1 共通の課税ルールの整備や執行上の問題の議論

 OECD租税委員会1などの場で国際取引に関する税務上の課題に関する議論などに積極的に参加するとともに、経済関係が緊密な国、地域の税務当局と協議を行うなど、多国間・二国間の協力を強化しています。

(1) 共通の課税ルールの整備

1 移転価格課税の見直し
 各国の移転価格税制2のモデルとなるOECDガイドラインについては、平成7年の改訂公表から10年以上経過しています。その後の多国籍企業の活動状況の変化や、各国の実務の進展、経験の蓄積を踏まえ、OECDガイドラインのさらなる充実・見直しが必要となってきています。例えば、近年の無形資産が絡んだ取引の増加を背景として、伝統的な比較法の適用が困難なケースが増え、利益法3の実務上の重要性が高まっています。

2 事業再編から生ずる課税上の問題の検討
 多国籍企業の事業再編に伴い、仕入販売子会社がコミッショネア4に変換されたり、製造子会社が受託生産子会社に変換されたりする例が見られます。こうした事業再編に伴い、商標やブランド、製造ノウハウといった重要な無形資産が、グループ内の海外の関連会社へ譲渡される場合、その対価について移転価格の問題が生じます。さらに、事業再編後の子会社が海外の親会社の代理人として取り扱われるケースも考えられます。OECD租税委員会では、こうした新しい問題についてもガイダンスの公表を目指して議論が行われています。


1 OECD租税委員会は、OECD加盟国が、モデル租税条約、移転価格ガイドラインなど国際的に共通の課税ルールを整備する協議の場であり、また、各国税務当局の有する知見や経験の共有化を図る場となっています。OECD租税委員会の下では、検討部会が組織され、意見交換が行われています。

2 「移転価格税制」とは、国外の関連企業(国外関連者)との取引を通じた海外への所得移転に対処し、適正な国際課税の実現を図る観点から、昭和61年度税制改正で導入された制度で、現在、主要先進国をはじめ40か国以上で導入されています。本税制の基本的仕組みは、法人と国外関連者との取引価格が第三者間の取引価格(独立企業間価格)と異なることにより、我が国の課税所得が減少している場合に、その取引が独立企業間価格で行われたとみなして所得を計算するというものです。

3 「利益法」とは、移転価格の算定方法の一つであり、取引当事者双方の合算利益を両当事者の貢献割合に応じて配分する「利益分割法」や比較対象取引に係る営業利益率を用いる「取引単位営業利益法(TNMM)」があります。

4 「コミッショネア」とは、商法にいう問屋(といや)のことであり、法的には売買の当事者として権利義務の主体となりますが、経済的にはこれを委託者たる他人の負担に帰せしめ、手数料を受けるにすぎません。


3 外国法人の支店などへの課税ルールの検討
 外国法人の支店など(恒久的施設)と子会社とは、法的性格が異なるものの、経済的実態に着目して両者の課税上の取扱いを同じにすることが望ましいとの考え方が強まっています。OECD租税委員会では、恒久的施設に対する課税ルールの見直し作業を進めてきており、支店に対する移転価格アプローチの適用などについて最終的な検討を行っています。また、今後、モデル租税条約やコメンタリー(解釈基準)の改訂を予定しています。

4 有害税制の除去と公平な競争条件の実現
 金融サービスなどの「足の速い」経済活動を外国から誘致するために税制上の優遇措置を設ける国や地域があります。このような結果、「足の速い」経済活動に対する課税が困難となり、世界的な規模で課税ベースが浸食されることになり、他方で、「足の遅い」労働や消費に対する税負担が相対的に重くなるおそれがあります。OECD租税委員会では、こうした有害な税の競争に関する報告書を平成10年に発表し、その後もフォローアップを行っています。近年は、「有害性」を減殺するべく、「透明性」と「実効的な情報交換」を強化するため、タックスヘイブン1(租税回避地)や重要な金融センターを有する国・地域も包摂した取組を行っています。


(2) 税務行政に関する他国の税務当局との経験の共有

 経済のグローバル化とIT化といった税務行政を取り巻く環境変化への対応は、税制の違いを越えて各国税務当局の共通の課題となっています。そこで、各国の税務当局は、コンプライアンス〈法令遵守〉の向上や納税者サービスの改善などの各国共通の問題に関して協力や経験の共有を図っています。
 OECD租税委員会は、国際的に共通な課税ルールを整備する上で中心的な役割を果たしてきており、近年は、加盟国に主要な非加盟国・地域を加えた税務長官クラスの会合であるOECD税務長官会合(FTA)において、共通の課題について検討を進めています。
 また、少人数のトップレベルの意見交換の場として、日本、米国、カナダ、オーストラリア、英国、フランス、ドイツ、中国、韓国、インドの10か国で構成する税務長官会合(リーズキャッスルグループ税務長官会合2)では、濫用的なタックスプランニングへの対応などについて議論を行っており、アジア地域における13か国・地域の税務当局が構成するアジア税務長官会合(SGATAR)では、域内の協力に資する会合を持っています。
 さらに、歴史的・経済的なつながりが深い中国と韓国の税務当局とは、毎年、長官同士の会議を開催して協調を図っています。

開発途上国に対する技術協力

 国税庁は、開発途上国に対する技術協力に積極的に取り組んでいます。国際協力機構(JICA)の協力の下、国際税務行政セミナー(ISTAX)に加えて、最近では国別プロジェクトを実施し、特に調査・徴収、組織管理、納税者サービス、国際課税などの分野について、ASEAN 諸国などへの専門家派遣や、外国税務当局の職員を招いての国内研修を行っています。また、OECDやアジア開発銀行(ADB)などが行うセミナーなどの技術協力活動にも積極的に貢献しています。このような技術協力により、我が国の税務行政に関する経験やノウハウが開発途上国の税務行政の改善に活かされ、さらには、地域全体の税務行政の向上や協力関係の強化にも資すると考えています。


1 「タックスヘイブン」(租税回避地)とは、法人の所得に対する税負担がゼロあるいは極端に低い国又は地域をいいます。

2 この会合の準備会合が、平成18年に英国のリーズキャッスルで開かれたため、この名前となっています。

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