1 事前照会の趣旨及び事前照会に係る事実関係

 当社は、退職金制度として、社内退職金制度及び確定給付企業年金制度を有しています。社内退職金は退職手当等として退職時に一時に支給され、確定給付企業年金に係る老齢給付金は、年金のほか退職手当等とみなされる一時金(以下「本件一時金」といいます。)として支給され、その全部又は一部の額の支給を65歳まで繰り下げることもできます。
 当社の社員のうち、海外勤務に伴い非居住者となったまま退職した社員Aが、退職時に支給を受けた社内退職金に係る所得税法第173条≪退職所得の選択課税による還付≫に規定する申告書(以下「選択課税の申告書」といいます。)を提出した後に、本件一時金の支給を受ける場合、本件一時金に係る同法第171条≪退職所得についての選択課税≫の適用に当たっては、社内退職金に係る選択課税の申告書を提出した日から5年以内に限り、更正の請求を行うことができるものと解して差し支えないか照会します。

2 事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 本件一時金に係る退職所得の選択課税について
 非居住者が居住者であった期間に行った勤務等に基因して支払われる退職手当等の支払を受ける場合、原則として、その退職手当等の金額に一定の税率を乗じて計算された所得税が課されます(所法169、170)が、「その年」中に支払を受ける退職手当等の総額を居住者として受けたものとみなして居住者と同様の課税を受けることを選択できることとされています(所法171)。この選択課税の特例上、「退職手当等の支払を受ける場合」とは、実際に退職手当等が支払われた場合ではなく、退職手当等の支払を受けるべき権利が確定した場合と考えられますので、「その年」とは、「その退職所得の課税年分(収入すべき時期)」をいうものと考えられます。
 また、非居住者がこの選択課税の特例の適用を受ける場合、「その年」の翌年1月1日(同日前に退職手当等の総額が確定した場合には、その確定した日。以下同じです。)以後に、税務署長に対し選択課税の申告書を提出することにより、既に源泉徴収された税額の一部又は全部について還付を受けることができることとされていますので(所法173)、選択課税の申告書の提出開始時期は、「退職所得の課税年分(収入すべき時期)」の翌年1月1日以後と考えられます。
 ところで、一の勤務先を退職することにより二以上の退職手当等の支払を受ける権利を有することとなる場合の「退職所得の課税年分(収入すべき時期)」については、これらの退職手当等のうち最初に支払を受けるべきものの支払を受けるべき日の属する年分の収入金額とすることとされています(所令77)。社員Aは、当社を退職することにより社内退職金及び本件一時金の支払を受けることとなりますので、本件一時金は、これらの退職手当等のうち最初に支払を受けた社内退職金と同じ年分の退職所得となります。
 以上のことから、本件一時金に係る所得税法第171条の適用上、本件一時金は、社内退職金に係る選択課税の申告書の内容に含めて所得税額を計算することになると考えられます。

(2) 選択課税の申告書に係る更正の請求について
 国税に関する法律の規定による国税の還付金の還付を受けるための申告書で課税標準など一定の事項を記載したものは「納税申告書」に含まれる(通則法2六)ところ、選択課税の申告書は退職手当等の総額及び所得税の額などを記載した申告書であることから「納税申告書」に当たります。
 そして、納税申告書を提出した者が、その申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、その申告書の提出により納付すべき税額が過大である等一定の事由に該当する場合には、その申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができるとされています(通則法231)。
 この国税通則法第23条≪更正の請求≫第1項の適用上、法定申告期限の定めのない所得税法第122条≪還付等を受けるための申告≫に規定する申告書については、更正の請求の期限の起算日となる「法定申告期限」を「当該申告書を提出した日」と読み替えるものとされていますので(所基通122-1)、同様に法定申告期限の定めのない選択課税の申告書に係る更正の請求の期限の起算日も「当該申告書を提出した日」と取り扱うのが相当と考えられます。
 したがって、社員Aが社内退職金に係る選択課税の申告書を提出後に本件一時金の支給を受ける場合、本件一時金に係る所得税法第171条の適用に当たっては、社内退職金に係る選択課税の申告書を提出した日から5年以内に限り、更正の請求を行うことができるものと考えられます。

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