(別紙1)

1 事実関係

 社団法人日本獣医師会(以下「獣医師会」といいます。)は、獣医学術の振興・普及、獣医事の向上等を図ることを目的として設立された法人です。
獣医師会の会員は、社団法人都道府県・政令市獣医師会でありますが、その会員を構成する獣医師の多数が動物病院などの日本産業分類にいう「獣医業」を営んでいるところであり、医療用機器等を取得して「獣医業」の用に供しているところです。
一般に、一定の要件を満たす医療用機器等を取得して「医療保健業」の用に供した場合には、租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)第45条の2《医療用機器等の特別償却》に規定する特別償却制度(以下「本制度」といいます。)の適用対象となるところ、これを「獣医業」の用に供した場合における本制度の適用関係を整理するため、下記「2 照会事項」に掲げるとおり解して差し支えないか、ここに照会いたします。
なお、本制度の概要等については下記3において、照会者としての見解は下記4において記載しておりますので、検討のほどよろしくお願いいたします。 

2 照会事項

(1) 本制度は、「青色申告書を提出する法人で医療保健業を営むもの」(措置法45の2123)が適用対象法人となりますが、この「医療保健業を営むもの」には「獣医業を営むもの」が含まれると解して差し支えありませんか。

(2) 本制度の適用対象資産については、措置法第45条の2第1項各号並びに同条第2項及び第3項に規定されているところですが、「獣医業を営むもの」が適用対象法人である場合には、同条第1項第1号及び第2号に規定されている減価償却資産のみが本制度の適用対象資産となると解して差し支えありませんか。

(3) 上記(1)及び(2)が是認されることを前提とした場合、所得税における青色申告書を提出する個人に対する措置法第12条の2《医療用機器等の特別償却》に規定する特別償却の制度についても、上記(1)及び(2)と同様に解して差し支えありませんか。

3 本制度の概要等

(1) 本制度の概要
本制度は、青色申告書を提出する法人で医療保健業を営むものが、適用期間内に医療用機器などの一定のもの(以下「医療用機器等」といいます。)の取得等をして、これを当該法人の営む医療保健業の用に供した場合に、特別償却を認めるという制度とされています(措置法45の2123)。

(注) 適用期間は、措置法第45条の2第1項においては「昭和54年4月1日から平成23年3月31日まで」、同条第2項においては「平成19年4月1日から平成23年3月31日まで」、同条第3項においては「平成13年4月1日から平成23年3月31日まで」とされています。

(2) 医療保健業への該当性について
法人の営む事業が措置法第45条の2第1項から第3項までに規定する医療保健業に該当するかどうかは、おおむね日本標準産業分類の分類を基準として判定するという取扱いが明らかにされています(措通45の2−4)。

(3) 本制度の対象機器の範囲
本制度の対象となる減価償却資産は、それぞれ次に掲げる規定においてそれぞれ次のとおり定められています。

  • 1 措置法第45条の2第1項第1号
    一定規模以上の医療用の機械及び装置並びに器具及び備品のうち、高度な医療の提供に資するもの又は先進的なものとして一定のもの(以下「1号対象機械等」といいます。)
  • 2 措置法第45条の2第1項第2号
    医療の安全の確保に資する機械及び装置並びに器具及び備品で一定のもの(以下「2号対象機械等」といいます。)
  • 3 措置法第45条の2第1項第3号
    感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症予防法」といいます。)第6条第7項第1号に規定する新型インフルエンザに係る医療の提供を目的とする病床の確保に資する機械及び装置並びに器具及び備品で一定のもの(以下「3号対象機械等」といいます。)
  • 4 措置法第45条の2第2項
    その有する病院用の建物等のうち次に掲げる施設の用に供されている部分を介護保険法第8条第25項に規定する介護老人保健施設等とするための増改築のための工事によって取得し、又は建設した建物及びその附属設備の部分(以下「2項対象建物等」といいます。)
    • @ 介護保険法第8条第26項に規定する介護療養型医療施設の療養病床等(療養病床以外の病院の病床に係る部分に限ります。)のうち一定の病床に入院する患者のための施設
    • A 医療法第7条第2項第4号に規定する療養病床に入院する患者のための施設
  • 5 措置法第45条の2第3項
    医療保健業の用に供していた病院用建物等(一定のものを除きます。)についてその用途を廃止し、これに代わるものとして新たに建設されたその建設の後事業の用に供されたことのない病院用建物等で医療法第21条第1項等の規定に基づく病院等の施設及び構造設備の基準を満たすもの(以下「3項対象建物等」といいます。)

4 照会者としての見解

(1) 照会事項2(1)について(獣医業の医療保健業の該当性)

イ 上記3(2)のとおり、本制度の適用対象事業となる「医療保健業」に該当するかどうかは、おおむね日本標準産業分類の分類を基準として判定することとされています。
日本標準産業分類においては、本制度の適用対象として疑いのない「病院」は「医療業」(「大分類P医療、福祉・中分類83医療業・小分類831病院」)と区分され、「動物病院」は「獣医業」(「大分類L学術研究、専門・技術サービス業・中分類74技術サービス・小分類741獣医業」)に区分されていることから、日本標準産業分類の分類を基準とした場合、「獣医業」は「病院」とは大分類から異なることから「医療保健業」に含まれないとも考えられます。

ロ しかしながら、日本標準産業分類では「医療保健業」という事業が明示的に定められておらず、上記3(2)の取扱いにおいてもおおむね日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定することを明らかにしていることとされていることからすれば、本制度の「医療保健業」には日本標準産業分類の「獣医業」が含まれていないとまで言うことはできず、また、次の点を踏まえれば、日本標準産業分類の「獣医業」は本制度上の「医療保健業」に含まれると解することが相当です。

  • @ 日本標準産業分類においては、「獣医業」は「獣医学上の内科的、外科的、歯科的サービスを提供する事業所」と定められており、動物に対するものではあるものの「医」に係るサービスを提供する事業所と考えられます。
  • A 広辞苑によれば、「医師」とは「病気の診察・治療を業とする人。医者。」とされ、「獣医」とは「家畜・愛玩動物の疾病の診察・治療に当たる医師。・・(省略)・・。獣医師。」とされており、獣医はその対象が家畜・愛玩動物に限定されているものの、いずれも病気(又は疾病)の診察・治療を行う点では一致しています。
  • B 獣医師法第1条(獣医師の任務)は、「獣医師は、飼育動物に関する診療及び保健衛生の指導その他の獣医事をつかさどることによって、動物に関する保健衛生の向上及び畜産業の発達を図り、あわせて公衆衛生の向上に寄与するものとする。」と定められております。
    一方、医師法第1条は、「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」とされ、いずれも診療等及び保健に係る指導を通じて公衆衛生の向上への寄与を任務とする点でも一致しています。
  • C 上記のとおり、医師と獣医師が行う業務は、対象こそ異なるものの同様の業務を行っているものと考えられるところ、本制度の「医療保健業」についても特にその対象が人間であることを要件とする規定は存しないため、「獣医業」が本制度の「医療保健業」から除かれると解することはできません。
  • (注) 収益事業課税に係る法人税法上の取扱いではありますが、法人税法施行令第5条第1項第29号《医療保健業》の「医療保健業」には「獣医業」が含められる旨の取扱いが明らかにされており(基通15−1-56)、法人税法という措置法とは異なる法律に対する取扱いではありますが、いずれも法人税に関する法律であり、それぞれの法律で規定された「医療保健業」という同一の文言の範囲が異なるとすることは整合性に欠けるとも考えられ、この点からも「獣医業」が本制度の「医療保健業」から除かれると解することは相当ではないと考えられます。

(2) 照会事項2(2)について(対象機器の範囲)

イ 上記(1)のとおり、本制度の対象となる「医療保健業」に「獣医業」が含まれるとすれば、上記3(3)1の「1号対象機械等」から同5の「3項対象建物等」までに掲げる本制度の適用対象となる減価償却資産を「獣医業」の用に供していれば、本制度の適用を受けることができるとも考えられます。

ロ しかしながら、3号対象機械等、2項対象建物等及び3項対象建物等は、その根拠法令が人間を対象とした法律である感染症予防法、介護保険法及び医療法であることからも明らかなとおり、仮に上記(1)で「獣医業」が本制度の適用対象となる事業に含まれると解することができたとしても、「獣医業」の用に供される機械や建物などが3号対象機械等、2項対象建物等及び3項対象建物等に該当することはなく、結果として「獣医業」の用に供する場合には1号対象機械等及び2号対象機械等のみが本制度の適用対象となると解されます。

(注) 感染症予防法、介護保険法及び医療法においては、それぞれの法律の目的(各法律の第1条)に「感染の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定める」(感染症予防法)、「国民の保健医療の向上」(介護保険法)又は「国民の健康の保持に寄与」(医療法)と規定されており、人間を対象とした法律であることが明らかとなっています。

ハ なお、1号対象機械等及び2号対象機械等が本制度の適用対象資産とされた際の税制改正の趣旨として、当時の「改正税法のすべて」において、「高度な機能を有する新鋭の医療用機器の導入の促進」(1号対象機械等)、「ヒューマンエラーが起きにくい医療機器や、万が一ヒューマンエラーが起きた場合にも事故につながりにくい医療機器の購入を促進」(2号対象機械等)とされ、いずれも医療行為の対象に着目したものではなく、高性能の医療機器の導入促進を趣旨としていることからも、1号対象機械等及び2号対象機械等については、「獣医業」の用に供した場合であっても本制度の適用対象となると解することとなると考えられます。

(注) 「1号対象機械等」から「3項対象建物等」までの減価償却資産が本制度の適用対象となった際の趣旨等は次のとおりとされています(「改正税法のすべて」、「税制改正の解説」参照)。

  • 1 1号対象機械等(昭和54年税制改正)
    「そこで、これらの高度な機能を有する新鋭の医療用機器の導入を促進することは、医学医術の進歩に伴う高度な医療を提供していくうえで緊要なことと考えられますし、また、医療用機器は現行の中小企業者の機械装置の特別償却の適用対象となっていないことにも顧み、今回、特別償却制度が設けられることとなりました。」とされています。
  • 2 2号対象機械等(平成15年税制改正)
    「最近における医療事故を契機として、近年、医療の安全性についての意識が高まっています。・・・医療機器の構造や操作性がヒューマンエラーにつながる大きな原因の一つ・・・。そこで、ヒューマンエラーが起きにくい医療機器や、万が一ヒューマンエラーが起きた場合にも事故につながりにくい医療機器の購入を促進することにより、医療事故の減少を促進しようというものです。」とされています。
  • 3 3号対象機械等(平成21年税制改正)
    「新型インフルエンザが発生した場合には、全国で必要となる病床数は約10万床と推計・・・、これを速やかに確保するなど医療提供体制を整備することが必要・・・。・・・『ワクチン等の研究開発・備蓄、医療体制の整備など、新型インフルエンザ対策の強化を行う』こととされています。こうした状況を踏まえ、新型インフルエンザ対策に資する機器の取得等をした場合に特別償却を行うことができる税制上の支援措置が講じられました。」とされています。
  • 4 2項対象建物等(平成3年税制改正)
    「・・・要介護老人対策は長寿社会に向けての緊急の課題となっています。このため、医療サービスと生活サービスの提供や、地域における在宅ケアの拠点となる老人保健施設の計画的な整備を、今後ますます図っていく必要があるため、税制でも支援することとしたものです。」とされており、平成19年税制改正においては適用対象資産につき改正がなされているものの、特にその趣旨が変わった旨の記載はないことから、踏襲されているものと考えられます。
  • 5 3項対象建物等(平成13年税制改正)
    「高齢化の進展等に伴う疾病構造の変化などを踏まえ、良質な医療を効率的に提供する体制を確立するため、入院医療を提供する体制の整備、医療における情報提供の推進等を図ることを目的とした医療法等の一部を改正する法律・・・平成13年3月1日から施行されているところです。・・・入院医療を提供する体制の整備を図る観点から、・・・構造設備基準の見直し等が行われています・・・。このような状況を踏まえ、改正後の医療法の構造設備基準に適合する病院への建替えについて、税制においても、良質な医療を提供する体制の確立に資するとの観点から、・・・一定の建替え病院用建物に係る措置が追加されました。」とされています。

(3) 照会事項2(3)について(所得税における取扱い)
措置法第12条の2に規定する特別償却の制度は、本制度とは異なり、青色申告書を提出する個人の所得税に適用されるものではありますが、適用対象となる「医療保健業」及び適用対象となる減価償却資産に係る規定は同様のものとなっていることから、上記(1)及び(2)が是認されることを前提とすれば、当然に措置法第12条の2に規定する特別償却の制度においても同様に解することができると考えております。

○ 国税庁文書回答税目別検索