各国の税務当局と協調を図るなど国際化時代に対応した税務行政を推進しています

 経済・社会のボーダーレス化の一層の進展により多国籍企業等による国境を越えた多様な経済行動が生じ、これに伴い、一国の税制・税務行政の在り方が他国の税制・税務執行に大きな影響を与えるなど、税務行政を巡る環境は大きく変化しています。各国の税務当局にとって、このような環境の変化に伴い発生する、国際的な租税回避や二重課税のリスクの排除などが大きな課題となっています。このため、国際取引について各国共通のルールを整備し、各国税務当局間の協力や経験の共有を図るため、二国間ないし多国間で課税問題の処理について検討する場面も増えています。このような状況において国税庁は、各国との間で相互信頼・協力を強めつつ、税務行政の国際化に積極的に対応しています。

●共通の課税ルールの整備

 近年、国際取引が増加し、またIT化などにより新たな取引形態が拡大する中で、各国の課税ルールが異なることがあります。たとえば、税務行政が二重課税リスクを十分に排除できなければ、円滑な取引を妨げ、ひいては国際取引を行う納税者のコンプライアンスの維持が困難になることもあります。そこで、各国の税務当局とともに国際取引に関する共通の課税ルールの整備に取り組んでいます。

  1. 1 モデル租税条約の見直し等
     OECD租税委員会を中心に、従来からモデル租税条約の見直しを随時行い、二国間で締結される租税条約の共通の解釈や基準や新しいルールづくりに取り組んでいます。例えば、国際的企業の子会社や支店が親会社や本店と異なる国にある場合、子会社や支店によって生じた所得の認定は、各国の税収の配分にかかわる問題であり、二重課税が生じる可能性があります。OECD租税委員会は、このような問題に関するルールの整備などについて検討作業を行っています。
  2. 2 電子商取引への課税
     IT化が進むにつれて、インターネットを利用した国際取引が急速に拡大しています。しかし、インターネット取引は、消費者の住んでいる国に、注文を受けたり代金の受払いを行う事務所がない場合でも、外国の本社に直接注文を行ったり、支払いは銀行の口座から引き落とす形で、決済を行うことも可能です。こうしたインターネットを通じた国際取引に関する国際的な課税ルールについて、OECD租税委員会や関連の国際会議において検討しています。
  3. 3 有害な租税競争の排除
     各国が外国資本を自国に誘致するために、金融・サービス産業などに対する税の過度の引下げ(税制上の優遇措置)を行うと、結果として労働、資産、消費に対する課税が相対的に重くなり、各国の財政基盤に悪影響を及ぼし、また、企業の投資行動にも歪みを生じることになります。そこで、OECD租税委員会は、このような行き過ぎた税の引下げ競争を行っている国・地域のリストを作成・公表することにより、その是正を図る努力を行っています。

●国際的な二重課税の防止

 ――租税条約に基づく相互協議の実施
 国際取引において生じた所得がどの国に帰属するのか、その解釈が国によって異なる場合は、移転価格課税や源泉所得課税等を通じて企業が二重課税を受けるリスクが高まります。このような二重課税については、租税条約に基づいて、税務当局間で相互協議を行うことにより、その解決を図っています。
 企業活動の国際化が進展することにより、こうした国際的な二重課税のリスクが高まってきており、相互協議が必要な事例は年々増加しています。最近では、移転価格課税について、納税者の予測可能性の確保、二重課税のリスク回避を目的とした二国間事前確認(Bilateral Advance Pricing Arrangement: BAPA)に係る事案も増加しています。また、協議相手国の数も増えてきており、特に件数の増加が予想される中国をはじめとするアジア地域など、これまで我が国との相互協議の経験が少なかった国との協議事案が発生しています。
 国税庁では、これら相互協議事案の適切で迅速な解決に向け、各国税務当局間の協力関係を一層深め、より効率的に協議を進めるように努めています。
 なお、国税庁では、我が国の事前確認制度について納税者に理解を深めていただき、同制度の利用を更に推進することを目的として、「事前確認の状況(APAレポート)」(国税庁のホームページに掲載しています)を平成15年(2003年)に引き続き、平成16年(2004年)9月にも発表しており、今後とも納税者に対して情報提供に努めていきたいと考えています。

図13 相互協議事案の事案タイプ別件数
相互協議事案の事案タイプ別件数のグラフ

●国際的な租税回避への対応

 ――租税条約に基づく情報交換
 国際取引に関する二重課税リスクが高まる一方で、租税条約の特典を濫用した租税回避スキーム等により、どこの国からも課税を受けない課税の空白が発生する問題も生じています。こうした国際的な租税回避を防止し、自国の課税権を確保するために、各国はそれぞれ国際課税に対する取組みを強化していますが、経済活動が国際化している状況の下で、適正な課税を実現するためには国外の情報を適切に収集することが不可欠です。そこで、各国税務当局は、租税条約に基づいて必要な情報を提供し合うなど、協力関係を深める努力を行っています。こうした国際的な情報交換に積極的に協力していくため、平成15年度(2003年度)の税制改正により、租税条約に基づいて相手国からの情報提供要請があった場合に迅速に対応できるよう、新たな質問検査権を創設しました。
 国際課税の問題は、従来は「どの国が課税するか」という課税権の調整の問題でしたが、現在では、「どこの国からも課税されない」租税回避スキームへの対処が重要な問題となっています。各国税務当局の会合でも、「どこの国においても課税されないような巧妙な租税回避スキーム」は、二重課税排除の問題と同様に各国が協力して取り組んでいくべき課題である、という共通認識が得られています。

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