分科会長
 どうもありがとうございました。ただいま御説明いただきました三つの事項につきまして、何か御質問、御意見ございましたら、お願いいたします。

島上委員
 最後に御説明いただいた租税回避スキームの件ですけれども、国際的な課税のイクオールフッティングという観点から見た場合に、主要外国においても同じような行為が課税されるか、それとも日本がちょっと厳しいという感じになりますか。

調査査察部長
 一番大きな例はアメリカにおきまして同種の租税回避行為がかなりかつては行われた中で、我々の言葉でアット・リスクルールといいますけれども、いわば危険負担原則といった、例えば納税者の方が各事業年度におきまして控除できる控除額は、あくまでもその人が負担する活動におけるリスクの枠に限定するという、そういう税務上のルールが一つございます。
 それから消極的活動損失規制、パッシブ・アクティビティ・ロス・ルールというのがございまして、これは納税者が実質的に参加していないような活動、いわゆる受け身の活動、こういうものによって生じる損失とか、あるいは税額控除の額は、これは例えば能動的な活動から生じる所得、事業所得とか企業所得、あるいは配当や利子、キャピタルゲイン等のいわゆるポートフォリオの所得からの控除は認めない、いわゆる損益通算の制限をかけているという、これは既にアメリカにおいてはかなり前から入っている制度でございます。

島上委員
 大体アメリカとほとんど同じような取扱いになっておるという理解でいいんですか。

調査査察部長
 基本的には少なくとも法人に関して言えば、ほぼ似たような扱いになっているという状況でございます。

分科会長
 ほかにはいかがでしょうか。

長官
 ちょっと補足させていただきます。実は今、民法組合というのはこういう格好で必ずしもない。要するに、国によってこういう商法のあり方とかがまだ税法とずれているという状況がありまして、特にアメリカの場合には早くからこういう節税スキーム、特に法人税においては企業経営そのものが税引き後所得でいわばCEOが評価されるということが非常に大きいものですから、これに大変傾注してきた経緯があります。
 はっきり言えば、日本よりもアメリカの方がよりある意味ではそれを退治するというほうも進歩している。日本のほうが残念ながら若干遅れているというのが実態だと思います。それは何も税法だけではないので、企業のいわば商法からすべてを含めてその対応が、例えば今議論になっています第三者との株式交換、合併も含めてすべてアメリカのルールとうまくマッチしているわけではない。そういうところをねらってそれぞれがいろいろな節税行為を行っているというのが、今の実態だと思います。
 さらに、今一番我々長官レベルの会議において問題になるのは、いずれの国からも課税されないという、特に今回のスキームには出ていませんが、ある意味で全世界で節税をするために、あるところで商品の企画をし、あるところで商品をつくり、あるところでそれを売りというのを、いわば国を分けて行うことによって、全体としていわば課税を最も小さくする、あるいはずらしていくというようなスキームが今非常に増えてきていて、これは各国税庁長官同士も、要するにお互いの課税権を取り合うというよりは、どちらも取れないというのを何とかしようという方向が、かなり強まってきているわけです。このようないわばスキームの組成というのは、もっともっと多分増えていく。
 我々はどうしてもそういうものを事後的に退治していきますが、そうすると多分こういうのはもう利用されなくなることになって、別のスキームに移っていくのだと思うんです。その都度最初は訴訟になっていくという形をとって、最初は我々が負ける可能性もあるわけですが、それを追いかけて改正していく。今までであれば、税制改正というのはある程度全体像を見て改正していくという姿があったんですけれども、多分このようなものはパッチワークかもしれませんが、少しでも早目に打っていく、あるいは打っていくということを宣言していく。実はそういうものを組成する人たちというのは、国の側がそういうものを退治するぞと言っているにもかかわらず商品として売りつけた場合、その売りつけた側は買った人に後で訴えられる可能性があるわけです。国はそういうメッセージを出していたじゃないかというようなこともあるものですから、やはり我々としてはできるだけパッチワークであっても直していくとともに、訴訟ではそういうものを個別に御判断いただきながら、我々も課税処分していますので、多分審判所のほうでそれを適正に御判断いただいていくということにならざるを得ないところがある。ですから今鳥羽部長が申したように、既に幾つかは敗訴が出てきているわけでございますが、そういうことを繰り返してきているというのが、これは日本のみならず各国ともそうなんじゃないかなという気がいたします。

分科会長
 よろしいですね。ほかにございますか。

崎委員
 最後の税制改正の要綱で、閣議決定でこういう措置を講ずるとありますけれども、これは何か通達を改正するのか、それとも租税特別措置法を作るのですか。その点をお伺いしたいんですが。

調査査察部長
 これは租税特別措置法の改正でございます。法律の改正でございます。

崎委員
 その点ですけれども、これは一般的なことでは法律で改正すればいいんですが、これを法律でつくれば当然法律の規定にないことは合法ということになってしまうんです。そうしますとむしろ通達で抽象的に、実質的にやるほうがいい場合もあるんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか。ちょっと事情が変わればこれは法律の適用がないということで、合法化されてしまうおそれがあります。

調査査察部長
 法律で今度いわゆる所得税あるいは法人税について、そういう制限をかけたわけでございますけれども、一方において現在争っているやり方というのは、実は民法上の組合の規約の存立、あるいは民法上の問題でその解釈による否認という形で構成していますので、基本的にはこれは税法上の措置を決めたということで、ある意味では両方両立するわけでございますから、今後とももし民法上の問題があればそちらで否認していくということはあり得るようなことでございます。
 それから税法上の問題として、今回の改正でも確かにまだまだ抽象概念は幾つかあるわけです。重要な業務の執行とか、そういう解釈の余地がありますので、御指摘のようにいろいろな問題が出てくる可能性はあります。それについては通達あるいは事例等の積み重ねの中でやっていくしかないのではないかと思っています。

分科会長
 先ほど会が始まる前に、こう津委員とお話ししていまして、税法もほかの法律もそうなんですけれども、どんどん作っていきますと、どうしても網の目をくぐり抜けるような形の取引が生じてきてしまう。それで今長官からもそういうことのないようにいろいろとやっていくのだというふうにおっしゃったんですが、どうしても後手後手になってしまうという部分があるんじゃないかなと思うんです。
 そうすると、先にやった人は得をして、後から行うと全部網の目で課税されてしまうとかというようなことになってしまうのですが、そういうことについて税務当局としては、それはもうやむを得ないとお考えなのか、伺わせていただきたいと思っているのですが。

長官
 大変難しい大問題なんでございますが、多分租税法定主義である以上は、予想できないものについて今宮崎委員が言われたとおり、漠然と書いておくということが可能であればよろしいんですが、そこはやはり余りにも裁量の余地が課税当局に許されるというものでは、多分ないんだろうと思うんです。そういう意味では、やはりどうしてもそこはかなり詳細に書かざるを得ない。そうなると必ず穴を突いてくると、こういうことになります。
 実は国によっては、それを逆手にとって、こういう節税スキームならば認めるので全部登録しろ、登録しないものは全部課税するということを行っている国がありまして、これはイギリスなんでございます。しかし、多分これは非常にマイナーな例でございまして、多くの国は日本と同じように結果としてはイタチごっこを繰り返している。
 ただ、やはりここは余りにも数理計算上のことも含めて、いろいろな商品開発が行われているものですから、米国やイギリスのように、そういう登録したもの以外は認めないというやり方で、そのかわり登録段階では認めてしまうというようなことをやるような仕方もあるのかもしれません。ただ現実は今はあくまでも租税法律主義である以上は、法律で書いていないことは認めざるを得ない。しかし、それが明らかに事実認定あるいは解釈の部分にひっかかるなら、例えば先ほど鳥羽部長の言ったように民法上の組合というところを手がかりとして、我々は課税権を行使するということで、今訴訟になってしまっているわけですが、そういうような、事実認定あるいは解釈の中で何とか太刀打ちしつつ、気付いたら、次に手を打っていくということがぎりぎりなのかなと。
 日本はどちらかというと諸外国に比べると、体系全体を見てから直すということをしてきたものですから、より稼ぐ時間が長いということを、商売の人からは言われているようでございます。これからはやはりパッチワークでも早く直したほうがいいんじゃないかなというのが私どもの印象であります。
 こういうものをつくる人たちというのは、常にそういう穴をねらってくるわけですから、例えばある航空機リースが穴をふさがれたら、別のリースでどうかとか、いろいろなことをやってくるというのは常にあることですから、ここはできるだけ先は読むにしても、我々としても商取引の形態を知り尽くしているわけではないものですから、大変苦慮しているところであります。今言われた問題というのは、ほかの手法も含めて国際的な方向としてどう対処するかというのは、我々学びながら、これからもし他の手法があるならやっていきたいということは考えております。

分科会長
 こう津委員どうぞ。

こう津委員
 各国間、国際間でそういう新しい租税回避のスキームなど、何か新しいものが出てきたときの情報交換というか、そういうものというのはどの程度行われているものなのでしょうか。

長官
 最近はかなり活発に行っております。実は私の場合も国税庁長官会議というのがアジア地域であり、あるいはアメリカ、カナダ、オーストラリア、それからそれにイギリス、フランス、オランダを入れたOECD TAABという会議があり、それから今度私も5月に行きますOECD加盟国全体で行うFTAという会議、これは長官だけではなく、今たまたま海外へ出張している国際担当審議官の青山審議官も出席します。このように各国がそういうものをいかに抑えるかということを会議でやっているわけでございます。
 ですから相互の情報交換をやっているんですが、ただ税法だけではないというところに一番難しさがありまして、今言われた民法上の組合という定義そのものが、実は国によっても違うと、そういう背景の中でやらざるを得ないというのが大変難しいところです。ただ最近の長官会議で我々が話すのは、むしろ税の取り合いという部分よりは、両方から課税されないものをどうするか、一緒に情報交換しながらやろうという話になっています。実は今から2年前の改正で、租税条約のあるところについては、他国の調査のために自分の課税権がない相手にも、要するにアメリカから依頼を受ければアメリカの課税権のために日本企業を調査できるようにする仕組みをつくったという経緯も実はあります。今まで日本は条約相手国の課税のための情報収集を依頼された場合、自分の課税権がないものは調査できなかった。自分がやらないと相手国も調査してくれないので、それを相互にやり合うというような仕組みもつくったわけでございます。徐々に各国とも共通の問題意識を持って相互に意見交換をしているという実態はございます。

分科会長
 そろそろ予定の時刻となりましたので、本日はこのあたりで終わらせていただきたいと思います。
 なお、本日の議事要旨と議事録の公開につきましては、議事規則にのっとりまして、まず簡潔な内容のものを議事要旨として公表し、議事録のほうは完成次第公表させていただきたいと思います。議事録につきましては、公表前に皆様の御発言内容に誤りがないかどうか、これを確認させていただきたいと思いますけれども、議事要旨の内容につきましては分科会長一任ということでよろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

分科会長
 ありがとうございます。それでは本日はこれをもちまして第4回国税審査分科会を閉会させていただきます。
 どうもありがとうございました。

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