1 事前照会の趣旨

  1. (1) 連携病理診断の概要
     病理診断(患者の人体から採取した病変の組織や細胞を観察して病変を診断すること)は、平成20年の医療法施行令改正により、「病理診断科」の名称で標榜診療科(医業に関して広告できる診療科名)として認められました。
     また、健康保険法に基づく療養の給付に要する費用(以下「診療報酬」といいます。)の平成24年度改定において、病理診断管理加算が診療報酬として認められるとともに、患者が受診した保険医療機関において、患者から採取した検体又は検体から作製した標本(以下「標本等」といいます。)を所定の施設基準等を満たす保険医療機関に送付し、当該保険医療機関が病理診断を行ってその結果を報告するという「保険医療機関間の連携による病理診断」の仕組み(以下、当該仕組みを「連携病理診断」といい、標本等を送付する保険医療機関を「送付側医療機関」、標本等を受け取って病理診断を行う保険医療機関を「受取側医療機関」といいます。)が創設されました。
     連携病理診断を行った場合、送付側医療機関において病理診断料(病理診断管理加算を含みます。)を算定できることとされており、受取側医療機関における診断等に係る費用は、送付側医療機関と受取側医療機関における相互の合議に委ねることとされています(令和6年3月5日保医発0305第4号第2章第13部)。
  2. (2) 照会事項
     私は、病理診断を専門に行う医師であり、病理診断科を標榜する診療所(以下「本件診療所」といいます。)を開設して、健康保険法上の保険医療機関としての指定を受けました。本件診療所は、受取側医療機関として満たすべき施設基準等を満たしており、連携病理診断を行うに当たっては、その旨の届出を行うこととしています。
     今般、本件診療所は、複数の保険医療機関と連携して病理診断(以下「本件病理診断」といいます。)を行うため、連携先ごとに本件病理診断に係る費用の支払等について契約を締結し、連携した保険医療機関(以下「連携先医療機関」といいます。)が受領した診療報酬のうち当該契約で定められた額の金銭(以下「本件金員」といいます。)について、支払を受けることとしています。
     そこで、次のイ及びロについて照会します。
    1. イ 本件金員は、消費税法上非課税となる健康保険法の規定に基づく「療養の給付」(消費税法第6条及び別表第二第6号イ)の対価に該当するものと解して差し支えないでしょうか。
    2. ロ 事業所得の金額の計算上、租税特別措置法第26条第1項にいう「社会保険診療につき支払を受けるべき金額を有する場合」に該当するものとして、その他の要件を満たす場合には、同項を適用することができると解して差し支えないでしょうか。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

  1. (1) 本件診療所が連携先医療機関と行う連携病理診断の業務
     本件における業務の主な流れは、以下のとおりです。

    (取引図)

    取引図
    1. イ 本件診療所と連携先医療機関は、連携病理診断を行うために必要な事項(双方の業務と責任の範囲、本件病理診断に係る費用の支払等)について、契約を締結します(上図@)。
    2. ロ 連携先医療機関は、生検・手術等により採取した患者の組織・細胞検体、又は検査センターに作製を依頼するなどした標本を本件診療所に送付します(上図AB)。
       なお、検体又は標本の作製・送付は、連携先医療機関及び検査センターの責任において行い、それらに係る費用は連携先医療機関が負担します。
    3. ※ 契約によっては、連携病理診断の仕組みの範囲内で、本件診療所側の責任において標本の作製を行い、本件診療所が費用を負担することもあります。
    4. ハ 本件診療所は、送付された標本等に基づいて病理診断を行い、病理診断報告書等の作成及び連携先医療機関への送付(病理診断結果の報告)を行います(上図C)。
       なお、病理診断結果の報告は本件診療所の責任において行い、それらに係る費用は本件診療所が負担します。
    5. ニ 連携先医療機関は、患者に対し、病理診断の結果を伝えます(上図D)。
       患者の要望がある場合には、本件診療所が対面等の方法により、直接病理診断の内容について説明を行います。
       なお、連携先医療機関は、病理診断の内容について自らの判断で変更することはできず、その内容に疑義がある場合には本件診療所に相談し、本件診療所が必要に応じて病理診断の結果等を訂正します。
    6. ホ 連携先医療機関は、患者に対して、連携病理診断に係る診療報酬の一部負担金の請求を行い、支払を受けます(上図E)。
    7. ヘ 連携先医療機関は、審査・支払機関に対して、連携病理診断に係る診療報酬(一部負担金の額を除きます。)の請求を行い、支払を受けます(上図FG)。
    8. ト 連携先医療機関は、本件診療所に対し、上記イの契約で定められた額の金銭(本件金員)を支払います(上図H)。
  1. (2) 本件病理診断の性質
     連携病理診断の仕組みに基づく本件病理診断の性質については、次のとおりであり、これらの事項を照会の前提とします。
    1. イ 連携病理診断は、医療提供体制の充実等を図るため、所定の届出を行った保険医療機関間の連携による病理診断が行われた場合は、送付側医療機関において診療報酬上の病理診断料の算定を行い、報酬(=費用)の支払は保険医療機関間の合議によるとするものであり、飽くまでも診療報酬の算定における枠組みです。
    2. ロ 連携病理診断は同一疾病に係る一連の診療の中で患者に対して行われるものであるところ、次のことから、受取側医療機関は、送付側医療機関が行う医療サービスとは別個の独立した療養の給付を当該患者に対して行っているものと考えられます。
    3. (イ) 一般的に、病理診断について療養の給付として病理診断料の算定が認められるためには、病理診断を専ら担当する医師の勤務実態が要件として求められているところ、連携病理診断の枠組みでは、当該医師の勤務実態は受取側医療機関における要件とされているため、受取側医療機関が行う病理診断行為は、療養の給付に該当するための重要な要素を具備していると評価できます。
      (ロ) 送付側医療機関は、受取側医療機関による病理診断の内容を自らの判断で変更することができません。
    4. ハ 連携病理診断の仕組みにより送付側医療機関が算定・支払を受ける診療報酬には、受取側医療機関が行った療養の給付に対する診療報酬も含まれている、すなわち、送付側医療機関から受取側医療機関に支払われる金銭は、送付側医療機関を窓口として審査・支払機関等から支払われる診療報酬の一部を分配するものであると考えられます。

3 上記2の事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由

  1. (1) 健康保険法の規定に基づく療養の給付に関する消費税及び所得税の規定
     消費税法上、健康保険法等の規定に基づく療養の給付等は、非課税とされています(消費税法第6条第1項、別表第二第6号イ)。
     また、租税特別措置法第26条第1項は、医業又は歯科医業を営む個人が、各年において社会保険診療につき支払を受けるべき金額を有する場合においては、一定の要件の下、その年分の事業所得の金額の計算上、当該社会保険診療に係る費用として必要経費に算入する金額について、当該支払を受けるべき金額に応じて定められた率を用いて計算した金額とする旨規定し、同条第2項第1号は、同条第1項の社会保険診療とは、健康保険法等の規定に基づく療養の給付等をいうとしています。
  2. (2) 本件病理診断への当てはめ
     本件診療所が行う本件病理診断は連携病理診断の仕組みに基づくものであることから、上記2(2)のとおり、本件病理診断は、連携先医療機関が行う医療サービスとは別個の独立した療養の給付であり、また、連携先医療機関から本件診療所に支払われる金銭は、審査・支払機関等から支払われる療養の給付に対する診療報酬の一部を分配したものであると考えられます。
     そうすると、本件診療所は自ら被保険者(患者)に対して療養の給付を行い、当該療養の給付に対して支払を受けるべき診療報酬について、連携先医療機関を通じて受け取るものと考えられます。
     したがって、本件金員は、健康保険法の規定に基づく「療養の給付」の対価に該当し、また、本件診療所は、「社会保険診療につき支払を受けるべき金額を有する」ものと考えます。
  3. (3) 結論
     以上のことから、本件金員は、消費税法第6条及び別表第二第6号イにより消費税が非課税となるものであり、また、事業所得の金額の計算上、その他の要件を満たす限り、租税特別措置法第26条第1項を適用することができると考えます。

以上

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