審判所次長
 それでは最後に、先ほどの国税不服審判所事務運営の見直し。これはなぜ、そもそもこういうことをやり出したのかというところをお話ししますと、司法制度改革との関連、特に本部の所長さん、これは裁判官出身、東京の所長さんが検察官、それから大阪の所長さんが裁判官、それから東京、大阪、名古屋、関信、広島に判検事出身の方々が審判官として来てくださっていると、そういう方の中から、司法制度改革で裁判所はかなり変わる、あるいは既にこの10年間でかなり変わっているのに、今のままの審判所でいいのかねと、事務運営が。
 いわば裁判所よりも簡易迅速、これが本来審判所のうたい文句なのに、どうも実態的には裁判所よりも複雑で遅くなっているんじゃないのというのが発端でして、それを契機に、じゃ一体裁判所の実情はどうなんだろう。あるいはその審判所の実情、実態はどうなんだろう。国民が、あるいは審査請求人が審判所に何を望んでいるんだろうということを、前体制、島内所長のころから始めたわけですけれども、昨年1年間徹底的に議論して、今年の5月の所長会議で成田所長の方から提案していただいて、御賛同いただいて、この7月から実施している施策でございます。
 これは、司法制度改革とは別に、やはり昭和45年に審判所が創設して、33年たったと。30年前、20年前、10年前と比べて、一つは税務行政を巡る環境、税務署の仕事の仕方もかなり変わりましたけれども、税務調査に対する納税者の意識反応、これもかなり変わってきています。あるいは先ほど御紹介しましたように、審査請求事案の中身そのものが、いわゆる推計がメインの時代から非常に多様化していると。正に個々の審査請求人、個々の事案でそれぞれいわばマニュアル的な、ファーストフードのハンバーガーを売るような方式ではなくて、レストランでお客様のニーズに合わせて対応すると、こういう時代に変わってきたんじゃないかというのがその考え方の趣旨でございます。
 御参考までに、資料について説明しますと、所長が掲げた審判所のスローガン「適正な裁決と迅速な審理を実現するため、堅実な審判所事務運営に機動性と効率性を加えよう」を解説しますと、「堅実な審判所運営」というのは、皆さんまじめに一生懸命やっていると高く評価する。でも、もうちょっと要領よくできないんですかねと。必要以上にまじめにやり過ぎて、うんと苦労した割に、報われていない面があるのではないかということ。
 次に「機動性」。機動性とは机の前に座って一生懸命に本を読んだり、書類をひっくり返す。それも一つだけれども、もっと外へ出て、審査請求人なり原処分庁と気楽に話をしたらいい。そう固くならないで、「どうですか、最近は」という形で、調べるべきものは自分で調べに行ったらいい。
 それから「効率性」。効率性というのは、手引に基づいてきっちりやっているのだけれども、「まず何で手引にこんなことを書いているのだ。ここまでする必要があるのかを考えてやらなくていいじゃないか。」と考えたら省いてもいいのではないか。もう一つは、「どうせやるなら手引の方法ではなく、こうやったら早くできる、楽にできる。」ということをどんどん考えてください。手引といいますのは、ここに3冊あるんですけれども、非常に難しい、このとおり杓子定規にやるということではなくて、趣旨に戻ってもう少し相手に応じて、相手の立場に立って、どうしたら相手から感謝されるのかということを考えて対応してくださいと。
 次に、具体的目標の第1としては「原則1年以内の処理態勢の確立」を掲げました。ただし原則でして、ここのただし書きとまた書き、これが重要なので、ただし書きとまた書きを犠牲にしてまで1年以内にやったら、これは駄目だということ。例えば審査請求人が次から次へと主張を展開してくる。裁決書を出そうと思ったら新しいことを言ってきた。あるいは審査請求人が病気で寝込んでしまい、面会できない。資料が検察庁や裁判所へ行ってなかなか手に入らない。こういう場合は1年を超えてもいいですよと。
 それから次の具体的目標「幹のしっかりとした骨太な裁決をめざす」。これは判決に勝るとも劣らないような非常にきっちりとした、かなりぶ厚い裁決書を従来作っていたと。これは現場からも意見が出たんですけれども、こういう難しい裁決書でだれが分かるんですかねと。税に詳しい弁護士、あるいは法令に通用している税理士は分かるけれども、普通の人はなかなか分かりずらいと。もう少し分かりやすく簡単に、多少ラフでも、審査請求人、あるいは一般の方が分かるような裁決にしたほうがいいんじゃないですかねと。そういう意味で簡潔、明瞭、論理明快な裁決が良い。
 それから次の、「資料をコンパクトに整理」ということは、これは例えば幾ら美辞麗句を飾った裁決書でも、その基となるデータがなければ意味がない。逆に裁決が簡単に書いてあっても、基となる、何で棄却したのか、何で取り消したのか、その資料とデータがきちっとそろっていれば問題はないと。膨大な資料もそのまま裁決が終わると放置していくのではなくて、やはりきっちりと整理して人が変わっても、後任者が見て「ああなるほど」と分かるようにコンパクトに整理してくださいということでございます。
 あと最後に、じゃ一体望ましい審判所はなんなのかと。いろんな観点で理想的な審判所の在り方、仕事を考えると、裁判所とは違う。司法、準司法ではなく、飽くまでも行政の世界、行政サービスであると。国税行政の中で最後に正しいかどうかを最終的にチェックすべきだと。したがって裁判所なら訴えの利益がない。あるいは訳の分からないことを言えば、直ちに棄却、却下してもみんな文句は言わないだろう。
 一方、審判所の場合は行政なのだから、陳情、苦情も聞くんでしょう。それから何回も相手と対話する。すなわち審査請求人の主張に十分耳を傾けるとともに、税法の趣旨、考え方を分かりやすく説明する。原処分庁に対しても、原処分庁の言い分を聞くとともに、通達ではなく税法の趣旨、考え方を説明する。そうすることによって最後に「ありがとうございました。お世話になりました。」と、審査請求人に言ってもらえるような状況にする。原処分庁にも「そうか、取消しでもしようがない。」と言ってもらえる状況にする。ただ、どうしても理解してもらえないような審査請求人、無理な主張を繰り返す人、あるいは法令そのものをどうしても理解していただけないような人の場合は、丁寧に説明した後、訴訟の機会もありますよということで、裁決書を送付する。そういう理想的な審判所を考えたときに、今の仕事を見直す必要があるのではないかと。
 例えば、裁判所の場合は判決を下しましたら、それについて補足説明はしません。それに対して行政なので、審判所は、税法自体が難しいので裁決書にはなかなか分かりやすく理解できるように書けない場合は事前に十分説明するし、送った後質問があったら、丁寧に説明するんだろうと。こういう形に審判所を変えていくのかなということでございます。
 なお、参考1等につきましては、また部長審判官会議がございますので、そのときの話等を踏まえて、またお時間がございましたら一度、別途御説明したいというふうに思っております。
 以上でございます。

分科会長
 どうもありがとうございました。ただいまの税務分野における国際協力、先端分野への対応、そして消費税改正の概要、それから不服審判所事務運営の見直し経過と御説明がありましたが、どうぞもし御質問がありましたら。余り時間もございませんが、御意見がありましたらよろしくお願いします。
 こちらですが、国際協力のところでスイスというお話が出ましたが、情報の交換がうまくいかなかったと。普通スイスは有名な国です。悪名の高い国で、要するにみんなスイスに逃げ込むわけです。そういう意味で昔からスイスとの税務協力、他の行政上の協力で、多少問題が発生する、これがやっぱり反映するんですか。

審議官
 ええ。スイスはよく知られておりますけれども、スイス以外にも幾つかございますが、スイスとの租税条約では情報交換規定が入っておりません。実は、OECDで最近やはりそういう問題が取り上げられておりまして、特に銀行の守秘義務との関係で税務当局から情報の提供要請があった場合に、守秘義務を解除して外国の税務当局に情報を提供してくれというのが一つレポートの中に織り込まれているんですけれども、残念ながらスイスとか幾つかの国はそういった解除について後ろ向きということがあります。OECDの場ですので、コンセンサスがないと決定にならないものですが、そういった問題が最近取り上げられているような状況でございます。
 EUの中でも同じような議論をやっぱりやっているようでございまして、そういう幾つかの国については国内的な法律の制度もございますし、いろんな従来からの経緯があるということで、なかなかそういう守秘義務の関係は難しいようでございます。

分科会長
 ほかに。御質問があるようならどうぞ。

水野委員
 最後に、国税不服審判所の運営の見直しということで伺いましたのですが、調査の問題と並んでですけれども、審理について、例えば外国の法律その他、そういったものを比較参考できるような、そういうことも必要ではないかと思うのですけれども、先ほど国際化のプロジェクトチームというのができた。今年は情報交換等と思いますけれども、そういった職員の方に限らず、審理に当たる方、あるいはこちらの審判所の方、やはり外国文献の参考にできるような形へ持っていくのが望ましいのではないかと思うわけです。
 例えば例を取りますと、この間からストックオプションが大変な問題になっていますが、何であれが一時所得という答えが、最初にどこかの税務相談だと思いますが、どうしてああいうものが出てしまったのだろうと。もっと外国のを参照したら給与だということがはっきり出たはずであるのにかかわらず、やはり独自の判断でやっちゃったから、ああいうものになるのではないかと。
 そしてそれから付け加えますと、ですから非常にやはり外国の資料など重要になりつつあるのですが、税務大学校の研究科で来られる方がことごとく英語の教材はやめてくださいと。それと1年3カ月ですから、どうもこの30代半ばの方々、民法や商法をもう一度勉強するよりも、思い切って語学のトレーニングを積んで、それで審理その他に対応するような体制を組み直して立ち向かったらどうだろうかと。
 長くなりますので恐縮ですけれども、これは訴訟なり不服審査の場合に出てくる弁護士というのは、大体外国に留学してなおかつアメリカの渉外事務所に1年ぐらいいたというような経験を持っていますので、それに対応し得るような体制作りが必要ではないかと思うのです。現実に税務大学校の研修に来る方は優秀な方ですので、最初は嫌でも、やっていれば絶対にできるようになると思いますので、是非そういう面でのフォローをしていただきたいと思います。

分科会長
 長官、あるいは次長、何かありますか。

長官
 非常に重要なポイントを御指摘いただいたと思います。先日のPATAの会合でも、各国はやはり国際的な租税回避、タックスシェルターに非常に積極的に取り組んでおりまして、他国のいろんな税制をものすごく勉強しております。そういう意味で正に我が国も当然のことながら、相手国の制度、法律を知らないといけないという意味でですね、これから国際化の進展とともに、そういう体制を採っていかなきゃいけないなと思っております。

次長
 税大も、御案内だと思いますけれども、国際租税セミナー、また本科とかやっていますが、どうしても海外要員というのは、国際租税セミナー受講者を優先しております。今そこではもちろん英語で海外の法制を勉強させていますし、研究部にもやらせています。また、海外の15カ所に国税庁の職員、在外公館でなくて長期出張という形なんですけれども、2年間ほどうちの職員を行かしておりますが、そういうことでいろいろと国際化の努力はしています。
 今御指摘のストックオプションの最初の回答ですが、それは50年代のある外資系企業に対する回答なんです。当時は50年代でそういう存在よく分かっていなかったのが大変申し訳ないと思います。私はそれは反省も込めて国際化の勉強をしたいと思っております。

分科会長
 時間が大分経過いたしましたので、大変活発な御議論いただきましてありがとうございました。以上でそろそろ時間を回りましたので、これで会を閉じさせていただきますが、本日の議事要旨及び議事録の公開につきましては、議事規則にのっとり、簡潔の内容のものを議事要旨として公表し、議事録は完成次第、公表させていただきたいと思います。議事録につきましては、公表前に皆様の御発言内容に誤りがないかを御確認していただきたいと思います。
 その際、個別の情報に関する御発言など、公開することがふさわしくない部分につきましては非公開とさせていただきますので、よろしくお願いしたいと思います。
 先に公表いたします議事要旨につきましては、分科会長一任ということでよろしゅうございますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

分科会長
 それでは、どうも今日は本当に長時間ありがとうございました。

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