別紙1-1 事前照会の趣旨

1 照会要旨

(1) 私、実母及び実妹は、それぞれに事業を営んでいる個人事業者です。
昨年(平成23年)4月に実母(以下「被相続人」といいます。)が亡くなり、今年(平成24年)2月に相続人である私と実妹(以下「私たち」といいます。)で遺産分割協議が成立し、被相続人が営んでいた事業の全てを私が承継することになりました。
なお、被相続人が営んでいた事業は、遺産分割協議が成立するまでは私たちが共同して営んでいました。

(2) 私たちのそれぞれの事業収入(課税売上高)は、平成21年分課税期間(以下「平成21年分」といい、他の年分(課税期間)も同様です。)及び平成22年分のいずれの年分においても1,000万円以下であることから、これらの年分を基準期間とする平成23年分(相続があった年)及び平成24年分(相続があった年の翌年)においては、私たちは、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定では免税事業者となります。

(3) しかしながら、免税事業者である相続人が、一定規模以上の事業を相続した場合には、消費税法第10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》により、納税義務は免除されないとされています。
被相続人は、経常的に課税売上高が1,000万円を超える課税事業者であったことから、私たちは、この規定の適用を受けるものと考えます。
私たちは、遺産の分割が行われるまでは、被相続人が行っていた事業を共同で営んでいましたので、平成23年分及び平成24年分に係る消費税の納税義務の有無を判定するに当たり、消費税法基本通達1-5-5《共同相続の場合の納税義務》を適用して被相続人の基準期間(平成21年分及び平成22年分)における課税売上高を法定相続分(それぞれ1/2)であん分し、消費税法の規定に従い判定した結果、二人ともいずれの年分も免税事業者に該当すると判断しました。

(4) ところで、民法第909条《分割の遡及効》では、遺産の分割は相続開始の時に遡ってその効力を生ずるとされていますから、私は相続開始の時(相続があった日)に遡って被相続人が営んでいた事業の全てを承継したことになります。
私の平成23年分及び平成24年分に係る消費税の納税義務の有無について、遺産分割の結果に基づき改めて判定すると、いずれの年分も課税事業者に該当することとなりますが、私は、上記(3)のとおり消費税関係法令に従い判定した結果、免税事業者に該当すると判定していますので、その判定をし直す必要はなく、免税事業者に該当すると取り扱って差し支えないか照会いたします。

別紙1-2 事前照会に係る取引等の事実関係

2 事実関係

 本件相続に係る相続人は、私と実妹の2名のみであり、法定相続分は各々1/2です。
また、その余の事実関係は次のとおりです。

(1) それぞれ営んでいた事業は次のとおりです。

区分 事業内容等
被相続人 農業及び不動産賃貸業(貸店舗)
農業及び不動産賃貸業(貸店舗)
実妹 不動産賃貸業(駐車場)

(2) 遺産の分割が行われるまでの間、被相続人が営んでいた事業に供されていた農地及び不動産は被相続人名義のままであり、被相続人が営んでいた農業及び不動産賃貸業を私たちが共同で営んでいました。
また、私たちは、遺産の分割が行われるまでの間の農業及び不動産賃貸業から生ずる所得については、法定相続分に従い、その収入及び費用の1/2ずつをそれぞれの平成23年分の所得に含め所得税の確定申告をしています。

(3) 被相続人と私たちそれぞれの各年分における課税売上高の状況は、次のとおりです。

(単位:円)

年分
区分
平成21年分 平成22年分 平成23年分
(注)
被相続人 13,500,000 13,900,000 4,600,000
2,060,000 2,060,000 6,390,000
実妹 200,000 240,000 4,860,000

(注) 平成23年分について、被相続人の課税売上高は、死亡時までのものであり、私たちが、消費税法第45条第3項に規定する消費税の確定申告をしています。また、私たちの課税売上高には、上記(2)の金額が含まれています。

(4) 被相続人は、平成21年分ないし平成23年分において消費税の課税事業者であり、簡易課税制度の適用を受けていましたが、私たちは、平成23年分及び平成24年分は免税事業者に該当すると判定しましたので、消費税に関する各種届出書(課税事業者届出書、簡易課税選択届出書)及び平成23年分の消費税の確定申告書を提出していません。

別紙1-3 事前照会者の求める見解となることの理由

3 照会者の見解となる理由

(1) 消費税法の規定等

  • 丸1 消費税の納税義務者
    事業者(個人事業者及び法人)は、国内において行った課税資産の譲渡等につき消費税を納める義務がありますが、当該事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である事業者については、納税義務は免除されます(消法5丸1、9丸1)。
    ところで、消費税の納税義務の判定は当該事業者の「課税期間における課税売上高」でなく、「基準期間における課税売上高」という過去の一定期間における課税売上高により行うこととされています。
    これは、消費税は事業者が販売する商品やサービスの価格に含まれて転嫁していくものであることから、その課税期間が課税事業者に該当するかどうか、特に免税事業者から課税事業者となる場合には、事業者自身が事前に予知しておく必要があることによるものと理解しています。
    また、課税事業者となる場合には、消費税法に規定する帳簿の記載などが必要となりますのでこれらに対する事前準備や簡易課税制度を選択する、あるいは免税事業者が課税事業者となることを選択する場合は、その課税期間の開始の日の前日までに所定の届出書を納税地の所轄税務署長に提出することなどからも、事前に予知しておく必要があると考えます。
  • 丸2 相続があった場合の納税義務の免除の特例
    課税事業者が行っていた事業を免税事業者(事業を行っていない者を含みます。)が相続により承継した場合には、次のとおり、納税義務の免除の特例が設けられています(消法10、消基通1-5-4)。
    • イ その年に相続があった場合(消法10丸1
      その年において相続があった場合において、その年の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である相続人(課税事業者を選択している者を除きます。)が、当該基準期間における課税売上高が1,000万円を超える被相続人の事業を承継したときは、当該相続人の当該相続のあった日の翌日からその年12月31日までの間における課税資産の譲渡等については、納税義務を免除しないとされています。
      なお、当該規定は、被相続人の基準期間における課税売上高だけで納税義務の有無を判定するものですが、相続があった年に、年の途中から、しかも相続の直後に煩雑な事務処理をしなければならないことにならないように配慮されたものと理解しています。
    • ロ その年の前年又は前々年に相続があった場合(消法10丸2
      その年の前年又は前々年において相続により被相続人の事業を承継した相続人のその年の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、当該相続人の当該基準期間における課税売上高と当該相続に係る被相続人の当該基準期間における課税売上高との合計額が1,000万円を超えるときは、当該相続人のその年における課税資産の譲渡等については、納税義務を免除しないとされています。
      なお、この場合、被相続人の事業に係る「基準期間における課税売上高」も取り込んで納税義務を判定しますが、相続人及び被相続人の「基準期間における課税売上高」という過去の一定期間における課税売上高で判定することとされていることは、上記丸1と同様に、事業者自身が事前に予知しておく必要があることによるものと考えます。
  •  丸3 共同相続の場合の取扱い(消基通1-5-5)
    上記丸2の規定を適用する場合において、2以上の相続人があるときには、相続財産の分割が実行されるまでの間は被相続人の事業を承継する相続人が確定しないことから、各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱うこととされています。この場合において、各相続人のその課税期間に係る基準期間における課税売上高は、当該被相続人の基準期間における課税売上高に各相続人の民法第900条各号《法定相続分》等に規定する相続分に応じた割合を乗じた金額とされています。
    なお、この取扱いは、相続人が数人あるときの相続財産は、その共有に属することとされている民法第898条《共同相続の効力》の規定を踏まえ、承継に係る事業についても、各相続人が共同して承継したものとすることが実情に合うことから、各相続人が共同してその事業を承継したものとして取り扱うことを示したものであると理解しています。

(2) 納税義務の判定
私は、上記(1)の丸2及び丸3に基づき、私自身の平成23年分及び平成24年分に係る納税義務の判定を行いました。

  • 丸1 平成23年分(相続があった年)
    • イ 私の基準期間(平成21年分)における課税売上高
      206万円 ≦ 1,000万円
    • ロ 私の法定相続分に係る被相続人の基準期間(平成21年分)における課税売上高
      1,350万円×1/2 = 675万円≦ 1,000万円
  •  したがって、納税義務なし(免税事業者)
  • 丸2 平成24年分(相続があった年の翌年)
    206万円(a)+695万円(1,390万円×1/2)(b) = 901万円≦ 1,000万円
    • (a) 私の平成22年分の課税売上高
    • (b) 私の法定相続分に係る被相続人の基準期間(平成22年分)における課税売上高
    • したがって、納税義務なし(免税事業者)

(3) 相続の遡及効による納税義務の再判定の要否
民法第909条の規定により、遺産の分割は相続開始の時に遡ってその効力を生ずるとされていますから、私の場合、平成24年2月に行った遺産の分割により、相続開始の時、すなわち被相続人が亡くなった平成23年4月に被相続人から全ての財産を相続により承継したこととなります。
しかしながら、消費税の納税義務者に該当するかどうかは、上記(1)の丸1及び丸2のとおり、事業者自らが事前に予知しておく必要があり、また、上記(1)の丸3のとおり、相続財産が未分割の場合における納税義務の判定方法が示されています。
このようなことから、消費税法第10条の適用に当たっては、事業者が、判定時点での適正な事実関係に基づき消費税関係法令の規定に従って納税義務が判定されたものである場合にはその判定が認められるものと解するのが相当であると考えます。
したがって、私の場合には、当初に判定したとおり免税事業者に該当するものと考えます。