別紙

1 事前照会の趣旨

当社は、香港市場での株式公開を目指しており、当該株式公開に先立ち、当社の取締役、執行役及び使用人(以下「権利者」といいます。)に対し、新株予約権(以下「本件ストックオプション」といいます。)を付与しています。
本件ストックオプションの行使により権利者が取得する当社の株式(以下「本件株式」といいます。)に係る振替口座簿への記載若しくは記録、保管の委託又は管理等信託(以下単に「保管の委託」といいます。)に関して、当社は租税特別措置法第29条の2《特定の取締役等が受ける新株予約権等の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等》第1項第6号に規定する金融商品取引業者である証券会社(以下「本件証券会社」といいます。)と契約(以下「本件契約」といいます。)を締結しました。
この場合、下記2の事実関係において、本件契約に基づく本件株式に係る保管の委託は、租税特別措置法第29条の2第1項第6号の要件(以下「保管委託要件」といいます。)を充足していると解して差し支えないかどうかお伺いします。
なお、同号に定める保管委託要件とは、「対象株式については、ストックオプションを付与した会社(以下「付与会社」といいます。)と証券会社の間であらかじめ締結される保管の委託に関する取決め(一定の要件が定められているものに限られます。)に従い、ストックオプションの行使後直ちに、付与会社を通じて、当該証券会社の営業所に保管の委託がされること」を指します。また、その取決めにおいて定めることとされている一定の要件とは、租税特別措置法施行令第19条の3《特定の取締役等が受ける新株予約権等の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等》第7項各号に規定されており、次のものをいいます。

  • (1) 保管の委託に係る口座は、対象株式を取得した権利者の各人別に開設されること。
  • (2) 保管の委託に係る口座においては、付与会社が、権利者に対象株式に係る株券を交付せずに、保管の委託を行う証券会社の営業所に当該株式を直接引き渡す方法により保管の委託がされるもの以外の株式を受け入れないこと。
  • (3) 権利者が行う証券会社に保管の委託をしている株式の譲渡については、当該証券会社への売委託又は当該証券会社に対する譲渡により行うこと。
  • (4) その他財務省令(措規11の31)で定める要件。

また、租税特別措置法第29条の2に規定する、いわゆる「税制適格ストックオプション」は、付与会社と権利者とのストックオプションに係る契約において、一定の要件が定められているものをいいますが、本件ストックオプションについて、当該要件のうち保管委託要件以外の要件は全て充足していることを照会の前提としております。

(参考:保管委託要件以外の「税制適格ストックオプション」に該当するための要件)

  • (1) ストックオプションの行使は、当該ストックオプションに係る付与決議の日後2年を経過した日から当該付与決議の日後10年を経過する日までの間に行わなければならないこと。
  • (2) ストックオプションの行使に係る権利行使価額の年間の合計額が、1,200万円を超えないこと。
  • (3) ストックオプションの行使に係る1株当たりの権利行使価額は、付与会社の株式のストックオプションに係る契約締結時における1株当たりの価額に相当する金額以上であること。
  • (4) ストックオプションについては、譲渡をしてはならないこととされていること。
  • (5) ストックオプションの行使に係る株式の交付が、当該交付のために付与決議がされた会社法第238条第1項等に定める事項に反しないで行われるものであること。

2 事前照会に係る事実関係

(1) 本件ストックオプション行使前の準備から本件株式の売却までの流れは、以下のとおりとなります。

  • イ 権利者は当社と保管の委託契約を締結している本件証券会社の営業所において本件株式の保管の委託に係る個人口座(以下「権利者保管口座」といいます。)を各人別に開設します(概要図の1)。
  • ロ 本件証券会社は香港市場の参加者でないため、本件株式の株券の香港市場の決済機関である中央結算系統(Central Clearing and Settlement System、以下「CCASS」といいます。)への預託管理業務及び香港市場における本件株式の売却業務(以下「預託管理等業務」といいます。)を直接行うことができません。そこで、本件証券会社は香港の金融機関(以下「特定保管機関」といいます。)に香港市場における本件株式の預託管理等業務を委託することとし、本件株式を管理するために当該特定保管機関に本件証券会社名義の株式保管口座を開設します。
  • ハ 権利者は本件ストックオプションの権利行使請求を当社に対して行い、権利行使に際して払い込むべき金額に相当する金銭を当社の指定する銀行口座に払い込みます(概要図の234)。
  • ニ 権利者から権利行使請求を受けた当社は本件証券会社、当社の日本国内における株主名簿管理人(以下「国内株主名簿管理人」といいます。)及び香港の法令の要求に基づき香港に設置する株主名簿管理人(以下「香港株主名簿管理人」といいます。)に対して通知を行い、当該通知を受けた香港株主名簿管理人は本件株式を表象する株券(以下「本件株券」といいます。)の発行手続を行います(概要図の56)。
  • ホ 香港株主名簿管理人は当社の指図に基づき本件株券を特定保管機関の本件証券会社名義の株式保管口座へ入庫することにより引き渡し、引渡しを受けた特定保管機関は本件証券会社の指示に基づき本件株券をCCASSに対して直ちに預託します(概要図の789)。
  • へ CCASSに対する本件株券の預託及び香港における本件株式の振替手続を行った特定保管機関は、本件証券会社の担当部署に対して本件株式の振替に関する通知を行います。当該通知に基づいて、本件証券会社は権利者の権利者保管口座へ本件株式の振替記帳等を行います。
  • ト 本件証券会社からの振替完了の連絡に基づき、当社は権利者に本件ストックオプションの権利行使が完了した旨を通知します。
  • チ 本件株式を売却する場合、権利者は権利者保管口座を開設した本件証券会社の営業所に売委託を行います。当該売委託を受けた本件証券会社は、特定保管機関を通じて香港市場で本件株式の売却手続を行います。特定保管機関からの売却に係る通知に基づき、本件証券会社は権利者の個人口座への振替記帳等を行います。

(2) 権利者保管口座においては、本件株式以外の株式を受け入れないものとされています。

(3) 本件契約においては、租税特別措置法施行規則第11条の3《特定の取締役等が受ける新株予約権等の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等》第1項に規定する要件を充足するための取決めが当社と本件証券会社間で合意されています。

(4) 本件証券会社は、事前に当社の承諾を得て、必要に応じてストックオプションに関する管理業務の一部を第三者に対して委託することができることとされています。

概要図

3 事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 本件契約に基づく本件株式に係る保管の委託については、上記2(1)イのとおり、保管の委託に係る口座は権利者の各人別に開設されるものとされており、また、上記2(3)のとおり、租税特別措置法施行規則第11条の3第1項に規定する要件を充足するための取決めが当社と本件証券会社間で合意されています。
そうすると、本件契約に基づく本件株式に係る保管の委託は、上記1(1)及び(4)の保管委託要件を充足しているものと解されます。

(2) 本件契約の場合、本件証券会社が香港市場における本件株式の預託管理等業務を特定保管機関に対して委託することから、当社から本件証券会社へ本件株式を「直接引き渡す」方法による保管の委託に該当しなくなるとの疑義が生じますが、次のことから、本件契約に基づく「保管の委託」は当社から本件証券会社へ本件株式を「直接引き渡す」方法による「保管の委託」に該当するものと取り扱うのが相当であり、上記2(2)のとおり、権利者保管口座においては本件株式以外の株式を受け入れないものとされていることから、本件契約に基づく本件株式に係る保管の委託は上記1(2)の保管委託要件を充足しているものと解されます。

  • イ 本件証券会社が本件契約に基づく本件株式の保管業務の一部を必要に応じて第三者に対して委託することは、上記2(4)のとおり、当社と本件証券会社間であらかじめ取決めとして合意されているものであるところ、本件証券会社は香港市場の参加者でないため、香港市場における本件株式の預託管理等業務の遂行上の必要に応じて、当該取決めに基づき特定保管機関にその業務を委託したものであり、その行為は当社と本件証券会社間の取決めの範疇を逸脱するものではないこと。
  • ロ 本件株券は当社の香港株主名簿管理人から特定保管機関に引き渡されることとなりますが、上記2(1)ホのとおり、その態様は特定保管機関に開設された本件証券会社名義の株式保管口座へ入庫することによるものであり、当該株式保管口座は本件証券会社により管理されているものであることから、実質的に本件証券会社の営業所へ本件株式を直接引き渡したものと同視できること。
  • ハ 権利者は、当社と本件証券会社との間であらかじめ締結された取決めに従い、ストックオプションの権利行使後直ちに、当社を通じて、あくまで本件証券会社に対して本件株式の保管業務を委託しているものであり、本件証券会社が香港市場における本件株式の預託管理等業務を特定保管機関に対して委託したとしても、本件株券が権利者に交付されることなく各人別の権利者保管口座で本件株式が管理されることとなることに変わりはないことから、当該委託により、「保管の委託」に齟齬が生じるものではないと解されること。

(3) 本件契約の場合、本件株式の譲渡について、上記2(1)チのとおり、本件証券会社が権利者から本件株式の売却の委託を受けるものの、本件証券会社が香港市場の参加者でないことから、特定保管機関を通じてその株式を売却し、その損益を権利者に帰属させることとなりますが、その行為は、結果的に本件証券会社による「売買の取次ぎ」(証券会社が自己の名義で株式を売却し、その損益を権利者に帰属させる行為)と何ら変わりはなく、保管の委託をしている本件証券会社に対する「売委託」に該当するものと解されます。
そうすると、本件契約に基づく本件株式に係る保管の委託は上記1(3)の保管委託要件を充足しているものと解されます。

(4) 以上のことから、本件契約に基づく本件株式に係る保管の委託は、租税特別措置法第29条の2第1項第6号に規定する「保管委託要件」を全て充足しているものと考えます。

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