コラム24 OECDにおける議論:恒久的施設の帰属所得の算定

 外国法人の支店等の課税に関しては、恒久的施設(Permanent Establishment:PE)に帰属する所得が課税所得となり、また、このPEに帰属する所得は独立企業原則によって決定する、という原則が確立しています。
 しかしながら、このPEの帰属所得に係る独立企業原則に関しては各国によって捉え方が異なる場合があることから、現在、OECDではPEの課税所得の算定方法に関するプロジェクトを立ち上げ、共通のルールを形成するための議論が進められています。具体的には、移転価格税制における独立企業原則の適用指針であるOECD移転価格ガイドラインを、PEの帰属所得に係る独立企業原則にも適用し、PEの課税所得を算定することが検討されています。
 これらの議論に関する中間レポートについては、OECDのウェブサイトhttp://www.oecd.org上で公開されています。
 なお、このプロジェクトの成果としては、平成19年(2007年)1月までに上記レポートの最終版が公表されるとともに、この議論を反映したOECDモデル条約コメンタリーの改正が行われる予定です。

コラム25 共通の課税ルールの整備や執行上の問題の議論−−税務当局間の国際会議への参加

 二重課税や租税回避スキームなどの国際課税問題、更に納税者サービスの向上やコンプライアンスの改善などの各国共通の問題に関して各国税務当局間で協力や経験の共有を図るため、我が国は積極的に税務に関する国際会議等に参加しています。主な多国間・二国間の国際会議は以下のとおりです。

アジア税務長官会議(SGATAR)
 アジア地域における税務行政の国際的な協力の促進、共通の諸問題についての意見交換等を目的として、昭和46年(1971年)に設立された会議です。現在、13か国・地域の税務当局が加盟しています。なお、加盟国以外にも広く情報提供を行うことを目的に、我が国が提案した「加盟各国の税務行政等についての基礎データを共有するためのプロジェクト」により、加盟国の税務行政についての基本情報が共通の様式にまとめられました。現在、国税庁のホームページで閲覧できます。
 最近では、平成16年(2004年)11月に第34回会議がオーストラリアで開催されました。

環太平洋税務長官会議(PATA)
 環太平洋4か国(日、加、米、豪)の税務当局が参加する会合で、税務上の共通課題などについて意見交換を行うことを目的に、昭和55年(1980年)に設立されました。平成15年(2003年)3月には当会議の成果の一つとして、加盟国による移転価格調査を円滑に行うため、国際取引等に関する資料の統一的なリスト(PATA加盟国当局が示した移転価格調査資料の共通リスト)が作成・公表されたほか、平成16年(2004年)6月には、加盟国間での円滑な相互協議の実施のために、相互協議ガイダンス及び二国間事前ガイダンスが公表されました。これらは、国税庁のホームページでも日本語で閲覧できます。
 最近では、平成16年10月に第26回会議がカナダで開催されました。

OECD租税委員会関係会議
 OECDは、国際的に共通な課税ルールを整備する上で中心的な役割を果たしています。更に、税務行政上のさまざまな課題について検討部会を組織し、加盟国税務当局の専門家同士による意見交換を行って、各国の経験の共有化を図っています。平成17年(2005年)1月には、米国アリゾナ州において、主要国の税務長官の参加のもと、OECD税務行政アドバイザリーボード会合が開催され、納税者のコンプライアンス水準の評価・測定方法や、ITを活用した税務行政や納税者サービスの改善に関する知見や経験などについて、積極的な意見交換が行われました。

日中・日韓税務長官会合
 近隣国であり、経済的なつながりが強い中国や韓国の税務当局とは、毎年両国の長官による二国間会議を開催しています。会議では、税務行政に関するそれぞれの関心事項について意見交換を行い、税務行政の相互理解と協力関係の推進を図っています。
 最近では、平成17年(2005年)4月に、北京及び東京でそれぞれ開催されました。

コラム26 新日米租税条約の適切な運用

 企業が国際的な経済取引を行っている場合には、各国の税制の違いにより、二重課税が生じることがあり、これを排除するため租税条約が結ばれています。我が国はこれまで45の条約を締結しています。
 平成16年(2004年)3月に批准された新日米租税条約は、旧日米租税条約の内容を全面的に改めるものです。日本と米国の緊密な経済関係を背景として、積極的に投資交流の促進を図り、併せて租税回避防止のための措置をとることなどを定めています。
 例えば、米国の子会社から受け取る配当や米国企業から受け取る使用料については、これまで米国で源泉徴収課税されていましたが、OECDモデル条約の考え方にならって、この投資先の国での課税が免除されることとなっています。また、日米租税条約の適用が本来予定されていない第三国居住者による条約の濫用を防止するための規定など、これまでの我が国の租税条約にない新しい規定が盛り込まれています。
 この新日米租税条約は、源泉徴収に係る租税については平成16年(2004年)7月1日に支払われるべき所得から、申告所得に係る租税に関する所得については平成17年(2005年)1月1日以後開始される課税年度から適用されています。この新条約を適切に運用していくことは、適正・公平な課税を実現する上で、非常に重要であると考えています。

コラム27 開発途上国に対する知的支援

 開発途上国における税制及び税務行政を改善・向上させることは、財政基盤の改善を通じてこれらの国の経済発展に貢献することとなります。また、課税ルールについて開発途上国と我が国の税務当局が共通の認識を持つことにより、国際的な課税問題の発生が未然に防止されること、相互協議などが迅速に進展することなどが期待できます。こうしたことから、中国やASEAN諸国などへの専門家派遣や、国内における研修の実施など、開発途上国に対する知的支援に積極的に取り組んでいます。

  1. 1 専門家の派遣
    1. (1)長期専門家の派遣
       日本の国税庁の実務や経験などを紹介し、その国の税務行政の改善策について助言するなどの知的支援を実施するため、国税庁の職員を国際協力機構(JICA)の長期専門家として、開発途上国の税務当局に常駐派遣しています。平成8年(1996年)からインドネシア、平成14年(2002年)からマレーシアに各1名派遣しており、また平成17年(2005年)からフィリピン、ベトナムにも派遣する予定です。
    2. (2)短期専門家の派遣
       開発途上国の税務当局からの要請に基づき、税務行政等の改善を指導する専門家として、国税庁の職員を短期派遣しています。平成16年度(2004年度)は、中国、カンボジア、マレーシア、ラオス等へ派遣しました。
  2. 2 国内における研修の実施
    1. (1)国際税務行政セミナー(ISTAX)
       国税庁では、政府開発援助(ODA)の一環である国際協力機構(JICA)の集団研修プログラムの一つとして、アジア、アフリカ、中南米、中近東、オセアニア、東欧の税務職員を対象に、国際税務行政セミナーを実施しています。このセミナーには、一般コース(昭和43年(1968年)設立)と上級コース(昭和49年(1974年)設立)があり、それぞれ講義、討議、視察等を実施しています。
       国際税務行政セミナーは、日本の税制・税務行政に関する専門知識・技術を移転し、開発途上国の税制・税務行政の改善に資するとともに、セミナーの実施を通じて日本の税務行政に対する理解者を参加各国に養成し、相互の友好関係を促進することを目的としています。
    2. (2)外国税務職員に対する短期研修(国別税務行政研修)
       外国の税務当局からの要望に応じて、中国、べトナム、モンゴル、カンボジア等の税務当局の職員に対して、国際協力機構(JICA)などの協力の下に、日本の税務行政・税制等を紹介する短期研修を国別に実施しています。
    3. (3)国税庁実務研修
       世界銀行の奨学金制度などに基づき、慶応義塾大学、横浜国立大学、政策研究大学院大学、一橋大学、早稲田大学の各大学院修士課程に留学している開発途上国の税務職員を主な対象として、税務大学校において実務に即した研修を実施しています。財政、税制、税務行政等に関する知識・能力の習得を図り、各国における税務行政の向上に資することを目的として平成8年(1996年)4月から開講しています。

前の項目へ戻る

次の項目へ進む