別紙

1 事前照会の趣旨
 株式会社が、会社法第197条《株式の競売》第2項に基づき、同条第1項に規定する株式の株主(以下「所在不明株主」といいます。)の当該株式を市場で売却した場合において、個人である所在不明株主の課税関係について、次のとおり解して差し支えないか、ご照会申し上げます。
  1. (1) 個人である所在不明株主の株式の市場売却による所得は、株式等に係る譲渡所得等となります。
  2. (2) 個人である所在不明株主の株式の市場売却による株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期は、株式の引渡しがあった日である市場売却の日となります。
  3. (3) 個人である所在不明株主の上場株式の市場売却が、金融商品取引業者等への売委託により行われたものである場合には、その売却による上場株式等に係る譲渡所得等には、上場株式等を譲渡した場合の租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)第37条の11《上場株式等を譲渡した場合の株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》及び同法第37条の12の2《上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除》の各特例の適用があります。
    また、個人である所在不明株主の上場株式の市場売却による株式等に係る譲渡所得には、措置法第37条の11の2《平成十三年九月三十日以前に取得した上場株式等の取得費の特例》の適用があります。
2 事前照会に係る取引等の事実関係
 株式会社であるA社は、所在不明株主の上場株式であるA社株式を、会社法第198条《利害関係人の異議》の規定による公告を行った後の平成20年7月に、金融商品取引業者等への売委託により市場で売却しました。
なお、上記売却代金は、A社において預かり、所在不明株主からの請求に応じて支払を行うこととなります。
また、A社株式は、平成13年10月1日において上場株式に該当していたものです。
3 事前照会者の求める見解となることの理由
  1. (1) 所得区分について
    株券発行会社の場合、会社法第198条に基づく公告の期間内に、利害関係人が異議を述べなかったときは、当該株式に係る株券は当該期間の末日に無効となります(同条5)が、所在不明株主の株主としての権利は失われておらず、会社法第197条第2項に基づき当該株式の市場売却がされた時に、その権利が当該株式を買い入れた第三者に移転し、その結果、当該株式の権利者である所在不明株主が株主としての地位を失う一方、当該売却により株式を取得した第三者は、新たに株主としての地位を得ることとなり、また、所在不明株主は、会社に対してその売却代金の支払を請求し得る権利を有することとなり、会社は当該株主からの支払の請求に対し、株式売却代金を当該株主に交付することとなります。
    そうすると、会社法第197条第2項に基づく株式の市場売却は、所在不明株主が自ら株式の売買契約を締結して当該株式を売却するものではありませんが、所在不明株主が売却代金の支払を請求し得る権利は、その有していた株式の売却によって実現したものと解することが相当と考えます。
    したがって、個人である所在不明株主の株式が会社法第197条第2項に基づき市場売却されたことによる所得の区分は、株式等に係る譲渡所得等に当たるものと考えます。
  2. (2) 収入すべき時期について
     各種の所得の収入金額の収入すべき時期については、所得税基本通達(以下「所基通」といいます。)36−2から36−14に定められており、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとされ(所基通36−12)、株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期についても、原則として株式等の引渡しがあった日によることとされています(措通37の10−1(1))。
    そして、所在不明株主の株主としての権利は、会社法第197条第2項に基づき当該株式の市場売却がされた時に第三者に移転し、当該売却の後、所在不明株主は、当該株式の売却代金の支払を請求し得る権利を有することとなりますから、その権利は、その売却時点において確定したものと解することが相当と考えます。
    したがって、所在不明株主の株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期は、原則どおり、株式の引渡しがあった日である市場売却の日になるものと考えます。
  3. (3) 上場株式等を譲渡した場合の各特例の適用について
    1. イ 措置法第37条の11の適用について
      措置法第37条の11は、居住者等が平成20年12月31日までに上場株式等を金融商品取引業者等への売委託等により譲渡した場合に適用があることとされているところ、上記(2)に記載のとおり、会社法第197条第2項の規定により株式が市場売却された場合、所在不明株主の株主としての権利は、その売却の時に移転し、所在不明株主は、その売却代金の支払を請求し得る権利を取得し、その売却代金が当該株主に帰属することとなるものですから、その売却に係る効果は、直接、所在不明株主に及ぶものと解することが相当と考えます。
      したがって、会社が所在不明株主の上場株式を金融商品取引業者等への売委託により譲渡した場合は、措置法第37条の11第1項第1号に規定されている「金融商品取引業者への売委託により行う上場株式等の譲渡」に該当し、当該譲渡による上場株式等に係る譲渡所得等には、同条の適用があるものと考えます。
    2. ロ 措置法第37条の11の2の適用について
      措置法第37条の11の2は、居住者等が平成22年12月31日までに行った上場株式等の譲渡による譲渡所得について適用があることとされているところ、会社法第197条第2項の規定による株式の市場売却に係る効果は、上記イに記載のとおり、直接、所在不明株主に及ぶものと解されますので、当該譲渡による上場株式等に係る譲渡所得には、同条の適用があるものと考えます。
    3. ハ 措置法第37条の12の2の適用について
      措置法第37条の12の2第1項は、「上場株式等の譲渡のうち第37条の11第1項各号に掲げる上場株式等の譲渡をしたことにより生じた損失の金額」(措置法37の12の22)について規定したものであるところ、上記イに記載のとおり、会社が所在不明株主の上場株式を金融商品取引業者等への売委託により譲渡した場合は、措置法第37条の11第1項第1号に該当することとなりますので、当該譲渡による上場株式等に係る譲渡所得等には、措置法第37条の12の2の適用があるものと考えます。

 

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