12 退職事由、職種、職階等の相違により、受給資格及び給付率(額)に不当な差別を設けていることはないか。

1. 趣旨
 一般に企業の退職金制度においては退職事由、職種、職階、学歴等により受給資格及び給付率(額)に格差を設けているが、適格年金契約においても、その格差が社会通念上妥当なものである場合には、不当差別に該当しないものとして取扱うことができる。
 ただし、事業主の恣意性の働く余地があると認められる場合は、不当差別に該当するのでこれらについて審査する。

2. 審査上の留意事項

(1) 退職事由による給付の差

イ 年金規程等における退職事由の区分の明確化
 退職事由別に受給資格及び給付率(額)に格差を設ける場合には、年金規程等(労働協約又は就業規則の規定を引用する場合を含む。)に定年、自己都合、会社都合及びその他の退職事由が明確に規定されていることが必要である。

ロ 退職事由別に異なる受給資格及び給付率(額)
 退職事由により受給資格及び給付率(額)に格差を設ける場合には、その格差が社会通念上妥当な範囲内のものであるときは、不当差別に該当しないものとして取扱うことができる。また、自己都合退職を会社の恣意性が入る例えばやむを得ない退職とその他の退職とに区分して、それぞれ異なる受給資格及び給付率(額)を適用することはできない。

(注) 死亡退職については、保証期間のない年金給付のみの制度及び年金制度外においてそれが担保されている場合は受給資格を付与しない等の取扱いができる。

(2) 職種等による給付の差
 職種等が異なるだけの理由で給付に相当以上の差を設けることは不当差別になるが、次に掲げる場合には不当差別に該当しないものとして取扱うことができる。

イ 職員は就業規則、工員は労働協約により定められている等のため、それぞれ別個の退職金(年金)規程が適用されていることにより、給付に差が生ぜざるを得ない場合であって、かつその差が不当であると認められない程度のものであるとき。

ロ 職員及び工員に同一の就業規則が適用される場合であっても、両者の給与体系若しくは基準給与に差異があること又は退職金(年金)規程における受給資格及び給付率(額)に差があること等により給付に差を設けることに相当の理由があり、かつ、その差が不当であると認められない程度のものであるとき。

(注1) 上記イの場合には、複数の組合が存在するため労働協約が異なるものを含む。

(注2) 上記イ及びロにおいては陸上員、船員、作業員等の職種の区分や事業部制等による区分についても適用する。

(注3) 上記ロの「相当の理由」とは就業規則上職種が明文化されている等加入者の職種が明確に区分されているものをいう。

(3) 職階の相違による給付率(額)の差
 勤続(加入)期間又は給与にかかわりなく、職階の相違による理由のみで給付率(額)に差を設けることは、不当差別に該当するものとする。
 ただし、他の条件による給付率(額)が加算されることにより給付額総額に格差が生じる場合で、その差が不当であると認められない程度のものであるときはこの限りではない。

(4) 学歴の相違による給付率(額)の差
 学歴の相違による理由のみで、給付率(額)に差を設けることは、不当差別に該当するものとする。ただし、その差が不当であると認められない程度のものであるときはこの限りではない。

(5) 被合併法人から引継いだ従業員についての給付率(額)の差
 合併条件等により、被合併法人から引継いだ従業員について、合併後の勤続(加入)期間に対応する部分は合併後の年金規程等に基づく給付率(額)を、合併前の勤続(加入)期間に対応する部分は合併前の年金規程等に基づく給付率(額)をそれぞれ適用して決定している場合は、不当差別に該当しないものとする。

(6) 特定の使用人が確定給付企業年金の加入者である場合における給付率(額)の差
 給付の額の一部を確定給付企業年金の加入者となった特定の使用人又は既に確定給付企業年金の加入者である特定の使用人の確定給付企業年金法第3条第1項に規定する確定給付企業年金に係る規約(以下「確定給付企業年金に係る規約」という。)に基づく給付の額に含めるため、契約の一部を解除する場合において、当該特定の使用人とそれ以外の者との間で給付率(額)の差が生じるときは不当差別に該当しないものとする。

(7) 特定の使用人が企業型年金加入者である場合における給付率(額)の差
 給付の額の一部を企業型年金加入者となった特定の使用人又は既に企業型年金加入者 である特定の使用人の確定拠出年金法第2条第12項に規定する個人別管理資産(以下「個人別管理資産」という。)に充てるため、契約の一部を解除する場合において、当該特定の使用人とそれ以外の者との間で給付率(額)の差が生じるときは不当差別に該当しないものとする。

(8) 上記(1)から(7)の取扱いのほか、年金規程等が労働協約により定められている場合又は使用人(加入者の範囲から除外された使用人を除く。)全員の同意を得ている場合で、その定めが他の法令の規定及び社会通念上妥当であると認められるときは、不当差別に該当しないものとして取扱うことができる。

(注) 上記(2)から(4)において「その差が不当であると認められない程度」とは、一般的には両者の受給資格及び給付率(額)の差が社会通念上妥当であると認められる場合をいい、例えば、就業規則又は労働協約等に定める職種間における退職金の差異と同一比率の範囲内であるものをいう。

3. 審査手続

(1) 対象契約
 新規契約、受給資格を変更した契約、給付率(額)を変更した契約

(2) 審査書類
 申請書等、年金規程等、退職金規程、就業規則又は労働協約、使用人全員の同意書、企業型年金規約承認通知(写)、確定給付企業年金規約承認通知(写)

(3) 審査手順
 年金規程等で退職事由、職種、職階、学歴等により受給資格及び給付率(額)に格差を設けていないかどうかを確認し、格差を設けている場合にはその格差に恣意性の働く余地がないかどうか、また、その差が上記2の審査上の留意事項に定める基準に合致しているかどうかを確認する。


13 給付制限をしているのは、懲戒解雇者又は社会通念上給付を制限することが相当であると認められる場合のみになっているか。

1. 趣旨
 適格年金契約においては、特定の従業員に対する給付の額を制限することは不当差別に該当することとなるが、懲戒解雇処分を受けた者について退職金の全部又は一部を支給しないことが一般に行われているので、年金規程等においても一定の要件を満たす場合には、給付を制限することができる。

2. 審査上の留意事項

(1) 懲戒解雇者又は諭旨解雇者(実質的には懲戒解雇者であるが、懲戒解雇の発令のみ留保された退職者)につき、次の要件を満たしている場合には、給付を全く行わないか、又は減額することができる。

イ 懲戒解雇事由を就業規則で明定していること。

ロ 懲戒解雇者又は諭旨解雇者に対して給付を行わない旨又は給付制限をする旨を年金規程等で明定していること。

(2) 年金受給中の者につき、次の要件を満たしている場合には、給付を制限することができる。
 退職後一定期間内に発覚した在職中の行為で明らかに懲戒解雇に該当すると判断される不当行為があり、かつ給付を制限する旨を年金規程等で明定していること。

3. 審査手続

(1) 対象契約
 新規契約、新たに給付制限がなされた契約

(2) 審査書類
 年金規程等、就業規則

(3) 審査手順
 年金規程等に給付の制限が規定されている場合には、当該給付制限条項及び就業規則の関係条項の内容が上記2の審査上の留意事項に定める基準に合致しているかどうかを確認する。


14 選択一時金及び少額一時金の規定は正しく定められているか。

1. 趣旨
 年金制度の趣旨から、年金受給資格者には、原則として年金を支給すべきであるが、現在の社会情勢のもとでは、退職時又はその後に多額の一時金を必要とする場合が多いため、年金に代えて一時金の給付を選択することができることになっている。しかし、無条件に一時金の選択を認めることは、年金給付を原則としている見地から問題が生ずるので、一定の要件が定められている。

2. 審査上の留意事項

(1) 選択一時金

イ 選択の事由
 年金に代えて支給する一時金を選択することができる場合には、受給権を取得した使用人等又は現に年金を受給中の者が次に掲げる特別の事情により、一時金給付を希望する場合であり、あらかじめ年金規程等に明定しておくことが必要である。

(イ) 災害

(ロ) 重疾病、後遺症を伴う重度の心身障害又は死亡(生計を一にする親族の重疾病、後遺症を伴う重度の心身障害又は死亡を含む。)

(ハ) 住宅の取得

(ニ) 生計を一にする親族の結婚又は進学

(ホ) 債務の弁済

(ヘ) その他前各号に準ずる事実

ロ 選択の時期
 年金に代えて支給する一時金を選択できる時期は、受給開始後、年金規程に定める一定期間内とし、繰延期間中においても選択することができる。

ハ 選択の方法

(イ) 原則として、全額選択することが必要であるが、退職時から受給開始時までの間において、年金現価額の一部を選択することもできるものとする。なお、この場合には、選択の割合又は選択の部分等について年金規程等に明定されていなければならない。

(ロ) 選択一時金額は、年金現価額以下とすること。
 ただし、特例適格年金契約については、自主審査要領36によるものとする。

(ハ) 保証期間付終身年金及び保証期間付有期年金における選択一時金額は、退職時から支給開始時までに選択するときは、保証期間経過後の年金現価額を含めた年金現価額以下とすることができるが、支給開始後に選択するときは、保証期間から既に年金を支給した期間を控除した後の期間(以下、「残存保証期間」という。)の年金現価額以下とすることが必要である。
 ただし、特例適格年金契約については、自主審査要領36によるものとする。

(ニ) 選択一時金の年金現価率は、実勢利率を使用するものとし、あらかじめ年金規程等にその年金現価率を明定しておかなければならない。

(2) 少額一時金
 年金月額が少額の場合には年金に代えて一時金とすることも年金規程等に明定されていれば差支えない。

3. 審査手続

(1) 対象契約
 新規契約、選択一時金・少額一時金がある契約に変更した契約、選択一時金の選択方法を変更した契約

(2) 審査書類
 申請書等、年金規程等

(3) 審査手順
 申請書等及び年金規程等により、選択一時金及び少額一時金の有無を確認し、それがある場合は、年金規程等における当該条項の内容が上記2の審査上の留意事項に定める基準に合致しているかどうかを確認する。

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