別紙

1 事前照会の趣旨

 A信託銀行(以下「受託者」といいます。)は、貴金属現物を信託財産とした特定受益証券発行信託(以下「本件ETF」といいます。)を設定し、本件ETFに係る受益権(以下「本件受益権」といいます。)を東京証券取引所へ平成22年7月2日に上場しました。本件ETFは、平成23年2月1日以後、転換手続(以下「本件転換」といいます。)により、本件受益権と引換えに、信託財産である商品現物(貴金属地金)を交付することを可能とする商品です。
 本件転換は、本件ETFの一部解約に該当することから(注)、租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)第37条の10《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第4項第1号の規定により、本件転換の対価として個人投資家が交付を受ける金銭の額又は金銭以外の資産(本件転換の場合は貴金属地金(以下「本件貴金属地金」といいます。))の価額の合計額は、株式等(本件受益権)に係る譲渡所得等の収入金額とみなされます。

(注)本件転換は、株式等の振替に関する業務規程第285条の16《一部解約の請求等》の「振替受益権について、その全部又は一部の受益証券発行信託に係る契約を解約し、信託財産に転換する場合(以下この款において「一部解約」という。)」に該当します。

ところで、本件受益権を有する個人投資家は、本件転換に当たり、下記2(2)の「表2」に掲げる費用を負担することとなりますが、このうち下記(1)及び(2)に掲げる費用は、それぞれ次のとおりになると解してよろしいか照会いたします。

  1. (1) 転換取扱販売会社(証券会社のうち、本件転換を取り扱うことについて受託者と契約を締結している証券会社をいいます。以下同じです。)に対する転換手数料(事務取扱手数料)は、本件受益権に係る譲渡所得の金額の計算上の譲渡費用に該当します。
  2. (2) 受託者に対する転換手数料(事務取扱手数料、改鋳費用相当額及び運送費用相当額)のうち、事務取扱手数料は本件受益権に係る譲渡所得の金額の計算上の譲渡費用、改鋳費用相当額及び運送費用相当額は本件転換により取得する本件貴金属地金の取得費に該当します。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

(1) 転換業務の概要は、下記「転換業務の概要図」のとおりであり、「転換取扱販売会社」及び「受託者」ごとの転換業務(転換請求、転換手続、本件貴金属地金引渡し)の各内容は、下記「表1」のとおりです。

【転換業務の概要図】
 転換業務の概要図

【表1】 転換取扱販売会社及び受託者ごとの転換業務(転換請求、転換手続、本件貴金属地金引渡し)の内容
  転換取扱販売会社 受託者
転換請求
・ 受益者(個人投資家)あて転換手続の説明、受益者(個人投資家)からの転換請求の受付
・ 受託者への転換請求取次ぎ
・ 転換取扱販売会社からの転換請求の受付
転換手続
・ 転換価格、消費税、手数料の受益者(個人投資家)への通知
・ 当該転換請求に係る受益権の受託者口座への移管手続
・ 転換価格の決定、消費税、手数料の決定、転換取扱販売会社への通知
・ 受益権の抹消手続
本件貴金属地金引渡し ・ 転換結果の受益者(個人投資家)への連絡 ・ 引渡し地金の準備(改鋳)
・ 地金引渡しの手配(運送手配又は倉庫渡しの手配)
・ 計算書の作成
・ 転換取扱販売会社への転換結果報告

(2) 転換に係る手数料等の「種別」、「内訳」及び「受領者」は、下記「表2」のとおりです。

【表2】 転換に係る手数料等
種別 内訳 受領者
転換手数料 転換手数料
(転換取扱販売会社)
事務取扱手数料 転換取扱販売会社での顧客対応、事務対応のコスト相当額(定額) 転換取扱販売会社
転換手数料
(受託者)
事務取扱手数料 受託者での転換事務対応のコスト相当額(10,500円を上限とした定額) 受託者
改鋳費用相当額 工業用地金を受益者(個人投資家)に交付可能なものへ改鋳するための費用相当額(改鋳単価×交付数量×1.05、1キログラム当たり42,000円を上限とした額)
運送費用相当額 貴金属現物を受益者(個人投資家)へ送付するための費用相当額(5,250円を上限とした定額)
消費税相当額 貴金属売買に伴うもの(転換価格×5%)

(3) 本件ETFの性質

  1. イ 本件ETFは、信託法第185条《受益証券の発行に関する信託行為の定め》の規定に基づく受益証券発行信託です。
  2. ロ 本件ETFは、法人税法第2条《定義》第29号ハに規定する特定受益証券発行信託に該当し、本件受益権は、措置法第37条の10第2項に規定する株式等に該当します。
  3. ハ 本件受益権は、東京証券取引所へ上場されており、かつ、信託契約において本件ETFは上場廃止により終了する旨の定めがあること(措令25の89)から、本件ETFは措置法第37条の10第4項第1号に規定する特定受益証券発行信託に該当します。

3 事前照会者の求める見解となることの理由

 本件転換は、上記1のとおり、本件ETFの一部解約であり、措置法第37条の10第4項第1号に規定する特定受益証券発行信託の一部の解約に該当することから、本件転換の対価として交付を受ける金銭の額又は金銭以外の資産(本件貴金属地金)の価額の合計額は、株式等(本件受益権)に係る譲渡所得等の収入金額とみなされます。
 したがって、転換された本件貴金属地金の転換価格相当額が、本件受益権に係る譲渡所得等の収入金額とみなされます。

(1) 上記1(1)について
 本件転換に係る転換取扱販売会社に対する転換手数料(事務取扱手数料)は、本件転換(本件ETFの一部解約)の請求に伴い発生するものです。
 資産の譲渡に際して支出した仲介手数料は譲渡費用に該当するところ(所基通33−7(1))、本件の事務取扱手数料は本件受益権の譲渡により生じるものではありませんが、本件転換(本件ETFの一部解約)の請求に伴い発生するものであり、本件受益権のキャピタルゲインを実現するために要した費用であることから、仲介手数料と同様の性質を有すると考えられます。
 したがって、転換取扱販売会社に対する転換手数料(事務取扱手数料)は、本件受益権に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当すると解するのが相当です。

(2) 上記1(2)について

  1. イ 本件転換は、受益者から転換取扱販売会社を通じた受託者に対する本件転換の請求を行うことによってすることができるものであり、その場合、受益者は転換取扱販売会社を通じて転換手数料を受託者に対して支払うこととなります。
     この受託者に対する転換手数料のうち事務取扱手数料は、受益者から転換取扱販売会社を通じた受託者に対する本件転換(本件ETFの一部解約)の請求に伴い発生し、この転換請求を受けた受託者によって本件受益権に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる本件貴金属地金の価額の基となる転換価格が決定され、受益権の抹消手続が行われることからしますと、本件受益権のキャピタルゲインを実現するために要した費用と認められ、仲介手数料と同様の性質を有すると考えられます。
     したがって、受託者に対する転換手数料のうち事務取扱手数料は、本件受益権に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当すると解するのが相当です。
  2. ロ 一方、受託者に対する転換手数料のうち改鋳費用相当額及び運送費用相当額は、本件転換の対価として本件貴金属地金を取得するために必要な費用であると考えられることから、本件貴金属地金の取得に要した金額(所法381)に該当し、取得費を構成すると解するのが相当です。

(参考)本件転換に係る所得が株式等の譲渡による事業所得又は雑所得となる場合、譲渡費用として取り扱われる転換取扱販売会社に対する転換手数料(事務取扱手数料)及び受託者に対する転換手数料のうち事務取扱手数料は、所得税法第37条《必要経費》第1項に規定する「総収入金額を得るため直接に要した費用の額」に当たることから、株式等の譲渡による事業所得又は雑所得の金額の計算上、必要経費に該当することとなります。