課税部長
 それでは続きまして、文書回答の手続、内容につきまして御説明申し上げます。
 資料の3番、文書回答手続の概要という資料をご覧いただきたいと思います。この文書回答手続と申しますのは、納税者の方々が実際に行った、あるいはこれからまさに行おうとしている取引につきまして、税務上どういうふうに取り扱われるのか、文書で回答を行い、そしてその内容を公表するという制度でございます。
 我が国の申告納税制度の下では、一義的には、納税者の方ご自身の判断でこの税法の適用も含めて税額の計算・納付を行っていただくことになっているわけでございますけれども、経済社会が進展し取引形態が高度化、複雑化してまいりますと、一体どのような税法が適用になるのか、納税者の方にとってあらかじめ判断することが非常に難しいケースも増えてきている状況にございます。また、もしもその判断が当局の判断と異なった場合のリスクも非常に大きいものとなってきております。そうした中、この文書回答手続は、一定の事実関係を前提といたしまして、税法の解釈、当てはめにつきまして、あらかじめ課税当局の見解を示し、それを公表することにより、照会者の方や同じような取引を行おうとしている納税者の方の予測可能性の向上を図ろうとする制度でございます。
 ここに書いてございますように、この手続は平成13年9月から導入されました。当初は、あれもこれもということで照会が殺到いたしますと、対応しきれない可能性もございましたので、基本的に、非常に多くの方々にも関係する取引に限るということで、かなり対象を絞り込んでおりました。その後、もう少し利便性の高い制度にしていこうということで、当初対象外にしておりました特定の納税者の個別の事情に係るものについて、一定の要件に該当しない限り、文書回答手続の対象といたしました。また、実際に行われる個別の具体的な取引についての照会でなくても、同一の業種、業態に共通する一般的な照会については、同業者団体等からの照会に対して一般的な回答を行うという手続を設けました。この二点が昨年平成16年3月29日からの主な変更点でございます。
 次に資料を二つつけております。事前照会に対する文書回答についてというものと、同業者団体等からの照会に対する文書回答についてというものでございます。
 先ほど一定の要件のもとにと申し上げましたけれども、一枚目の資料の下の欄のほうを見ていただきますと、次に掲げるものについては文書回答手続の対象にはなりませんと書いてございます。
 例えば1は仮定の取引、例えばこういうことをしてみたらどうかというものについては、回答はできない、実際に行われる取引が対象だということです。また、調査・徴収等の手続に関する照会は除かれております。それから酒税の関係では、課税についての照会は対象となりますけれども、産業行政に関する照会や、免許に関する照会については、対象外となっています。産業行政や免許に関するものについては、別途の、政府全体でやっております行政機関による法令適用事前確認手続いわゆる日本版ノーアクションレターによるものが出てこようかと思いますが、そうしたものにつきましては、そちらでやっていただくということになっています。
 あるいは先ほど船舶のリースの話が出ておりましたけれども、4のところで取引等の主要な目的が国税の軽減等であるもの、通常の経済取引等としては不合理であると認められるもの、つまり明らかな租税回避行為で聞いてきたというものについてはお断りするというように、要件を限定した上で回答する形をとっております。
 これはモデルといたしまして、基本的にアメリカの内国歳入庁でやっておりますアドバンス・ルーリングの制度に倣っております。また、アメリカでは、濫用といいますか、何でもかんでも聞いてこられますと行政コストがかかるばかりですので、実際有料にいたしておりますけれども、日本の場合は無料でございます。
 文書回答手続は、このように納税者の方々の予測可能性の向上にこたえようという制度でございますが、平成13年9月に導入いたしましてから約3年半たっております。制度導入直後の1年間で見ますと、55件の照会がございましたが、昨年見直しをしてから1年間をとってみますと98件と、やはり限定はつけたけれども対象を拡大したことによって、照会件数も増えてきていると私どもは思っております。
 実際、この照会に対して、先ほどのような受け付けられないというものを除いて、回答させていただいたものは、この1年間で34件、全体で80件となっておるわけでございます。そして、先ほど申しましたように、回答は公表し、ホームページで広く納税者の方々の参考に供しております。
 以上が、この文書回答手続の概要でございますけれども、もちろん私ども税務の窓口には他にもいろいろな御質問、御相談等が寄せられるわけでございます。文書照会はかなり専門的なものでございますけれども、納税者の方からの、日常の中でこういうふうにしたときに税務上どういうふうになるのだろうかというお問い合わせにつきましても、もちろん口頭で回答はしておるわけでございます。今までそうしたことで回答した事例を精査し、他の納税者の方にも当てはまり得るような形に問いと答えを修正いたしまして、質疑応答事例といたしまして、約千数百件ほど、今年1月から国税庁ホームページに公開いたしました。今後ともまた税制改正等があるたびに見直しを行い、また新たに事例を追加していくなど、更に充実に努めてまいりたいと思っております。
 いずれにいたしましても、昨今税金面ではどうなるんだという関心が非常に高くなっていることもございまして、より一層税務上の取扱いに係る情報提供に努め、適正な申告納税していただくための環境の整備に努めてまいりたいと思っております。
 以上でございます。

調査査察部長
 調査査察部長の鳥羽でございます。資料の4番目、「租税回避スキームへの対応」ということで、図で書いてございます。先ほど審判所から船舶リースに関する個人課税に関する事例の紹介がございましたけれども、これは、航空機を利用したものについての法人税に関する租税回避、それとそれに対応する税制改正という点について簡単に御説明させていただきます。
 まず1枚目でございますけれども、真ん中に組合がございまして、下に組合員、これは納税者でございます。それから銀行、それから航空機メーカーであるA社あるいは飛行機会社という関係者が四つのグループに分かれております。まずこのお金の流れを御説明いたしますと、組合員から組合に対して20の出資を行います。これに左側の真ん中にございます80と書いてございますけれども、組合が銀行から80借り入れて、20プラス80で100の原資を持ってメーカーであるA社から航空機を購入する。その航空機をこの組合が航空会社にリースします。
 これが1年で12として10年間で120の賃貸料を得られるという、そういう取引を仕組みます。この120のお金は10年間すべて組合から銀行に対する借入金80プラス金利の支払いに充てられます。最終的に10年目に航空機を60で売却して、その中から借入元本の返済が38と、出資の戻しが20、利益の分配は2というスキームを全体で組む。こういう事例がございます。
 全体を見ますと20の出資で10年間で2の利益が分配されるという、それなりの経済的な取引は仕組まれているわけでございますけれども、これを時系列で実は見ますと、そこに問題がございます。それが2ページ目でございます。実はこの10年間の組合員のキャッシュフローを見ますと、初年度の20の拠出、それからその間の8年間は組合から銀行へのお金の流れですから、基本的には手元にはお金は1銭も来ません。最終の10年目に航空機を売却する段階で20の出資の戻しと利益の分配ということで、22が返ってくるという。したがって最初の20の出資と最後の分配22という部分のキャッシュフローしかございません。
 それに対して、損益で見た場合には、これはその事業におきます航空機の減価償却費と借入金利息、その他もろもろの経費が各組合員に分配される結果として、前半の5年間にはかなりの損失がたち、後半に利益が出てきて、最終的な航空機の売却段階でやっと利益がつく。先ほど個人課税の世界では2分の1課税という問題がありました。これは法人税の場合ですから、基本的にはそういう問題はございませんので、10年間を通して見た場合の損益には影響がないわけでございますけれども、こういう課税の繰り延べということが、こういうスキームを組むことによって可能になっております。
 これも結果として法人税が前半においてはまず損がたってきます。実はこういう取引が出ると10年目の利益が出るときには次のまた同じようなのを組んで、そこで損失をたてて消していくという形で、未来永劫利益を繰り延べていくという、そういうことも可能でございますし、また別途この損失が出た前半のときには、損失が出ていますので株の価格が下がるわけでありますけれども、その時点におきましてその株を親族に贈与する形をとって、いわば贈与税の租税回避を行うと、そのような弊害も出てきているわけでございます。
 このような組合を利用した課税の繰り延べというものを安易に認めますと、ある意味で大きな課税の弊害が出てきますので、そういう観点から平成17年度の税制改正におきまして、組合事業への関与度が低い組合員につきましては、一定の場合において損金の算入を制限するという対応策が講ぜられています。それが3枚目で書いてございますけれども、対象の組合員は組合事業への関与度合が低くて、なおかつ組合事業に相応のリスクを負っていない組合員ということで、そういうような組合員に関する利益の計算については、二つの方式において損金の算入を制限するようになっています。
 上のほうの四角の中に(1)(2)と書いてございますけれども、(1)のほうがいわば出資金を超える部分については損金不算入とするケース、(2)については出資金部分も含めてすべての損金を不算入とするケースでございます。(1)のケースにつきましては、これは真ん中の欄にございますけれども、初年度に先ほどの例で言えば20の損失を認めまして、最終金額におきましては22の利益がたつという形で、いわばキャッシュフローとそういった形の利益、損益の計上が認められる。それに対して(2)のケースでは、最終利益の2のプラスの計上しか認められていない、そういうケースでございます。
 この差はどういうことかといいますと、(1)のケースにつきましては、これは組合事業として組合員が出資までしかリスクを負っていないようなケースです。つまり、借入金が組合の資産を担保にして借り入れた、いわゆるノンリコース・ローンといいますか、担保資産以上は返済の責任が追及されないという借入金のケース。したがって組合員は出資金までリスクを負えば、あとはそこからそれ以上のリスクは負わないというケース、そういうケースについては出資金までの損金は認めますけれども、それ以外については認めませんよというのが(1)のケース。
 それから(2)については、さらに組合全体の事業全体につきまして収益の保証契約が結ばれていて、トータルで見ても一切事業そのものが損をしないということが明らかなケースでございます。そういうものについては、これはもう最初から租税回避を目的としたという判断で、基本的には出資金部分も含めた損金算入を認めずに、最終的な利益のみに課税するという形で対応することとしてございます。
 これは法人税に関する改正でございますけれども、先ほど審判所の事例もありますように、所得税につきましても、これは民法組合等を利用した不動産所得の損金についての損益通算が行われた例でございますけれども、これについても平成17年度改正におきましては、一定の場合につきまして損益通算を制限するという措置を講じております。具体的には、不動産所得を生ずるべき事業を行う民法組合の重要業務に従事していない個人組合員については、その民法組合等に係る不動産所得の損失はなかったものとみなすという規定が入っております。
 この改正は個人の場合、先ほども説明ございましたけれども、所得分類によって課税上の取扱いが違うという、そういう意味では組合業務に実質的に参画していない個人によって、課税軽減を目的とした組合投資が行われているということを踏まえたものでございます。これまでも国税当局といたしましては、このような取決めに対しましては、そもそもの任意組合の契約が成立していないという事実認定のもとに課税処分を行っているケースもございます。その結果として多くの訴訟が起こされているわけでございます。地裁レベルで幾つか判決が出ておりますけれども、残念ながら今のところはすべて国が敗訴している状況です。いずれにしても既に控訴しているもの、あるいは控訴に向けて検討中のものもございます。そういう状況でございます。
 私からの説明は、以上でございます。

←前ページへ戻る

次ページへつづく→