農業者が農業用施設等の再建・修繕又は倒壊した農業用施設の撤去等をした場合に市から受ける助成金の課税関係について

1 事前照会の趣旨

A市は、平成30年梅雨期における豪雨及び暴風雨により被害を受けた農業者に対し、その農業経営を維持していくために必要な農産物の生産・加工施設等の復旧に係る経費を支援することを目的として、助成金(以下「本件助成金」といいます。)を支給することとしています。本件助成金は、一定の要件を満たす農業者(以下「助成対象者」といいます。)が、1農業用施設・機械(以下「農業用施設等」といいます。)の取得をしたとき、2農業用施設等の修繕をしたとき及び3倒壊した農業用施設の撤去等を行ったときに支給されますが、この場合、本件助成金の所得税の課税関係について、それぞれ下記3のとおり解して差し支えないか、照会いたします。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

(1) 本件助成金の目的

平成30年梅雨期における豪雨及び暴風雨(7月6日から7月8日まで)により被害を受けた助成対象者が、農業経営を維持していくために必要な農産物の生産・加工施設等の復旧に係る経費を支援することを目的としています。

(2) 助成対象者の要件

助成対象者は、以下の条件に全て該当する者です。

イ 平成30年梅雨期における豪雨及び暴風雨で市内に設置している農業用施設(農機具格納庫・ハウス・畜舎等)・機械等が被災した農業者であること

ロ 農地基本台帳に登録があり、平成29年1月1日から被災前までに、農畜産物を生産・出荷販売した農業者であること(自給的農家や家庭菜園は対象外)

ハ 再建する農業用施設、取得する機械の耐用年数期間内は、営農を継続し、離農しない農業者であること

ニ 農業用ハウスなど園芸施設共済の引受対象となる施設の場合は、事業完了後、園芸施設共済等に加入できる農業者であること

ホ 農業者年金(経営移譲年金)の受給者でないこと

(3) 本件助成金の対象となる事業

イ 農産物の生産に必要な施設又は生産した農産物の加工に必要な施設の取得(被災前の当該施設と同程度の施設)

ロ 農産物の生産に必要な施設又は生産した農産物の加工に必要な施設を修繕するために必要な資材の購入等

ハ 上記イと一体的に復旧し、取得する附帯施設(加温用ボイラー、タンク等)の整備

ニ 農産物の生産に必要な農業用機械及び生産した農産物の加工に必要な機械又は附帯施設の取得(被災前と同程度のものを購入)

ホ 農産物の生産に必要な農業用機械及び生産した農産物の加工に必要な機械又は附帯施設の修繕

へ 農業用ハウス及び果樹棚などに流入した土砂の除去(農地災害復旧事業の対象とならない土砂を除去する場合に限る。)

ト 倒壊した農産物の生産に必要な施設(ビニールハウス等)の撤去等

(注) 本件助成金の対象となる農業用施設等から農産物の販売に関する施設、軽トラック及び消耗品など一定のものは除かれています。

(4) 本件助成金の額

以下のイ及びロの合計額になります。

イ 上記(3)のイないしヘに対する助成金の額
 助成対象事業経費(実際に掛かった経費)の10分の9以内の額(園芸施設共済の対象となる施設について、共済未加入の場合は10分の8以内)
 なお、本件助成金は、農業用施設等の原形復旧を対象としていることから、機能の向上や規模の拡大を行った場合等、原形復旧を超える部分は自己負担となります。

ロ 上記(3)のトに対する助成金の額
 対象となる被災施設等の面積に一定の単価を乗じて算出した額又は助成対象事業経費のいずれか低い額

(5) 本件助成金の交付までの経緯

本件助成金を交付するまでの主な手続の流れは次のとおりです。

イ 助成対象者がA市に助成金交付申請書等を提出する。

ロ A市は助成交付申請書等を審査し、助成金を交付すべきと認めた場合は助成対象者に助成金交付決定通知書を交付する。

ハ 助成対象者が上記(3)に記載した農産物の生産に必要な施設の取得等をする。

ニ 助成対象者がA市に実績報告書を提出する。

ホ A市は、実績報告書を審査し、交付すべき本件助成金の額を確定した上で、助成対象者に本件助成金の額が確定した旨を連絡する。

へ 上記ホの連絡を受けた助成対象者は、A市に助成金交付請求書を提出する。

ト A市は助成対象者に本件助成金を支払う。

(6) 本件助成金の交付時期

本件助成金の交付は、平成31年3月以降を予定しています。

3 2の事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 国庫補助金等の総収入金額不算入について

所得税法第42条《国庫補助金等の総収入金額不算入》は、国庫補助金等の交付を受け、その年においてその国庫補助金等をもってその交付の目的に適合した固定資産の取得又は改良をし、その年12月31日までに国庫補助金等の返還を要しないことが確定した場合には、国庫補助金等のうちその固定資産の取得又は改良に充てた部分の金額に相当する金額を総収入金額に算入しない旨規定しており、この国庫補助金等には地方公共団体の補助金及び給付金が含まれています(所令89)。
 なお、所得税法第42条に規定する「固定資産の取得又は改良」の「改良」とは所得税法施行令第181条《資本的支出》の資本的支出をいうものと解されます。
 また、国税庁ホームページの文書回答事例「個人事業者が、固定資産を取得した後で国庫補助金等の交付を受ける場合の課税上の取扱いについて」によると、所得税法第42条は国庫補助金等の交付を受け、その交付の目的に適合した固定資産の取得をした場合について規定しているところ、固定資産を取得し、その翌年に国庫補助金等の交付を受けた場合は、文理上、同条の規定する場合に該当しませんが、同条が、国庫補助金等の交付を受けた時点で課税利益が生ずるものとした場合に、その国庫補助金等によって取得又は改良を予定された資産の取得資金が税額分不足することを回避するための調整を行う趣旨の規定であることからすると、国庫補助金等の交付と固定資産の取得が前後した場合であっても、同条の適用を認め、また、この場合の国庫補助金等の交付を受けた年の総収入金額及び減価償却費の調整について、所得税法第43条《条件付国庫補助金等の総収入金額算入》及び同法施行令第91条《総収入金額に算入されない条件付国庫補助金等の額の計算等》の規定に準じて計算して差し支えないこととされています。

(2) 移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入制度について

所得税法第44条《移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入》は、居住者が、国又は地方公共団体からその行政目的の遂行のために必要なその者の資産の移転、移築若しくは除去その他これに類する行為の費用に充てるため補助金の交付を受けた場合において、その交付を受けた金額をその交付の目的に従って資産の移転等の費用に充てたときは、その費用に充てた金額は、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない旨規定していますが(所法441本文)、その費用に充てた金額のうち各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額に相当する金額については、同条第1項本文の規定の適用はない旨規定しています(所法441ただし書)。

(3) 資産損失及び倒壊した資産の取壊費用等の取扱いについて

事業の用に供される固定資産等について、取壊し等により生じた損失の金額は必要経費に算入されるところ(所法511)、この「損失の金額」とは、資産そのものについて生じた損失の金額をいい(所基通51−2)、損失が生じたことに伴い支出する関連費用(損壊した資産の取壊費用、除去費用など)は含まれず、この関連費用は所得税法第37条《必要経費》の規定により必要経費に算入されるものと考えます。

(4) 修繕費及び資本的支出の取扱いについて

所得税法第51条第1項又は第4項《資産損失の必要経費算入》に規定する資産が損壊した場合において、当該資産の修繕その他の原状回復のために支出した費用の額があるときは、1損壊直前の当該資産の帳簿価額(当該資産の取得価額から損壊があった日までの減価償却費累計額を控除した金額)から2損壊直後の当該資産の価額を控除した残高に相当するまでの金額は資本的支出とし、残余の金額を修繕費として当該支出をした日の属する年分の必要経費に算入するものと取り扱われています(所基通51−3)。

【概要図】

(5) 農業用施設等の取得の場合の課税関係について(上記2(3)のイ、ハ及びニ)

本件助成金は、地方公共団体であるA市の助成金であることから国庫補助金等に該当し、固定資産である農業用施設等を取得した場合に交付されるものですから、上記(1)の文書回答事例の取扱いと同様に、本件助成金のうち農業用施設等の取得に係る部分の金額(以下「本件取得助成金」といいます。)について所得税法第42条の規定を適用することができると考えます。
 ただし、助成対象者が平成30年に農業用施設等を取得し、平成31年に本件助成金の交付を受ける場合は、上記(1)の文書回答事例の取扱いと同様に、本件取得助成金の総収入金額及び農業用施設等の減価償却費の調整について、所得税法第43条及び同法施行令第91条の規定に準じて計算する必要があると考えます。

(6) 農業用施設等の修繕の場合の課税関係について(上記2(3)のロ及びホ)

本件助成金のうち農業用施設等の修繕に係る部分の金額(以下「本件修繕助成金」といいます。)は、実際に掛かった経費の10分の9以内の額とされており、本件助成金が農業用施設等の原形復旧を対象とし、機能の向上や規模の拡大を行った場合の原形復旧を超える部分は助成対象者の自己負担とされていることから、本件修繕助成金は、その全額が被災した農業用施設等の原状回復のために支出した費用の額を補填するために交付されるものと認められます。
 そして、上記(4)のとおり、当該原状回復のために支出した費用の額のうち損壊直前の帳簿価額から損壊直後の価額を控除した金額は資本的支出となり、それ以外の部分の金額は修繕費として取り扱われることとなると考えます。
 したがって、本件修繕助成金のうち資本的支出の部分を補填する金額は、上記(1)のとおり、所得税法第42条に規定する「改良に充てた部分の金額」に該当することから、同条の規定を適用することができると考えます。
 ただし、助成対象者が平成30年に農業用施設等を修繕し、平成31年に本件助成金の交付を受ける場合は、上記(1)の文書回答事例の取扱いと同様に、本件修繕助成金のうち資本的支出の部分を補填する金額の総収入金額及び農業用施設等の資本的支出の部分に係る減価償却費の調整について所得税法第43条及び同法施行令第91条の規定に準じて計算する必要があると考えます。
 また、本件修繕助成金のうち修繕費に相当する部分を補填する金額は、固定資産の改良に該当しないことから、当該金額について、所得税法第42条の規定は適用されず、その交付を受けた日の属する年分の事業所得の総収入金額に算入することとなりますが、修繕費に相当する部分の金額は、上記(4)のとおり、所得税法第37条の規定により必要経費に算入されることから、結果として所得は生じないこととなると考えます。

(7) 農業用ハウス等に流入した土砂の除去又は倒壊した農産物の生産に必要な施設の撤去の場合の課税関係について(上記2(3)のヘ及びト)

農業用ハウス等に流入した土砂の除去又は倒壊した農産物の生産に必要な施設の撤去等は、固定資産の取得又は改良に該当しないことから、本件助成金のうちこれらの撤去等に係る部分の金額(以下「本件撤去等助成金」といいます。)について、所得税法第42条の規定は適用されず、その交付を受けた日の属する年分の事業所得の総収入金額に算入することとなりますが、上記(3)のとおり、この撤去等に要した費用の額は、所得税法第37条の規定により必要経費に算入されることから、結果として所得は生じないこととなると考えます。
 なお、本件撤去等助成金のうちに所得税法第44条第1項に規定する「資産の移転、移築若しくは除去その他これに類する行為の費用に充てるため補助金」に該当する部分があったとしても、上記のとおり、その撤去等の費用は必要経費に算入されることから、本件撤去等助成金について所得税法第44条第1項本文の規定は適用されないと考えます。