1 事前照会の趣旨

当社は、グループの業績向上に対する意欲や士気を高めることを目的として、当社、当社の国内子会社及び海外子会社の役員又は従業員のうち、過去の当社に対する貢献度・人事考課を基準に選考した者(以下「割当対象者」といいます。)に対して、租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)第29条の2《特定の取締役等が受ける新株予約権等の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等》第1項に規定する新株予約権(以下「税制適格ストックオプション」といいます。)を付与しました(以下、当社が割当対象者に付与した税制適格ストックオプションを「本件ストックオプション」といいます。)。
この場合において、当社の海外子会社のうち中国子会社又は台湾子会社の従業員である割当対象者(中国子会社の割当対象者を以下「中国従業員」といい、台湾子会社の割当対象者を以下「台湾従業員」といいます。)で、日本国内における勤務期間がなく日本国内に恒久的施設を有していない者が、中国又は台湾の居住者期間中に本件ストックオプションの行使により取得した当社の株式(以下「本件株式」といいます。)を譲渡した場合における課税関係(措置法第29条の2に規定する要件を満たしていることを前提とします。)について、次のとおり解して差し支えないかお伺いします。

(1) 中国従業員の課税関係について
日中租税協定及び国内法の規定に基づき、本件株式に係る譲渡益のうち本件ストックオプションの付与から権利行使までの利益(権利行使益)に相当する部分については、日本に課税権がないため、日本において課税関係が生じることはなく、権利行使後に生じた譲渡益部分については、国内において15%の税率による申告分離課税の対象となります。
なお、本件株式の譲渡が平成25年1月1日以降である場合には、復興特別所得税が併せて課せられます。

(2) 台湾従業員の課税関係について
日本と台湾との間に租税条約が締結されていないことから、国内法の規定が適用され、本件株式に係る譲渡益全額が国内において15%の税率による申告分離課税の対象となります。
なお、本件株式の譲渡が平成25年1月1日以降である場合には、復興特別所得税が併せて課せられます。

2 事前照会等に係る取引等の事実関係

(1) 本件ストックオプションの内容は、次のとおりです。

付与日 平成22年X月a日
権利行使期間 平成24年X月b日から平成27年X月c日
権利行使価格 △△△円

※ 権利行使価格は、所定の方法により、付与契約締結日における当社の株価以上の金額となるように設定されています。

(2) 中国従業員及び台湾従業員は、内国法人の役員の資格を有していません。

3 事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 国内法の取扱い
非居住者が税制適格ストックオプションの行使により株式を取得した場合、当該株式(以下「特定株式」といいます。)の取得に係る経済的利益(権利行使益)については、その行使の時において課税されず(措法29の21)、特定株式の譲渡時に国内にある資産の譲渡により生ずる所得として課税されます(所法161一、所令2802四、所令2911三ロ、措令19の314)。
この場合、国内に恒久的施設を有しない非居住者については、株式等の譲渡に係る国内源泉所得として、15%の税率による申告分離課税の対象となります(措法37の121)。

(2) 日中租税協定の規定

イ 給与所得条項(第15条)
日中租税協定第15条第1項は、一方の締約国の居住者がその勤務について取得する給料、賃金その他これらに類する報酬については、勤務が他方の締約国内において行われない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができ、勤務が他方の締約国内において行われる場合には、当該勤務から生ずる報酬に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる旨規定しています。

ロ 譲渡所得条項(第13条)
日中租税協定第13条第4項は、一方の締約国の居住者が、不動産、恒久的施設の事業用資産の一部を成す財産、船舶又は航空機(これらの運用に係る財産を含みます。)以外の財産の譲渡によって取得する収益であって、他方の締約国において生ずるものに対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる旨規定していることから、株式の譲渡による収益については、源泉地国において課税されることとなります。

(3) 本件株式を譲渡した場合の課税関係について

イ 中国従業員の課税関係について
国税庁ホームページの質疑応答事例「非居住者である役員が税制適格ストックオプションを行使して取得した株式を譲渡した場合」によると、日仏租税条約第16条《役員報酬》に規定する「その他これに類する支払金」には、一般にストックオプションによる現物給付も含まれ、ストックオプションの付与から権利行使までの利益(権利行使益)がいずれの時点で課税されるかに関わらず、その権利行使益に同条の規定が適用されると解されるとあります。
また、株主の資格で取得する株式譲渡収益(権利行使後に生じた株式の価値に対応する部分)については、同条約第13条《譲渡所得》の規定が適用されるとあります。
これらの考え方に基づけば、日中租税協定第15条第1項に規定する「給料、賃金その他これらに類する報酬」の「その他これらに類する報酬」には、ストックオプションの付与から権利行使までの利益(権利行使益)が含まれ、同条の規定が適用されるとともに、株主の資格で取得する株式譲渡収益(権利行使後に生じた株式の価値に対応する部分)は、同協定第13条の譲渡所得条項が適用されると解されます。
そして、中国従業員は、本件ストックオプションの付与から権利行使までの間、日本国内における勤務はないことから、本件株式に係る譲渡益のうち権利行使益に相当する部分については、同協定第15条第1項の規定により日本に課税権がなく、日本において課税関係は生じません。
一方、本件株式に係る譲渡益のうち権利行使後に生じた譲渡益部分は、同協定第13条第4項の規定により日本において課税されることになりますが、この場合の課税は国内法の規定に基づき行われることとなるため、当該譲渡益部分が株式等の譲渡に係る国内源泉所得として15%の税率による申告分離課税の対象となります(措法29の27、37の121、措令19の314)。
なお、本件株式の譲渡が平成25年1月1日以降である場合には、復興特別所得税が併せて課せられます。

ロ 台湾従業員の課税関係について
日本と台湾との間に租税条約は締結されていないことから、その課税関係は国内法の規定に基づき判断することとなります。したがって、上記(1)のとおり、台湾従業員の日本国内における勤務の有無に関わらず、本件株式に係る譲渡益の全てが株式等の譲渡に係る国内源泉所得として15%の税率による申告分離課税の対象となります(措法29の27、37の121、措令19の314)。
なお、本件株式の譲渡が平成25年1月1日以降である場合には、復興特別所得税が併せて課せられます。

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