別紙1-1

7事前照会の趣旨(法令解釈・適用上の疑義の要約及び事前照会者の求める見解の内容)

 当社は美容外科を開設し、「CAL組織増大術」を用いて乳房再建手術等を自由診療にて実施しております。このうち、乳がんの治療に伴い乳房を失われた患者様に対して行っております「乳房再建手術」(以下「本件手術」といいます。)に係る費用が、所得税法第73条の医療費控除の対象となる医療費と判断して差し支えないか照会します。

別紙1-2

8事前照会に係る取引等の事実関係(取引等関係者の名称、取引等における権利・義務関係等)

 当社は再生医療を中心とした研究を行っており、構造改革特別区域法第18条に基づき、平成18年7月に高度美容外科医療専門クリニックとして「セルポートクリニック横浜」を開設いたしました。当クリニックでは、乳がんの治療に伴い乳房を失われた患者様を対象として、研究の成果である「CAL組織増大術」という手法を用いた手術を自由診療にて実施しております。
「CAL組織増大術」とは、患者様自身の脂肪を吸引し、そのうち脂肪由来幹細胞を抽出し患者様に移植するという方法で、次の手順により行われます。

  • (1) 吸引した脂肪から混ざっている液体成分(吸引時に注入した生理食塩水や脂肪組織中の油成分)を取り出します。
  • (2) 脂肪部分を2つに分けて一方は移植のために残し、もう一方から幹細胞を含んだ細胞群を抽出します。
  • (3) 上記(1)の液体成分からも細胞群を抽出し、これらを移植用の脂肪に混合します。
  • (4) 上記(3)の脂肪を患者様に移植します。その際には、注入後の細胞の壊死や石灰化を防ぐため、脂肪移植専用の注射器にて微量(約0.5ミリリットル)ずつ広範囲にわたり移植します。

(注) 上記(1)から(3)までの一連の細胞処理は、手術室と直結した細胞調整室にて脂肪吸引後直ちに行われます。

 なお、本件手術の標準的費用は、片側で147万円(消費税及び地方消費税を含む。)となっております。

別紙1-3

9 8の事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由(具体的な根拠となる事例、裁判例、学説及び既に公表されている弁護士、税理士、公認会計士等の見解を含む。)

  • 1 所得税法第73条第2項では、医療費控除の対象となる医療費として「医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるもの」と定義されており、その対価については、所得税法施行令第207条において「病状その他財務省令で定める状況に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」とされております。また、所得税基本通達73−4では、美容外科手術のための費用について「容姿を美化し、又は容ぼうを変えるなどのための費用は、医療費に該当しない」と定められております。
     なお、横浜地裁平成16年10月20日判決は、「医療費控除制度は、治癒可能な心身の機能の低下を回復させるために必要となる医療上の経済的支出に対する課税上の調整措置であるということができる。」と判示しています。
  • 2 乳房再建手術では、従来から生理食塩水やシリコン等の人工物を挿入する方法、自己の皮膚や脂肪を移植する方法などが一般的な手法として用いられていました。しかし、これらの方法によりますと、体内における人工物の破損や異物に対する拒絶反応、移植した組織の壊死や石灰化等のリスクが残されています。
     近年の再生医療の発達により、従来の方法では残されていたリスクを軽減することができるようになりました。当クリニックの「CAL組織増大術」では自己の組織(抽出した幹細胞群を脂肪に混合したもの。以下同じ。)を使用するため、人工物の破損や異物に対する拒絶反応のおそれはなく、また、組織を移植する際にも幹細胞の添加を微量かつ広範囲に行う移植法によって、移植した細胞の壊死や石灰化の可能性は極めて低くなります。
     なお、乳房再建手術において従来の方法による場合の平均的な費用は約100万円〜であり、当クリニックにおける費用も同程度の水準であります。
  • 3 本件手術は、当クリニックに勤務する医師によって行われます。
     乳がんの治療においては、一般に腫瘍箇所の除去とともに乳房の切除が行われますので、乳房の概観を復元させることは乳房を原状に回復させる行為と考えられます。また、本件手術は、乳がんの治療に伴い乳房を失った患者様に対して行われる乳房再建手術であることから、乳がん(病気)の治療の一部を構成するものと考えられます。
  • 4 乳がん治療においては乳房の一部分を切除する乳房温存術が行われる場合がありますが、腫瘍の広がり方によっては乳房を全て切除しなければならない場合もあります。女性にとって乳房を失うことは日常生活において支障が生じる場合があり、患者様にとっては心理的にも大きな負担となります。
     厚生労働省「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」において「生活の質の向上の実現」が目的として掲げられていますが、乳房を失われた患者様にとって「生活の質の向上」とは、乳房再建手術により失われた乳房を再建し、切除前と同様の生活を送ることであります。乳房再建手術は乳がん治療の一環として一般的に行われているもので、いわゆる豊胸手術のように美容目的で行われるものとは性格が異なります。よって、本件手術は、所得税基本通達73−4に定める「容姿を美化し、又は容ぼうを変える費用」には該当しません。
  • 5 以上のことから、本件手術は、乳がんの治療に伴い乳房を失った患者様に対して行われる乳房再建手術であり、その費用は医師による診療等の対価で通常必要と認められ、その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額と考えられることから、医療費控除の対象となる医療費に該当するものと考えられます(所得税法第73条、所得税法施行令第207条)。

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