者等に対して必要な情報を照会するための手続の整備などの納税環境整備が行われた。

脚注

  • 1 2019年1月時点でドイツ29.89%、日本29.74%、アメリカ27.99%、イギリス19.00%(財務省ホームページ「法人実効税率の国際比較」)。
  • 2 国税庁「平成28年 税制改正の解説」(2016年、3頁)

2 国税通則法の見直し

 平成23年度(23年12月)の税制改正では、税務調査手続の明確化、更正の請求期間の延長、処分の理由付記等、国税通則法の大幅な見直しが行われた。

(1) 税務調査手続の明確化
 調査手続の透明性及び納税者の予見可能性を高める観点から、税務調査に先立ち、課税庁が原則として事前通知を行うことが法律上明確化された。また、調査終了時の手続について、課税庁の納税者に対する説明責任を強化する観点から、法律上明確化された。
(2) 更正の請求期間の延長
 法定外の手続により非公式に課税庁に対して税額の減額変更を求める「嘆願」という実務慣行を解消するとともに、納税者の救済と課税の適正化とのバランス、制度の簡素化を図る観点から、納税者が申告税額の減額を求めることのできる「更正の請求」を行うことができる期間と課税庁による増額更正できる期間が、ともに5年に延長された。これにより、基本的に、納税者による修正申告・更正の請求、課税庁による増額更正・減額更正の期間が全て一致されることとなった。
(3) 処分の理由付記
 処分の適正化と納税者の予見可能性の確保の観点から、国税に関する法律に基づく申請により求められた許認可等を拒否する処分又は不利益処分をする場合には、理由付記が実施されることとなった。ただし、個人の白色申告者に対する更正等に係る理由付記については、記帳・帳簿保存義務の拡大と併せて実施することとされ、平成25年1月、平成26年1月と段階的に理由付記が実施された。

第4章 今後の展望

第1節 「税務行政の将来像」~スマート化を目指して~

 税務行政を取り巻く環境が大きく変化する中で、今後とも、納税者の理解と信頼を得て、国税庁の使命を十分に果たしていくためには、その時々における課税・徴収上の個々の課題に的確に対応していくことはもとより、経済社会の急激な変化に税務行政が的確に対応できるよう、中長期的に国税庁が向かうべき将来像を明らかにし、そこに向けて着実に取り組んでいくことが重要と考え、平成29年6月に、「税務行政の将来像」を取りまとめ、公表した。
 この将来像は、おおむね10年後のイメージを示したもので、ICTの活用による「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」を柱として、「スマート税務行政」に進化していくことを示している。
 公表以降、将来像は、国税組織が向かうべき方向性を示す、いわば羅針盤としての役割を果たしており、国税庁では将来像に掲げた各施策の実現に向け、これまで業務改革やインフラ整備に取り組んできた。
 また、令和元年6月には、将来像の公表から約2年が経過したことを踏まえ、これまでの間に実現又は具体化した取組や今後の課題を改めて整理した上で、「『税務行政の将来像』に関する最近の取組状況~スマート税務行政の実現に向けて~」を公表した。
 国税庁では、引き続き、必要なインフラ整備や業務改革を進めながら、「スマート税務行政」の実現に向けて計画的に取り組んでいく。

第2節 納税者利便の向上

1 税務手続のデジタル化

(1) e-Tax(国税電子申告・納税システム)の推進
イ e-Tax使い勝手の向上
 e-Taxは、所得税、法人税、消費税、相続税、贈与税、印紙税、酒税などの申告や法定調書の提出、青色申告の承認申請などの各種手続を税務署に出向くことなく、インターネットを通じて行うことができるものであり、平成16年6月より利用を開始した。税金の納付も、ダイレクト納付やインターネットバンキング、ペイジー(Pay-easy)対応のATMを利用して行うことができる。
 納税者や税理士は、e-Taxに対応した税務・会計ソフトを利用すれば、会計処理や申告などのデータ作成から提出までの一連の作業を電子的に行うことができるため、事務の省力化やペーパーレス化につながる。
 国税当局にとっても、窓口・郵送での申告書収受事務やデータ入力事務の削減、文書管理コストの低減などの効果が期待され、税務行政の効率化が図られると考えている。
 このため、国税庁では、経済社会のデジタル化が一段と進展する中、納税者が簡便・正確に手続を行うことができるよう利便性を高めるとともに、社会全体のコスト削減や企業の生産性向上を図る観点から、e-Taxの一層の普及・添付書類も含めた電子化に努めることとしている。
 平成21年度以降におけるe-Taxの普及・定着に向けた主な取組は以下のとおりである。
(イ) e-Taxの受付時間等の拡大
 e-Taxの受付時間については、これまでも順次拡大してきており、所得税の確定申告時期は、平成19年2月以降実施している24時間受付の継続や日曜日のヘルプデスクの受付を実施(平成22年2月以降)している。所得税の確定申告時期以外については、月曜日から金曜日は24時間、毎月の最終土曜日及び翌日の日曜日は8時30分から24時まで受付を実施(平成31年1月以降)するなど、順次拡大している。
(ロ) 添付書類のイメージデータ化
 e-Taxで申告や申請を行った場合でも、別途書面による提出が必要であった出資関係図や住宅借入金等の残高証明書の添付書類などの添付書類について、イメージデータ(PDF形式)による提出を可能とした(法人税法等による添付書類は平成28年4月以降、所得税法等による添付書類は平成29年1月以降に実施。)。
(ハ) 認証手続の簡便化
 個人納税者のe-Tax利用の認証手続の簡便化として、マイナンバーカードを利用することでe-TaxのID・パスワードの入力が不要となる「マイナンバーカード方式」と、税務署の職員との対面による本人確認を行った際に交付されたID・パスワードのみでe-Taxが利用できる「ID・パスワード方式」を導入した(平成31年1月以降)。
 法人納税者のe-Tax利用の電子認証の簡便化として、法人の代表者から委任を受けた当該法人の役員・社員の電子署名及び電子証明書を送付する場合に、代表者の電子署名等の送信を不要とした(平成30年4月以降)。
 今後も引き続き、e-Taxの利便性向上に向けて取組んでいくこととしている。
ロ スマートフォン・タブレットによる電子申告について
 国税庁ホームページには、金額等を入力すると、税額などが自動計算されて、申告書等を作成することができるシステムが用意されている。
 これまでの当該システムの操作画面はパソコンでの操作を前提とした作りになっており、源泉徴収票の入力画面一つとっても、スマートフォンで入力するには、画面が小さく、操作しづらいものとなっていた。
 そこで、平成31年1月からは、年末調整済みの給与所得者が医療費控除やふるさと納税などの寄附金控除に係る還付申告をする場合に、スマートフォンなどに最適化したデザインの「スマホ専用画面」のサービスを提供している。
 また、令和2年1月からは、スマホ専用画面の利用可能対象者を、全ての給与所得者や年金収入のある者にも拡大する、マイナンバーカード読取機能を搭載したスマートフォンでマイナンバーカードの電子証明書を用いたe-Tax送信を可能とする、といったサービスの拡大を実施する。
ハ マイナポータルを活用した確定申告の簡便化について
 マイナポータルとは、マイナンバー制度の導入に合わせて新たに構築されたサービスで、子育てに関する行政手続がワンストップでできるほか、行政機関からのお知らせの確認等ができるウェブサイトのことである。
 具体的には、国税庁ホームページ上で提供する確定申告書の作成システムとこのマイナポータルとを連携させ、保険会社等から発行される控除証明書等のデータをマイナポータル経由で一括入手し、その入手したデータを当該作成システム上で申告書の所定の項目に自動入力して、簡便にe-Tax送信が可能となる仕組みの構築に向けて検討を進めている。
 なお、この仕組みの実現に当たっては、各種証明書の電子交付について、保険会社等のデータ連携先機関と所要の調整等が前提となることから、その実現に向けて協力を要請している。
ニ 申告データの円滑な電子提出のための環境整備について
 平成30年度税制改正により、令和2年4月1日以後開始する事業年度において、資本金の額等が1億円超などの要件に該当する大法人については、法人税・消費税等の電子申告が義務付けられたところである。
 これに併せて、法人税等に係る申告データを円滑に電子提出できる環境整備に向け、法令上の手当てや、「法人税申告書別表のデータ形式の柔軟化」や「国・地方通じた財務諸表の提出の一元化(ワンスオンリー化)」といった運用上の手当てを行っている。
 これらの環境整備策は、大法人に限らず全ての法人が利用可能となっており、国税庁では、これらの施策の積極的な周知・広報に取り組んでいる。
(2) その他の税務手続のデジタル化の取組
イ 年末調整手続の簡便化について
 現状の年末調整手続では、例えば、生命保険料控除を受ける場合、保険会社から書面で送付された控除証明書を用いて、従業員の方が手作業で控除申告書を作成し、書面の控除証明書とともに、勤務先に提出する必要がある。
 このため、勤務先においても、紙の控除証明書と控除申告書との数値が合っているかの確認や控除額の検算に加え、書類の保管が必要となる。
 そこで、平成30年度税制改正では、従業員が保険会社等から電子データで交付を受けた控除証明書について、電子データのまま勤務先に提供することが認められた。現在、国税庁では、従業員が保険会社等から交付された控除証明書等のデータを取り込めば、簡便・正確に控除申告書データが作成され、そのまま勤務先にオンライン提出が可能となる、年末調整控除申告書作成用ソフトウェアの提供に向け、準備を進めている。
 また、当該ソフトウェアとマイナポータルとを連携させ、保険会社等から発行される控除証明書等のデータをマイナポータル経由で一括入手し、その入手したデータを用いて簡便に控除申告書の作成が可能となる仕組みの構築に向けて検討を進めている。
 このソフトウェアは、税制改正の適用時期に合わせて令和2年10月に導入する予定である。
ロ 手続のオンライン・ワンストップ化について
 政府全体の取組として、ITを最大限活用した簡素で効率的な社会システムを構築し、国民が安全で安心して暮らせ、豊かさを実感できる社会を実現することを目指す「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が平成30年6月に閣議決定され、更に、同計画の重点分野の一つである電子行政分野を深掘りし、詳細化した「デジタル・ガバメント実行計画」1が平成30年7月にデジタル・ガバメント閣僚会議において決定された。
 また、税務行政を取り巻く環境は、経済取引の複雑化・広域化や経済社会のICT化・グローバル化の急速な進展に伴い、業務が複雑・困難化するなど大きく変化している。
 こうした各種計画や環境変化を踏まえ、国税庁においては、国民・事業者の目線に立ち、利用者の負担軽減や行政運営の効率化・高度化等を推進することとしている。
 具体的には、手続のオンライン化や添付書類の省略を推進するとともに、「企業が行う従業員の社会保険・税手続」や「法人設立手続」のオンライン・ワンストップ化2などについて、政府全体の取組方針に沿って関係府省の一つとして、その実現に向けた検討を進めている。
(イ) 「法人設立オンライン・ワンストップ」
 これまで、法人を設立する際には、設立に必要な各手続を行政機関ごとに行う必要があった。
 令和2年1月より、利用者が、マイナポータル上で提供される法人設立専用画面を利用して、法人名など各手続において共通する項目を一度だけ入力し、それぞれの手続で個別に必要となる項目を入力すれば、設立に必要な一連の手続を各行政機関に対して一括で行うことができるサービスの提供が開始される。
 まず、令和2年1月では、国税関係を含む設立後の各手続のワンストップサービスが開始された。続いて、令和3年2月に定款認証及び設立登記といった設立時の手続がワンストップ化される予定である。
 現在、国税庁では、関係府省と連携してシステム開発等に取り組んでいるところである。
(ロ) 「企業が行う従業員のライフイベントに伴う社会保険・税手続のオンライン・ワンストップ」
 これまで、雇用主である企業は、従業員の採用、退職等のライフイベントに伴う社会保険・税手続を行政機関ごとに行う必要があった。
 今後は、企業が、マイナポータルと接続した民間ベンダーソフトなどを利用して、従業員の氏名など各手続において共通する項目を一度だけ入力し、それぞれの手続において個別に必要となる項目を入力すれば、従業員のライフイベントに伴う各手続を一括で行うことができるサービスが令和2年11月頃から提供されることとなっている。
 この手続についても、現在、関係府省と連携してシステム開発等の検討を進めている。

2 税務相談の効率化・高度化

(1) 税務相談の将来イメージ
 現在、税務相談については、一般的な相談は電話相談センターで集中的に対応しているほか、国税庁ホームページのタックスアンサーでよくある税の質問に対する一般的な回答を提供するとともに、個別的な照会は原則予約を受けた上、税務署で面談により対応することとしている。
 将来的にもこの基本的な体制に変更はないものの、納税者の利便性の向上と税務相談事務の効率化を図る観点から、効率化・高度化施策を講じることとしている。
 電話相談については、現状、電話相談センターを利用する場合は、税務署の代表電話に電話をかけ、音声ガイダンスに従って、「1」番を選択することになるが、将来的には、電話相談センターへの直通番号を導入し、納税者が直接電話相談センターへ架電できるようにすることを検討している。
 現在は、一般的な相談のみを対象に電話相談センターの利用を促しているが、納税者にとっては、自身の相談が一般的な相談・個別的な照会のいずれに該当するのか明確でないことも多いと考えられるため、直通番号導入後は、一般的な相談・個別的な照会の区別なく、電話相談センターに誘導・集約して対応することを考えている。
 また、電話相談センターへの集約化とともに、電話機器等の高度化を図り、電話音声等から最適な回答例を自動表示するなど、対応を迅速化することや、所轄税務署でしか対応できない個別的な照会について、電話相談センターで所轄税務署の予約受付を可能にし、電話相談センターから所轄税務署へ効率的に取り次ぐことを考えている。
 国税庁ホームページについては、時間・場所の制約なく自宅等からの自己解決を図るツールとして、チャットボットという、利用者が質問した事項に対してAIが自動回答する機能を導入する予定である。また、納税者の視点に立ち、掲載情報を充実させることも検討している。
 来署相談については、窓口にブースを設け、そこへ専用パソコン等を設置し、国税庁ホームページ上のチャットボットの利用や掲載情報の閲覧ができる環境を提供することを考えている。また、ブースには、電話相談センターへ架電できるようテレビ電話等を設置することも検討している。
(2) チャットボットの導入
 納税者のニーズへの対応、電話相談事務の効率化等を図るため、土日、夜間等の日時にとらわれない相談チャネルとして、チャットボットを導入する。
 まずは、「税務署の所在地などの案内」、「医療費控除などの所得控除、住宅ローン控除」、「e-Tax等の操作方法」など、納税者のニーズが高い質問に対応したチャットボットを令和元年度中に国税庁ホームページ上に試験導入した。令和2年度中には本格運用を開始できるよう準備を進めている。
 将来的には、相談事例の集積・学習を繰り返しながら、順次対応範囲を拡大予定である。

3 税務窓口のスマート化

 国税庁では、これまで、コンビニ納付やダイレクト納付、クレジットカード納付といったさまざまな納付手段を導入してきた。
 最近新たに実施した取組としては、平成31年1月に導入した、QRコードを利用したコンビニ納付がある。これは、自宅などで、国税庁ホームページ上で提供する確定申告書の作成システムで申告書を作成した際、あるいは、国税庁ホームページ上のQRコード作成専用画面から、納付に必要な情報をQRコードとして作成した際に、当該QRコードをプリントアウトし、それをコンビニに持ち込み、キオスク端末に読み取らせることで、レジでの納付ができるというものである。
 今後も、税務署や金融機関の窓口に赴くことなく、納税者の都合が良い時間に納税が可能な環境を構築するなど、納付手段の更なる多様化によるキャッシュレス化の推進に向け、情報技術の動向や納税者のニーズを踏まえながら検討を進める。

第3節 課税・徴収の効率化・高度化

1 調査・徴収事務が目指す将来イメージ

 スマート税務行政の柱の1つである「課税・徴収の効率化・高度化」の実現に向けては、情報の一元化を図りながら、データを積極的に活用できるシステム及び組織作りを進めていく。
 これまで国税庁では、個別のデータベースで管理していた情報を各種帳票に印刷した上で、表計算ソフト等に入力し、調査事務や滞納整理事務に活用していたため、事務が非効率となっていた。
 そこで、課税事績・徴収事績や資料情報に加えて、インターネットや他の行政機関からの情報収集などにより、保有する情報を充実させていくとともに、これらの電子データを、ICTツールを活用して多角的に分析・検討することにより、申告内容の自動チェックや調査必要度・資力判定の精緻化など、調査事務や滞納整理事務の効率化・高度化を図ることができると考えている。
 上記取組を通じて、国際的租税回避への対応、富裕層に対する適正課税の確保、大口・悪質事案への対応といった重点課題に的確に取り組んでいく。

2 データ活用による事務の効率化・高度化に向けた取組

 調査事務においては、これまでも申告情報や各種資料情報、民間情報機関や外国政府から入手する情報などを活用してきたが、さらに増加を続ける膨大な情報リソースを、BI・BAツール等3を用いて加工・分析をすることで、リスクが高いと想定される調査対象を抽出するなど、調査選定等の事務を効率化・高度化する取組を進めている。
 また、国税局に設置している納税コールセンターにおいては、より少ない架電によって多くの接触が得られるよう、接触効率を高める取組を行ったところである。
 具体的には、滞納者の規模・業種や、過去に架電した時間帯等により、応答予測モデルを構築し、応答予測に基づいてセンターで電話を架け、その後、予測のとおり応答があったかを分析・検証し、モデルを改善する、といったことを繰り返し行う取組を進めた。その結果、応答率が一定程度向上した。
 今後は、応答予測に関する作業を、全て自動化するためのシステム構築を図っていくこととしている。

3 情報収集の拡大のための取組例

(1) 共通報告基準(CRS)による非居住者金融口座情報の自動的情報交換
 外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、OECDは、非居住者の金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である共通報告基準(CRS)を策定・公表した。
 我が国も平成27年度税制改正により、国内に所在する金融機関から非居住者の金融口座に関する情報を国税庁に報告することを義務付ける制度を導入した。同制度は平成29年1月1日から施行されており、平成30年以降、毎年4月末までに国内に所在する金融機関から報告を受け、その年の9月末までに情報交換が行われる。
 CRSによる国際的な税務当局間の情報交換は、質・量両面において従来の情報交換と比べると強化されている。
 まず質的側面として、CRSでは利子・配当等の支払(フロー)情報に加えて口座残高(ストック)情報も対象となり、外国の税務当局から我が国に対し、義務的に提供される。
 次に、量的側面として、平成30年12月末時点において、100か国・地域以上の税務当局がCRSの実施を約束し、このうち90以上の国が実際に交換を開始している。
(2) CRS情報の活用イメージ・調査事例
 基本的な活用の方針としては、CRS情報に加え、国外送金等調書等の様々な情報と併せて分析し、海外取引・海外資産を的確に把握し、課税上の問題点が認められる場合は税務調査等を実施することにある。
 活用のイメージとしては、例えば、CRSで取得した海外口座残高情報を、死亡者情報や相続税申告書上の海外資産残高と比較したり、国外財産調書の海外口座残高と比較するなどにより、海外資産の申告漏れや、財産の記載漏れを的確に把握することが可能となる。
 なお、調査事例としては、CRS情報を端緒に海外預金のみならず、外国に所在していた不動産の申告漏れも把握することができた事案がある。このように、CRS情報は受領した情報そのもののみならず、その外国と何らかの経済的関係を有していたということが把握できるなど、海外への資産隠し等を検討する上で、非常に有益な情報であると考えられる。
(3) 情報照会手続の整備
 近年、暗号資産(仮想通貨)取引やインターネットを通じた業務請負の普及など、経済取引の多様化・国際化が進展する中、経済取引の健全な発展を図る観点からも、適正課税の確保が喫緊の課題となっている。
 そこで、令和元年度税制改正において、「事業者等への協力要請」と「事業者等への報告の求め」の2つの面から制度改正が行われた。
イ 事業者等への協力要請
 現在でも実務上行っている事業者等への任意の照会について、他の法律の例を踏まえ、税法上の根拠規定が整備された。これまで税法上の根拠規定がなかったことから、事業者が本人の同意なく情報提供した場合に個人情報保護法に抵触することを恐れ、顧客とトラブルになることを懸念する一部の事業者からは、協力が得ることができない状況があった。
 今回の改正により、税法上、国税当局が事業者に対して協力を求めることができることについて作用法上の根拠が得られ、以前まで先述した懸念を理由に協力を拒んできた事業者からの協力を得やすくなり、必要な情報を入手しやすくなると考えられる。ただし、罰則等の定めはない。
ロ 事業者等への報告の求め
 高額・悪質な無申告者を特定するため、法令要件を満たした場合に限り、氏名や住所等について照会を行うことができるようになった。この権限については拒否等に対する罰則が設けられたとともに不服申立等が認められた。
 このように、適切に事業者等へ情報を照会する仕組みを活用することにより、多様化する経済取引に対応していく。

4 複雑困難事案への対応(新しい経済取引への対応等)

 近時、暗号資産(仮想通貨)取引やシェアリングエコノミー等新分野の経済活動が広がりを見せている中、国内のみならず、国際的にも、適正課税の確保に向けた取組や制度的対応の必要性が課題として共通認識されている。
 国税庁では、こうした分野に対して、適正申告のための環境作りに努めるとともに、情報収集を拡充することで、課税上問題があると見込まれる納税者を的確に把握し、適正な課税の確保に向けて、行政指導も含めて対応を進めていくこととしている。
 適正申告のための環境作りについては、①国税庁ホームページを通じた情報発信、②納税者利便の向上、③仲介事業者や業界団体等を通じた適正申告の呼びかけに取り組んでいく。
 情報収集の拡充については、情報照会手続等の法的な枠組みを積極的に活用し、収集した情報については、データ活用等により、課税上問題があると見込まれる納税者を的確に把握することに活用している。
 その上で、自発的な適正申告の履行を呼びかける必要のある納税者に対しては行政指導を、大口・悪質な申告漏れ等が見込まれる納税者に対しては厳正な調査を実施していく。

5 将来像実現に向けた情報システム高度化の取組

 国税庁は、スマート税務行政の2本柱である「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」の実現に向けて、ICT技術の動向を踏まえた新たな機能の導入とシステム構造の最適化による情報システムの高度化を目指している。
 例えば、マイナポータル等を活用した利便性の向上については、外部機関との情報連携の充実などを前提に、申告時期の案内や制度改正のポイント等、納税者のニーズに沿った、タイムリーな情報配信を実現することや、生命保険料控除証明書など、申告に必要なデータを納税者がパソコンなどから一元的に確認の上、申告手続に活用できるような仕組みなど、納税者の利便性の向上に向けた検討を進めている。
 また、必要データの拡充については、現在、納税者が確定申告などに添付書類として提出している書類のうち、行政機関等から取得しているものについては、これらの関係機関とのデータ連携を行うことができれば、添付書類の提出を省略することが可能となり、納税者の利便性向上が図られる。また、税務当局としても、従来、書面で提出を受けていた情報をデータで入手できることにより、事務処理の効率化、保管コストの削減といったメリットがある。さらに、外国税務当局からの金融口座情報の入手など、データの拡充を通じて、適正な課税・徴収の実現に取り組んでいく。
 このほか、ICTやAI等を活用して、事務処理の効率化・高度化を図り、スマート税務行政を目指すこととしている。

脚注

  • 1 「デジタル・ガバメント」とは、国民・事業者の利便性向上に重点を置き、行政の在り方そのものをデジタル前提で見直す政府全体の取組のこと。
  • 2 「オンライン・ワンストップ化」とは、一つのオンライン申請等の窓口から複数の手続・サービスを一括して受け付け、申請等がデジタルのみで完結されるようにすることを指す。
  • 3 BI(Business Intelligence)ツールとは、「大量のデータを分析・可視化し、迅速な意思決定を補助するツール」のこと。
     BA(Business Analytics)ツールとは、「統計学や機械学習等の技術を用いてデータ分析を行うツール」のこと。