1 事前照会の趣旨及び事実関係

(1) 事実関係
イ 被相続人甲は、平成25年以前まで、A市所在の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物ではありません。以下「従前建物」といいます。)及びその敷地を所有し、当該建物について一部を被相続人甲の次男家族(被相続人甲と生計別の親族)に使用貸借により使用させていたほかは、被相続人甲の同族会社(以下「乙社」といいます。)に賃貸していました。
ロ 被相続人甲は、平成25年2月、都市再開発法に基づく第一種市街地再開発事業(施行者:A市)に係る権利変換(以下「本件権利変換」といいます。)により、同事業において建築される施設建築物の一部を取得する権利及びその敷地に関する権利を取得しました。
ハ 被相続人甲は、平成30年3月30日、本件権利変換により施設建築物の西棟1階の一室(以下「本件店舗」といいます。)及び東棟35階の一室(以下「本件住戸」といいます。)の所有権(区分所有建物である旨の登記がされています。)並びにそれらの敷地権を取得し、その引渡しを受けたので、同年4月1日に本件店舗を乙社に賃貸(乙社は第三者へ転貸)し、同年12月に本件住戸を第三者に賃貸しました。
 なお、被相続人甲は、本件住戸について、平成30年3月30日にA市から引渡しを受けた後、速やかに新たな賃借人の募集を行いました。
ニ 被相続人甲は、令和3年2月に死亡しました。
(2) 事前照会の趣旨
 このような事実関係を前提として、相続開始時点において賃貸していた本件店舗及び本件住戸の敷地の用に供されていた宅地(以下「本件宅地」といいます。)のうち、本件権利変換前において従前建物に係る乙社に賃貸していた部分に対応する部分は、市街地再開発事業によってやむを得ず貸付事業の用に供することができなかったものであるため、租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)第69条の4第3項第4号の「相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等」に当たらないことから、同号に規定する貸付事業用宅地等(以下「貸付事業用宅地等」といいます。)に該当するものとして、同条に規定する小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「本件特例」といいます。)の適用を受けることができると解してよいか、照会します。
 なお、被相続人甲の相続人は、本件特例に係る他の要件を満たしています。

2 事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 関係法令等
 本件特例は、相続人等の生活基盤の維持のために欠くことができない事業等の用に供されていた小規模な宅地等について、相続税の課税上、特別の配慮を加えることとするものであり、平成30年改正法(所得税法等の一部を改正する法律(平成30年法律第7号)をいいます。以下同じです。)による措置法改正において、相続開始前に貸付用不動産を購入し本件特例の適用を受けることによる節税策に対応するため、貸付事業用宅地等の範囲から「相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等」が除かれています。
 したがって、本件宅地が、貸付事業用宅地等に該当するには、本件宅地が、「相続開始前3年以内(本件では、平成30年改正法附則第118条第4項の規定により、平成30年4月1日以後)に新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないことが要件の一つとされます。
 この「新たに貸付事業の用に供された」とは、宅地等又はその上にある建物等につき「何らの利用がされていない場合」の当該宅地等が貸付事業の用に供された場合をいうことと解され、例えば、継続的に賃貸されていた建物等につき建替えが行われた場合において、建物等の建替え後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、賃貸されていたときのように、貸付事業に係る建物等が一時的に賃貸されていなかったと認められるときには、上記の「何らの利用がされていない場合」に該当しないことと解されます(租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて(法令解釈通達)69の4−24の3)。
 また、都市再開発法に基づく第一種市街地再開発事業が施行された場合には、従前の権利者は、権利変換期日を以って施行地区内の土地及び建築物についての所有権等を失うため、当該土地及び建築物の占有権限を失うことになり(都市再開発法95)、当該事業の施行者が通知した明渡しの期限までに、施行者に権利変換前の不動産を引き渡さなければならず(同法96①③)、これに応じない場合には、都道府県知事が施行者の請求を受けて行政代執行法の定めるところに従い当該不動産の明渡しを強制的に実現させることができることとされています(同法98②)。
 なお、土地区画整理事業の施行中に相続が開始し、土地区画整理事業の施行区域内にある土地が本件特例の適用の対象となるかについて判示している最高裁平成19年1月23日第三小法廷判決では、土地区画整理事業により、被相続人が従前居住の用に供していた宅地及びその仮換地について使用収益が禁止された結果、いずれの土地もやむを得ず居住の用に供することができない状況であったとして、仮換地を居住の用に供する予定がなかったと認めるに足りる特段の事情のない限り、当該宅地は相続開始時点において本件特例にいう居住の用に供されていた宅地に当たるとしています。
 この最高裁判決は、土地区画整理事業に係る宅地について、相続開始時点において居住の用に供されていた宅地に該当するか否かを判断したものですが、法令の規定に基づき、土地所有者に対し土地利用の制約が及ぶという点では、土地区画整理事業と上記の第一種市街地再開発事業とは共通しており、加えて、本件特例の趣旨及び「新たに貸付事業の用に供された宅地等」が本件特例の対象から除かれている趣旨を踏まえれば、第一種市街地再開発事業により宅地等を貸付事業の用に供することができなかった場合についても、当該事情が解消された際に貸付事業の用に供する予定がなかったと認めるに足りる特段の事情がない限り、やむを得ず従前から営んでいた貸付事業が一時的に中断されたに過ぎないと考えられることから、当該事情の解消後に貸付事業の用に供された宅地等は、本件特例の適用対象から除かれる「新たに貸付事業の用に供された宅地等」には該当しないと考えられます。
(2) 当てはめ
 本件についてみると、被相続人甲は、平成25年以前より、従前建物及びその敷地を貸付事業の用に供していたところ、同年に、都市再開発法に基づく本件権利変換により、従前建物及びその敷地の明渡しを余儀なくされた結果、これらを明け渡した日から本件店舗及び本件住戸の引渡しを受けた平成30年3月30日までの間、やむを得ず従前建物及びその敷地を貸付事業の用に供することができなかったものと考えられます。
 また、被相続人甲は、平成30年3月30日に本件店舗及び本件住戸の引渡しを受けた後、本件店舗を同年4月1日に乙社に賃貸していることや、本件住戸について速やかに新たな賃借人の募集を行っていることを踏まえると、被相続人甲は、平成30年3月31日以前に本件店舗及び本件住戸を貸し付けることができない状況にあり、その状況が解消された際に貸付事業の用に供する予定がなかったと認めるに足りる特段の事情はありません。
 以上のことから、本件宅地は、やむを得ず従前から営んでいた貸付事業が一時的に中断されたに過ぎないことから、本件権利変換前において従前建物に係る乙社に賃貸していた部分に相当する部分は、本件特例の適用の対象から除かれる「新たに貸付事業の用に供された宅地等」には当たらないため、他の要件を満たす限り、貸付事業用宅地等に該当するものとして、本件特例の適用を受けることができると考えられます。