村座長
 それでは引き続きまして、神戸大学の川畑先生でいらっしゃいますが、今発達科学部の教授をなさっています。お話しいただくテーマは青少年の危険行動の形成要因、お酒とメディアのかかわりでお話しをいただきます。
 川畑先生、大体今の第1のセッションと同じようなことで、時間繰りをお願いいたします。

畑先生
 普段90分で話している内容を15分で話さないといけませんので、もう頭が痛いんですけれども、私の生まれはしょうちゅうとたばこで有名な鹿児島で、たばこの話は昔からしておりますけれども、酒の話までするとなるといよいよ鹿児島に帰れなくなるのではないかというふうに思っております。昔は神戸大学教育学部でしたが、今は神戸大学発達科学部で、喫煙防止教育の研究を始め、特に青少年の健康教育について研究しております。いろいろな危険行動というものは、基本的には同じメカニズムで起こりますし、同じ基本的な原理で健康教育はやれると思っていますので、多少喫煙の話が出てくるかと思いますけれども、それについては共通の考え方に則ってやられているということで御理解いただければと思います。何しろ時間がありませんので、最初に要約だけ全部述べまして、時間が来ましたらおしまいということにさせていただきたいと思います。
 まずは、飲酒は我が国の青少年が最も頻繁にとる危険行動の一つであるということです。
 次に、早期からの飲酒は強い依存を引き起こし、短期及び長期の健康問題を生じるだけでなく、喫煙や薬物乱用のリスクを高める。そして、他の危険行動のリスクを高めるということです。ですから、飲酒の開始をできるだけ遅らせるということは非常に大きな意味を持っているだろうと理解しております。
 3つ目ですけれども、たばこや酒類の宣伝・広告は、喫煙や飲酒の危険性に対する意識を低下させ、喫煙や飲酒に対する肯定的イメージを形成するといったことから、青少年の態度に大きな影響力を持っているだろうと思っております。ちなみに自動販売機だと、態度というよりは入手のしやすさが問題になるという違いがございます。だから、喫煙行動や飲酒行動は、幾つかのステップ、プロセスを経て、習慣が形成されていきます。ですから、どの段階でどういったものが影響をしているかということを分析した上で対策を考えないといけないということです。
 それから4つ目ですけれども、たばこや酒類の宣伝・広告を含む社会的要因、これは周囲の人たちの行動とか態度といったものを含みますけれども、特に価値観等の確立の過程にある、逆に言いますと、非常に不安定な時期にある青少年に対して非常に大きな影響を与えるということです。
 それからもう一つ、人の行動というのは一般に社会的要因を含む環境要因と、それから個人的要因によるということです。個人的要因については、先ほど林先生もお話しになったかと思いますが、例えば社会、あるいは大人に対する規範意識が違うというようなことです。特に最近の研究では、セルフエスティーム、自尊心、あるいはライフスキル、心理社会能力、こういった能力の低い青少年が特に社会的要因の影響を受けやすい。あるいは逆に、みずから進んで危険行動をとる場合があるといったことが分かってきております。
 ですから、現在の健康教育は、基本的な要素が3つあります。
 1つは科学的に妥当な情報です。しかもできるだけ子供たちにとって身近な情報を与える。昔の健康教育というのは、よくおどし教育といわれました。動物実験の悲惨な結果を見せるわけですが、そうした悲惨な結果というのはめったに起こらないわけです。そういう余りにも現実とかけ離れたメッセージを送ると、かえって逆効果になる。特に社会、大人の規範意識とかけ離れた青少年には反発心を非常に引き起こし易く、私たちの期待とは逆の結果になるということです。ですから、科学的なメッセージを与えるということ。それから、青少年にとって身近なメッセージであるということ。それから、決して誇張しないということが非常に大事だと思います。
 それから2つ目の要素としては、社会的要因を初めとするいろいろな内的、外的要因の影響を受けているということに気づかせるということです。そして、そうした要因に対処する能力を育てるということが挙げられます。
 それから3つ目に、そうした社会的要因の影響を受けやすい個人的な特性、特にライフスキルといったものを育てるということです。そういう意味では、はっきり言って、高校生になってはもう遅いんです。極めて低い自尊心が固定化されているといったことになりますので、できれば小学校や、家庭教育の段階からこうした能力を育てることは必要だという考え方になってきております。
 それから最後ですけれども、これはヘルスプロモーションの考え方です。これは、今、厚生労働省、あるいは文部科学省の方でも取り入れられておりますけれども、これまでの健康づくりというのは、余りにも個人の責任を強調し過ぎたのではないかという考えに基づいております。今申しましたように、人がとる行動というのは、必ずしも個人的要因だけではなくて、社会的要因、あるいは環境要因というのが非常に大きな影響力を与えます。そうしますと、そうした社会的要因、あるいは環境的要因を、できるだけ人々が健康的な行動をとりやすいようなものに変えるという社会的責任が一方にあるでしょう。この個人的責任と社会的責任のバランスをとるということが非常に大事だと思われます。一時、個人的責任を強調した余り、今度は逆に社会的責任を強調し過ぎるという時代がありましたけれども、現在はそのバランスが重要であるという考え方になってきています。このヘルスプロモーションの考え方というのは、個別のいろいろな問題を考える上でも、全体的な問題を考える上でも基本となる考え方だろうと思います。
 青少年の6つの危険行動を、アメリカのCDC、これはエイズウイルスを見つけたところですが、6つ挙げております。まずは、故意または不慮の事故に関する行動、つまり自殺、他殺、あるいは交通事故といったもので、青少年の死亡原因の3分の2から4分の3が占められているということです。次に、喫煙。それから飲酒及び薬物乱用。これらはすべて依存性を生じます。2番目、3番目は薬物です。それから、危険な性行動。それから不健康な食生活、運動不足です。この6つが特に青少年の、現在あるいは将来の健康にとって危険な行動であるとみなされています。
 そして、ここに注目すべき点が2つあります。1つ目に、これらの危険行動は青少年期に形成される、つまり多くの場合は10代のうちに形成されてしまうということです。ですから、特に早くに喫煙、飲酒、薬物乱用を始めた子供ほど依存性が強くなってやめにくい、あるいはいろいろな健康問題が出てくるということで、できるだけこうした危険行動を、本当は生涯、とって欲しくないわけですけれども、しかし遅らせるだけでも意味があるということです。
 それから2つ目、これがまた非常に重要なポイントですけれども、これらの危険行動は相互に関連性が強いということです。例えばアメリカで、プロジェクトノースランドという飲酒防止教育のプロジェクトがありますけども、それに関する論文の中で15歳前に飲酒を開始した子供は、もちろんアルコール依存になりやすいということもありますけども、飲酒が絡んだ暴力、あるいは自殺、それから飲酒運転、危険な性行動、あるいは他の薬物の乱用といったことを非常に起こしやすいということが分かっています。この6つの危険行動のうち、飲酒は4つと直接あるいは間接的な関係があるということで、危険行動の中でも非常に大きな問題となっているということです。
 早期からの飲酒は特に危険だということを、お話ししましたけれども、では、日本の子供たちの現状はどうなっているかということです。これについては以前にも委員の方がお話しされたことがあるかと思いますけれども、レジュメの方に3つの薬物乱用の生涯経験率、男子と女子の喫煙率、それから男子と女子の飲酒率を挙げました。この3つを見比べていただきますと、子供たちが最もよくとっている行動は飲酒であります。しかもこれは明らかに、社会的な見方の厳しさと比例しています。つまり、上に行けば行くほど社会的な寛容度が高いということですね。世の中の態度、大人、社会に対する社会の態度が非常に甘いということです。小学校5年生、6年生でも10%が、ここ1カ月間に飲酒をしているというふうに答えています。そして、たばこもそうですけれども、性差が少なくなってきています。これは諸外国でも見られるんですけれども、男性の喫煙率、飲酒率はだんだん下がっていきます。ところが女性の喫煙率、飲酒率というのは横ばいか、あるいは上がっていくわけです。こうして性差がなくなって、欧米では既にもう女性の喫煙率の方が高いですね。これは明らかに、若い女性が販売のターゲットになっているということであろうと思います。また、たばこや酒はよく「入門ドラッグ」、「入門薬物」、「ゲートウェイドラッグ」と言われます。レジュメにも日本の高校生について調べた例を載せております。ここ1カ月間に喫煙も飲酒もしないグループの生涯薬物乱用経験率はほとんどゼロに近いです。ところが、この喫煙も飲酒もここ1カ月間にしたというグループでは、男子の9%、女子の13%が、これまでにシンナー、覚せい剤等の薬物を経験したことがあるということです。大体日本の高校生の生涯薬物経験率の平均が2%から3%ですから、この数字は非常に高い。しかも女子の場合はたばこを吸っただけのグループでも、薬物乱用経験率が7%と非常に高いということです。たばこ、アルコール、こういったものが他の違法薬物の入り口になっているということは欧米では既に分かっていることですけれども、日本でもこうしたデータが積み重なってきているところです。
 そして、一般的には、子供たちの行動に影響を与える要因を個人的要因と環境要因、環境要因の中でも特に社会的要因と呼ばれるものに分けることができます。子供たちを取り巻く周囲の人たち、年齢が小さいうちは両親、年齢が進むにつれて友人の影響が大きくなっていきます。それからマスメディア、これは宣伝・広告といったものもありますし、ドラマとか映画に登場するタレントさんがたばことか酒を使ったりするといったことも影響力を及ぼします。日本では残念ながら多くの大人が酒を飲んでいますし、また酒に対して非常に寛大だということが問題です。
 それから、マスメディアも酒の宣伝・広告をやっていますけれども、特にドラマなんかでも日常的にたばこを吸っています。私は「白い巨塔」というドラマの財前教授が好きで、学生からもよく似ているというふうに言われますけれども、このドラマでもたばこを吸うシーンがよく出てきます。昔のNHKの郷ひろみが医者役のドラマでも、たばこを吸うシーンが頻繁に出てきました。ああいったものは、飲酒とか喫煙に対する危険性の意識を明らかに低下させる効果があると思います。それから、よく言われていることですけれども、昔ありましたスーパーマンの映画では、たばこ会社の屋外広告が非常に多く出てきます。この映画はマールボーロの会社がスポンサーをしているんです。こういうふうに間接的、直接的な影響が非常にあるということです。残念ながら私たちは普段はそのことに気が付きません。気が付かないからこそ逆に怖いということが言えるわけです。もう持ち時間はほとんどなくなってきましたけれども、マスメディアの影響ということについてお話しいたします。
 皆さん方、これは何の商品か分かりますか。大学の授業でよくこういうふうに、商品を隠しておいて何の広告か考えさせるんです。これは明らかに女性をターゲットにしていますよね。若い女性タレントさんを使っている。それから女性が弱い、男も弱いですけれども、おまけがついています。それからキャッチフレーズの「ONもOFFも私スタイルで行く」というのはどういう意味か分かりますか。分からない方はこの広告の対象外だと思って間違いないですけれども。結局、ONというのは仕事のときですよね。OFFのときというのはプライベートなときです。仕事のときもプライベートのときも私たちは個性を持った生き方をしているといったことをアピールしています。この広告の女性は、非常に活発な、活動的な女性で、携帯電話で話しをしながら歩いています。余りにも動きが早いもんですから、プロのカメラマンでもシャッターチャンスを逃したという意味を持たすために、わざとピンぼけになっています。これはJTのたばこの広告です。これは、よっぽどの通の人しか当たりません。私がこれを問題にしたのは、故意にたばこの広告と人間的な魅力といったものを結びつけるということは明らかにルール違反であり、こういったたぐいの広告というのはやはり社会的にいうと非常に問題があると考えているからです。ですから、広告をする際のポイントの1つは、人間的な特性の魅力と商品等、つまりたばこや酒の商品のイメージとを結びつけないということでしょう。これは守るべきルールの1つであろうと思います。
 それから、これは新橋駅で数カ月前に撮ったバージニアスリムの広告です。フレッシュシーズン、リフレッシュセンスと書いてありますが、何のことか全然分かりませんね。これなんかだと、ロゴがなければファッションの宣伝と見間違うのではないかと思うんですね。
 それから、私が4月にオーストラリアに行ったとき、たまたまテレビを見ましたらF1のレースを放送していました。そうしたらこの車の前後にマールボーロのロゴがついているんですね。そして、このロゴをほとんどずっと写している。つまり、直接的にはたばこの宣伝広告ではありませんけれども、たばこ会社が抜け道を見つけてうまくマールボーロの宣伝をしている。恐らく、F1レースの強さとかそういったものと、マールボーロのイメージとを結びつけようとしているテクニックの1つだろうと思います。
 それから、ワインの未来が変わる、ちょっとライトな大事件です。これは、山手線の中で見つけた車内広告です。そして、その次のものは、2、3日後に関西で出た同じようなものです。これも明らかに女性をターゲットにして、値段が500円であり若い人にも非常に入手しやすいといった内容のものです。こういった宣伝広告が、女性の飲酒行動、喫煙行動を促進しているということはまず間違いないことだと思います。
 そして、先日メルボルンで世界健康教育ヘルスプロモーション会議というのが開かれまして、そのときたまたま出会ったアメリカの方から、Center on Alcohol Marketing and Youthというホームページがあり、非常に参考になるから御覧なさいというふうに言われて、日本に帰ってきて開いたものです。アルコールの販売活動が若者にどういう影響を与えるかということに関して、ワシントンDC等の大学の中にそういうセンターが設置されていまして、いろいろな情報を集めていますけれども、マスメディアと青少年の行動との関係についての研究というのは非常に難しいんです。というのは、コントロールスタディーができないという限界があるからです。例えば、若者の中で、一番人気のある広告は何かとか、第2位がバドワイザーであるとか、あるいは若者が一番よく知っている酒、たばこの銘柄は、一番宣伝広告がされている銘柄であるとか、そういう間接的な証拠はあるんですけれども、直接的な証拠というのはなかなか集めることができません。ですから、日本でもそういった研究というのは非常に少ないだろうと思います。そういう限界があるということだけは御承知いただきたいと思います。
 それから、これは広告分析の授業の様子です。小学校の高学年の者に対して広告分析の授業をやっています。この授業の目的というのは、クリティカルシンキング、つまり情報を客観的に分析し、合理的に判断する能力を形成するということです。そして、消費者を説得するためのいろいろなテクニックが使われているということを認識し、たばこや酒の広告がイメージ広告と呼ばれているけれども、どういったイメージを自分たちに伝えようとしているかを見抜く。それから、伝えようとするイメージに対して、これまでに学習したこと、経験的に知っていることに基づいて判断をするというものです。そういうことで、私たちのプログラムでは、先ほどの御意見にもあったと思いますが、例えばたばこや酒の広告についている注意表示を、同世代の仲間に対してもっとアピールするような警告文、注意表示に切りかえるということを最後のまとめにしています。自分たちの仲間にもっとアピールする。国のレベルでできること、あるいはその個々の教育のレベルでできること、すべきこと、これは分けて考えたらいいのではないかというふうに考えています。全部が全部法律でやってしまうと、逆に何をやっているのか分からないことになってしまいます。例えば、注意表示とか危険表示は若者に対して直接的な効果がなくても、社会のそういった問題に対する意識を高めるといったことに対しては非常に大きな役割を果たすだろうと考えています。
 それから最後に、ライフスキル、心の能力の形成に焦点を当てた健康教育が重要です。危険行動をとる子供の特性として、例えば反抗心、それから低い自己抗力感、あるいは飲酒の誘引、そういったものに対する低い抵抗能力があります。そうした低い抵抗能力の1つに自尊心の問題だとか、あるいは意思決定能力、目標設定能力、ストレスに対処する能力、あるいはコミュニケーションスキル、こういったのを心理社会的能力というふうに言いますけども、こうした自尊心を始めとするライフスキルの劣った子供たちが、こうした社会的要因の影響を非常に強く受ける。例えば、思春期の子供にとって友人から受け入れられるということは、自尊心の非常に大きなウエートを占めます。しかし逆に、自尊心の低い子供にとっては、友人からたばこや酒を勧められたときに、それを断ったら自分がこのグループの中で受け入れてもらえないという恐れが先に立つわけです。ところが、自尊心の高い子供は全部が全部同じである必要はないという考え方ができます。ですから、高校生にそういった物の考え方を教えようとしても、これはもう、なかなかできないんです。既に低い自尊心の現れとして、低い自尊心の子供たちがとる行動というのはパターン化されてしまっています。そういった子供たちを変えようということは非常に大きな努力を要します。ですから、環境要因、社会要因に対するこうした強靭性とか言われるものを小さいころから作っていくということが必要だと考えております。
 ライフスキルの定義というのはいろいろあります。例えばWHOでは、日常生活の中で生じる様々な問題や要求に対して建設的かつ効果的に対処するために必要な心理社会的能力と定義しています。また、今の学校教育で言いますと、生きる力という概念に非常に近い考え方であろうと思います。これは赤が高校生の喫煙者、飲酒者、それから薬物乱用経験者ですけれども、危険行動をとらない子供と比較しまして、特に家族に関する自尊心のレベルが低いことが分かります。自分が家族の一員でよかったとか、あるいは自分が家族に愛されている、受け入れられているという感覚を作ることは、特に自尊心を育てる要素としては大事なことだというふうに考えております。
 文科省の方でこの4月に、喫煙、飲酒、薬物乱用防止に関する指導参考資料というものが改定されました。ここではこうした考え方を踏まえて、ただ単に知識を与えて子供たちの飲酒を防止しようとしてももはや有効ではないという考え方に則ってプログラムが作られています。学校の先生方にも、ただこういう手引書を与えるだけではなくて、実際に広告分析はどういうふうにやったらいいか示さなければなりません。それから、これは大阪での研修会ですけど、決してカラオケでのマイクの取り合いをやっているわけではなく、たばこや酒を勧められたときにどう断るかということを実演しています。
 最後に、健康日本21についてです。これは、左が従来の健康作りの考え方で、右が健康日本21のヘルスプロモーションに則った考え方です。これまでの健康作りというのは、若者に知識や技術を無理やり提供して、健康的な行動を採らせようという、専門家が一般の人に押しつけていくような考え方です。しかし、周りの大人、例えば地域社会の人々とかが、飲酒に対して非常に甘い考え方を持っている中では健康的な行動はなかなか採りにくいだろうと思われます。飲酒に対するもっと厳しい見方をすることは必要でしょう。それから、環境に問題があったら、やはり健康作りというのはなかなかうまくいかないので、健康を支援する環境作りをするということが大切です。自動販売機を制限したり規制したり、たばこ、あるいは酒の宣伝広告を少なくしたり、そういったことによって若者や子供たちがもっと健康的な行動を採り易くする。そういう環境作りをするということと個人的責任と社会的責任のよいバランスを取るということが、これから私たちが目指すべき健康作りであり、あるいは危険な飲酒行動の防止のための様々な取組であろうと考えております。
 少し時間をオーバーしましたけれども、これでおしまいにさせていただきます。どうもありがとうございました。

村座長
 どうもありがとうございました。
 それでは10分間ぐらいを目途に、御議論を重ねていただきたいと思いますが、始めに2、3質問を重ねていただいて、その後それらの質問に対し一緒にお答えいただくという手順にしたいと思います。どうぞ御自由に御検討ください。
 広告分析の授業の絵がありましたが、これは現実にどこかの小学校で行われているのですか。

畑先生
 これは福岡の小学校ですね。

村座長
 普通の授業の中に入ってきているわけですか。

畑先生
 例えば、今総合的な学習の時間といったものがありますし、ここの学校の場合は体育の授業でやられたのだろうと思います。以前は教科では行うことができませんでしたけれども、今回の学習指導要領から小学校でも喫煙、飲酒、薬物乱用防止教育について指導するということが明記されましたので、今度からは義務になっているということです。

村座長
 ありがとうございました。
 あと、いかがでしょうか。どうぞ。

嶼氏
 川畑先生には大変よいお話を伺わせていただきましてありがとうございました。学ばせていただくことがたくさんありました。先生のお話から、ターゲットになるハイリスク群は、15歳未満で飲酒を始め、しかもセルフエスティームや社会的な心理能力の低い人たちであると感じたのですが、実はこの方たちというのは一番介入しづらい方でもありますね。そこで、どうやって介入するのかということになると、国のレベルでの介入は、恐らく広告の規制云々というふうなことになるような気がいたします。また都道府県、市町村レベルでの介入となるとコミュニティといいますか、市町村による地域レベルの介入が有効だとお考えになっていらっしゃるのではないかと思いました。しかし、そのハイリスク群は、地域レベル、あるいはコミュニティレベルにおいて一番阻害されやすい、あるいは自分たちは別の世界で生きているんだというような意識を持つ集団でもあるような気がするんです。そうなると、ハイリスク群に対する介入の方法というのは一体どの辺でするのが有効か、結局、分からなくなってしまうのですが、先生はどういうふうにお考えになっていらっしゃるのかお聞きしたいと思います。

畑先生
 いろいろな危険行動の最初は、家にいなくなることから始まるんです。夜間徘徊とか、そういったことです。つまり、そういった子供たちというのは家がおもしろくないわけです。そうすると家の外に出て行きます。そこで自分たちと同じような意識、価値観を持っている子供たちと集まります。
 私は最近できた学校評議員というものを、昔PTA会長をやっていた小学校でやっているのですが、そこで何回か、校長先生や教頭先生とお話しをすることがあります。そのときに教頭先生から、「夜になると小学校の校庭で若者がたむろして、遊んだり、いろいろなことをしている。彼らは結局居場所がないんだ。どこからもつまはじきにされて、そして仲間で変なところへ集まって危険な行動をする。学校では今いろいろな問題が起こって、学校を開放するということについては疑問が出されたりするが、そういう子供たちが居られる場所として学校で活動をするということを公的に認めたらどうだ」というお話をうかがいました。恐らく彼らに飲酒の危険性とか、そういったことを手を変え品を変えて話しても、聞く耳を持たないだろうと思います。恐らく子供たちはそういう公的な機関が作った規則が厳しい施設の中で過ごすことは余り好まないだろうと思いますが、ただ、彼らが集団としてより危険な行動をやるような機会をできるだけ少なくして、ある程度の規則性と言いますか、監督者がいるということは大事だろうとは思うんですけれども、彼らが安心して家庭以外の場所、つまりできるだけ自由な場所、できるだけ自由な活動を安心してできるような場所を提供してあげる。実際に幾つかの都道府県、自治体ではそうした場所を作っているということを本で読んだりもしています。例えばそこにはいろいろな世代の子供たちが集まりますよね。そういう中で上の子供は下の子供の面倒を見るとか、そういった社会的な責任を持ち、先ほどピアリーダーの話も出てきたと思いますが、自分が頼られる存在であると、やはり低い自尊心が少しずつ高まっていくようなこともありますし、小さな子供は大きな年長のお兄さん、お姉さんにいろんなルールを教えてもらう。恐らく学校教育から踏み外れた子供たちにはそういった子供たちに対する対応の仕方があるだろうと思います。私は学校教育の中でこういう健康教育でカバーできるのは、恐らく中程度のリスクの子供たちであり、それを外れた、一番危険性の高いハイリスクのグループにはやはり違ったニーズとか、価値観を持っていると思います。ですから、そういう一番リスクの高い子供たちには、普通の学校教育とは違った考え方、やり方でアプローチすることが必要でしょう。1つ可能性としては今申し上げたような居場所作りというのがあるのではないかと考えています。解決策があるわけではありませんから、今のところ試行錯誤でやっていくしかないことですけれども。

村座長
 そのほか、いかがでしょうか。御船先生。

船氏
 興味深いお話、どうもありがとうございました。1点だけですが、広告はすごく有効だとは思うのですけれども、むしろドラマの問題性はすごく高いのではないでしょうか。広告を見るときには広告されているということを身構えて見るわけですが、ドラマというのは割合その身構えが少ない。例えば1人暮らしで、どのぐらいの収入があるのかと疑問を持つぐらいの非常に立派な高級マンションに住んでいて、冷蔵庫の中にビールやワインやチーズがあって、それを飲んでいるという場面が非常に多い。そうすると格好いいという印象が残ってくる。それをもう少し進めていくと、そういうドラマにはお酒とかたばこが出るシーンが何回かあって、それが最近は非常に多くなっているということを聞くわけですが、それは規制ができない文化活動といった形で認識されているので、なかなか規制は無理ということになると、その対抗力としてはやはりドラマがどういうふうに自分に影響してくるかという高度な教育が必要になってくるということで、非常に難しいというふうに思っているのですが、規制や問題も含めて、その辺の問題をどういうふうに乗り越えるのでしょうか。

畑先生
 オーストラリアに行って感じたことですが、1つはたばこ、酒類の自動販売機はほとんどと言って良いほどありません。それから、テレビを見ますけれども、酒類の広告というのはビール以外はほとんど見たことないです。それからドラマでも、飲酒をしたり喫煙をしたりするシーンというのはほとんど見ません。アメリカとかそういった国々では、ケーブルテレビ等の方が普及していて、そちらの方は調べていませんけれども、普通のテレビではそういうことはしていません。ですからやはり、できないことではないと思うのです。例えば宣伝でも、いわゆるスピリッツの宣伝はテレビではしないといったルール作りというのはできると思うのです。それから、ドラマのシーンについてですが、シンガポールでも、若者の喫煙が非常に問題になっています。ところがシンガポールではテレビでのたばこの宣伝は禁止されています。ではどうして若者が喫煙をするのかと考えると、アメリカから映画がたくさん入ってきて、その中で喫煙シーンがたくさん出てくる。それが若者には格好いいと思われ、若者に非常に好ましくない影響を与えているのだと思われます。
 ですから、先生が今言われましたように、恐らくテレビでの直接的なたばこ、酒の宣伝というのは少なくなっていくでしょう。たばこの宣伝はほとんどできなくなるだろうと思っておりますが、しかし先ほど言いましたようなドラマの中だとか、あるいはスポーツイベントと結びつけた宣伝広告というのは、巧みに残っていくだろうと思います。もちろん私たちの健康教育の分野でも、今までは宣伝広告を分析するようなことを中心にやってきましたけれども、今度はそうではなくて、隠れた広告宣伝といったものに対する教育をしていかなくてはいけないでしょう。しかし、これは小学校では難しいでしょう。中学校、高校といった発達段階が上にならないとこういった隠れたメッセージを見るということは非常に難しくなる。ただ、欧米では、表に出たメッセージだけではなくて、こうした隠れたメッセージということに対する批判的な分析に関する学習活動にも以前から非常に力を入れてきました。日本では宣伝広告が非常に多かったので、そちらの方の健康教育、学習活動を中心にやってきましたけれども、先生が言われたように、これからそちらの方にも目を向けないといけません。先生も同じようなお考えなのかもしれませんけれども、やはり絶対的な量というのを少なくしていく。例えば酒、たばことは離れますけれども、若い女性が見る雑誌の中には非常にスリムな女性、非現実的な女性というのがたくさん出てきます。そういったものが女性のスリム志向を非常に刺激して、一方でたばこを吸うとやせられるという広告のメッセージがあります。そうすると、やはり、若い女性の喫煙率に何らかのインパクトを与えることは間違いない。だから、社会的対策と教育の両方をやっていかないといけないというふうに考えます。

村座長
 それでは時間の制約がございますので、これで第2のセッションを終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

畑先生
 ありがとうございました。

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