15 相当の事由がなく加入者に不利となる受給資格の変更が行われていることはないか。また、相当の事由があると認められる場合以外において、給付の額の減額が行われていることはないか。

1. 趣旨
 受給資格は年金規程等の重要な定めであり、みだりに変更すべきではない。特に、受給資格の取得期間を延長することは、すでに受給資格を取得している加入者の既得権ないしは加入者の期待権を侵害することになり、相当の事由がなく行うことはできない。
 また、給付の額の減額は、「その減額を行わなければ掛金等の払込みが困難になると見込まれることその他の相当の事由があると認められる場合を除くほか、その減額を行うことができるものでないこと」とされている(法令附則第16条第1項第11号)。
 なお、年金資産の運用実績に給付の額を連動させるような給付設計はできないことに留意する。

2. 審査上の留意事項

(1) 受給資格の変更

イ 次に掲げる場合は、相当の事由があるものとして受給資格を変更することができる。

(イ) 定年給付のみの制度又は定年のみに年金の受給資格を付与している制度において、定年延長されたことに伴い、受給資格が新定年年齢に引上げられるとき。

(ロ) 制度の改善、合理化等を図るため、年金の受給資格を引上げて、従前の年金現価相当額を一時金に振替え支給するとき。

(ハ) 勤続期間の短い(おおむね10年未満)退職者に対する年金又は一時金の受給資格を延長するとき。
 ただし、その延長時における加入者については従前の受給資格が適用される旨の経過措置を設ける場合に限る。

ロ 次に掲げる場合において、労働組合又は使用人の過半数の同意(注)があるときは、相当の事由があるものとして、受給資格を変更することができる。

(イ) 年金額が僅少のため年金給付の目的に合わなくなった制度において、年金の受給資格の取得期間を延長し、全体として従前の総給付現価を上回るよう年金額を引上げるとき。

(ロ) 退職金規程の受給資格の取得期間を延長することに伴い、年金規程等の受給資格の取得期間を延長するとき。

(ハ) 新たに退職金の一部又は全部を移行し、給付改善を行うことに伴い、退職金規程の受給資格に合わせるため、年金規程等の受給資格の取得期間を延長するとき。

(ニ) 合併又は営業譲渡により退職給付の受給資格を変更しなければならなくなったことに伴い、年金規程等の受給資格を変更するとき。

(注) 受給資格を変更する場合において、総給付現価が変更前のそれを下回る場合は、給付の額の減額に該当するのであるが、(2)リに規定する相当の事由があると認められる場合に該当するものとして取り扱う。なお、この場合には、(2)の(注)の適用があることに留意する。

(2) 給付の額の減額
 法令附則第16条第1項第11号に規定する「その減額を行わなければ掛金等の払込みが困難になると見込まれることその他の相当の事由があると認められる場合」には、次に掲げる場合に行う加入者に係る給付の額の減額が該当する。

イ 受益者等が厚生年金基金の加入員となったため、又は既に厚生年金基金の加入員である当該受益者等に係る適格年金契約に基づく給付の額の一部を当該厚生年金基金に係る給付の額に含めるため、当該厚生年金基金に係る給付の額に含める部分に相当する給付の額を減額する場合の他、次に掲げるような場合。

(イ) 掛捨て保険料からなる遺族特約を廃止又は減額する場合。

(ロ) 年金現価額で減額されていない場合において、年金支給期間を短縮することに伴い、年金支給総額を減額する場合又は年金支給期間を延長することに伴い、年金月額(年額)を減額する場合。

(ハ) 変更時の加入者については従前の年金規程等による給付額を保証する旨の経過措置を設けたうえで、年金又は一時金の給付の額を減額する場合。

ロ 受益者等が確定給付企業年金の加入者となったため、又は既に確定給付企業年金の加入者である当該受益者等に係る適格年金契約に基づく給付の額の一部を確定給付企業年金に係る規約に基づく給付の額に含めるため、当該確定給付企業年金に係る規約に基づく給付の額に含める部分に相当する給付の額を減額する場合

ハ 受益者等が企業型年金加入者となったため、又は既に企業型年金加入者である当 該受益者等に係る適格年金契約に基づく給付の額の一部を当該企業型年金加入者の 個人別管理資産に充てるため、給付の額を減額し、確定拠出年金法第54条第1項及 び確定拠出年金法施行令附則第2条第3項の規定により適格年金契約の資産の移換を行う場合。

ニ 受益者等が中小企業退職金共済契約の被共済者となったため、当該受益者等に係る適格年金契約に基づく給付の額の一部を確定給付企業年金法附則第28条第1項に規定する被共済者持分額(以下「被共済者持分額」という。)に含めるため給付の額を減額し、独立行政法人勤労者退職金共済機構に引き渡す場合

ホ 給与水準の引上げ又は定年年齢の引上げ等雇用条件の改善の見返りとして、給付の額を減額する場合。

ヘ 事業主が経営不振の状態に陥ったため、給付の額を減額する場合。なお、次の事由が生じている場合には、これに該当するものとして取り扱うことができる。

(イ) 会社更生法の規定による更生手続き開始決定その他これに準ずる事実が生じたため、給付の額を減額する場合。

(ロ) 事業主が債務超過の状態に陥ったため、給付の額を減額する場合。

(ハ) 事業主の財務状況が低下してきていることから、その回復を図るために具体的なリストラ等の合理化策を講じており、年金規程等における給付の額も減額しなければその回復が困難であるため、給付の額を減額する場合。

ト 運用利回りの著しい低下や予定利率の引下げ等予期せざる事由により過去勤務債務等の額が著しく増加し、給付の額を減額しなければ掛金等の払込みが困難になると見込まれるため、新たに増加した過去勤務債務等の額に相当する金額の範囲内で給付の額を減額する場合。

(注) 掛金等の払込みが困難になると見込まれる場合において、例えば、いわゆる年金換算率を実勢利率までの水準に引き下げる方法によって給付の額を減額することができることに留意する。

チ 合併又は営業の譲渡に伴い、被合併法人又は営業の譲渡を行った事業主の適格年金契約の給付水準に合わせるため、当該給付水準を下回らない範囲内で給付の額を減額する場合。

リ その他給付の額を減額することにやむを得ない事由等相当の事由があると認められる場合。

(注) ハ、ニ、ホ、ヘ((イ)の場合を除く。)、ト、チ又はリの事由により給付の額を減額する場合には、申請書等に、加入者の3分の2以上の同意及び加入者の3分の1以上で組織する労働組合がある場合の当該労働組合の同意(加入者の3分の2以上で組織する労働組合がある場合には、当該労働組合の同意で加入者の3分の2以上の同意に代えることができる。)を得ていることを明らかにする書面を添付するものとする(ハ又はニの事由により適格年金契約の全部を解除することとなった場合も同様とする。)。

(3) その他の変更
 年金制度の合理化、給付形態の変更又は給与体系の変更に伴い、その時点で退職したと仮定した場合の給付の額が減額となる者が生じた場合において、労働組合の同意又はそれらの者から減額についての同意を得ている場合(総給付現価が変更前のそれを下回らない場合に限る。)は不利益変更に該当しないものとする。

(注) 給与体系の変更等により基準給与が増加したことに伴い、それに見合う支給率を引き下げる場合は、加入者全員について給付の額が変更前のそれを下回らないことに留意する。

3. 審査手続

(1) 対象契約
 受給資格及び給付額を変更した契約

(2) 審査書類
 申請書等、年金規程等(新、旧)、給与規程、退職金規程、労働協約、受給資格を変更する場合における労働組合又は使用人の過半数の同意書、給付の額を減額する場合における加入者の3分の2以上の同意書及び加入者の3分の1以上で組織する労働組合がある場合の当該労働組合の同意書、または給付の額を減額する場合における加入者の3分の2以上で組織する労働組合の同意書

(3) 審査手順
 申請書等、新旧年金規程等により受給資格及び給付額の変更を確認し、加入者に不利となる受給資格及び給付額の変更が行われている場合は、上記2の審査上の留意事項に定める基準に合致しているかどうかを確認する。

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