企業や個人による国境を越えた経済行動が複雑・多様化しています。このような変化に伴い、一方で、海外で受け取った収入を申告しない、利益を得ているにもかかわらず複雑な国際取引を利用してどの国にも税金を納めないといった国際的な税逃れ(租税回避)や、他方で、同じ所得に対する国同士の見方が異なることで複数の国からその同じ所得に課税される二重課税などが大きな問題となっています。これらの問題に対応するため、国税庁は、調査体制の充実など内部での対応のみならず、外国の税務当局と情報や経験の共有を図り、協力関係を強めるといった外部と協力しての対応を行うとともに、二重課税を解消するための協議も行っています。
我が国企業の海外進出の状況は下図のとおりであり、海外の現地法人企業数は、平成7年度の10,416社から平成22年度には18,599社と約1.8倍に増加しており、特に中国に対する進出件数が急増しています。
我が国で事業活動等を行う外国法人数の推移は下図のとおりです。平成22事務年度においては5,614法人と前年に比べ186法人減少しました。その伸び率は鈍化しているものの、平成13事務年度に比べ約1.3倍になっています。
多額の国外への送金が行われた場合に提出される国外送金等調書1の提出枚数は下図のとおりです。平成22事務年度の提出枚数は365万枚と前年に比し108万枚減少していますが、制度が導入された平成10事務年度の提出枚数244万枚に比べて約1.5倍となっています。
注釈
国境を越えた事業・投資活動の活発化に伴い、海外取引を行っている納税者や海外資産を保有している納税者を重点的に調査し、国外送金等調書や租税条約などに基づく情報交換制度を効果的に活用するなどして、深度ある調査に取り組んでいます。
国税庁では、国際課税を専担する国際税務専門官を増員するとともに、国際的租税回避事案に専門的に対応する部署を設置するなど、調査体制の充実・強化に取り組んできました。なお、職員の研修機関である税務大学校において、国際課税に関する法規や租税条約、金融取引、語学などの研修を実施し、職員の国際課税に係る調査能力の向上を図るとともに、複雑な課税問題に対処するために、弁護士や金融の専門家を採用しています。
海外で受け取った収入を隠す、利益を得ているにもかかわらず各国の税制や租税条約の違いを巧みに利用してどこの国にも税金を納めないといった国際的な租税回避が問題となっています。国際的租税回避は、金融や法律・税の専門家などが関与し、ペーパーカンパニーや組合、デリバティブ(金融派生商品)などを組み合わせた複雑な取引が使われるなど、その全体像の解明は困難なものとなっています。さらに最近では、このような問題が大企業だけではなく、中小企業や個人の富裕層にも広がっています。
国際的租税回避に対しては、東京、大阪、名古屋、関東信越国税局に設置された統括国税実査官や国際調査課等が中心となって、情報の収集や分析、調査の企画・立案や実態解明を行っています。
また、国際的租税回避の解明を目的として日本・アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・韓国・中国・フランス・ドイツの9か国が参加する国際タックスシェルター情報センター(JITSIC:Joint International Tax Shelter Information Centre)では、派遣職員を通じて、国際的租税回避及び富裕層に関連した情報交換要請への対応や調査手法等の知見の共有に取り組んでいます。
移転価格税制は、海外の関連企業との取引を通じた所得の海外移転を防止し、適正な国際課税の実現を図る観点から、昭和61年度税制改正で導入されたものです。具体的には、我が国企業が海外の関連企業と取引をするに当たって、その取引価格が第三者間の取引価格(これを「独立企業間価格」と呼んでいます。)と異なることにより、我が国企業の課税所得が減少している場合に、その取引が独立企業間価格で行われたとみなして、所得を計算し直す制度です。
企業活動の国際化の進展に伴い、移転価格税制の適用対象となる取引が増加するとともに、取引の内容も複雑化し、また無形資産を伴う取引の重要性が高まっています。こうした変化に的確に対応し、納税者の予測可能性を高め、適正・公平な課税を実現していく必要があります。
納税者の予測可能性を高めていくためには、制度の運用に関する執行方針や適用基準を公表し明確化を図ることが重要です。平成23年においても、先に改定された国際的なルールであるOECD移転価格ガイドラインと整合性を図るとともに、より一層の運用の明確化を進めるため、法令解釈通達や事務運営指針の改定を行ったところです。
移転価格課税に係る事前確認は、納税者の申出に基づき海外の関連企業との取引に係る独立企業間価格の算定方法等について税務当局が事前に確認するものです。事前確認の申出件数は、国際取引の増加を反映し増加傾向にあります。そのため国際取引を行う企業が集中する東京国税局と大阪国税局には、事前確認審査を専門に担当する部署を設置するなど執行の体制整備を図り、迅速な処理に努めています。また、事前確認の申出前に国税当局が相談を受ける事前相談の担当窓口を各国税局に設けることにより、納税者が事前確認を円滑に利用できる環境を整えています。
事前確認は、納税者の予測可能性・法的安定性を確保し、移転価格税制の適正・円滑な執行に資するものであることから、今後とも適切に対応することとしています。
企業や個人が行う国際的な取引については、国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できないことがあります。そのような場合には、二国間の租税条約などの規定に基づく情報交換を実施することにより、必要な情報を入手することが可能となります。
最近、租税条約等に基づく情報交換の枠組みの拡大・強化が図られ、現在、53の租税条約等(64か国・地域)が発効し、年間数十万件の情報交換を行っています。
また、一部の国との間では、調査担当者が相手国の担当者に直接会って、調査事案の詳細や解明すべきポイント等について説明・意見交換を行う情報交換ミーティングを開催することなどにより、情報交換の効果的・効率的な実施に努めています。