1 災害にあった場合の税制上の取扱い

[Q1] 地震によって自宅等に被害を受けた場合、税の軽減や免除を受けることができる税制上の措置には、どのようなものがありますか。

[A]

1. 地震などの災害にあった場合の税制上の措置としては、 1申告・納付等の期限の延長、2所得税の全部又は一部の軽減、3相続税・贈与税の免除又は軽減、4納税の猶予などがあります。

2. 申告、納付等の期限の延長については、災害などの理由により、国税に関する申告・納付等をその期限までにすることができないと認められる場合には、所轄の税務署長等は、その理由のやんだ日から2か月以内に限り、申告・納付等の期限を延長することができるとされています(国税通則法第11条)。

3. 所得税の全部又は一部の軽減については、災害により、住宅や家財などに被害を受けたときは、1所得税法に定める雑損控除の方法、2災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(以下「災害減免法」といいます。)に定める税金の軽減免除による方法のどちらか有利な方法で、所得税の全部又は一部の軽減を受けられる場合があります(所得税法第72条、災害減免法第2条)。

4. 相続又は贈与により取得した財産について、災害により被害を受けたときは、相続税・贈与税の免除又は軽減を受けられる場合があります(災害減免法第4条、第6条)。

5. 納税の猶予については、災害により、財産に相当の損失を受けた納税者や国税を一時に納付することが困難な納税者について、税務署長に申請し、その承認を受けることにより、原則として1年以内の期間に限り、国税の全部又は一部についての納税の猶予を受けることができます(国税通則法第46条)。

2 申告・納付等の期限延長の手続き

[地域指定による期限延長]

[Q2-1] 今般の熊本地震災害により、熊本県下について、国税庁長官による地域指定が行われたと聞きました。この地域指定された地域に納税地がある個人又は法人は、税務署に何か手続きをしなければならないのでしょうか。〔平成28年10月17日更新〕

[A]
 熊本地震災害における地域指定による期限延長については、平成28年4月22日付で熊本県を指定して行われており、その期限が平成28年4月14日以降に到来する申告、納付などについて、その期限を延長することとされています(平成28年国税庁告示第9号)。
 お尋ねのように、地域指定された地域に納税地がある個人又は法人にあっては、地域指定によって、特段の手続きを経ることなく、自動的に申告・納付の期限が延長されています。
 したがって、その指定された期日([Q2-2]参照。)までに申告すればよいことになります。

 なお、相続税に関しては、[Q2-4]を参照してください。

(参考)
 災害などの理由により、国税に関する申告、納付などをその期限までにすることができないと認める場合には、所轄の税務署長などは、次により、その理由のやんだ日から2か月以内に限り、申告、納付などの期限を延長することができることとされています(国税通則法第11条)。

イ 地域指定(国税通則法施行令第3条第1項)
 災害などの理由により、都道府県の全部又は一部にわたり期限までに申告、納付などを行うことができないと認める場合には、国税庁長官は地域及び期日を指定してその期限を延長することとされています。

ロ 個別指定(国税通則法施行令第3条第2項)
 地域指定がされている場合を除き、所轄の税務署長は納税者の申請により、期日を指定して申告、納付などの期限を延長することとされています([Q2-5]参照。)。

[Q2-2] 熊本県における申告・納付等の期限は、いつまで延長されているのでしょうか。〔平成28年10月17日更新〕

[A]
 熊本地震災害における地域指定による期限延長については、平成28年4月22日付で熊本県を指定して行われており、その期限が平成28年4月14日以降に到来する申告、納付などについて、その期限を延長することとされています(平成28年国税庁告示第9号)。
 お尋ねの申告・納付等の期限延長の期日については、その地域に応じて、平成28年11月30日又は平成28年12月16日とされました(平成28年国税庁告示第15号及び16号)。
 詳しくは、「平成28年熊本地震に係る国税の申告・納付等の期限延長措置の終了について」をご参照ください。

[Q2-3] 熊本県における申告・納付等の期限が延長されるとのことですが、仮に、その延長された期限までに確定申告書を提出することができない場合にはどうしたらよいでしょうか。〔平成28年4月22日追加〕

[A]
 地域指定による申告期限の延長があった場合に、災害などの理由により、その延長された期限までに確定申告書を提出することができないときは、個別指定([Q2-5]参照。)に基づいて、その延長された申告期限を再延長することができます。
 お尋ねのように、延長された期限まで確定申告書を提出することができない場合には、状況が落ち着いた後、改めて、ご相談ください。

[Q2-4] 熊本県における申告・納付等の期限の延長について、相続税の場合は、熊本県内に相続人の住所地がある者でも、期限が延長されない場合があると聞きました。相続税の場合の取扱いについて教えてください。〔平成28年4月22日追加〕

[A]
 相続税の場合は、相続開始日における被相続人の住所地が納税地となりますので、今回の地域指定による期限延長については、次の表のとおりとなります。
 なお、相続開始日における被相続人の住所地(相続税の納税地)が熊本県以外で、相続人等が災害により相続税申告書を申告期限までに提出できない場合は、個別指定による期限延長が認められますので[Q2-5]を参照してください。

被相続人の相続開始日 相続開始日における
被相続人の住所地
(=相続税の納税地)
今回の地域指定による
期限延長の対象か否か
平成27年6月14日以降
延長前の相続税の申告期限が平成28年4月14日以降
熊本県 ○(対 象)
熊本県以外 ×(対象外)
平成27年6月13日以前
相続税の申告期限が平成28年4月13日以前
×(対象外)

 (注) 相続開始日とは、通常は被相続人の方が死亡した日をいいます。

[個別指定による期限延長]

[Q2-5] 地域指定されていない地域に納税地がある個人・法人が、災害により、確定申告書を申告期限までに提出することができない場合にはどうしたらよいでしょうか。〔平成28年4月22日追加〕

[A]
 納税地を管轄する税務署長に対し、災害等のやんだ日から相当の期間内に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出していただければ、税務署長等が指定した日(災害等のやんだ日から2か月以内)まで期限が延長されます(個別指定)。
 なお、申請書の提出に代えて、災害等のやんだ日以降に申告等を行う際、その申告書等の余白に「熊本地震災害により被害を受けたため、申告書の提出期限及び納付期限の延長を許可されたい。」旨を付記して提出いただいても差し支えありません。  いずれにしても、状況が落ち着いた後、改めて、ご相談ください。

[Q3] 申告・納付等の期限はいつまで延長が認められますか。

[A]

1. 申告・納付等の延長期限については、国税通則法第11条に基づき、災害等のやんだ日から2か月以内とされています。

2. また、申告・納付等の期限延長申請をされた方につきましては、個々の納税者の被災状況等を踏まえて延長期限を個別にご連絡させていただくこととしております。

[Q4] 災害等のやんだ日とは、いつの日をいいますか。

[A]
 災害等のやんだ日とは、申請者に特別な事情がある場合を除いて、客観的に見て、申告・納付等の期限延長の申請をした方が、申告・納付等の行為をするのに差し支えないと認められる程度の状態に復した日となりますが、例えば、交通の途絶があった場合には、交通機関が運行を始めた日などになります。
 いずれにしても、状況が落ち着いた後、改めて、ご相談ください。

[Q5] 顧問税理士が被災されており申告できない場合にも、期限延長は認められますか。

[A]
 今般の地震災害の影響により、顧問税理士が被災し、事務所に入ることができない、又は、避難所に避難している状況であるなど、期限までに納税者の方の申告ができない場合があることも想定されます。
 そのような場合についても期限延長が認められますので、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」に必要事項を記載し、税務署に提出してください。

3 納付

[Q6] 申告・納付等の期限の延長が認められた場合、延滞税・利子税はどのようになりますか。また、加算税は賦課されますか。

[A]

1. 国税通則法第11条の規定に基づき、国税の納期限が延長された場合には、その延長された期間については、その国税に係る延滞税及び利子税は課されません(国税通則法第63条第2項、第64条第3項)。

2. また、加算税については、認められた延長期限内に申告を行えば課されません。

[Q7] 今般の熊本地震災害により被害を受けましたが、納税の猶予はどのような場合に受けることができますか。

[A]
 今般の熊本地震により、財産に被害を受けた場合や、国税の納付が困難となった場合には、次のとおり納税の猶予を受けることができますので、状況が落ち着いた後、改めて、ご相談ください。

  災害により財産に相当な損失を受けた場合の納税の猶予(国税通則法461 災害等により納付困難となった場合の納税の猶予(国税通則法462
対象国税 災害のやんだ日以前に納税義務が成立しており、災害により財産に損失を受けた日以降1年以内に納期限が到来する国税 特に制限なし
要件 1 災害により財産に相当な損失を受けたこと(保険金等により補てんされる金額は損失額から控除)
※ 相当な損失とは被害額が全資産額のおおむね20%以上である場合をいいます。
2 災害のやんだ日から2月以内に申請があること
1 災害その他やむを得ない理由に基づき、国税を一時に納付することが困難なこと
2 申請があること
申請方法 「納税の猶予申請書」を税務署へ提出
※ 納税の猶予申請書には被災明細書の添付が必要になりますが、被災状況が判明するまでに日時を要するときは、後日、被災明細書を提出してください。
なお、被災明細書に代えて、市町村が発行するり災証明書又は申請者の方への聴き取りによる方法でも確認を行っています。
「納税の猶予申請書」を税務署へ提出
納税の猶予の期間 その納期限から1年以内
国税通則法第11条により納期限が延長されている場合は、延長後の納期限から1年以内
1年以内
やむを得ない理由があると認められるときは、申請に基づき、延長することができる。
ただし、既にこの規定による納税の猶予を受けた期間と合わせて2年以内(国税通則法467
猶予金額 対象国税の全部又は一部 災害等により被害を受けたことに基づき一時に納付することが困難と認められる金額
担保 不要 原則として必要(猶予金額が100万円以下の場合、猶予の期間が3か月以内の場合、又は担保として提供することができる種類の財産がないといった事情がある場合は不要)(国税通則法465
延滞税 猶予期間に対応する延滞税の全額を免除(国税通則法631 猶予期間に対応する延滞税の全部又は一部を免除(国税通則法631

[Q8] 納税の猶予の「相当の損失」とはどの程度の損失をいいますか。

[A]
 「相当の損失」とは、災害による損失の額が納税者の全積極財産の価額に占める割合が、おおむね20%以上の場合をいいます。
 この場合、災害により損失を受けた財産が生活の維持又は事業の継続に欠くことのできない重要な財産(住宅、家庭用動産、農地等)である場合の損失の割合は、その重要な財産の区分ごとに行うこともできます。
 なお、保険金又は損害賠償金などにより補てんされた又は補てんされるべき金額は、上記の損失の額から控除することになります(国税通則法基本通達第46条関係2)。

[Q9] 給与所得者は毎月源泉徴収されていますが、被災した場合に源泉徴収をされないような措置がありますか。

[A]

1. 給与所得者や公的年金等の受給者の方が、災害により住宅又は家財について、その価額の2分の1以上の損害を受け、かつ、平成28年分の合計所得金額の見積額が1,000万円以下の方については、その見積額に応じて、源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予や還付を受けることができます(災害減免法第3条)。

徴収猶予又は還付される金額

その年分の合計所得金額の見積額等 徴収猶予される金額 還付される金額
500万円以下の場合 災害のあった日からその年の12月31日までの間に支払を受ける給与又は公的年金等につき源泉徴収をされる所得税及び復興特別所得税の額 その年1月1日から災害のあった日までの間に支払を受けた給与又は公的年金等につき源泉徴収をされた所得税及び復興特別所得税の額
500万円を超え750万円以下の場合 (1) 6月30日以前に災害を受けた場合 災害のあった日から6か月を経過する日の前日までの間に支払を受ける給与又は公的年金等につき源泉徴収をされる所得税及び復興特別所得税の額 ありません
(2) 7月1日以後に災害を受けた場合 災害のあった日からその年の12月31日までの間に支払を受ける給与又は公的年金等につき源泉徴収をされる所得税及び復興特別所得税の額 7月1日から災害のあった日までの間に支払を受けた給与又は公的年金等につき源泉徴収をされた所得税及び復興特別所得税の額
(3) (1)又は(2)に代えてこの項によることを選択した場合 災害のあった日からその年の12月31日までの間に支払を受ける給与又は公的年金等につき源泉徴収をされる所得税及び復興特別所得税の額の2分の1 その年1月1日から災害のあった日までの間に支払を受けた給与又は公的年金等につき源泉徴収をされた所得税及び復興特別所得税の額の2分の1
750万円を超え1,000万円以下の場合 (1) 9月30日以前に災害を受けた場合 災害のあった日から3か月を経過する日の前日までの間に支払を受ける給与又は公的年金等につき源泉徴収をされる所得税及び復興特別所得税の額 ありません
(2) 10月1日以後に災害を受けた場合 災害のあった日からその年の12月31日までの間に支払を受ける給与又は公的年金等につき源泉徴収をされる所得税及び復興特別所得税の額 ありません

2. この源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予(併せて還付を受ける場合を含む)を受けようとする方は、「源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予・還付申請書(災免用)(給与等・公的年金等・報酬等)」を、給与等又は公的年金等の支払者を経由して、申請する方の住所地の所轄税務署長あてに提出をお願いします(給与等又は公的年金等の支払者の所轄税務署長に提出しても差し支えありません。)。

3. なお、この源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予又は還付を受けた場合は年末調整がされませんので、確定申告により所得税を精算することになります。

(平成28年分の年間の合計所得金額の見積額が1,000万円を超える場合)

1. 住宅又は家財の損害割合が2分の1に満たない場合や平成28年の年間の合計所得金額の見積額が1,000万円を超える場合でも、雑損失の金額の見積額又は繰越雑損失の金額を基に計算した金額を限度に、平成28年又は平成29年以降最長3年間、源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予を受けることができます。

2. この源泉徴収税及び復興特別所得税の徴収猶予を受けようとする方は、「繰越雑損失がある場合の源泉所得税の徴収猶予承認申請書」に「徴収猶予を受ける限度額又は猶予期間の計算書」を添付して、住所地の所轄税務署長に提出をお願いします。

4 申告手続等

[Q10] 地震被害により帳簿書類が滅失してしまった場合は、どのように申告をすればよいですか。

[A]

1. 確定申告については、前年の所得計算の内容を参考にするなどして、可能な限り正確な所得計算をしていただき、申告していただくようお願いします。

2. 前年の所得計算の内容を参考とされる場合には、所轄税務署に提出された決算書等の保存がありますので、所轄の税務署で閲覧をお願いします。

3. なお、避難所等に避難されており、所轄の税務署へ相談することが困難な場合には、避難所等の最寄りの税務署にご相談ください。

[Q11] 地震被害により課税仕入れに係る帳簿書類等が滅失してしまいましたが、消費税の仕入税額控除は認められますか。

[A]
 災害その他やむを得ない事情により課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存できなかった場合に該当しますので、帳簿及び請求書等の保存がない課税仕入れについても、仕入税額控除は認められます(消費税法第30条第7項)。