別紙1 事前照会の趣旨

株式会社東京工業品取引所(以下「当社」といいます。)は、商品先物取引法に基づき、貴金属、ゴム、石油等の先物取引を行うために必要な商品市場(以下「本市場」といいます。)を開設・運営しており、投資の促進と取引効率化のために、平成23年9月9日から、プロキシミティサービスを開始しております。
プロキシミティサービスとは、当社と当社が指定するシステム開発会社(以下「ベンダー」といいます。)が協業して提供するサービスであり、ベンダーのデータセンターと当社のデータセンターの間を高速回線で接続することにより、ベンダーのデータセンター内にコンピュータサーバ(以下「サーバ」といいます。)を設置した取引参加者(商品取引所での取引資格を得て、商品取引所に発注等を行うことができる者をいいます。以下同じです。)に対して、高速・低遅延な取引環境を提供するサービスです。
本市場に参加しようとする投資家は、プロキシミティサービスを利用し先物取引を行うために、ベンダーのデータセンター内に設置された取引参加者のサーバにコンピュータ・プログラム等をアップロードして、設定・保存することとなりますが、本市場には、外国法人や非居住者といった外国投資家も参加することが可能であるため、今後、これらの外国投資家がプロキシミティサービスを利用することが想定されます。
ところで、法人税法第141条《外国法人に係る各事業年度の所得に対する法人税の課税標準》第1号及び所得税法第164条《非居住者に対する課税の方法》第1項第1号において「国内に支店、工場その他事業を行う一定の場所で政令で定めるもの」(以下「1号PE」といいます。)を有している外国法人又は非居住者については、法人税法第138条《国内源泉所得》第1号から第11号まで又は所得税法第161条《国内源泉所得》第1号から第12号までに掲げる全ての国内源泉所得に対して法人税又は所得税が課税されることになります。
つきましては、本市場における外国投資家(外国法人又は非居住者)が、プロキシミティサービスを利用し先物取引を行うために、ベンダーのデータセンター内に設置された取引参加者のサーバに、コンピュータ・プログラム等のデータを設定・保存した場合であっても1号PEを有することにはならないと解して差し支えないでしょうか。

別紙2 事前照会に係る取引等の事実関係

1 プロキシミティサービスの概要

プロキシミティサービスは、取引参加者のサーバを当社が指定するベンダーのデータセンターに設置し、そのデータセンターと当社のデータセンターの間を高速回線でつなぐことにより、高速・低遅延な取引環境を提供するサービスです。

[利用手続等]

  • 丸1 ベンダーのデータセンター内に取引参加者のサーバを設置する。
  • 丸2 外国投資家は、取引参加者のサーバ内に、国外からリモート操作で、貴金属、ゴム、石油等の先物取引の売買注文を自動発注するためのコンピュータ・プログラムや各種のパラメータ等のデータをアップロードし、設定・保存する。
  • 丸3 ベンダーのデータセンターと当社のデータセンターとは高速回線でつながれているため、外国投資家のプログラムが行った自動演算結果に基づき、高速・低遅延に当社のデータセンターに対して売買注文の伝達がされる。

プロキシミティサービス利用手続等

2 投資家のサーバに関する権利関係

 外国投資家は、取引参加者のサーバについて売却、担保提供、廃棄その他の処分をする権利を有しません。
また、外国投資家は、取引参加者のサーバを転貸する権利並びに他の用途へ転用する権利を有しません。

別紙3 事前照会者の求める見解となることの理由

1 国内法の規定

1号PEとは、法人税法施行令第185条《外国法人の有する支店その他事業を行なう一定の場所》及び所得税法施行令第289条《非居住者の有する支店その他事業を行なう一定の場所》において、丸1「支店、出張所その他の事業所若しくは事務所、工場又は倉庫(倉庫業者がその事業の用に供するものに限る。)」、丸2「鉱山、採石場その他の天然資源を採取する場所」、丸3「その他事業を行なう一定の場所で前二号に掲げる場所に準ずるもの」とされています。

2 OECDモデル租税条約の規定及び同条約に関するコメンタリーによる解説

租税条約のひな型であるOECDモデル条約の第5条《恒久的施設》第1項において「この条約の適用上、『恒久的施設』とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいう。」とされ、同条第2項において、「恒久的施設」には、特に、事業の管理の場所、支店、事務所、工場、作業場、鉱山及び石油又は天然ガスの坑井、採石場その他天然資源を採取する場所を含むものとされています。
また、OECD租税委員会が示している同条に関するコメンタリーには、次のように記されています。

(1) 第2パラグラフにおいて、「第1項は、この条約の意味における恒久的施設の本質的性格、すなわち、明確な『所在』、『事業を行う一定の場所』を明らかにする『恒久的施設』という用語の一般的定義を与える。本項は『恒久的施設』という用語を、事業を行う一定の場所であって、ある企業の事業の全部又は一部がそこを通じて行われている場所であると定義する。したがって、この定義は、以下の条件を含んでいる」とされ、「『事業を行う場所』、すなわち、建物、又は、ある場合には、機械若しくは設備のような施設の存在」が掲げられています。

(2) 第4パラグラフにおいて「『事業を行う場所』という用語は、企業の事業を行うために使われる一切の建物、設備又は装置……を含む。事業を行う場所は、企業の事業を行うために利用され又は要求される建物がなく、単に、企業の自由になる一定の広さの場所を有するに過ぎない場合にも存在し得る」とされています。

(3) 第42パラグラフの2において「ある場所に設置され一定の状況において恒久的施設を構成するコンピュータ設備と、当該設備によって使用され又は保存されるデータ及びソフトウェアとの間に区別が必要である。例えば、ソフトウェアと電子データの組み合せであるインターネットのウェブ・サイトは、それ自体では有形資産を構成しない。それ故、当該ウェブ・サイトは、当該ウェブ・サイトを構成する当該ソフトウェアとデータに関する限り、『建物、又は、ある場合には、機械若しくは設備のような施設』(上述の第2パラグラフ参照)が存在しないために、『事業を行う場所』を構成し得る場所を有していない。他方、ウェブ・サイトが保存されそれを通じて当該ウェブ・サイトにアクセスし得るサーバは、物理的場所を有する設備の断片であり、当該サーバを操作する企業の『事業を行う一定の場所』を構成し得る」とされています。

(4) 第42パラグラフの3において「ウェブ・サイトと、当該ウェブ・サイトが保存され使用されているサーバとの区別は重要である。何故なら、当該サーバを操作する企業は当該ウェブ・サイトを通じて事業を行う企業と異なる場合があるからである。例えば、それを通じて企業が事業を行うウェブ・サイトが、インターネット通信事業者(ISP)のサーバにホストされているということはよくみられる。そのような取極に基づき当該ISPに対して支払われる料金は、ウェブ・サイトが要求するソフトウェアとデータを保存するために使用されるディスク容量に基づくが、当該企業が特定の場所の特定のサーバにおいてそのウェブ・サイトがホストされることを決定することができたとしても、これらの契約によっても当該サーバ及びその所在地が当該企業の自由になるわけではないのが典型例である(上述の第4パラグラフ参照)。そのような場合には、当該ウェブ・サイトは有形資産ではないため、当該企業は当該場所に物理的存在さえ有していない。これらの場合には、当該企業がこのホスティングの取極によって事業を行う場所を獲得したと考えることはできない。しかし、ウェブ・サイトを通じて事業を行う企業が自由に処分できるサーバを有している場合、例えば、ウェブ・サイトが保存され使用されるサーバを所有(又は賃借)し、操作している場合には、当該サーバの所在場所は、この条の他の要件が充足されている場合には、当該企業の恒久的施設を構成する場合がある。」とされています。

(注) コメンタリーの日本語訳は、「川端康之監訳『OECDモデル租税条約2010年版』」(社団法人日本租税研究協会発行)によっています。

3 本件の外国投資家についての検討

法人税法第141条第1号及び所得税法第164条第1項第1号において、1号PEとは「支店、工場その他事業を行なう一定の場所で政令で定めるもの」とされていることからすると、OECDモデル条約第5条第1項における恒久的施設(事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所)の解釈と同様に、外国法人又は非居住者がその事業を行うために有する建物等の所有又は賃借等の方法により「自由になる一定の広さの場所」、すなわち、物理的な場所の概念であると考えられます。
外国投資家は、貴金属、ゴム、石油等の先物取引の売買注文を行うためのコンピュータ・プログラムや各種パラメータ等のデータをアップロードし、取引参加者が設置するサーバに設定・保存することとされていますが、上記2(3)で示されているとおり、プログラムやデータはそれ自体では有形資産を構成しないことから、外国投資家は国内に物理的な場所は有していないと考えられます。
また、上記2(4)のとおり、外国投資家が自由に処分できるサーバを有している場合(サーバを所有し、又は賃借して、操作している場合)には、サーバの所在場所が恒久的施設を構成する場合がありますが、本件のサーバは取引参加者が所有又は賃借するものであり、[別紙2]の2のとおり、外国投資家はそのサーバを自由に処分し、また、使用収益することはできませんので、そのサーバは外国投資家の所有物ではなく、外国投資家の恒久的施設を構成することはないと考えられます。
以上のことから、外国投資家が、ベンダーのデータセンター内に設置された取引参加者のサーバに、貴金属、ゴム、石油等の先物取引の売買注文を自動発注するためのコンピュータ・プログラムや各種のパラメータ等のデータをアップロードして設定・保存したとしても、照会に係る事実関係を前提とする限り、本件の外国投資家は、そのことを理由として、1号PEを有していることにはならないものと考えられます。

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