別紙

1 事前照会の趣旨及び事実関係

(1) 個人甲の母である乙は、その有するA市(以下「市」といいます。)に所在する土地について、隣接地の地権者(乙と併せて、以下「乙ら」といいます。)の所有する土地とともに、宅地開発(以下「本件開発」といいます。)を行いました。
本件開発を行うに当たっては、都道府県知事による開発行為の許可(都市計画法29)を受けなければなりませんが、その許可の申請に際しては、あらかじめ開発行為に関係がある公共施設の管理者と協議し、その同意を得る(同法32丸1)とともに、開発行為又は開発行為に関する工事により設置される公共施設を管理することとなる者と協議しなければならない(同法32丸2)ことから、事前に、市の同意及び市との協議(以下「市の同意等」といいます。)が必要でした。

(2) そこで、乙らは、「A市宅地開発及び建築物の建築に関する指導要綱」(以下「本件指導要綱」といいます。)第○○条《宅地開発に係る事前協議》の規定に基づき、本件開発に係る市との事前協議(以下「本件事前協議」といいます。)を行い、本件開発に係る開発許可を受けた後に、本件開発により設置する道路部分(以下「本件道路部分」といいます。)を市へ寄附することを市との間で取り決めました(この取決めを、以下「本件取決め」といいます。)。
また、乙らは、本件取決め後に、本件指導要綱第○○条《宅地開発に係る協定の締結等》の規定に基づき、本件開発に関係する公共施設等の整備、管理、帰属その他必要な事項について、市との間で協定(以下「本件協定」といいます。)を締結し、その本件協定第○○《特記事項》において、本件開発により設置する道路等の各種公共施設を市へ寄附する旨を定めました。

(3) これらの本件取決め及び本件協定の締結を経て、市の同意等を得た乙らは、本件開発に係る開発許可の申請をし、その許可を受けました。その後、乙らは、本件取決め及び本件協定に基づいて、本件開発により設置した本件道路部分を寄附する旨を市へ申し出、市はこれを採納しました。

(4) 本件道路部分の寄附までの経緯をまとめると、次のとおりです。
平成X1年10月a日前 乙ら、市と本件事前協議、本件取決め
平成X1年10月a日 乙ら、市と本件協定の締結、市の同意等
平成X1年10月b日 乙ら、開発行為許可申請書提出
平成X1年11月c日 本件開発に係る開発行為の許可
平成X2年3月d日乙ら、本件道路部分のうち一部を市へ寄附
平成X2年4月e日工事完了公告
平成X2年4月f日乙ら、本件道路部分のうち上記寄附部分以外を市へ寄附

(5) 甲は、本件開発により造成された分譲地(以下「本件分譲地」といいます。)を平成X6年8月に乙から相続により取得し、平成X8年2月に本件分譲地を相続時の現状のまま不動産業者へ一括して譲渡しました。
この本件分譲地の譲渡による所得は、譲渡所得として申告する予定ですが、この場合、市へ寄附をした本件道路部分の取得価額及びその設置に要した費用の額は、甲の譲渡所得の金額の計算上、取得費に算入されると解してよろしいか照会いたします。

(参考) 本件指導要綱及び本件協定の規定

丸1 本件指導要綱第○○条《宅地開発に係る事前協議》
宅地開発事業主は、宅地開発を計画するときは、事前にその基本計画を市に説明し、公共施設等の設置その他必要となる事項について十分に協議しなければならない。

丸2 本件指導要綱第○○条《宅地開発に係る協定の締結等》
市は、宅地開発の計画がこの要綱その他関係法令に適合していると認めるときは、当該宅地開発に関係する公共施設等の整備、管理、帰属その他必要な事項について、当該宅地開発事業主と協定を締結するものとする。

丸3 本件協定第○○《特記事項》
市は、事業地に隣接する位置指定道路が市の管理となった際には、乙らの申出により、事業区域内の道路等の各種公共施設を市の管理として受け入れるものとする。

2 事前照会者の求める見解となることの理由

所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計額とする旨規定しています。
他方、一団地の宅地の造成・分譲による事業所得又は雑所得の金額の計算について定めた所得税基本通達36・37共-7《造成に伴って寄附する公共的施設等の建設費の原価算入》(以下「本件通達」といいます。)は、一団地の宅地を造成して分譲する場合において、団地経営に必要とされる道路、公園、緑地、水道、排水路、街灯、汚水処理施設等の施設(その敷地に係る土地を含みます。)(以下「公共的施設等」といいます。)について、その公共的施設等を公共団体等に帰属させることとしているときであっても、その公共的施設等の取得に要した費用の額を、造成して分譲する宅地の工事原価の額に算入する旨定めています。
このように、本件通達は、事業所得又は雑所得の金額の計算上、造成して分譲する宅地の工事原価として控除する必要経費について定めたものであり、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費について直接定めたものではありません。このため、宅地を造成して分譲することによる所得が譲渡所得に該当する場合には、その宅地の造成に伴い寄附した公共的施設等の取得に要した費用の額は、造成して分譲する宅地の譲渡所得の金額の計算上考慮されないのではないかとも考えられます。
しかしながら、公共的施設等の取得に要した費用の額を、造成して分譲する宅地の工事原価の額に全額算入することとする本件通達の取扱いは、その公共的施設等の経済的価値がすべて分譲された土地の効用に吸収されることにより、その公共的施設等が価値のない、いわゆる無収益財産となる点を考慮したものであるところ、このような考え方は、宅地を造成して分譲することによる所得が事業所得又は雑所得に該当するか、あるいは譲渡所得に該当するかによって左右されるものではないことから、当該所得が譲渡所得に該当する場合においても同様に取り扱うことが相当であると考えます。
照会の場合、上記1(1)から(3)のとおり、本件道路部分は、本件取決め及び本件協定の内容に基づき、本件開発に伴い市に帰属させることとしていたものと認められます。
したがって、本件道路部分の取得価額及びその設置に要した費用の額は、本件道路部分を市へ寄附したことにより本件分譲地の取得価額に算入され、本件分譲地を相続により取得した甲の本件分譲地に係る譲渡所得の金額の計算上、取得費に算入されると解するのが相当と考えます。