田中氏
 今、寺沢先生のお話を聞きながら思い出していたのですけれども、酒自身の市場の変化というか、流通の変化もありますけれども、やはり環境が変わってきたということと関係するのですけれども、環境というより時代の変化と言ったらいいのか、ちょうど今ずっとバブル以降不景気になってきて、そしてその仕事を失うと。ジョブレスの人が増えて、リストラなんで。そういうときにやはり昼から酒を飲むという傾向も強くなってくると思うのですね。というのは、かつてイギリスに私が留学したときもそうで、ちょうどイギリスがイギリス病と言われていた時代でして、だんだんジョブレスの人がふえて、そして昼からお酒を家の中で飲むと、ストレスがあるものですからやはりちょっと飲んでのんびりしていると家族からあなたはアル中ではないか、昼から飲んでみたいな形でコミュニティーでもどうも酒のにおいをしながら町を昼から歩いていると、あの人はどういうものだという形で、それでだんだん、家庭からも追い出されてホームレスになって、そして地域の中でドロップアウトしていく。そういう問題がかなり大きく起こってきまして、ちょうど今の状況がだんだんそういうふうな、実態的にどのぐらいあるかどうかわからないけれども、そういう点非常に心配になるような気がするのです。好景気のとき、職場があるときに、仕事があるときは昼酒飲んでもビジネスランチでも、あるいは少々あいつは飲み過ぎたとか、二日酔いになっても会社でカバーしてきたし、仕事がありますから多少酒におぼれても会社が面倒見てきたと思うのですけれども、今は会社が面倒見ないわけですよね、そういう人間を。そういう不景気のときというのは、やはりある程度未成年者よりもむしろそういう会社を追われたジョブレスの人たちがお酒に走っていったりする、そういうところからだんだんホームレスになっていくと。そういう過程というのがかなり感じられるのですね。そういうところは気をつけていただく必要があるかなと。というのはこれは別な調査でしたけれども、定年退職をした人がどういう過ごし方をするのかを調べてみたのですね。やはり定年退職してのんびりして、家で昼ビール飲んで寝ていると、お嫁さんから何か怠け者がいるみたいなことを言われてしまって、自分のお金で自分が人生を終わったのに、何か悪いことをしているみたいに周りから見られてしまう。そういうふうなことがありまして、だから、やはりましてや仕事を失った人がお酒を飲むということに対して批判が厳しくなります。それをどういうふうにカバーしていくかということからもある程度のやはり社会的な売り方の問題とか、教育の問題も考えて、私は未成年者よりもむしろそちらの方が大変な精神的なサラリーマンのストレスにつながる部分があるのではないかなと思います。健康とですね。

本間氏
 ここで論議をなさっていらっしゃることに該当するのかどうか、私定かでないのですが、消費者の立場として過当競争ということを置きかえて考えますと、それが市場原理なのかどうか知りませんけれども、余りにも各社が売らんかなの体制になっていまして、その辺が不透明性に何かかかわっているのではないかと思うのです。例えば、どこかの会社でこういうタイプのものを売り出して、それが大変売れた。そうすると、それはその会社のマークであり、誇りであり、何かであるはずなんですが、売れたとなると同じ柳の下のドジョウをねらうように、一斉に各社が同じタイプのものを売り出すのですね。そうすると嗜好性にも関係してきまして、これまではここと思ってある節度を持って飲んでいたものが、何が何だかわからなくなったということが生じないでしょうか。私はその辺は、それを言ってはおしまいよ、みたいなところがあるかもしれません。けれども、非常に気になります。消費者としての選択眼を迷わせるものがあるのではないかと。
 それから、もう一つ、やはり最大公約数的にあらわせる酒のすぐれた売り方というのはまだまだ論議の余地はあるのではないか、すぐれた売り方ですね。ここで皆様の知恵を結集していただいて、何かもう少し今よりはよりよい売り方のパターンがあるのではないかというふうに考えるのです。
 それから、日本ではこれだけいろいろ出ていますけれども、例えば外国のお酒が食前酒、食後酒というふうに分かれているような種類の差というのは日本酒に関してはない。当然、百薬の長と言われるのならば消化を助けるディジェスティフの酒があってもいいし、老後の酒というのがあってもいいと思うのですけれども、その辺の多様性というのは一向に出てこないという、私、消費者としての考え方なんですが。
 もう一つですが、流通の問題はこの業種では例えば狂牛病以降いろいろ農水省その他の関係では論議されたような、流通の問題というのは問題はないのでしょうか。むしろ余りにも自由に規制がなくて、日本国中どこに酒を送ることもできる。アメリカから考えると余りにも自由のように思うのですが、そうではないのでしょうか。やはり系列で分かれているということでしょうか。

奥村座長
 いろいろなご意見が出ていまして、ちょっと交通整理をさせていただきます。今の本間先生のご質問のところで、事務局の方から何かご回答いただけるところがありますか。

戸田酒税課長
 まず、1番のご質問、つまりメーカーの過当競争が消費者の選択を誤らせるようなことにつながらないだろうか、というご質問でございますが、確かにその面はあるのではなかろうかというふうに思います。わずか20年そこそこの話ですが、いわゆる目に訴えるような酒が出てきましたが、酎ハイやビールの製造コストは比較的低いものであります。従って、宣伝費、あるいは営業費に多大なコストがかけられており、もちろん税金ももちろんあることはあるのですけれども、そういった中でどのようなパッケージをつくるか、あるいはどういうふうにマーケットで消費者の感性に訴えるのかということは極めて重要な部分になったということでございます。そういった意味では消費者の選択も内容の品質によらない場合もあるというように思います。
 次に酒の多様性がなくなっているのかというふうなお尋ねでございましたが、もともと日本酒は食間酒と申しましょうか、物を食べながら飲むものでした。それがまずビールで乾杯ということになって、そういう点で日本酒に多様性が求められてきているということは確かであろうかというふうに思います。そういう点で現在日本酒業界におきましては、例えば発泡性の日本酒でございますとか、あるいはある程度アルコール度数の低い日本酒でございますとか、そういうものを開発はしてきておりますけれども、これは後の流通の問題にも結びつくのでございますが、それがある程度のロットを持ってマーケットで売りさばいていただかない限り開発費用ばかりかかってどうしようもないわけでございますから、そういった意味ではそれをどういうふうにして売っていくのかという問題があるのかなというふうに思います。
 最後の品質と流通の問題でありますが、かなり、いわゆるナショナルブランドとして国内に全般的に流通するものは、ご承知のとおりビールとそれから大手のチューハイ及び灘を初めとする大手の酒屋さんのパック酒でありますけれども、これらにつきましてはビールには大規模な卸がありまして、そこから下は地方の有力なお酒屋さんが特約店としてくっついていますものでございますから、そういった意味でその間の流通上の隘路みたいなものは今は存在しないような気がいたします。もちろんそこにさまざまなリベートという、流通上の不公正な取引という問題は存在するんでございますが、だからといってこの流通経路のために、例えば日にちが、随分経過してしまい品質が落ちてしまうとか、そういうことは恐らくないのではないかというふうに思います。

奥村座長
 まだ先ほどの井岸先生の件は、私がどこかへ棚上げしてしまったわけではありませんで、ペンディング事項で残していますので、後から小売への免許とか出てまいりますので、そこでまた少し比較して議論したいと思うんですが、ちょっといろいろお出しいただいているのをできるだけちょっとしゃれた言葉で言いますと、できるだけ産業組織論的に言って、学問的に整理していきたいと思いますので、今、メーカーがあって消費者が一方にいるんですが、その間に販売者が出てまいりまして、メーカーの方が何か情報を出して、情報の非対称性で消費者を惑わせてしまっている面があって、それがよくない結果につながっているときは、じゃあメーカーにそういう情報を出すなという立場で規制していくのか。いや、メーカーが情報を出すのはもう抑えようがないから、じゃあ小売段階で何かチャネルを細くするとか、あるいはチャネルを閉じてしまうとか、そういうので悪いことが起きるのを防ごうみたいなやり方が登場してくるんですけども、まず第一にチェックしておかなきゃいけないのはメーカーの出している情報が何か消費者を惑わせているのかどうか、消費者には正しく判断できないところをメーカーが非対称的な情報を出して、何か社会的によくないことが起きていると。そういうふうにとらえておくのは本当に正しいんだろうかというところで、パッケージの問題だとか広告宣伝費が莫大だとか、そういったところをちょっと詰めなきゃいけないことがあるんですけれども。どなたかこういったものに通じていらっしゃる方いらっしゃいますでしょうか。私自身は余りお酒飲まないんでよくわからないというのが正直なところなんですけれども。

神崎氏
 1つ、私はこの規制緩和が進みまして、料理屋とか居酒屋で自由に酒の売買ができるような、今でもそれは料理屋値段、居酒屋値段で売買をされているんですけれども、それを1つ期待しております。やっぱり酒は、今、戸田さんがおっしゃったように、非常にこの何年間で多様化しております。日本酒だけとってみても。それから、ご承知のように級別数が廃止になって本醸造、それから純米というような種類分けができておりますが、実はこれの飲み分けというのもほとんどお酒が好きな人に任せてあるんですね。それで、その区別も余り私は徹底して、まだ知識としては日本人全体で共有できていないと。ですから、それを今までちょっときざな、気取った居酒屋が、料理屋がレクチャーをしながら新しい種別を広めているわけですね。ですから、これがもう少し皆さんの知識として共有できれば私は期待がむしろできると。
 それで、もう一つの期待は、中間の問題は別としまして、小売業の人たちへさらに意識をどう持ってもらうかということが、もし行政的にでもあるいは第三セクターのいろいろな人たちのご意見も入れて啓蒙と言ったらおかしいんですが、小売業の若い人たちが、やりたい人がいると思いますから、つまり今のように小売業はスタンド式に立ち飲みしか多分許可されていないんです。小売店の店頭では試飲というのがですね。そうすると、やっぱりこれはコップ酒ぐいぐいあおるだけのまことに初歩的な飲み方しかそこへ出ないわけですが、小売業の若い人たちがこの酒にはこの肴をつけてぜひ飲んでほしいと。この酒はこういう特性があるんだから、どちらかというとこちらの肴をお勧めしますよという程度のアンテナショップ的なというか、それを何も小売業の店をやめて居酒屋をやれというんじゃないんですよ。私は立ち飲みのあのスタイルしか小売業ができないというのはもう一つ酒をうまく飲む、そういうことの大きな意味での啓蒙活動としては不足していると思いますから、小売業の店頭でどのように、口上を述べて売ることもないんですが、それでも教えてくださいという人に対してはそれが充足できるような体制というのがとられたらいかがかと思います。そうすると、メーカーの一方的な情報でなく、それをワンクッション置いて消費者に図るということができるんではないかと思います。

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