審議官
 審議官の鹿戸でございます。税務分野における国際協力について御説明をさせていただきます。お手もとの資料の3−1を御覧いただきたいと思います。税務分野におきましても、長官レベルの会議も含めまして、税務当局間の国際会議が非常に増えております。ここに主なものとして挙げさせていただいておりますけれども、例えば日本やアメリカ、カナダ、オーストラリア、こういった4カ国で環太平洋税務長官会議、PATA(パタ)というふうに略して言っておりますけれども、こういったものがございます。
 今年はたまたま日本が当番になっておりまして、今月の初めに寺澤長官が主催をしまして、長官会議を行ったところでございます。この会議では、後でまた説明をさせていただきますけれども、相互協議の問題だとか、情報交換の迅速化、あるいはタックス・ヘイブンを介しました国際的な租税回避の問題につきまして、各国のそれぞれの対策、経験の共有化だとか、情報交換を行っているわけでございます。
 同じようにアジア地域でも13カ国・地域の長官会議、これはSGATAR(スガタ)と言っています。こういったものもございますし、それから2国間のベースでは韓国、中国と日韓税務長官会合、あるいは日中税務長官会合というものを毎年それぞれ交代で訪問しまして、長官レベルの会議を行っております。
 そのほかにOECDに租税委員会というのがございます。ここはむしろ実務家レベルの会議が中心でございます。元々租税条約のモデル、ガイドライン、そういったものを検討しておりましたけれども、昨今はいろいろ幅広く、有害な租税競争をどうやって除去していくかといった話とか、あるいは電子商取引の課税問題、そういったものを取り上げて租税委員会、あるいはその下の作業部会でいろんな検討作業を行っております。
 2番目の情報交換についてでございます。これは基本的には租税条約に基づいて税務当局間で様々な情報交換を行っています。日本は45の租税条約を持っておりまして、そのうちスイスとの間では残念ながらそういう条約規定がございませんけれども、スイスを除く44の条約につきましては、情報交換規定というのが設けられておりまして、この規定に基づきまして各国の税務当局と情報交換を行っております。
 平成15年6月末までですけれども、その1年間では約24万件のいろんな情報を相互に交換をしておるところでございます。特にそのうちの個別の事案に関する情報交換を促進するということで、この平成15年度に税制改正を行いまして、租税条約の相手国から情報提供の要請があった場合には、必要に応じまして、相手国によって特定されました者に対して、税務当局が質問又は検査を行うという、そういう制度が創設されたところでございます。
 情報交換というのは、基本的には相互主義で行われております。日本が体制整備を行うことによりまして、条約相手国に対しましても迅速な協力が期待できるということで、そういう対策を採ったところでございます。
 3番目の相互協議でございます。これは納税者の申請に基づきまして、租税条約に基づいて国際的な二重課税を防止する目的で、税務当局間で行われる協議といいますか、交渉でございます。御案内のとおり、昨今は企業活動が非常に国際化してきておりまして、相手国で工場を設置して、生産活動を行う。そうしますと相手国での課税が行われることによって、同じ所得について国際的に二重に課税されるようなケースが出てきておりますが、そういった問題について税務当局に要請が行われれば、相手国との間で交渉を行うと、こういうような仕組みになっております。
 実績がそこに表として出ております。処理件数の方もこの3年間、65件、77件、80件と増加をしているわけでございますが、それを上回る形で発生件数の方も74件、88件、94件というふうに増えてきておりますので、繰越件数の方も平成14事務年度末、この6月末の時点で164件ということで、史上最高の件数になっておるというような状況でございます。私どもの方も国税庁に相互協議室というセクションがございまして、ここで専門のスタッフがいろいろな国との交渉を担当し、また納税者の申請に基づいていろいろな検討作業を行っているところでございます。
 その内訳が下の表でございます。移転価格課税、事前確認、その他というふうに書いておりますが、移転価格課税の方は基本的には課税がまず行われたこと、二重課税の問題が生じてしまったということで、課税が行われた後に協議が申し入れられて行われるというものでございます。それから事前確認というのは、要するに課税が行われる前に、あらかじめ関連会社との取引についてそれぞれの税務当局との間で、いわばお墨つきをもらって課税のリスクを小さくすると、そういう取り決めと言いますか、それが事前確認という制度でございます。
 表を御覧いただきますと、大半が事前確認ということになってきていまして、元々は課税が行われてから相互協議というケースが多かったんですけれども、昨今はむしろ、事前確認を使って課税リスクを小さくするという形で相互協議が活用されるようになってきております。
 それからその他が39件でございますけれども、これは源泉課税の適否の問題だとか、居住地の判定の問題とか、いろいろなケースがこの中に含まれております。こういった内容を含めまして、事前確認制度の報告書というのを今年の9月に発表したところでございます。
 次のページへ移らせていただきます。国税庁の方といたしましては、こういった形の仕事のほかに、外国、特にアジア地域の途上国を中心に、相手国の税務当局に対しまして様々な知的支援を行ってきております。これは税務行政のレベルアップを通じまして、それぞれの途上国の財政基盤を安定させて、経済の発展に資するといった目的がもちろんあるわけでございますけれども、同時にまたそういった国々において、外国企業を含めまして不当な課税が余り出ないようにということで、そういった予防効果みたいなものも間接的に期待をしておるわけでございます。
 具体的にはどういうことをやっているかと言いますと、国税庁の専門家を、2週間ぐらいが多いんですけれども、短期派遣したり、それから若干の国でありますけれども、1年以上の駐在ベースで専門家としていろんな技術協力に貢献するというようなことをやっております。それから他方、途上国の税務職員を日本に受け入れまして、そこにございますけれども、ISTAX(イスタックス)と呼ばれておりますようないろんなセミナーもやっておりまして、こういったところで税務行政一般なり、個別のテーマについて研修もやっておるところでございます。
 そのほか、これはいろんなところがございますが、世銀とか、国際協力銀行とか、JICA(ジャイカ)とか、税務の職員に対するスカラシップがありまして、この奨学金で日本の大学院の修士課程に留学していらっしゃいます、主としてアジアの国の方が多いんですけれども、税務職員の方々に大学院で勉強していただくとともに、日本の税務についても国税庁が協力いたしまして、実務研修をやらせていただいています。こういった面でも御協力をさせていただいているところでございます。
 以上が国際協力分野のトピックスでございます。

調査査察部長
 調査査察部長の鳥羽でございますけれども、続きまして先端分野への対応の中の国際化への対応について、私の方から御説明をさせていただきます。
 初めに最近の動向につきまして御説明し、その後、具体的な調査事例を一例御紹介させていただきます。資料3−2でございます。
 昨今では、社会・経済活動のボーダレス化の急速な進展や、資本移動のグローバル化などを背景といたしまして、各国におきます税制の様々な差異等を利用して不当に税負担を逃れようとする国際的租税回避の問題が顕在化しております。
 大規模法人につきましては、その調査を担当する国税局調査部を中心に、1980年代より国際的租税回避スキームの把握も視野に入れ、海外取引調査のための体制の充実・強化を図るとともに、種々の調査事例の集積等に積極的に取り組んできたところでございます。
 近年では、こうした問題が中規模法人や個人投資家等にも広がってきております。国税庁といたしましては、大規模法人以外への調査体制を強化するため、昨年度から、主要な国税局の課税部に設置された国際化対応プロジェクトチームに専担者を配置し、その把握・実態解明・ノウハウの蓄積及び海外金融資産の資料源開発に取り組んできております。
 様々な事業体や金融手法を駆使して、複雑に仕組まれた国際的租税回避スキームにつきましては、従来から取引等の実態把握に努めてきたところでございますが、課税上の問題が認められた事案については、事実関係の的確な把握に努め、適用法令を精査し、課税の適否を判定した上で、適正な課税を行うことが重要と考えております。
 なお、調査等において現行の税制で対応できない問題を把握した場合には、税制当局に対して積極的に働きかけを行っていくこととしているところでございます。
 続きまして、国際的租税回避スキームの一例として、事業会社が匿名組合を利用して租税条約漁りを行っていた事例を、お手もとの資料に基づいて紹介させていただきます。匿名組合契約と申しますのは、商法上の契約でございまして、明治時代に規定された極めて古い契約類型でございます。組合員が実際に事業活動を行う営業者に出資し、その経営の一切を営業者に委ね、組合員は経営に参加せずにその利益の分配だけにあずかるといった内容の契約でございます。対外的な取引関係における権利義務の主体としては、営業者だけが表れることになり、匿名組合員は営業者の背後に隠れて、外部にはその存在が明らかにならない契約でございます。
 外国法人が受け取りますこの匿名組合の利益の分配につきましては、我が国、国内法では課税されることになっておりますが、租税条約の規定により、我が国で課税することができない場合もございます。御紹介させていただく事例は、この租税条約を利用した事例でございます。
 2ページ目にございます横長のイメージ図を御覧いただければありがたいと思います。左の方からX国のA社、右の方、Y国のB社、それで右に日本のC社ということで、一連のグループ法人としてA社をヘッドとした事業の、製品の製造から販売といった流れで、こういう組み立てができているわけでございますけれども、まず製造業を営むX国の法人A社が、Y国に販売子会社B社を設立しまして、また同時にA社は、Y国の関連会社を通じまして、日本に販売子会社C社を設立し、このB社とC社が匿名組合契約を締結するという形でございます。
 この匿名組合契約は、C社が日本で行いますA社製品の販売事業を対象としておりまして、B社を出資者、C社を営業者とするものでございます。そしてB社は、C社が行う営業販売事業から生ずる利益の大部分を、匿名組合の出資割合に応じて、C社から匿名組合の分配金という形で受け取ることになっております。
 このスキームの問題点でございますけれども、こういう形を利用して、A社製品の日本における販売事業から生じた利益の大部分が、匿名組合契約の分配金という形で、日本及びY国で課税されることなく、X国のA社の利益になっていくと、そういうことでございます。
 こういうことが成立するポイントは三つございます。第1点目は、営業者C社が組合員B社に支払います匿名組合契約の分配金でございますけれども、これはC社のいわば所得計算上におきましては、課税前の利益から控除されるということになっております。
 それから2点目は、日本とY国との租税条約におきましては、いわゆる条文上明記されていないその他の所得につきましては、居住地国のみで課税できるということにされてございます。したがって、このB社が受け取った匿名組合契約の分配金は、その他の所得に該当しますことから、日本ではB社の恒久的施設、いわゆるPEがなければ日本では課税されないことになります。
 3点目のポイントは、Y国の国内法におきましては、Y国でもB社が受け取った匿名組合契約の分配金は課税されないことになっているという、この三つのポイントを利用したスキームでございます。この結果として、日本での販売事業に係る利益をX国のA社までほとんど課税されないままで還流することが可能になっているわけでございます。
 日本とY国との租税条約によれば、このような匿名組合の分配金に対しては、日本で課税するのは難しいところでございますけれども、一方でB社の恒久的施設が日本に存在すれば、これはB社の事業所得として我が国で課税することができると、そういうルールもございます。
 この事例におきましては、この匿名組合契約の条項を精査し、あるいは組合事業の実態等をよく検討した結果として、この組合契約の締結、出資金の調達方法、利益分配金の送金方法及びC社の営業上の重要な判断につきましては、A社がB社、C社合わせて指示しているというような事実が認められたこと。あるいはA社のブランド名をB社及びC社が共に商号として使用しているわけでございまして、これは日本の商法におきましてもC社の営業上生じた債務につきましては、B社においても連帯責任が生じるような規定になっておりますとの事実が分かっておりまして、これらの事実から、この匿名組合契約には非常に強い共同事業性が認められるということでございますので、このC社の事業拠点はB社も共同して使用しているということで、これはB社の恒久的施設、PEであると認定して課税するといった手法で、B社に課税したという事例でございます。
 以上、国際化への対応についての説明を終わらせていただきます。

課税部長
 続きまして、高度情報化(電子商取引)への対応について、御説明させていただきます。
 インターネットの普及を背景として、電子商取引が急速に進展をしております。総務省が出しております情報通信白書によりますと、平成14年における電子商取引の市場規模というのは、企業間のもの、いわゆるBtoBが60兆円、対前年比10.5%増と、企業と個人間のもの、BtoCが1兆6,000億円、対前年比90.1%増と試算されておりまして、今後とも電子商取引の拡大が見込まれております。
 税務執行面から見た電子商取引の特徴を紙にまとめてございますけれども、まず1点目は、ネットワークを通じての取引でありますので、取引が広域化、国際化しやすいという特徴を持っております。2点目に、店舗、多額の資金がなくてもだれでも比較的容易に参入できるほか、取引の匿名性が高いといったことから、実際の取引者がなかなか分かりにくい、把握が困難といった特徴もございます。3点目に、やはりデータでございますので、電子的な取引情報というのは、その把握や確認がなかなか困難であると、そういった特徴がございます。
 したがって、電子商取引の実態把握と適正課税という観点から、税目や所管にかかわらず、専門的な知識を有しております職員をプロジェクトとして集めて、組織横断的に取り組んでいかなければ、なかなかこれに対応できないということでございますので、そこに書いてあります電子商取引専門調査チームというのを、平成12年2月に初めて東京国税局に設置をし、その後順次拡大をしてまいりまして、平成13年1月、すべての国税局に設置をいたしております。電子商取引を行っている事業者の把握と、これらの事業者や電子商取引関連業者に対する税務調査、実態把握、資料情報の収集を行っているところでございます。
 次のページの調査事例を御紹介したいと思います。
 この事例は、ネットオークションサイトに商品を出品して、多額の利益を得ていながら、確定申告を行っていなかったという事例でございます。ネットオークションはインターネットを通じてだれでも気軽に出品し、入札できるシステムとして近年急激に市場を拡大してきております。この表の中の納税者Xは、個人事業者なんですが、ネット上で代理店の募集を行い、これに応じた複数の者、ここでABCDと書いてありますけれども、そういった名義によってネットオークションサイトに商品を出品しておりましたけれども、Xは、例えば、A名義で出品した商品の落札者Yに対して、Xが保管・管理しているA名義の銀行口座に販売した商品の代金を振り込むように依頼していたものでございます。
 税務調査を実施した結果、実際のオークションの出品者はXであり、複数の名義を利用して2年間で約2,000万円の所得を得ていたにもかかわらず、無申告であったといったことが判明したものでございます。ネットオークションにも本人確認の制度が導入されてきてはおりますけれども、これら一連の取引を通じまして、Xの名前というのは全く現れないわけでありまして、そういう意味で、この事例は、電子商取引の匿名性が高く、取引の把握確認が困難といった特徴を利用し、無申告となっていた事例であろうかと思います。実際に複数の店舗を出店するのであれば、相当の資金を要するわけでありますけれども、ネット上の店舗でありますから、その出品には資金は余り要しないということで、容易に複数の名義を使用してこういったことができたということでございます。
 やはりこのような事案に対しては、コンピューターやインターネットに関する知識を豊富に有する職員で構成しております、先ほど申しました専門調査チームが、専門的な調査のノウハウを駆使して取り組む必要があるというふうに思っております。電子商取引については、新たな事業形態というのがいろいろと発生してきておりますので、そういう意味で実態面も含めたその把握というのは非常に困難な面もございますけれども、先ほどの専門調査チームを中心として、引き続き適正公平な課税の実現に努めてまいりたいというふうに考えております。
 続きまして、平成15年度の税制改正におきまして、消費税の抜本的な改正が行われまして、消費税に対する国民の信頼性や制度の透明性を向上させる観点から、事業者免税点制度等の改正が行われたということでございます。改正の概要を1枚目に書いてございますけれども、1点目は中小事業者に対する特例措置の改正でございまして、事業者免税点制度については、その適用上限が従来の3,000万から1,000万に引き下げられた。簡易課税制度については、その適用上限が従来の2億円から5,000万円に引き下げられるという措置でございます。
 2点目が、中間申告の制度の改正でありまして、前年の確定消費税額4,800万円、地方税も含めますと6,000万円を超える事業者については、従来3カ月ごとの中間納付が毎月納付、毎月中間申告納付というふうに変わっております。
 それから3点目が、総額表示の義務付けでありまして、消費税額を含めた総額を表示するということが義務付けられたわけでございます。
 以上が改正の内容でありますけれども、改正は来年4月1日から適用されることになっております。具体的には個人事業者につきましては平成17年分から、法人については平成16年4月1日以後開始事業年度から、事業者免税点及び簡易課税制度の適用条件が引き下げられるということになりました。また総額表示につきましては、平成16年4月1日以後に行われる価格表示から義務付けられることとなります。
 執行面でございますけれども、今回の改正内容、多くの事業者に影響を及ぼすものとなっておりまして、特に事業者免税点の引き下げにつきましては、これ税調資料でありますけれども、約140万人が新たに課税事業者になると見込まれております。国税庁としては地方団体、商工会議所、関係民間団体等の理解と協力を得ながら、事業者が改正内容や消費税の仕組みを十分に理解して自ら適正な申告等が行えるよう、広報・相談・指導といった施策を重点的に実施をして、制度の円滑な定着に努めていきたいと考えております。
 特に、新たに課税事業者となる個人事業者に対しましては、これまで消費税の申告等に関する経験のない方も多いといったことから、タイムリーに各種の施策をきめ細かく実施をして、納税者自らが記帳等に基づく適正な申告が行えるよう、各種説明会における改正内容の周知、記帳指導等の重点的な実施、申告相談等における各種届け出等の提出しょうようなど、広報・相談・指導の各種施策を重層的に実施をしていきたいと考えております。
 また、総額表示義務につきましても、関係省庁、関係団体等の理解と協力を得ながら、各種説明会等において周知を図るなど、適正な価格表示が行われるよう、制度の円滑な定着に向けて、努力をしていきたいと思っております。
 2枚目に広報あるいはその他事業者への改正内容の周知、それから説明会の開催状況といった、そういったことが概括的に取りまとめられてございます。いずれにしても改正内容の周知と指導というのが非常に重要でございますので、かなり力を入れてやりたいと考えております。
 以上でございます。

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