2 相互協議と情報交換など

 国税庁では、租税条約に基づく相互協議1 の制度を活用して国際的な二重課税の防止などの課税問題の円滑な処理を図っています。また、国際取引に係る悪質な租税回避を防止するという観点から、租税条約を積極的に活用し、各国税務当局との情報交換などの充実を図っています。


(1) 相互協議の増加 ―事前確認利用の拡大―

相互協議事案の発生件数は近年増加傾向にあり、その9割以上が移転価格に関するものです。また、移転価格事案のうち、最近では、納税者の予測可能性を確保し、二重課税の未然防止を目的とした事前確認2に係る事案が増加しています。平成17年7月から平成18年6月までの1年間に129件の相互協議事案が発生し、うち移転価格に関するものは119件、さらに移転価格に関する事前確認に係るものは92件でした。これを10年前と比較しますと、相互協議件数で約4倍、事前確認に係る相互協議件数で約6倍になっています。
相互協議件数にあわせて相互協議相手国数も増加してきており、10年前には11か国であったところ、平成18年6月末では23か国に増加しています。同様に、相互協議を伴う事前確認については、昨今は、アジア諸国などこれまで事前確認の経験のなかった国との間でも増加してきています。国税庁では、これら相互協議事案の適切で迅速な解決に向け、各国税務当局間の協力関係を一層深め、より効率的に協議を進めるようにしています。

● 相互協議事案発生件数の推移

相互協議事案発生件数の推移のグラフ

相互協議を巡る国際的な議論の動向

 相互協議を含む国際的な税に関する紛争解決については、OECD租税委員会において、相互協議手続の実効性の向上や、補完的紛争解決手段に係る問題につき、検討が進められてきました。これは、相互協議について、事案によっては時間がかかり過ぎるのではないか、二重課税が完全には解消しないのではないかなどの指摘がなされてきたことを踏まえ、効果的な問題解決のためのベスト・プラクティスや仲裁手続などについて検討を行ってきたものです。詳細は、「国際的な税の紛争解決の改善」、「実効的な相互協議マニュアル」として国税庁ホームページで公表しています。


1 「相互協議」とは、納税者が租税条約の規定に適合しない課税を受け、又は受けるに至ると認められる場合において、その条約に適合しない課税を排除するため、条約締結国の税務当局間で解決を図るための協議手続です。我が国が締結している45の租税条約(適用対象国56か国)すべてに、相互協議に関する規定が置かれています。

2 「移転価格税制に関する事前確認(APA: Advance Pricing Arrangement)」は、移転価格課税に関する納税者の予測可能性を確保するため、納税者の申出に基づき、その申出の対象となった国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法やその具体的内容などについて、税務署長などが事前に確認を行うことをいい、昭和62年(1987年)に我が国が世界に先駆けて導入した施策です。その後、米国(1991年)に続き、カナダ(1994年)、オーストラリア(1995年)、韓国(1996年)、中国(1998年)に導入され、現在では30か国以上で導入されています。

● 我が国の租税条約ネットワーク(45条約、56か国適用/平成19年5月現在)

我が国の租税条約ネットワークの図

(2) 租税条約に基づく情報交換

国際取引においては、二重課税リスクも問題ですが、どこの国からも課税を受けない課税の空白も問題です。各国税務当局はそれぞれ国際課税に対する取組を強化してさまざまな租税回避スキームに対応していますが、適正・公平な課税を実現するためには国外の情報を適切に収集することが不可欠です。このような観点から、各国とも租税条約に基づく情報交換の拡充に力を入れています。
我が国においても、平成15年度、平成18年度の税制改正により、犯則調査を含めた情報交換の法令が整備されました。また、平成17年7月には国税庁国際業務課に情報交換専担チームを新設し、相手国からの要請に迅速に対応しつつ、我が国からも積極的に協力要請を行っていく体制が整いつつあります。情報交換を実際に推進していくには、当局間の緊密な協力が重要ですが、国税庁は、OECD租税委員会の情報交換担当者会合に参加するほか、開発途上国への技術協力も積極的に行っています。


(3) 各国税務当局との連携と情報収集・リサーチ

 国税庁では、国外の情報を適切に収集し、また各国税務当局との連携強化を図るため、昭和60年から、米国をはじめ、我が国と経済的つながりの大きい国・地域へ職員を長期間出張させています。平成19年3月末で、長期出張者は、12か国(17地域)に派遣され、派遣先国の税制・税務行政などに関する情報の収集を行うとともに、相手国の税務当局との連携が必要となる事項につき、重要なパイプ役としての役割も果たしています。

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