奥村座長
 それでは、前回検討できなかった論点につきまして、公正取引というアジェンダから進めていきたいと思います。先生方には「検討内容の整理と論点」という資料をお渡ししているかと思います。そちらの2ページの一番下に、公正取引というのがございます。こちらから進めてよろしいでしょうか。
 では、このテーマに関して事務局の方から初めに資料の説明があるようですのでお願いいたします。

亀井酒税企画官
 前回、座長から宿題をいただいておりまして、この2ページの(4)ですけれども、公正取引を見ていただきますと不当廉売等に関する取組といたしまして、行き過ぎた価格競争は品質低下を招き、品質低下した酒は売れないという悪循環があるという業界からの御意見がございまして、こちらの方に載せたわけですけれども、これについて国税庁としてどうなのだろうかというふうな御指摘がございました。
 そこで資料として「品質(quality)と価格・コストの関係について」という資料をお配りしてあると思います。真ん中に表が二つ載っている物でございますけれども、こちらについて簡単に御説明したいと思います。
 一つは、機能性の実用品と嗜好性の加工品とを比べたものでございまして、実用品として、例えば、パソコン等があるわけでありますけれども、こちらについては品質に対する原料の影響というよりも加工技術によって品質が決まり、同じような物が作られていくという再現性があるということが言えるのだろうということだと思います。したがって、こちらにつきましては、品質を量ることが可能、メモリーの容量とか各種機能等で理解されやすいために品質と価格というものは分かりやすいものとして対比しているというものだと思います。
 一方で、お酒もそうですけれども、嗜好性の加工品の場合については品質に対する原料の影響が大きく、製造コストにおける原料費の比率が比較的高いということが言われるのではないかということだと思います。
 ただ、三つ目の丸にも書いてございますけれども、品質は感覚的な快感度でして、個人差が大きくて定量で表すことは難しいということはございますけれども、原料と加工費から期待される品質で設定されるということで、下の方の図で整理してあります。したがって、一般実用品の場合は原料費が低くても品質価格といったものが高いということができるのですけれども、加工品の場合についてはそういったことにはならないのではないかといったことであります。
 そうは言いましても、なかなか品質が定量化できないためにその関係が消費者に分かりにくいといったことは事実であります。現状を踏まえてみますと3の結論の下のところですけれども、過度な価格競争→製造コスト削減→原料費低下→品質低下といったサイクルに現状では陥っているのではないかというふうに考えられるのではないかと思います。
 ただ、この品質というものについて、前回座長からも御指摘がございましたように、悪いものが入っているとか、体に悪いとかそういったものでは全くなくて、価格競争を受け、嗜好レベルで品質が低下しているのではないかなというふうに考えておりまして、業界もそういったことからこういった意見が出てきているのではないかというふうに考えております。

奥村座長
 あまり専門的な知識なしに聞くのですが、このお酒は健康に悪い、このお酒は健康に良いというような分類というのは、できるものなのですか。

濱田鑑定企画官
 基本的にアルコールそのものが、よく言われるように微量であれば精神的にストレスを解消したり、血行を良くしたりということで健康に良いというのは最近の研究で分かっております。当然飲み過ぎればいろいろな問題があるということで、そのほかにアルコール以外の成分の医学的な効用というのも、最近いろいろな業界で研究しておりまして、例えば、抗がん性の効能があるとか、ボケ防止の機能があるとか、そういうのは最近よく研究されております。多分その辺は我々もはっきりしたところは分かっていないのですけれども、やはり微生物による生成物というものに、普通の工業製品とは違った効能があるのではないかなと期待しておりますけれども、まだ確たるものはないと思います。

奥村座長
 ありがとうございました。ボケ防止に役立つとか、すごく夢のある話が出てきました。田嶼先生のところのような大学病院で、「あなたの体質ではここまで飲んだらボケ防止に役立つ、これ以上飲んだら駄目だ」と、そういう診断をしていただけるみたいな仕組みができるといいですね。
 ただいまのも含めまして公正取引の分野での論点を御覧いただきまして、先ほど販売チャネルでスーパーマーケットとかコンビニエンスストアとかが出てきていましたが、このような店舗でのある種のセールを実施したり、あるいはレジにはアルバイトの方がいるだけだから、未成年者も簡単に入れたりするということから、簡単に酒を手に入れることができ、飲酒問題を誘引しているのではないかとかいう観点の議論があるのですがいかかでしょうか。
 スーパーは今、身近なところでも24時間営業をうたい文句にしていますが、以前は、一般小売店のように、夜は寝ていらっしゃったお店ばかりでしたでしょうから、お酒が深夜に販売されるケースは以前より増えてきているのは確かなのでしょうね。この販売チャネルの推移との間に、ある種の相関関係があるのでしょうけれども、それがすごく優位な関係かどうかは、価格的にはまだ何も検討していないので、なんとも言えないところではあります。

田中氏
 すみません。公取の不正行為というのでしょうか、不当廉売とかそういうものについては、公正取引委員会が法的に断固摘発していけばいいと思いますし、今後は、これまで以上に厳しくやっていくと思うのです。ただこのように、安いから飲むという行為は、経済行為の一つでもあるし、それを飲むなというふうに規制していくのは大変難しいと思います。ワインなどもそうですが、産地のブランドについては名称なりあるいはランク付けをするというように産地で責任を持って、各県なり産地レベルで商品の品質が一定以上であるというふうなことを保証するような表示制度を設けるなどして、競争できるようにしてもいいのではないかと思います。その上で、それを承知で、酔いさえすればいいのだという人に対しては、適正飲酒なりの方で誘導していくべきだと思いますし、購買時点でそれを規制までするというのは大変難しいと思うのです。
 それと、またあとでも言いますけれども、全体的に飲酒の動向を動かす大きなファクターは酒税の税率というのでしょうか、そういうものがかなり大きいと思います。ヨーロッパでは、アルコポップスについて税率を高くしたらある程度消費が減ったということが報告されておりますし、もし未成年者の飲酒とか国民の健康とかを考えると、缶入り酎ハイのようなアルコポップス的なものについては税のバランスを少し考えることもいいでしょうし、そして逆に言えば品質のいいお酒を少し安く飲めるようにして、ただアルコールを摂取することだけを進めていくようなものについては酒税のバランスを加味するというのも一つの方法だと思います。伝統的な文化というものは、国際情勢の中でも大事にされておりますし、フランスのエヴァン法の改正も結局はワイン業者が押しきったようなところはあるのかもしれませんが、政治力だけではなくて国民全体でそういうワインとか農産物については保護していくべきだというふうな意識もあったこともあるのでしょう。このようなことからも、缶入り酎ハイのようなものをどんどん飲ませていくのが、果たして適正飲酒のあり方なのかということを皆で議論してみたらどうかというふうに思っています。

田嶼氏
 未成年者の飲酒問題については、未成年者と一括りにしていますが、年齢によって問題解決へのアプローチの道というのは異なるべきだと思うのです。先ほどパンフレットに関して大変すばらしいものをお作りになって、それを使った啓蒙活動が望まれるというお話をしましたけれども、それがうまく浸透していくのは恐らく小学生と中学生くらいじゃないかと思うのです。高校生あるいは大学生になったらそのようなパンフレットをもらっても「だから何なの」というふうに捉えかねないということもあるでしょう。
 そうなりますと、あのような啓蒙活動が有効に浸透していかない年齢層に対しては、私は別のアプローチが必要だと思うのです。つまり、17歳、18歳から22歳くらいですか、その年代層は一体どこでどのような時間帯に何を飲むのか、それをある程度把握して、そしてそれぞれに対してアプローチする必要があるのではないかと思うのです。例えば、主な購入場所がコンビニエンスストアだとしたら、コンビニエンスストアで、「あなたの健康は損なわれますよ」ということよりも、「未成年者には売らない、売れないんだ」ということをしっかり前面に出して、そして年齢確認するとかということを強化する必要があると思います。また、今、田中先生から御発言があったアルコポップスに関することですが、それが価格の点で問題があるというのであれば、今度は少し高くするということも考慮に入れるというようなことも必要になってくるだろうというふうに私は思います。

井岸氏
 公正取引の方に話を戻させていただきます。たまたま(4)の公正取引で「行き過ぎた価格競争は品質低下を招き、また品質低下した酒は売れない」という表現になっていますが、これは「行き過ぎた価格競争が低価格化を招いている」ことは事実ですが、それによって品質低下しているかどうかは別だと僕は思います。低価格酒しか売れない傾向にあるのだと、むしろ、例えば、ビールよりも発泡酒が売れる。発泡酒よりもさらに価格の安い第三のビールと言われているようなものが売れるという傾向になっているのではないかと思うのです。
 それで「品質低下した酒は売れない」というのは、これは、例えば、非常にいいお酒であっても品質劣化してしまったものは当然売れませんし、また公正取引委員会が考えている不当廉売というのは、販売するに当たって過度の競争で回りの同業者に迷惑を与えるような価格で販売した場合とか、あるいはその販売に必要なコストをオンしないで売っているそのことを指して不当廉売といっているのですから、この辺の表現というのは少し違うのではないかと思います。

奥村座長
 井岸先生がおっしゃっているのは、むしろここに記載されるような「品質低下した酒」はよく売れているのではないかということですか。

井岸氏
 そういうことです。ですから、先ほどお話したように、低価格化と品質低下ということは別のことだということです。

奥村座長
 味という点から考えればどうでしょうね。ですから、味のよしあしと価格というのが、うまく消費者の認識にマッチしていないということなのですね。

井岸氏
 実際にはラガービールなどは売れなくなってしまっているわけですよね。安売り競争にまた突入してしまうという傾向にあるわけですよね。だけど、それは安売りするとまた売れていくわけですから、決して品質低下してしまったから返品が増えているとか、そういう現象ではないと僕は思います。

奥村座長
 それで、つまり以前と比べて、この表現ですと、以前は、たとえ値段が高くても、品質の良いお酒をよく飲んでいたけれども、今は値段が高いと飲まないというわけですよね。それはなぜそういうふうに変わってきたかということについてはいかがですか。前は品質の悪い安いお酒は、禁止されていて造れなかったということなのか、そういうものを造るメーカーがいなかったというだけのことなのか、その辺りはどう判断していったらいいですか。

須磨氏
 酒造メーカーの社長にインタビューをしていますと、大変競争が激しくなっていて、自分の会社をより良くするためにどれだけコストを削減し、どれだけ低価格で多く売って企業を保つかということに苦心していらっしゃるのを感じます。だからこそ発泡酒が出てきたのだと思うのです。でも「発泡酒は造らない」というふうに宣言した会社も、徐々に語調が弱まって今は造っていますので、結局、物を買うときの原理というのは、品質だけではないですよね。それは私も先ほどからずっと気になっていたのですけれども、過度の価格競争から品質低下に結びつけるというのはどうなのでしょうか。味覚の問題ですから、品質低下と言っていいのかとずっと思っていまして、体に良くないものを売るのであれば問題なのですが、味覚は個人の嗜好の問題なので、ここで議論する問題ではないというふうに思っております。
 ここの論理は分からなくてずっと考え込んでいたのですけれども、少し論点が違うではないかなというふうに思います。もし、価格が一緒ならば品質のいい物を買うと思います。しかし、価格が違うから大量に飲む人は我慢してでも安い方を飲んでいるのでしょう。「同じぐらいの味はするよね。安いのにまあまあだよね」という声をよく聞きます。そういうことなのではないでしょうか。

亀井酒税企画官
 一つ清酒の例を取って考えてみると分かりやすいのかと思います。先ほど田中先生がおっしゃっていたように、例えば、第三のビールですと、こういう表現は悪いかもしれませんが、税金分が安くなっているということで、安価な理由が分かりやすいということもあるかもしれません。
 清酒の場合については、千円くらいのものから、一万円以上するものまである。例えば、吟醸酒だと高いと分かりますけれども、それ以外については、なぜ安くなっているのかということが分からないといったように、製法段階の何が価格を決めているのかという情報の提供が、欠けているという部分があるのではないだろうかとは思います。技術革新とは言え、コストを削減するために、いろいろと工夫したお酒が出てきているとか、そういうことを消費者にもっとしっかり伝えていかないと、価格は安いけど、同じ品質なのだろうから、安いほうを買っても一緒だろうというような誤解を与えていると、そういったことの繰り返しになっているのではないかというように思うのです。だからそこはもう少し分かりやすくするために、表示等をしっかりやっていかなければいけないという部分は確かにあるのだろうと思うのです。良いものには良いものなりの表示を、「ここは製造法が違う」というものには製造法が違うという表示をしていくということが求められているのではないでしょうか。

須磨氏
 そこがよく分からないのですけれども、ファッションなどもそうなのですが、生地が良いから高いというわけではなくて、デザイナーの感覚がどれだけ入っているかとか、商品の価格の妥当性は選ぶ側の論理に行き着きますよね。だとすれば、お酒に関して、そこまでやらなければいけないのでしょうか。それは消費者サイドの判断でいいのではないですか。

亀井酒税企画官
 例えば、純米酒とかについて、精米歩合を表示しなさいというように、消費者ニーズに対応した部分については、義務的表示と任意表示というようにやっていかないと、先ほど技術的な関係の話にもございましたけれども、我々のアンケート結果からは、表示が非常に分かりにくくなっているということもございますので、そこは対応していく必要があるのかなと思っています。

井岸氏
 清酒の場合、昔は特級とか1級とか2級とかという表示をしていて、それはイコール品質であるというふうに解釈されていたと思うのです。ですから清酒というカテゴリーに限って言うのであれば、ある種この意見というのは言えると思います。例えば、清酒の場合には、大吟醸から始まって、アルコール添加した酒まで清酒なのかも分かりませんけれども、アルコール全体で考えた場合には、ビールと発泡酒は別の酒なんだよという解釈に立つとこれは品質の問題ではないと思うのです。

亀井酒税企画官
 「検討内容の整理と論点」の内容については、第19回の懇談会の冒頭で、日本酒造組合中央会からこういった主旨の御発言があったので業界側の意見ということでここに書いております。
 「行き過ぎた価格競争から悪い循環」までは日本酒造組合中央会の御意見でございまして、「国税庁による公正取引委員会の阻止請求とか同委員会による警告」という公正取引委員会からの御説明もございました。3ページの上の方については、先ほどのアルコポップスの話だとか、未成年者へのアクセスの関係ということでどういった表示が必要かといった議論のときにも出てきた話です。それから「不当廉売を助長するような取引を鑑み、未成年者飲酒問題を誘引する」というのは蒸留酒酒造組合から意見がございましたので、議論の過程ということでこちらに掲げておったということでございます。

奥村座長
 ありがとうございました。
 それでは、そういう御意見が業界の方からのヒアリングで出てきていたという紹介はするということで、ただそれに対しては懇談会としてはどういう判断かというところを明確に打ち出したいと思いますので、まずその品質についてはどういう言葉の意味を持っているかということを一つはっきりさせましょう。それから行き過ぎた価格競争とか不当廉売というある種の事実概念で出てきているのだけれども、こういう業界の方が感じていらっしゃる状況というのは客観的に言えるかどうかという判断ですね。更に、これらのことが、未成年者飲酒問題を誘引するんだとおっしゃっているところがあるとすれば、そういう因果関係というのは論理的にはあり得るだろうかということと、定量的にはどうかということを考えなければいけないと思うのですが、定量的にどうかという検討については今からやることは難しいと思いますので、一応論理的にはあり得るかどうかと、それで今後の判断の課題としては定量的な分析をする枠組みを考えておかなければいけないというようなところで、整理をして行きましょうか。
 一応業界からのヒアリングでは、こういうことが言われていましたということの御紹介ということで位置付けてください。
 次の(5)も関わりを持ってまいりますので、今の点も踏まえた上で(5)の業界における社会的な要請への対応の現状というところへ移らせていただけますでしょうか。それに関しましては次の4ページにメンバーの先生方のこれまでの御意見というのをまとめていただいていますので、こちらも参照していただきたいと思います。
 事務局の方から最初に(5)について付け加えることがありますか。

亀井酒税企画官
 特にございません。各業界から、未成年者飲酒に関しこういうふうに取組をしていますとかいろいろな御紹介があったということを中心にまとめていきたいと思っているところでございます。

奥村座長
 そうすると(5)は、とりあえず業界の方の取組についてまとめているということですか。

亀井酒税企画官
 はい、そうでございます。

奥村座長
 それでは(5)は、その紹介ということで、3番の海外における調査内容というところへ移りたいと思います。
 資料について御説明してください。

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