税金は、氷になって帰ってきた
― 研究から暮らしへ、命を守る循環 ―

広尾学園小石川中学校 3年 三浦 里佳子

今年の夏は酷暑だった。ランニング中、空気は熱を含み、照り返しが足を焼く。息は浅く、頭がぼんやりする。そんな時、手渡されたカチカチのパウチを握り、中身を一口。冷たさが喉から胃へすっと流れ、頭の霧が一気に晴れた― ―体の芯まで風が通ったようだった。
 それは、「アイススラリー。」微細な氷の粒を含む特別な飲料で、融解熱により深部体温を効率よく下げ、脳への熱ストレスを和らげ、集中力や持続力を支える。単なる冷水ではない、科学に裏付けられた冷たさだ。
 この技術は東京2020オリンピック・パラリンピックの暑熱対策として、日本スポーツ振興センター(JSC)が国立スポーツ科学センターと連携し、「ハイパフォーマンススポーツセンターの基盤整備」事業の中で磨かれた。2017年度から年間7~9億円規模の国費が投じられ、環境対策や用具開発、動作・ゲーム分析、栄養・心理支援など多岐に配分された。― ―アイススラリーは、そのメニューのほんの一端にすぎない。それでも本番では実際に活用され、熱ストレスの軽減と安全性の確保に貢献した。
 一見、遠い話に思える。しかし、大会後、この技術は商用化され、工事現場や配送業務、部活動、防災訓練へ。暑さや喉の渇きを感じにくい高齢者の対策として介護施設や地域イベントにも広がり、今夏の甲子園、全国高等学校野球選手権大会では、選手や審判に配布されたという。深部体温を平均0.5℃下げるだけの差が、過酷な現場では命を守る。
 税金→研究→アスリートの成果→技術の一般化→人々の安全― ―冷たいという印象のある税金が、温かい命の盾になる道筋だ。
 「税金が暮らしに戻る」循環は、スポーツ以外にもある。例えば、宇宙分野で培われた真空断熱の技術は、極限環境で鍛えられ、いまは保冷容器や医薬品のコールドチェーンに応用されている。宇宙の熱制御が、地上の「命を運ぶ」道具へ― ―税金で育った技術が静かに私たちを支えている。
 もし、これらの研究がなければ、今年の命を脅かすような猛暑、運動中の子ども、炎天下で働く人、高齢者の命のリスクはもっと高かっただろう。科学の力で救われた命は、いかなる金額にも換えられない価値を持つ。
 今日も、炎天下。私はアイススラリーの氷の粒を口に含む。ひんやりした冷たさが、胸の奥まで届く。それは、トップアスリートを支える最先端の研究が、税金という“見えない手”によって生み出され、やがて私の手にも届いた証だ。
 使い道を知れば、税金はただの数字ではなく、仕組みそのものになる。数字の向こうに人の顔が見えたとき、税金は約束になる。温かい未来へとつながる「血の通った税金」を育てる側に、いつか私も立ちたい。